「お前、結婚したい相手とか居ないのか?」
今まさに欲を吐きだしたばかりの、息も整わぬままに向かい合った姿勢で問われてさすがのエスティニアンも閉口した。人の事をとやかく言えるような身でも無いが、もう少しタイミングを考えられなかったのかと思う。
「……何だ、藪から棒に」
だがそれを責めた所で伝わらないのは重々身に染みている。というよりも、わかっていてやっている相手に何を言った所で無駄だ。
「いやなに、我々も良い歳だから、好いた相手がいるならばそろそろ身を固めるのもどうかと思ったのだよ」
「本音は?」
驚いた、と言わんばかりに目の前でアイメリクの目が見開かれ、それから眉尻を下げて笑う。一応そうして恥じらって見せるのは素なのかそれとも礼儀だとでも思ってるのか判断に迷う所だ。
「お前を皇都に留めるにはどうしたら良いかと思ってな」
「なんだ、寂しいのか」
「寂しいというよりも心許ないというのが正しいな」
「熱狂的な信者ともいえる部下やら四大名家の元当主やら、最近では平民の信仰まで集めておいて?」
「だって彼らは私を殺せないだろう」
またわけのわからないことを言い始めた、というのがエスティニアンの素直な感想だ。ごろりと横に寝転がればひたりと隣にひっついてくる身体はまだ熱の残滓を纏っている。
「私を信じてくれる人が多いのはありがたい事だ。だが味方でありながら私を止められる人間が余りにも少ない」
「フォルタンの御隠居は?」
「……私が今の地位を利用し本気でエドモンド卿を討とうとすれば容易いと思わないか?」
確かにこれだけ竜詩戦争終結の立役者となり、今もなお民の筆頭に立って新たなイシュガルドを築きあげようとしているアイメリクが突然エドモンド卿を討つなぞ誰も思わないだろう。だが。
そこまで考えて気付き、思わずじっとりとした視線でアイメリクを見てしまう。睨むにも近い目付きで見られたアイメリクと言えば、嬉しそうに笑っていた。これだからこの男は。
「……自分が、信用ならんのか」
「ふふ、わかってくれるかエスティニアン。信念はあるつもりなんだがね」
「お前が道を誤れば国が迷うんだぞ、甘えるな」
「わかっているさ。だが万が一の保険はあるに越した事は無いだろう」
「もしもの場合はお前を殺さなきゃいけないから皇都に留まれって?」
「お前が居れば、そんな事は起きないさ」
これはこの男なりの甘えなのだろう。アイメリクならば絶対に道を違える事は無い、とエスティニアンも言い切ってやれないのが悲しい。
「……気が向いたらな」
すっぱりと断れたら余計な事に頭を悩ませなくて済むというのに、こうして甘やかしてしまうからアイメリクに良いように使われるのだとわかっている。わかっていても、今更この腐れ縁を見捨てる事も出来なかった。
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