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空箱

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休日(夜明け前)

不意に、目が覚めた。
妙にすっきりと覚醒した意識は再び眠りの中に戻るような気配も無い。
窓の外は日の出を目前に明るくなって来た頃合いで、せっかくの休日にこんな早起きしなくてもと思いもするが睡魔から追い出されてしまえば仕方ない、日向は静かに身を起こした。


九月に入ったとは言え、涼しくなる気配はまだ無い。
すっかりぬるまった室温に、流れる程の汗が肌を包んでいて気持ちが悪い。
さてまずはシャワーでも浴びるか、それとも何か家事の一つでも片付けるかと思案しながら隣を見下ろせば大の字になって眠る木吉の姿があった。
昨夜、日向がベッドに入った時に木吉はまだ家に帰ってすら居なかったが、ベッドサイドに点々と脱ぎ捨てられたシャツやスーツを見るに、必死の思いでなんとか仕事を終わらせて帰って来たものの、力尽きてベッドに倒れ込むのがやっとだったといった所だろうか。
日向も木吉も、社会人になってもう何年も経った。
ただ自分の仕事をこなせばよかった新人時代とは違い、部下を抱え仕事を与える立場になりつつある。
働き盛りと呼ばれるような歳ももうすぐそこだ。
お互い、休みをのんびり過ごせる日が少なくなってきているのは確かで、久しぶりに日向が全く予定の無い休みになった今日、木吉も休みを満喫すべく深夜遅くまで仕事を片付けたのだろう事が簡単に想像出来て心がほんのりと暖かくなる。
深い睡眠の中に居るのか、ぴくりとも動く事無く眠る木吉の無精髭が生え始めた頬を撫でてそっと口の端に唇を落とす。
こんなにも穏やかに木吉を愛しいと思えるくらいには、日向も歳をとった。


どうせまだ太陽すら姿を見せて居ない時間だから木吉はそのまま寝かせておくことにして、とベッドから降りようとした日向の視界にふと映った木吉の股間。
男であるなら誰しも経験した事のあるハーフパンツを中から持ち上げる存在に少し、興味が惹かれた。
溜まっているのも事実だし、ほんの少しの悪戯心が過ぎったというのもある。
特に明確な理由は思いつかないまま今まで以上に静かに音を潜めて木吉の足の合間へと移動すると、そっとハーフパンツに手を掛け、下着ごとゆっくりと引きずりおろす。
徐々に姿を現す性器は見慣れているとは言え、でかい。
むあ、と汗臭さというか、何とも言えない雄の香りがして日向は思わず唾を飲み込む。
まだ周りに柔らかさを残す竿の部分に手を添えて先端に口づけを落とせばぴくりと震えて反応するのが嬉しくて、傘の張ったカリの下に、裏筋に、根元にとキスの雨を降らせて行く。じんわりと掌に伝わる熱が、日向の奥深くを強く突き上げて掻き乱す時の事を思い出して下肢が甘く疼いて震えた。


今でこそ、日向に馴染んだ木吉のそれだが、最初の頃はこのでかさが本気で憎かった。嫉妬とは別の意味で。
お付き合いを初めた頃はキスだけでドキドキして、けれど健全な男子高校生にはそれだけではすぐに足りなくなって触り合い、抜き合うようになるのはすぐだった。
そこまで行けば、次は挿れたい、となるのは自然の流れではあったがそこからが問題だった。
まず、木吉も日向も男だった。
端的に言えば、お互いがお互いを抱きたがった。
日向がもう少し体格が良ければ、なし崩しに木吉を押し倒していたかもしれない。
木吉がもう少し自分本位になれれば、体格に物を言わせて日向を押し倒していたかもしれない。
けれどそのどちらでも無い二人は先に進む決定打に欠いていた。
それに何より、木吉が中々に頑固だった。
日向としては、最初を木吉に譲ったとしても、その後で木吉を抱く機会がもらえるならば別にそれでもいいかな、と思い始めていたのに、木吉は頑なに「自分が抱かれるのはありえない」と、妥協案をすっぱりと切り捨てたのだ。
その有りえないという理由も、日向にしてみれば良く分からない理由で、其処で起きた大喧嘩は一番最初の別れの危機だった。
結局、木吉が泣きつき、土下座をしてまで謝り、頼み込み、とりあえずは日向が受け入れる側になると決めたのだが。
次の問題はサイズだった。
日本の平均サイズなんて物をはるかに超える木吉のそれは、一朝一夕で受け入れられるような物では無かった。
慣らそうとしても掌の大きい木吉は指も太い。
一本ならすんなり受け入れられるのだが、二本目になると途端に入らない。
時間を掛けて慣らすにしても、まだ若い二人は「待て」が出来なかった。
つまり、最後まで辿りつくよりも先に今までもやっていたような手軽な手段ですっきりして終わってしまう事が多々あったという事で、中々挿入という段階まで行けなかったのだ。
募る苛々やら焦燥やら、それでも木吉が「抱かれたくない」という主張を変えない事など重なって起きた喧嘩は二度目の別れの危機と言っていい。
その喧嘩の最中に日向が思わず「ならお前のサイズが入るようになるまで他のヤツとヤって来てやらぁ!!」という、後になって思えば売り言葉に買い言葉が過ぎる台詞を言い放ってしまい、仲直りをしたというよりは木吉の凄まじい執着心を見せつけられてなんとなく元の鞘に収まってしまったという経緯を持つ。
周りからしてみれば馬鹿らしくとも本人たちにとっては重大な「最後までする」という目標は、結局、頑なな木吉に折れた日向が密かに自分で自分の孔を弄り、いざという時にすぐに解れるようにするという涙ぐましい努力をした末に、漸く二人は一つに繋がる事が出来た。
あの時の感動はバスケの試合に勝った時のような妙な達成感と、まだ取り除ききれなかった痛みと、それから身体から溢れて止まらない愛おしさが綯い交ぜになっていて今でも忘れられないでいる。


それからもう二桁くらいの月日が流れただろうか。
慣れとは恐ろしい物で、先端を唇に含んで舌を這わせてやればびくびくと跳ねるデカブツが可愛いなんて思えてしまうのだから凄い。
湿気を含んだ陰毛を指先でかき混ぜながら薄い皮膚に包まれた先っぽを丹念に舌の平で舐り、時折音を立てて吸いつけば低い溜息が聞こえて思わず木吉を見上げる、が、寝言のような物でまだ覚醒には至っていないらしい。
眼鏡が無くてぼやける視界で確証は無いがそっぽを向いた鼻先を見れば間違ってはいないだろう。
ちゅ、と音を立てて唇を離すと日向は一度静かにベッドから降りた。
サイドボードに置いた眼鏡を掛ければ随分と視界がクリアになると見下ろした視界の中で自分のハーフパンツも低い山を形成しているのに少しだけ笑う。
昔の事を思い出したからか、眼の前に美味しそうな木吉の性器があるからか、日向の身体も甘い熱を帯び始めている。
下の引き出しからローションを取り出してから何処か浮かれたような気分でベッドの上へと戻る。
半分脱がされたハーフパンツからひょこりと巨大な性器を勃起させて爆睡している木吉の姿は本来なら笑える姿の筈なのだが、今の日向にとっては興奮させる一因にしかならない。
再びむき出しの性器へとかぶりつきながら、ローションを指先に纏わりつかせて自分のハーフパンツの中へと潜り込ませると半勃ちの性器がぬるりと擦れて思わず息が漏れたが其処は無視して奥の窄まった場所へと。
確かめるように縁を撫でてから指を一本、何の抵抗も無く入るのを確認してから更に一本、中へと沈めて行く。
温い温度の粘膜が指の太さに押し広げられている抵抗感。特に二本分の関節が重なった所が奥に、手前にと動くたびに身体に熱が滲んで汗が一筋、背筋を伝い落ちぞわりと肌が粟立つ。
眼の前には眠る木吉、その寝ている人の下肢に顔を埋めて一人熱を高めている行為はなんとも変態臭くて、それがまた日向の身体に火をつける。
「ん、…っ…ふ、…んん…」
自然と含んだ先端から喉の、可能な限り奥深くまで木吉の性器を飲み込み唇で扱きたてる。徐々に唾液のお陰で滑りやすくなる性器の浮き出た血管の筋一つも漏らさず愛するように丁寧に、けれど熱に煽られるように。
どれだけ頑張っても飲み込みきれない根元の方は掌で包んで余す所なく撫でて、そうしながら少しずつ綻んだ後孔へと指を増やす。
三本、ぎっちりと咥え込んだ其処がローションを含んで立てる水音に紛れて時折木吉が唸る低い声が鼓膜から日向を揺さぶる。はやく、はやく。
焦る指先が思わず慣れ親しんだ場所を強く引っ掻いてしまいびくりと日向の肩が跳ねた。
全身を甘い衝撃が走り抜けて一気に股間に血が集まり膨張するような。
荒い息を吐きながら、咥え込んで居るのは自分の指なのに何かを強請るように腰を揺らしてしまうのは習慣というやつだろうか。
より深くまで飲み込めるようにと尻を持ち上げかけて、また小さく唸り声を上げながら頭の向きを変えた木吉に留められる。
少しずつ動き始めた木吉はもう少しもすれば起きる頃合いなのだろう、ぼりぼりと無造作に腹を掻く指先を眺めながらずるりと根元から強く吸いあげながら唇で性器を扱いて顔を上げた。すっかりと固く反り返る程に勃起した木吉のペニスが唾液に濡れててらてらと艶を魅せる様は率直に股間を刺激する光景だ。
は、と一度落ち着くように短く息を吐きだすと下肢に埋めていた指を引き抜いてから、思いきって下着ごとハーフパンツを脱ぎ去るとローションに濡れた場所がひんやりと風に冷えてひくつく。
唇を舐めて飢えに急かされるまま、けれど木吉を起こさないようにと這うようにして身体の上に覆いかぶさり、じっと顔を見つめてみるが、まだ木吉は夢の中なのか寝言にむにゃむにゃと唇を動かすばかりだ。思わず日向も口元を緩ませながらそっと唇を重ねると手探りで木吉のペニスを手にして場所を合わせる。小さく口を開けた後孔にぴとりと宛がえば期待に胸の鼓動が強くなるのを感じた。
「ん、……ッ…は、…」
一番太さのある部分が入口を無遠慮に広げる皮膚の緊張感に自然と眉が震える。
手を木吉の腹について体重を支えながら少しずつ奥へ奥へと飲み込む熱源に知らずに上がった息が短い間隔で唇を干からびさせて行く。
無理に押し広げられる感覚が身体の奥で悲鳴を上げているが、自分で腰を下ろす姿勢では力を緩めるのも巧く行かない。
いっそ一気に腰を落としてしまえばそれなりの痛みが襲うが一瞬で済むんじゃ無いか、などと不穏な考えが過ぎる。
慣らすように飲み込めた部分を浅く上下させてはみるものの、中途半端な場所に腰を浮かせてなんとか片手で体重を支えている姿勢というのは地味に体力を削り取って行く物だ。もう少ししっかりと慣らせば良かったと後悔しても今更戻るなんてもっと出来ない。早く奥深くまで咥え込んで丹念に舐りたいと身体が欲求しているのに。
よし、一瞬の痛みを堪えよう。
心の中でそう決めると、呼吸を整える為に何度か、深呼吸を繰り返す。
どく、どく、と普段よりも早い脈の音を聞きながら不意に息を吸い込み一気に腰を下ろそうとして、
「何…してんの……」
がし、と大きな両掌に腰を掴まれて上にも下にも動けなくなって日向は木吉を見た。
まだ眠いのか瞼を重たげに瞬いているがうっすらと目尻が赤い。
戸惑ったような擦れた低音の後にごくりと乾いた唾液を呑み込む音が、木吉の欲を露わしているようで日向も思わず喉を鳴らす。
「じゅんぺ、やらしー…」
確認するように腰を浅く持ち上げられ、せっかく今まで苦労して飲みこんだ部分があっさりと抜けて行ってしまって思わず不満げな声が喉を鳴らした。
けれど、木吉が見ている。
早く、すぐ傍にある熱を飲み込みたくてひくひくと震える縁を、寝起きの少しだけ剣呑さを含んだ木吉の目が真っ直ぐに見詰めている。
それだけで日向の熱がまた一層高まり、すっかり勃起した性器の先から先走りが滲みだした。
「早く、…鉄、焦らすな…」
いかんせん、腰を固定されてしまっていてはままならない。
顔を木吉へと寄せても顔には届かず、仕方なく胸元に頭を擦り付けるように懐いてみる。ふわ、と濃い汗の匂いが鼻をくすぐって、つい衝動的にTシャツ越しの胸元に噛みつく。
「こら、齧んな…」
漸く腰が木吉の腹の上へと下ろされ、宥めるように抱き締められながら髪を掻き混ぜられるが欲しいのはそんな子供騙しでは無い。
日向の尻の合間に挟まるようにして固くそそり立つ木吉の熱だ。
がじがじと、Tシャツに唾液を滲ませて噛みつきながら腰を揺らめかせば木吉の喉が鳴る音を間近で聞いた。
「何で、こうなってるのかわかんないが…いいんだな?」
寝起きにこの状況は確かにわけわからんな、と頭の隅で日向は同意するがそれは表に出さずにただ幾度も頷く。
ぐ、と背を抱きしめられる手に力が入ったかと思うと気付けば天地が逆さまになって日向が木吉を見上げていた。
間を置かずに持ちあげられる足が、ひたりと触れた熱が自然と日向の口角を上げさせる。
顔を寄せて唇を重ねる木吉を喜んで抱き締めてやりながら、舌を絡ませる事に夢中になって必死に流し込まれる唾液を飲み下す。
すっかりと木吉に身を任せてしまえば、ぐいぐいと奥へ突き進む熱に痛みは然程感じず、案外すんなりと全て入ってしまって一息吐く。
糸を伝わせながら離れた唇を舐め取りながら視線を重ねれば其処には愛しいという感情が溢れて抑えきれないと、こちらが恥ずかしくなるような優しい色をした木吉の目とかち合って。
きっと、自分も同じような顔をしているのだろうなと思いながら日向はうぜえと一言吐いて木吉に再び唇を重ねた。

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無題

賛牙の才能があると言われながらも開花する事無い自分が嫌だった。
戦闘部族である吉良にとって、賛牙の存在は大きい。
今までに居なかった賛牙の可能性を持つ日向にのしかかる期待は過剰と言っても差し支えない程に熱烈だった。
繰り返される訓練と、何も得ずに終える日々。
確実な成長が感じられる剣の稽古とは違う、無から有を無理矢理捻りだすような賛牙としての訓練は期待に応えられない苦しさだとか、無駄な努力をしているような徒労感だとか、果ては何時まで経っても開花しない自分の存在意義の無さだとかマイナスな感情ばかりが胸に溜まる。
小さい頃は未来の賛牙ともてはやした村猫達も、未だ賛牙としての力を目覚めさせる事の出来ない日向に白い目を向けている気すらする。


そんな全てが嫌になって、日向は吉良から逃げ出した。
当然、規律を破れば追手が掛かるだろうし、弱いわけでは無いが特別に強いわけでも無い日向が何処まで逃げ切れるかなどたかが知れている。
それでも、もう耐えきれなかった。賛牙になりたくないわけじゃない、けれどなれないまま吉良の中に留まっていられなかった。
どうせ開花しないならいっそ殺せとすら思った。
自棄にも近い、脱走だった。


夜の闇に乗じて谷を抜け、森を駆け抜けて向かった先は祇沙最大の街、藍閃。
幸いにも道中で追手に出会う事は無かった。
見逃されているのか、単純に運が良かっただけなのかは分からないが街が見える辺りになって漸く日向は足を止め、一息吐く。
何せ吉良以外の集落なぞ行った事も無いのだ。
見た事も無い、滑らかな表面の石の建物やカラフルな色彩、行き交う人々の多さ。
遠巻きに見ても分かる規模の大きさに足が竦んだのは一瞬、ぱし、と両手で頬を叩くと気合いを入れてから日向は街へと足を踏み入れた。


だが勢いよく街へと入ったは良い物の、早速日向は困惑していた。
何故かわからないが通りゆく人々が皆自分を見て眉を潜めているのだ。
吉良の中よりもあからさまなそれに入れたばかりの気合いが早くも抜けて行きそうだ。
色々な部族が集まる街だと聞いていたのだが余所者、吉良の猫は嫌われているのだろうか。
それとも自分の格好に何かおかしい所があるのだろうか。
すっかり沁みついたマイナス思考がぐるぐると頭の中で巡り始めるも、森に引き返すのも逃げるようでプライドが許さない。
せめて、道から外れて屋根の上でも登ろうかと考え始めた時にその猫は現れた。
「…ーぃ…おーい、待ってくれって」
背後から肩を叩かれて思わず尻尾を逆立てて臨戦態勢に入ろうとした日向にその猫はからりと笑って驚かせたならすまん、と謝罪を述べた。
勢いを殺がれたように不審げに顔を顰めながらも日向が構えを解いたのを見計らって猫は日向の耳を指差した。
「それ、本物?」
「は?」
「いやあ、黒い耳と尻尾の猫が居るから追い出してくれなんて言われて来てみたんだけど…なんかそんなに危なさそうじゃないし」
「……どういう事だ?」
日向は話がさっぱり読めずに益々眉間の皺を増やした。
確かに日向の耳も尻尾も黒いが、それが何だと言うのか。
何処か馬鹿にされたような物言いも腹が立つが相手の猫は日向よりも頭一つ分、上背がある上に身体も確りと鍛えられている。
腰に提げられた大剣からしても力のある闘牙だろう。
本気でやり合ったとしても勝てそうには無い、と忌々しく思いながら先を促す。
「説明したいのは山々なんだがー…なんだか人が集まって来ちゃったしなあ、すぐ其処に宿があるから其処で話さないか?」
確かに、周りには二人を取り囲むように、けれど少しの距離を開けて人が集まりつつある。
小さく舌打ちを一つ落として日向は一つ頷いた。


宿は元々その猫が宿泊していた場所のようで、店主らしき男と軽い挨拶を交わした後、ベッドとテーブルと椅子が一つずつあるだけの簡素な部屋へと通された。
椅子に日向が、ベッドに猫が腰を落ち着けるなりそういえば、と猫は切りだした。
「俺は木吉だ。この辺で賞金稼ぎをやってる。」
「…日向。…特に何もやっていない」
お前は?と問うような視線に負けて名乗ったは良い物の、日向には紹介すべき職も無い。
気まり悪く視線を逸らすと、はは、と軽い笑い声が響いた。
「何もやっていない、って…藍閃には職探しに来たのか?見た所、お前さんも闘牙だろう?」
日向の腰に提げられた二対の小刀を顎で指しながら問われて言葉に詰まる。
今までの紆余曲折を説明するのは面倒だし、だからといって明確な目的があって此処に来たわけじゃあ無い。
闘牙と木吉は言ってくれたが、それで食べて行ける程強いとも思って居ない。
「あー…それよりも、さっきの。どういう事だよ。」
結局、話題を変えることで逃げた日向を木吉は余り気にしないようだ。
「そうだった、忘れる所だったな。黒い耳と尻尾ってのはこの辺では不吉の象徴って言われてるんだ。悪魔に呪われた印だ何だって。」
「不吉の象徴、って…黒い耳と尻尾なんざ、吉良には腐る程居るぞ」
「ああ、日向は吉良の出か。あそこの部族って、出不精で有名じゃないか。それがどうして藍閃に?」
結局、話が戻ってしまった。
苛立つよりも先に唖然としてしまって日向は言葉が出てこない。
確かに余り縄張りから外に出ない吉良の民だが出不精は無いだろう、出不精は。
街の猫の視線に漸く納得したが、そうしたらこの好奇心丸出しで目を輝かせている猫は何なんだ、不吉の象徴じゃないのか、日向の黒は。
「ああすまん、こんな綺麗な色した猫を見るの初めてでな、つい興奮した」
日向が固まって居るのを知ってフォローしたつもりだろうがなんだその斬新な攻撃手段は。
日向は特別顔が良いわけでも無いし、色だって吉良にはありふれた黒だ。
そんな褒め方されると誰が予想した。
落ち着き無く尻尾が揺れるのを止められない。顔だってじわじわと熱を持ってきているのを見られなくて思わず机に突っ伏した。
かわいいなあ日向はー、なんて暢気な声が恨めしい。
もうどうしていいのかすら分からないくらいに戸惑っているというのに頭を撫でるな耳に触るな。
言ってやりたい事はあっても言葉にならない。
「なあ、もし良かったら暫く俺と一緒に狩りをしないか?今何もしてないんだろう?」
唐突な誘いに少しだけ顔を上げれば、いつの間にか木吉はテーブルの上に腰を下ろして日向を見下ろしていた。わしゃわしゃと遠慮なく頭を掻き混ぜる手はそのままに、どうだ?と首を傾げて来る。
たまに耳を掠める掌がくすぐったくて耳をぴくぴくさせながら日向は眉を潜める。
「耳と尻尾はマントか何かで隠せば目立たなくなるだろうし…藍閃も初めてなんだろう?わからない事があれば案内してやれるし。悪い誘いじゃないと思うんだが」
悪い誘いじゃないから怪しいんだとは、言わないでおいた。
とりあえず、街に入ってから今までの流れが早過ぎて脳みそが着いて行けない。
何の裏も無いような笑顔を暫く見上げてから、ため息と共に少し考えさせてくれ、と言えば、木吉は嬉しそうに、おう、と応えた。


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設定とか補足とか妄想とか

パロ元の単語の簡単な説明
猫:パロ元の世界では人の代わりに、人間に猫耳猫尻尾が生えた「猫」という生き物が人間のように暮らしてる
闘牙:戦闘時、前衛的な役割の人。物理的な攻撃とか防御とか。
賛牙:戦闘時、闘牙にチート級の補助魔法を掛けられる人。
   生まれた時には素質の有無がわかり、素質があっても開花しないと使えない。

吉良:余り余所との交流が無く、引きこもり気味な村。黒耳黒尻尾な猫がたくさん居る。
藍閃:多分、この世界で言う東京みたいな所。黒耳黒尻尾な猫はほぼ居ない。
祇沙:多分、この世界で言う日本みたいな括り。

詳しくはwikiとかで調べてみて下さいむしろプレイしてみてください。
随分前にプレイして以来なので、細かい設定とかは間違えているかもしれません。
時間軸は余り考えていません。
虚ろが来る前かもしれないし、ゲームのハッピーエンド後かもしれない。

木吉:闘牙
刹羅生まれの猫。大剣一本で闘う。
茶色の耳とふさふさ尻尾

日向:そのうち賛牙
吉良生まれの猫。双剣で闘う。
賛牙の素質は有る物の、開花せずに燻ってた所を木吉と出会い、才能を開花させる予定。
黒耳黒尻尾。



【悪魔とか】
色のままに行くと
赤司:ラゼル
緑間:フラウド
青峰:カルツ
黄瀬:ヴェルグ
ですが流石に違和感有りまくりなので
紫原:ラゼル
緑間:カルツ
青峰:ヴェルグ
黄瀬:フラウド辺りが妥当??
と此処まで妄想して
ヴェルグ青峰×冥戯今吉って有りじゃないと気付いた。
今吉:冥戯猫
其処まで真面目に邪神信仰してたわけじゃないのに
召喚に応じた青峰を見て一目惚れ。
最終的に青峰の眷族になればいいじゃないhshsprpr
ただ、色通りに
変態コスチュームに身を包んで白ネコちゃんn僕を殺しに来てよvな緑間とか
ずっと鬱な顔で物静かな青峰とか
傍若無人なヴェルグとかも見てみたいですけどね…!
ラゼルな赤司は…正直有りだと思う

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ただいまのちゅー

不意に浮上する意識。
眠気を引き摺る事無くすっきりと瞼を持ち上げて枕元の時計を見れば六時になる三秒前。
慌てて手を伸ばしてスイッチごとアラームを切って一息。後少しでも遅かったらけたたましいベルの音が鳴り響く所だった。
空調が切られた室内はじっとりと早くも熱気を籠らせているが、それよりも高い温度のの日向を抱き締め直す。
汗を滲ませた肌同士が擦れてぬるりと、何処か卑猥な感触を齎して下腹部が疼きそうになるがそれは我慢。
「ひゅーが、」
「ん、…」
耳朶にそっと名を注ぎこめば僅かに寄せられる眉。
覚醒には至らず、抗うようにむずがって身を竦めるのを追いかけるようにこめかみに、頬に、顎にと口づけを落として行く。
「じゅんぺ、起きろって」
「んー……」
返事とも唸り声とも付かない曖昧な声を零しながら薄く開かれた双眸はお世辞にも目つきが良いとは言えない。
数度、浅い所で瞼を上下させてから木吉の顔を見つけると何を言うでも無く肩へと懐くように擦りよる仕草はまるで猫のようだ。
「…いま…なんじ…?」
「ちょうど六時になったトコ」
目覚めの良い木吉と違い、日向は朝に弱い。
バスケ部なんてやっていたから起きれないわけでは無いのだが、エンジンが掛かるまでに少々時間が掛かる。
今だって時間を聞いてきた癖にそのままううだとかああだとか、唸りながら木吉の腕の中で身じろいで寝易い場所を探しているようだ。
やがてすぐに寝息を立て始めた日向を本当ならそのまま寝かせてやりたいのだが、そんな事をして後で怒られるのは木吉だ。
「起きろって、ロード行くんだろ」
頭を抱え込むように抱きしめて輪郭の露わな耳朶を唇に挟んで吸いつけばまた小さな唸り声。
それから、腹部に軽くめり込んだ拳。
「ぐっ…」
「…てめぇ…まためざましどけえ…とめやがっただろぉ…」
寝起きの擦れた低音で凄んで見せた所で舌が回りきっていなければ木吉にとってはじゃれつかれてるようなものだ。
まだ開ききらない瞼で睨む目元にも唇を落として頬を擦り付けたら互いの生えかけの髭が擦れた。髭の生えたお父さんがつるつるお肌の子供にするのがじょりじょりなら、髭の生えた大人と髭の生えた大人同士のそれはなんて呼べばいいのだろうとかどうでも良い事が過ぎる。
「でも、こうやってちゃんと起こしてるじゃないか」
「てめぇにおこされなくてもひとりでおきれる…っつーかいてぇ…」
じょりじょりじょりじょり、顔面から来る刺激は地味に覚醒を促したらしい。はっきりと瞼が開いて来たと同時に強引に顔を押しのけられた。
「暑い。鬱陶しい。何でこんなひっついてんだ。」
ぶつくさと酷い事を言いながら起き上る日向の名残惜しさなど欠片も無い背中に不満が無いと言えば嘘になる。だからって、お互いが休日の日ならともかく、こんな平日の朝っぱらからいちゃいちゃする日向なんて余り想像つかないが。
「朝飯は?」
「戻ってから食う。…お前は学校午後からなんだろ、まだ寝てろよ」
鈍い動きながらも立ち上がった日向が去り際にぽんと頭を撫でて行くのにわけもなく嬉くなる。想いが通じあって、お付き合いして、一緒に暮らしてと大分日向に慣れた筈なのに未だにこんな小さな事で幸せになれるのは本当に幸せな事だと思う。
「いいよ、もう目ぇ覚めてるし。朝飯何がいい?」
「何でもいい。任す。」
着々と走りに行く準備を進める日向を眺めてから、玄関までお見送り。
その頃には大分目覚めたらしい日向に、行ってきますのチューを要求したらアホか、と呆れ切った目で見られた。勿論チューもなかった。
少しだけ切なくなりつつもこれくらいでへこたれていたらそもそも日向に惚れてなぞ居ない。
冷蔵庫の中身を思い出しながらキッチンへと向かう。


焼き鮭と、油揚げを火で炙った物と、納豆。
ネギとわかめの味噌汁に今炊きあがったばかりの白いご飯。
簡単と言えば簡単だが典型的な日本の朝ご飯を作り終えて一人自己満足してみる。
そろそろ日向の帰って来る頃か、それとももう少し時間が掛かるようなら先にシャワーでも浴びて汗を流そうか。
そんな事を考えていたら不意に鳴るインターホン。
日向だったら自宅なんだし鍵を開けて勝手に入って来るだろうし、こんな早朝と呼んで差し支えない時間に誰が。
ちゃんと人前に出ても恥ずかしく無い格好をしている事を確認してからインターホンを取る。少しばかり警戒してしまったのは、仕方の無い事だと思う。
「俺。開けて。」
けれどいざ聞いてみれば先ほど出て行ったばかりの日向で。
鍵を持って行くのを忘れたのか、と一人納得して玄関へ向かい、扉を開ける。
「ただいま」
「おう、おかえ、…」
お帰り、とその短い言葉を言う前にぐいと胸元を引っ張られて日向の顔が近くなったと思った途端に下唇に食い込んだ歯。
痛い、という声を上げる間も与えずにすぐに柔らかな唇が重なって濡れた舌が傷口の上を這って行った。
唖然として日向を見下ろす事しか出来ない木吉の前で、日向は微かな血の赤に濡れた唇を舌で舐めとりながら「ざまぁ」と満足げに笑っていた。

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触れる

休み時間、廊下で見知った背中を見つけたから後ろから肩を掴もうとした、たったそれだった。
乾いた音を立てて腕が弾き飛ばされると同時に突き刺すような鋭い眼光が振り返り、だが相手が諏佐と認識して半開きに開かれた唇は数度、開閉を繰り返した後にへらりと浅い弧を描いた。
「堪忍なあ、驚いてもうて」
なんて笑う姿はこの一瞬の出来事を日常の些事にしようとしていたが、彷徨う視線が腑に落ちない。
まだ今吉と諏佐は入部時に出会って以来、然程時間が経っているわけでは無いが、いつもはしっかりと目を捕らえて話す男だと諏佐は知っている。しゃんと背を伸ばし、顎を上げて見上げる双眸の強さを知っている。
重ならない視線と少し丸められた肩は何処か頼り無く揺れていて、大丈夫か、と問うつもりで再び手を伸ばしたのに他意は無かった。むしろ何も考えていなかった。
ひ、と。
小さく聞こえたのが今吉の喉から発せられた音だとは、血の気を無くして青白くなった顔を見るまで気付けなかった。思わず触れる寸前で指先を止めた諏佐の前で、まるで石像のように固唾を飲んで指先を見つめる細い目に浮かぶのは紛れもない恐怖で、それなのに避けるでも無くただその恐怖に身を委ねている様に諏佐はすまんとただ謝る事しか出来ず、居場所のなくなった指先を握り締めて腕を下ろす。先ほどよりもぎこちなく戦慄いた唇は「堪忍な」と呟いた気もするが余りに些細な音は確信に至らず、固まった身体をなんとか引き摺るようにして歩き出した今吉の背を、諏佐が数歩足を運べば簡単に追いつけそうな鈍い足取りをそれ以上追えずに諏佐は立ち尽くした。



「いやあ、授業中にめっちゃ怖い夢見てん。まだ寝惚けてたみたいでエラいビビってもうて」
堪忍なあ、と放課後、部室に入って来るなりそう謝罪する今吉はへらりと力の抜けた笑顔で普段と変わらず、だが普段と変わらないからこそその言葉の信憑性に欠けた。
バスケ部の同じ学年同士という事で今吉と諏佐の仲はそれなりに良いと思う。思う、といまいち確信に至れないのは未だに諏佐が今吉の事を掴みきれないからだ。短い期間でも会話を重ねれば重ねる程に相手への理解を深める筈なのに、そう少なく無い今吉との交流で諏佐に分かった事と言えば「今吉は胡散臭い」、という事だけだ。何処が、と聞かれたら困ってしまうのだが、今吉の言葉が、表情が、相手や状況に合わせて作っている上辺だけの物に見えるというのが主な理由だろうか。
そんな胡散臭い男の先ほど見せた怯え。尋常では無いあの様相が、ただ夢見が悪かったと言う理由で片付けられるわけが無かった。何か、別の。今吉を怯えさせる何かとは。
ちらちらと一つ、理由が思いつかないでも無いが高校生にもなった男がそんな事で。
そもそもあれだけ怯えていたのなら、あえて聞かずに今吉の言葉にただ納得しておいてやった方がいいんじゃないか。
ぐるぐると脳みそを高速回転させていたら急に膝から力が抜けてロッカーに思い切り額をぶつけた。
「ぃでっ…!?」
「なん、人がせっかく謝ってるのに無視かいな」
振り返れば細い両目を更に細めて見上げる今吉の姿。
鈍く痛みを訴える額を押されながら膝かっくんされたのか、と納得すると同時にあれ?と首を捻る。
「お前、人に触られるの怖いんじゃないのか?」
聞くか聞くまいか悩んで居たのに驚いてあっさりと諏佐の口から問いが飛び出る。
一瞬、目を見開いた今吉は三回、瞼を上下させてからへらりとまた口角を上げた。
「やから、言うてるやん、さっきはめっさ怖い夢見たんやって」
考え過ぎやで諏佐ぁ、と証明するように一度ばしんと肩を叩いて自分のロッカーへと向かう背中は先程の怯えなど微塵も感じさせないくらいに頼もしいが何かが腑に落ちない。今吉、と追いすがるようにして伸ばした指先は図らずも休み時間と同じように背後から肩を掴み、
「っっもうホンマいい加減にしぃや!!!」
本日二度目の乾いた音は震えた怒鳴り声に掻き消された。
初めて聞く今吉の感情を露わにした声に漸く、諏佐は自らの失敗に気付いた。


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つ、と背中に指先が触れる。
かろうじて触れていると言うような仄かな感触が少し戸惑った後に下へと滑り落ちた。
正直、くすぐったい。
けれど諏佐はぴくりと小さく肩を揺らすだけに留めて指先の次の動きを待つ。
まだ余り物を置いていない諏佐の寮部屋は暖かな日差しが差し込んで、ただじっとしているだけだとだんだん意識が睡魔に乗っ取られそうになる。
だが傍から見ればじゃれているだけに見えるかもしれないが、背後からは凄まじい緊張感が伝わって来て眠るに眠れない。
こみ上げた欠伸を噛み殺し、意識して深い呼吸を繰り返していると、一度離れた指先が今度は手の平に変わって、どす、と勢い良く背中を突いた。
「ぐふぉ、…」
「わ、堪忍な諏佐…」
きっと意を決して手を伸ばしたら力加減を間違えてしまったのだろう、焦った今吉の声に大丈夫だ、と静かに息を吐いた。
これは思っていたよりも時間が掛かりそうだ。



事の始まりは、うっかりと諏佐が今吉の肩を掴んで怯えさせた例の事件からだった。
あのあと、またしてもその場から逃げ出した今吉を、諏佐はやはり追いかけられなかった。
どうするべきなのか全くわからなかったのだ。
結局、部活が終わっても姿を見せ無かった今吉を心配しなかった訳ではないが、そもそも諏佐が原因なのだ、たぶん。
今まで飄々とした態度を崩さず、感情の揺れ等微塵も見せた事の無かった今吉の明らかな拒絶は諏佐にそれなりの衝撃をもたらしたようで、これからどんな顔で今吉に接したらいいのかがわからない。
同じ寮生として、同じ即レギュラーに選ばれそうな新入部員として、三年間を共にするなら仲良くなっておきたいと思っていたのに。


寮に戻り消灯時間を過ぎても気付けば今吉の事を考えてしまって寝付けなかった。
明日は部活に来るだろうかとか、もし部活に来たとしてもどう謝ればいいのだろうとか、結局何故あんなに怒っていたのかわからないだとか。
ぐるぐるとただ同じ疑問を頭の中で捏ね繰り回しては、実際に今吉に会ってみないとわからないという漠然とした結論にしか辿りつかない。
けれど、そんなすっきりとしない結論では納得出来ないのか、最初からまた頭の中で捏ね繰り回す事になる。
何度目かの寝返りを繰り返し、一度水でも飲んで落ち着こうとベッドから起き上がった時、タイミング良く扉をノックする控えめな音が響く。
たった二度の、静まり返った部屋だからこそ聞こえるようなそれは消灯時間も過ぎているのだし無視することも出来たのだが眠っているのならまだしも起きているのなら知らんふりは気が引ける。
諏佐は少しだけ思案すると扉へと向かった。
「寝とった?」
扉を開くなりへら、といつもの胡散臭い顔が、まるで今日一日のあれそれなど何も無かったように立っていたので思わず諏佐は反応に困ってしまった。
いや、とぎこちなく首を振るのが精一杯で、ほな中に入れてぇや、と脇を摺り抜け部屋へと勝手に入る今吉を止めるタイミングを失ってしまう。
寝付けない原因が、自らやってきた。
扉を支えたまま暫し唖然と今吉の背中を見送った後、溜息一つ落として諏佐は今吉の後を追った。
これが解決の糸口になるのか、それとももっと大きな問題になるのか期待と警戒を持ちながら。



「今日あった事を全部忘れて今まで通りの日常に戻るのと、今日のアレソレの訳をちゃんと説明する代わりに一生ワシの下僕になるの、どっちがええ?」
今吉が先にベッドに腰を落ち着けてしまったので、なんとなく距離をとって床に座るなり問われた内容に諏佐は今日何度目になるかもわからない間の抜けた顔で今吉を見上げた。
間接照明の薄明かりの中で、当の本人は相変わらずの口角だけを吊り上げたような笑みでじっと諏佐の反応を待っている。
「あー……下僕、ってなんだ…」
「下僕は下僕やん?ワシの手となり足となりワシの意のままに顎で使われる簡単なお仕事」
「いや、そんな事じゃなくて…なんで下僕なんだ?」
「そりゃあ、親にも言えへんかったワシの秘密を知るんやから、相応の対価が必要やん?」
本来聞くべき所はそんなことじゃない気がするのに、余りにも今吉が普段通り過ぎて頭がついて行かない。
いや、今日一日ずっと思考が空回りしている。
余計な事は眠れなくなるくらいには考える癖に肝心な時に脳が職務放棄をしている。
それもこれも、全ては目の前で笑っている男のせいで、あれだけ怒らせたのだからとこっちが悩んでいたというのにわざわざ部屋までやって来るわ、それで怒りをぶつけるなりもう話し掛けるなと絶縁宣言でもするのかと思いきや、笑顔で訳のわからない二択を提示してくる。
なんだか段々考えるのが面倒になって来た。
悩んだ所で、諏佐の想像の一歩も二歩も外れた反応が返って来るのだから頭を使うだけ無駄な気がする。
「…お前は、どっちがいいんだ?」
だから率直に、思ったままを問い返せば細い双眸を瞬かせる今吉の姿。
「今はワシが聞いてんねんで」
「だが俺はお前の意見も聞いた上で返事をしたいと思ったんだ」
「そんなん、今日の事は無かった事にしたいに決まっとるやん」
「本心から言っているのか?」
考える事を放棄して、ただ条件反射のように言葉を並べていたら今吉からの返事が途切れた。
一度、二度、開いた唇が音を発しないまま噛み締められる。
探るような視線が諏佐を真っ直ぐに見据えるが、諏佐としては何も考えていないので出来る事など何も無い。
そもそも、此処で今吉が頷いてくれてさえいれば、そうかそれならわかったと、今日の事を忘れる方を選んで終われるのに。
つまり、此処で頷けないくらいには、今吉は諏佐が下僕になる方が好ましいということか、と結論つけて諏佐は我に帰る。
また、今吉の事を考えてしまった。
けれどわかってしまうと無下に見捨てる事が出来なくなると言うか、目の前に困っている仲間が居て、自分に助けを求めているような気がするのに放って置ける程、ヒトデナシでは無いつもりだ。
唇を噛み締めたまま何を考えているのかわからないが黙り込んだ今吉をぼんやりと眺めながら諏佐は一つ、息を吐き出した。
「下僕…と言うのはなんだか違和感があるが。お前が望むのなら、俺は下僕になってやってもいい」
あんまり酷い無茶振りは勘弁してくれよ、と付け足しながら今吉を見上げると、そこには泣き出しそうな、怒りを爆発させる寸前のようななんとも言えない顔でこちらを凝視する瞳があった。
「……なんやそれ。自分、ほんまに頭動かして物言ってるん?」
「お前それ微妙に失礼じゃないか」
「せやかて、絶対、後で後悔すんで?」
「お前がそんな顔してなきゃ、俺だって今日の事を忘れる方を選ぶ」
笑顔を忘れて這うような声でしか喋れない今吉がただ縋りたいのを必死に堪えてるように見えてきて困る。
自分がどんな顔をしているのか言われるまで全く意識していなかったのか、視線をさ迷わせた後に俯いてしまったから今どんな顔をしているのかは見えない。
皆が寝静まった寮の一室とは静かな物で、黙ってしまった今吉を前に流れるのは無言の時間だ。
これ以上、諏佐から言える事は無いし、後は今吉がどう決断するのかを待つしか無い。
「…ちゃんと、忠告はしたで」
暫くして、漸くぼそりと、脅しているのかと紛うような低音が溜息と共に吐き出される。
だが、次に顔を上げた今吉は、は、と乱雑な息を吐き出して何か吹っ切れたようだった。
「しゃーないから下僕にしたる。しゃーなしやで。」
どうやら諏佐は今吉に望まれたらしい。
上から目線の言葉に思う所が無いわけでもないが、其処を言った所で睡眠時間が削られるだけなので黙っておく。
「ほな、説明やんな」
荷が下りたような、少しばかり調子を取り戻した今吉の説明は予想よりもかなり簡略化された物だった。
去年、ちょっとした?事件に巻き込まれてから人に触られるのが怖い事。
狭い所、暗い所も怖いし、人が居過ぎても居なさ過ぎても駄目だと言う事。
「…え、それだけ…?」
「それだけってなんやねん、良いガタイの男がこんなんなってるてバレたら恥ずかしいやろ」
「いや、それはそうなんだが…」
交換条件が下僕と言ってくる位だからよっぽどの重い話があるのかと思っていたのだが。
余りにあっさりとし過ぎて逆になんだかよくわからない。
「けどお前、部活の時は普通にしてただろ。」
「慣れた。人がそこそこ居って、明るくて、広いやん?全く平気とは言えへんけど、そこまで構える程でも無いっちゅーか」
「…いや、けど、それなら今日、廊下で会った時も人がそこそこ居て明るくて広かったと思うんだが。」
「……やから、言うたやん、授業中に怖い夢見たんやて。」
つまり、事件?とやらの夢を見て過敏になっている時にうっかり触ったからこその反応だったという事か。
部室の時は狭いと言えば狭い場所で二人きり。
バレないようにと無理に触れるアピールをしたものの、結局諏佐から触られて耐えきれなくなったのだと勝手に納得する。
「説明はこれくらいでええか?したら次は本題なんやけど」




そして冒頭に戻る。
下僕になれと言うのは今吉の故意に間違えた言葉選びであって、協力者と言うのが正しいのでは無いだろうか。
要は今吉の、触られる事に対する恐怖心を克服する為に手を貸せと言う事だ。
二人きりは怖いが、人が居る所で出来るような事でも無いのでせめて明るい時間に。
触られるよりは、自分から触る方がまだマシだから諏佐は背中を向けたまま動かない事。
思わず素直に背中を差し出してしまったが、今吉が何かしらの進展を迎える前に自分が寝てしまいそうだ。
未だ衝撃を残す肺に空気を満たしながらふと思いついて諏佐は振り返った。
「指とか、掌とか。ちまちましてねぇで思い切り抱き着くくらいしてみたら早いんじゃないか?」
「ちまちまって人の努力をお前な…」
「いや、プールの飛び込み台って、端に立って構えてから飛び降りるよりも助走つけて勢いで飛ぶ方が怖く無かったりするじゃねぇか。」
諏佐の思いつきは案外今吉にとっても納得の行く提案だったらしい。
前向きぃや、と真剣な声で促されて言われるがままに前を向く。
と。
どす、と先ほどの一点集中の衝撃よりは軽く、だがそれでも十分な勢いで持って背中にぶつかって来る身体。
抱きつく、までは至らなかったのか諏佐の腕の横からぴんと伸ばされたまま小さく震える両腕が今吉の心境そのものなのだろう。
すぐに離れるかと思いきや案外張り付いたまま動かない今吉の体温は日差しと相まって余計に眠気を誘う体温だが背から伝わる小さな振動が妙に落ち着かない。
指先まで強張っている腕に触れて宥めたくなる衝動をなんとかして堪える。
「諏佐ぁ……」
震えているからなのか、それとも本当に涙でも浮かべているのか。
余りにも弱弱しく涙声のような声で呼ばれて諏佐は今になって後悔した。
何故自分はあの夜、下僕になると言ってしまったのか。
この胡散臭い顔で、身長も180cm程度あるガタイの良い男を可愛い等と思ってしまうとは。
妙な扉を開きそうな自分の未来を憂い、諏佐は大きくため息を吐きだした。

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モンハン妄想

誠凛高校でモンハン妄想



リコ:ギルドマネージャー
某村のギルドマネージャー
ハンターたちの力量に合わせてお仕事を配ります
たまにうっかり「簡単なお仕事よ!!」って言いながら古龍討伐に行かせたりするけど愛ゆえに。愛なんですてへぺろ


日向:メイン弓、たまに笛
チームseirinの頼もしきリーダー
抜群の火力を誇るわけでも、徹底的なサポートが出来るわけではないけれど
クラッチ入った時の活躍ぶり異常
(例:モンスの突進を弓なのに勇者止め、ここぞと言う時に発動する麻痺や睡眠、成功率ほぼ100%の閃光玉等)
ただしクラッチ入った時は味方すらも殺しかねない、そして弓なんて飾りです発動
(例:矢切りで尻尾切断、味方を巻き込む爆裂曲射連射、等)


伊月:ボウガン系
全体が見渡せるからこそのフォローの達人
粉塵調合文持ち込みは当たり前
3rd仕様でも絶対味方には当たらない散弾
瀕死状態のモンスを「捕まえようか?」って話になる頃には既に伊月が罠張って捕獲玉投げてる
耐震や高耳無しの味方が硬直してれば射撃で助けるのは当たり前
むしろ回復剤etc飲んだ時の硬直すら射撃で助けるよ


火神:大剣
どう見ても正統派熱血主人公ですありがとうございます
メンバー内最高火力を誇る前衛。安定した攻撃回数と火力
野生の勘で自マキ付けなくてもモンスの居場所が分かる。移動先も分かる。ついでに捕獲の見極めまでついてる。
ただし、相当な確率で味方の攻撃を妨害したり、味方をふっ飛ばす。


水戸部:ハンマー
物静かなスタン達人。
火神に次ぐ火力担当。ただしスキル的には若干火神には劣る為、総ダメージ的には火神に後れを取る。が、攻撃妨害率も火神に劣る。(=安全な前衛)
基本的に頭部以外狙わないのでピヨらせ担当とも言える。
ソロだとスタンを三回取る事も珍しく無い


木吉:ガンランス、もしくはランス
鉄壁のガードを誇る槍使い。例えどんな相手でも木吉のHPバーが減る事はほぼ無い。回復不要。
ただし、何も無い場所で竜撃砲を打ってしまったり、むしろ誰も居ない所で竜撃槍を打ってみたり、寝たモンスをキックで起こしたりと変な大ボケをカマすので注意。
ボケさえ無ければ一番乙る事の無い鉄壁の人。木吉さえいれば皆ベースキャンプで遊んでても大丈夫…!!!
小金井:片手剣
無難に攻撃もサポートもこなす。が、うっかりで乙る確率もそこそこ、味方の攻撃に巻き込まれて吹っ飛んでる確率もそこそこ。
メイン片手はにゃんにゃん棒、これ絶対譲れない
土田:スラアク
活躍している事もある筈なのに何故か記憶に残らない、それが土田
スタメンの立ち位置が大体決まってしまっている為攻撃チャンスを窺ってばっかりでなかなか攻撃に踏み切れない土田
実は一度も乙った事の無い土田 だけど誰からもその事実に気付いてもらえない土田
あ 土田好きですよけれどリア充は爆発しろ末永く幸せに青春過ごして結婚までこぎ着けてしまえばいい
黒子:片手、もしくは双剣
一応、他の武器もやろうと思えば出来なくも無いけれど基本、状態異常担当。
ついでに大剣と笛、ハンマーは流石にちょっと重いので勘弁して下さい
特筆すべきはナチュラルに隠密スキルがついている事。
巻き込まれない限り、モンスに攻撃される事が無い
けれど味方にすら余り認識されず、味方に攻撃妨害されるのが悩みの種
他一年三人:お料理担当かルームサービスか温泉ドリンク
あの三人にそんなご奉仕されたらそれなんて楽園…
装備は、日向がフルフルとナルガ、リオソウルの混合装備(高耳と回避重視)
木吉がディアU一式、火神がレウス一式、黒子がメラルーフェイク(ボマー的な意味で)という所までは妄想しているのですが、そもそもこれP2Gなのか3rdなのか3Gなのか…という…
日向に曲射打って欲しいけれどフルフル混合装備着せたいこの矛盾…
という事で誰かこれで仲良し誠凛下さい…

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