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空箱

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非番

茹だるような真夏日は当に過ぎ、急速に冷えて行く外の空気は秋を通り過ぎてそろそろ冬といっても過言じゃないんだろうか。
障子越しの朝の明るい日差しに覚醒を余儀なくされた銀時は、だが目覚めると同時に知覚したひやりとした空気の冷たさに益々布団の中へと潜り込んだ。
夏には親の仇の如く疎ましかった布団も今では恋人よりも離れ難く、いつまでも絡まりあって居たい。
二人分の体温が染み込んだ布団の心地良さに再びうとうととまどろみながらすぐ傍の体温を片腕で引き寄せれば低く、猫の唸り声のような声を出して、それからゆっくりと瞼が持ち上がる。
抵抗無く腕の中に収まった身体の胸元へと頬を摺り寄せるようにしながら焦点のずれた茫洋とした瞳が緩やかに周囲を彷徨った後、こちらへと降りて来る様を見詰めた。
「…何してんだ、オメェ」
寝起きで…いやそれ以外の要因もあるのかもしれないけれど低く掠れた声が心底馬鹿にしたような刺々しさを滲ませて突き刺さる。
だが穏やかな睡眠から解き放たれたばかりの瞳はいつもの剣呑さを潜ませ、逆に笑みすら浮かんでいるように見えるのは、ただこの温もりが気持ちいいから錯覚しているだけなのか。
「いや、暖けぇなぁー、って。」
滲む心地良さを隠さず唇に浮かべて見せれば、はっ、と鼻で笑う音が頭上で聞こえたが聞かぬ振りをして胸元へと鼻先を埋める。
額を押し付け足を挟みこむように絡ませ全身余す事無く張り付いて強く、抱き締めれば擽ったそうに一度震えた肩と、寝癖だらけの頭に乗せられた掌。
「邪魔くせぇ」
なんて言いながらも頭に乗せられた掌は優しく髪の間へと差し込まれた指先で頭皮を撫でて行く。
いつも取り巻く世界の全てが敵かと思うくらいに神経を張り詰めさせて自分を、否、新撰組を護る男の掌とは思えぬくらに優しい手付きで撫でられるのは身体的な心地良さよりも頭のてっぺんから足の爪先まで暖かくなるような充足感に包まれる。
再び込み上げる睡魔にこの暖かさに満ちた時間を取られるのは余りにも勿体無くて銀時は目の前の薄く筋肉の形に盛り上がった胸板へと歯を立てながら抱き締めた腕を下ろして尻の狭間を探る。
ぴくりと、強張った筋肉の震えを感じながらつい数時間前まで散々に貪った肉の奥へと指を差し込めば思いのほかすんなりと付け根まで飲み込まれ、きゅ、と柔かく締め付けられる。
と、同時に頭皮に感じた痛み。
「おい、何朝っぱらから盛ってんだよ」
握った髪を強引に引っ張って上げさせられた視線の先には眉を潜めて睨み下ろす眼差し。
それにはただ温まった心地が滲む笑み隠さず見せつけるだけで粘着質な液体に満ちた肉の合間を指先で探りながら身体を上へとずらして口角を釣り上げた唇へと吸い付くだけのキスを送りつける。
「すげー、暖かくて気持ちいいからさぁー、何かしてねーと寝そう」
素直に心の内を打ち明ければ一瞬だけ、驚いたように眉を跳ねさせまじまじと銀時を見下ろした瞳はだが同時に強く内側から捏ねる指先に歪んだ。
奥底に残る燻火を強引に呼び起こそうとする指先は遠慮無しに体内から熱を煽り立て、阻止するように強くなる締め付けを掻き分け、ただ執拗に生々しい肉を探る。
「は、寝たけりゃ寝ればいいじゃねぇか」
僅かに上擦った吐息を一息で逃して紡がれる反論に拒絶は一切無く、許容すら滲ませて銀時を調子付かせる。
昨日吐き出した自分の遺伝子を肉壷の中で掻き混ぜ、擦りつけて形だけの拒絶を溶かして行く。
「折角、こんなきもちいーんだから、もっと気持ち良くなりてーじゃん」
差し込む指を増やして強く擦り上げれば声にも満たない吐息が熱を孕んで零れ落ちる。
寝起きの眼差しに情欲を滲ませ溜息一つ落とした土方はわざとらしい溜息混じりに、仕方ネェな、と言って双眸を細めるだけの笑顔を見せて銀時の唇へと自ら唇を重ねた。


********************************



まどろみと温もりを分かち合うような睦みあいはゆっくりと昼近くまで及び、激しくは無くとも指先まで満たされた熱に浸りながら未だ銀時と土方は布団の中にいた。
吐き出したばかりの劣情を噛み締めるように背後から抱き締めた土方の首筋へと顔を埋めて余韻に浸る肌を擽った。
ん、と喉を鳴らしながら、萎えてまだ中に収められた熱の残滓を締め付けられ心地良い刺激が下肢に広がる。
「何、まだ足んねぇの?」
耳の孔へと舌を差し込みながら揶揄するように囁いてやれば反論する間も無くひくひくと肌を震わせ締め付けが強くなった。
土方はどうにも耳が弱いらしい。
そのままわざと水音を立てて孔の中まで舐り耳朶を甘く噛み締め歯形を残してやれば、ぁ、なんて濡れた声を零す。
びくびくとその度に跳ねる身体は全身で足り無いと喚くように銀時を締め付け熱を煽ろうとする。
「でも駄目、銀さんおなかすいた。」
不意に、そうして身体を離して起き上がれば無理矢理に引き抜いた肉が心地良かったのか再び小さく細い声が上がった。
「――…ッぁ…、は、……お前な…」
煽っといて、と。恨めしげにぼやくような声は聞かぬ振りで起き上がる。
銀時とて本当ならこのままぐずぐずに溶けるまで絡み合っていたいのだが今日こそはと決めてきた目的があるのだ。なりふり構っていられない。
温もりに包まれていた身体が外気に晒されてぶるりと震えるのを適当に落ちていた着流しを羽織り、勝手知ったる人の家の台所へと向かえば、背後で土方が仕方なく身を起こす衣擦れが聞こえた。


非番が取れた、と聞いたのが一週間前。
しかも、いつもならば非番とは名ばかりで結局屯所に篭っていたりする土方が、今回は何の仕事も無く丸一日身体が空くと聞いたのが三日前。
普段は夜のほんの一時を共に過ごすか、精々半日一緒に居られればいい方だ。
それだって、週に一度会えればいい方、時には一ヶ月も二ヶ月も会えない事だってある。
神楽と新八を巧く説得し、丸め込み、時には賄賂を渡してなんとか非番の前日から新八の家へと神楽を泊まらせて漸く訪れた非番。
前日から土方の私宅へと転がり込んで散々身体を貪ったとはいえ日頃溜まった鬱憤はこれしきで晴らせる物でも無い。
二人でただのんびりと共に過ごすのも外へと出かけるのだって嫌いでは無い。むしろ大好きと言えるのだが折角これだけ長い時間があるのならば、本能の赴くままに心の求めるままに精魂尽き果てるまで土方を貪ってみたいという欲求が疼く。


「気持ち悪ィ顔してにやけてんじゃねぇよ」
さてこれからどう料理してやろうと妄想を駆け巡らせていた銀時は突き刺さるような視線に貫かれて我に返った。
目の前では簡単な朝食、時間的には昼食を食べ終えて煙草片手に一服つくこれ以上無い程に上等な食材。
すっかり眠気も取れた眼差しには普段通りの鋭さが戻り、不快、と言わんばかりのオーラを白煙と共に撒き散らしている。
「いやぁ、いーよネ、こういうのんびりした日ってのも」
誤魔化すように更ににへらと表情を崩して見せれば一瞬本当に汚物でも見るような顔になった後、視線を反らして表情を緩ませる。
「まぁ、こんだけ暇になるのも珍しいしな…」
窓の外からは午後の穏やかな日差しが差し込み朝は冷えていた空気も仄かに暖かい。
お互い着流しをだらしなく羽織っただけのような格好で居てももう寒さ等は感じ無い。
「折角こんだけ暇なんだしさ、今日はとことんまでアイしあってみねぇ?」
ず、と食後の茶を啜りながら銀時が夕飯の献立を提案するような気軽さで口にしてみる。
目の前で土方が普段から見開き気味の双眸を益々見開いて銀時を見た後、は、と浅く鼻で笑った。
「さっきまで散々ヤったろーが。お前は覚えたてのガキかよ」
いかにも馬鹿にしたような拒絶は想定の内。
短くなった煙草を灰皿へと押し付け、煙を消したその手で新しい煙草を取り出して口に挟む寸前、銀時の腕が伸びてその手首を捉える。
「あんなんじゃ全然足んねーよ。足りる訳ねーだろ。」
テーブルへと手をついて身を乗り出して顔を寄せ、唇が触れるぎりぎりにまで迫って間近で視線を重ねる。
「お前、普段どんだけ会えねーと思ってんだよ。たまには腹一杯まで食わせろ」
渦巻く妄想を心の奥底へと押し込めて真面目な顔を取繕い。
不純でも何でも言葉に嘘は無い。
愛だ恋だという言葉は似合わない、もっと本能の部分で求める欲を剥き出しにして本気の懇願。
量るように眇められた双眸を一心に見詰めて待つ間はほんの一時。
はぁ、と。重たく零れ落ちた土方の溜息に銀時は自分の勝利を確信した。


土方は人を寄せ付けぬ剣呑な外見とは裏腹に快楽には酷く奔放だ。
男女問わず、気持ち良ければ何でもいいと平気で口にするし、実際に表沙汰にはならないだけで夜の住人達の間ではその手の噂は数知れずあるらしい。
だがプライドだけは高く、主導権を全て明渡す事を良しとせず、身も蓋も無く乱れるという事は殆ど無い。
見せ付けられるような痴態はあくまで土方が「見せても構わない」と理性で判断された部分でしか無く、逆に土方が許す限りどんな痴態でも曝け出される。
「男ならやっぱり、コイビトをとことんまで乱れさせてぇよなぁ…」
再び布団へと戻り、押し倒した土方の男らしく整った顔を見詰めて銀時は一人零す。
「ぁあ?」
「いや、独り言。」
不審そうに潜められた眉間へと触れるだけの口付けを落として銀時は唇の端を釣り上げた。


まだ昼を過ぎたばかり、時間はたっぷりあるし許可もちゃんと取った。
後は料理人の腕次第で完成が決まる。

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優しい指先

昨日までは綺麗な真っ青なキャンパスに巨大なソフトクリームにもがどんと居座っていた空は一夜にして灰色一色に埋め尽くされた。
まだ日も昇りきらぬうちに振り出した雨は、夜明け前に漸く布団に潜り込む事が出来た土方を休ませるがよっぽど嫌いなのかすぐに激しく地面を叩くようになった。
無造作ばら撒かれる雨音の激しさはたった一枚ばかりの薄い戸くらいでは眠りの浅い土方の安らぎを護る事が出来ず、ほんの少しの間だけ意識を漂わせるのみで土方の意識は覚醒を余技無くされた。
まともに休めず、されど昨日だけの物では無い蓄積された疲労は空から圧し掛かる鈍い色の雲のように土方を上から潰そうとしているようで、泥のように重い身体は中々思うように動かす事が出来ない。
だからと言って雨は眠る事を許してくれず、仕方なく土方は布団から這うようにして灰皿を取るとだらしなく寝そべったまま煙草に火をつけた。
美味くも無い有害な煙を肺へと取り込む作業を数度繰り返し、煙草が短くなれば新しい煙草へと火をつけ。
そんな事を三回程繰り返した辺りで漸く、土方は布団から身を起こした。
外から頭蓋骨を潰そうとするような頭痛は有るが少なくとも身体の方は気合でどうにかなりそうだ。
布団への未練を断ち切れない脳味噌を無視して重い身体を引き摺るように立ち上がるといつもの黒の着流しへと着替え、傘を手に愛刀一本腰に差して土方は屯序を出た。
眠る事は出来なくても、せめて、息抜きくらいはしたい。


からり、ころり、雨音に負け無い下駄の音が人の気配の無いかぶき町に静かに沈んで行く。
傘を差していても足元に跳ねる水雫は遠慮無しに着流しの裾を重く冷たく冷やして土方の体温すらも奪うようだったが、それが逆に気持ち良かった。
もしかしたら疲労で熱っぽいのかもしれない。
何処かでそう冷静に判断しているのに土方に屯序に帰るという選択肢が思い浮かばなかった。
屯序に帰った所でそろそろ隊員達も起き出して来る時間だ。
そうすればもう自分は寝不足も疲労も全て己の中に隠し伏せて鬼の副長の顔にならなければならない。
辛い、とは最早思わない。
だが全てを飲み込むにはもう少し、ほんの少しだけ自分だけの時間が足り無い。
仕事に忙殺され、寝る時と厠以外で一人きりになれる時間など皆無に等しい今、何よりも磨耗しているのは身体よりも精神だ。
一つずつ地道にテロ組織を潰して行く達成感と充実感は並大抵の物では無いが、それとは別に磨り減って行く物は真撰組では補えない。
補うつもりも無い。真撰組は組織であって馴れ合いの集団では無いのだから。
まるで町を独り占めしたかのように雨音だけが支配するかぶき町を、ただぼんやりと足が進むままに任せて歩き慣れた道を辿る。
歩いているうちに身の裡へと篭るような熱を着流しに染み込んだ雨が冷やして行く。
足を上げる度に跳ね上がる水雫に濡れた裾は色の濃い部分を徐々に広げて最早下半身一帯濡れているようなものだ。
傘を握る手の指先の感覚は既に無く、冷え行く身体に比例するように思考も次第に冴え渡っていくようだった。


「多串君…?」
不意に、それは余りにも突然だった。
まるで今まで人の気配を感じ無かった雨の中、ともすれば雨音に負けそうな声に振り返ると暗い中に浮かび上がる白い姿。
思わず舌打ちが零れてしまうのは条件反射だ、もう仕方無い。
だがそれが何に対しての舌打ちなのかまでは土方には判らないし、敢えて知るつもりも無い。
こちらを誤解に寄る勝手な呼称で呼びつけた男は正体を見極めるように怪訝そうにしていた顔に一瞬、喜色を滲ませるもすぐに驚愕の表情へと変わり雨雫を蹴りつけるようにして土方の下へと駆け寄った。
無造作に腕を掴まれる事を許してしまったのは決して許容でも油断でも無い。
いつも死んだ魚の目をしている男の気迫に押し負けて身体が硬直したのだ。鬼の副長とも呼ばれる土方が。


「ちょ…ッえ、何、何でこんな冷え切ってんの!?」
触れた途端に騒ぎ立てる男に漸く、苛立ちが遅れて沸いて来る。
「五月蝿ェな、テメェにゃ関係無ェだろ」
無造作に振り払おうとした手はだが力強く掴まれたまま剥がれないで、抗うように力の篭められた指先からじわり、と体温が染み込んで来た。
冷え切って感覚すら失いかけている肌に、濡れた布越しに伝わる温もり。
馴染みすら覚えるそれが、掴まれた腕のたった少しの面積から広がり足の爪先まで波紋のように広がるのに土方は陶酔にも似た眩暈を覚えた。
「関係無くはねーだろ、そんな顔でふらついてんのを無視出来る程俺ァまだ人間辞めてねーぞ」
「俺の顔にケチつける権利なんざ白髪テンパにはねーよ」
「テメェこそテンパにケチ付けんじゃねぇええええええ!!」
一気に臨戦体勢へとなりかけた空気は、だが突然男が掴んだ腕を引っ張った事に脆くも崩れ落ちた。
反論に口を開きかけた土方が足を踏み締める間も無く倒れ込むように辿り付いたのは暖かな温もり。
互いの傘が当たったのか勢い良く後ろへと跳ね返る傘が掌を滑り落ちて地面へと転がって行くのを視界端に捕らえながら土方は銀時の腕の中へと抱き込まれて居た。
銀時の持つ傘の下、雨の中に残る太陽の残り香が鼻先を掠める。
全身に、まるで土に染み込む雨のようにじわりと温もりが広がって行く。
微温湯を漂うような静かな温もりが冷たく強張って居た身体から一気に力を削げ落としてしまうようだ。
一度安らぎを覚えた脳は先程無理矢理布団から引き剥がしたのを恨んでいるのか禄に働いてくれず、ただ凭れるように体重を預けてしまっても銀時は何も言わずにただ強く、抱き締めた。
温もりに、全身が包み込まれる。
「……何で、こんな所居んの。」
低く、肩口に顔を埋めて囁く音色は普段の無気力とは違う、重さがあった。
「……此処に居ちゃ悪ィか。」
何故だか緩んでしまった唇が笑う吐息を混ぜて答える。
ぴくりと、一瞬肩を揺らした銀時は顔を上げるとゆっくりと口角を釣り上げた。
「悪かねぇ、一生居ろよ」


一生は無理だ、と斬り捨てながらゆっくりと意識が霞んで行く。
何処か、とても心地良い場所へと飛び立つ浮遊感に包まれて滑り落ちて行く意識を繋ぎとめていられない。
警戒も緊張も全てを根こそぎ掻っ攫われて土方の中身の奥深くの部分だけがすっぽりと銀時の温もりに抱き締められているようだ。
次第に弛緩して行く身体を確りと受け止めた銀時男から、お休み、と耳にこびり付くような甘い低音を囁かれたのを最後に土方の記憶は途切れた。

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いつもの

たまにしか無い土方の非番の日の前日にはいつもの居酒屋で待ち合わせ。
幾ら恋人とは言っても習慣というのは抜けないもので、どつき漫才に近い口喧嘩を交しながら酒を呑み。
もはやこれが二人のコミュニケーションだと判りきっている店主は騒々しい常連客を時折宥める程度で物静かに美味いツマミを作る。
美味いツマミに酒はまた進み、喧嘩にもならない程に呂律が回らなくなって来た頃合にようやく店を出て、二人で肩を貸し合い足を縺れさせて土方の私宅へ。
普段屯所に寝泊りしている所為で滅多に帰らない家はひんやりと冷え切っていて、だけど酒で火照った身体には丁度いい。
清潔なシーツの上に二人で雪崩れ込みほっと一息吐く。
「うあー…気持ちいー……」
「お前、ベッドの上で吐いたら全裸で外ほっぽり出すからな」
「今の季節、青姦は寒くねぇ?」
他愛無い軽口。酒に浸りきった脳はそれだけでも幸福感に満たされる。
シーツの波間に突っ伏していた顔を上げて土方の方へと目をやれば、酔いの所為か誰にも気兼ねする事のない空間の所為か、いつもきっちりと着込んだ隊服とは違う黒の着流しが肌蹴てほんのり赤く色付いた素肌が食べてくれと言わんばかりに其処にあって。
恋人と二人、ベッドの上。
此処で食べなきゃ男が廃るとばかりに仰向けに寝転がった土方の上へと圧し掛かれば酒で濡れた瞳が挑発的に笑みを浮かべた。
「あんだけ飲んでおいて勃つのかよ」
「多串君が勃たせてくれるんでしょ、これから。」
ほら、と投げ出された土方の手を取りまだ萎えた自分の股間へと触れさせればするりと布越しに形をなぞられた。
たったそれだけで腰にじん、と痺れるような感触が広がって行く。
「多串君だってやる気満々じゃん。」
ニィ、と釣り上げられた唇に吸い寄せられるように唇を重ねる。
最初は啄ばむように触れるだけ、それから次第に深く、舌を絡め合わせて唾液の音を立てて。
其の間にも土方の手は布越しに銀時の熱を撫で、時にはくすぐって煽って行く。
負け時と銀時も肌蹴た胸元から手を差し入れて熱くなった肌を弄って行く。
滑らかな皮膚の下に張り詰めた確かな筋肉の感触。無駄な脂肪の一切無い身体は骨と筋肉ばかりで硬く、だがその手触りが何よりも美味しそうに映る。
ふと、掌に掠った感触を指で捏ねてやれば重ねた唇からくぐもった吐息が漏れた。
んぅ、と喉を詰まらせながら、それでも舌を絡める事を止め無い。
流れ込む唾液を飲み込み切れずに口の端から溢れさせて喉元まで伝うのを追って肌の上を舌でなぞれば擽ったさそうに震えた肩。
「多串君って敏感だよねー」
「そういうお前だって硬くなって来てんじゃねーか。」
そう言って唇を舐める土方は隊服を着てる時とは比べ物にならないくらいに、エロい。
「なんか色情狂みたい、多串君」
「てめーに言われたかねーよ、このケダモノ。」
ぐ、と強く股間を握られて思わず銀時からぅ、と小さな声が落ちた。
既に熱を持ち始めた銀時をぐにぐにと遠慮無しに揉み込む土方は楽しげに笑いながら銀時の首筋へと空いている片腕を回す。
「狂うくらいにイかせてみろよ。」
銀時、と。
滅多に呼ばれぬ名前を赤く濡れた唇が紡ぐのにたまらずその唇を貪った。

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発情期

久しぶりに顔を合わせた彼を、引き摺るようにして攫って、走って。
仕事中だなんだと喚くのを聞かない振りで勝手知ったる彼の私宅へと連れ込んだ。
散々暴れる身体を無理矢理引き摺ってきた所為で息が、荒い。
精一杯抗った彼もそれは同じなのだろう、沈黙した空間に落ちる荒い二つの呼吸を
強引に、重ねた。
今入って来たばかりの扉に身体を押し付けるようにして貼り付けて
引き剥がそうとする手を両手で扉に縫い付けて
重ねた唇を強引に舌で割り開いて口腔内へと侵入を果たす。
呼吸を奪うように貪って、たまにがちりと歯が重なる音を立てるような稚拙な行為。
「い…ッッて…ッ」
漸く手の中に落ちて来たと思った彼は、でも未だ現実世界に留まったままだった。
縦横無尽に暖かな口腔を貪っていた舌に思い切り突き刺さった痛み。
噛まれたという事に気付いたのは痛みに顔を離した時、彼の口の端にも赤が滲んでいたから。
怒りに濡れた瞳が、無言で離せと訴えていた。
きっとこの両手が自由ならばすぐにでも刀を抜いて斬りかかりたいのだろう。
ぞわ、と。不意に背筋が粟立った。
力任せに相手の肩を掴んで扉へと向きあわさせる。
焦りすぎたのか、思い切り扉へと顔からぶつかって痛みを訴える声が聞こえた。
最早脱がしなれた隊服の、ズボンだけ下着事強引に引き摺り下ろして下肢を露にさせる。
優しくしてやりたい、と思う暇も無かった。
思考とは別に身体は淡々と目的を果たす為に動いて行く。
暴れようとする彼の身体を肩で背後から押さえつけて、中途半端にズボンが絡まった足を強引に開かせて、ぴたりと下肢を重ねた。
彼の綺麗な筋肉のついた尻肉の間に納まる布越しの熱情。
触れればもっと深くに潜りたくて自然と尻に擦り付けるように腰が揺れた。
すぐに布越しなのがもどかしくてズボンの前を広げて直接、彼の尻の狭間へと擦り付けた。
耳元に荒い息を吹きかけ、一人で盛って尻に熱を擦り付ける俺は嗚呼なんて滑稽なのだろう。
犬かよ、と小さく吐き捨てた彼の声が僅かに熱を持っていたと思うのは俺が熱くなり過ぎているからだろうか。
もう自分の熱をただ吐き出したいのか、伝えたいのか、注ぎ込みたいのか良く判らない衝動のまま、無理矢理尻肉を左右に掴んで無防備な蕾へと肉棒を突き立てる。
「―――――ッッッ」
乾いた其処は全く受け入れる気配を見せずに侵略者を拒むのを、強引に、力で捻じ伏せた。
痛むのだろうか、悲鳴にもなれなかった引き攣った声が聞こえて、でもそれにも喜悦を感じる俺は何処まで駄目人間なんだろう。
周りの皮膚を巻き込むようにして強引に奥へと突き進む息子はぎちぎちに締め付けられて痛いばかりなのに、その痛さすら心地良く感じる。
奥へと進む度に摩擦熱のような痛みが全身へと伝わり、脳まで蕩けそうだと思った。
もしかしたらとっくに蕩けているのかもしれないけれど。


漸く、全てを彼の体内に収めた頃には二人して汗まみれになっていた。
純粋な快感は全く無くて、ただ痛みだけが先走る行為に彼は最早抵抗する気力も無いようだった。
ぐったりと扉に身体を預ける姿を見て悪い事をしたなぁ、とは思うけれど、今更辞めるつもりは毛頭無い。
くそったれ、と小さく毒吐く姿に欲情してしまうんだから仕方無い。
彼が痛みに喘ぐ度に膨れ上がる情欲にまともな思考能力なんて残っていない。
ただ、彼を、喰らい尽くすまで貪りたいだけ。
ただそれだけなんだ。

お互いに痛みに慣れた頃、漸く少しだけ、腰を揺らしてみる。
引き連れるような痛みは変わらないけれど、性器を締め上げる圧迫感が少しだけ、緩んだ気がした。
それはただの生理現象で、彼自身、意識しての事じゃないのは判っているのに、この行為が許されている気分になって更に腰を揺らした。
「ッ…い、…ッッてぇよ…ッ」
辛そうな声とは裏腹に、痕が付きそうなくらいに確りと彼の腰を掴んで揺さぶれば次第に強張りが解けて馴染んで行く彼の体内。
入り口が裂けたのか、濡れた感触が結合部から玉の方まで伝ってこそばゆい。
ぐちゅずちゅとやがて聞こえ始める水音が鼓膜から精神を犯して彼しか目に入らなくなって行く。
熱い彼の内臓が引き抜く度に縋るように纏わりつき、突き入れれば悦び打ち震えて締め付ける。
求められているのが嬉しくて余計に深く、強く、彼の体内を抉り、かき回してぐちゃぐちゃにして行く。
苦痛の声しか紡がなかった彼の唇が何時の間にか熱に浮かされたような掠れた声を生み出し、抗うばかりだった両腕が扉へとすがり付いて爪を立て、気紛れに手を伸ばしてみればさっきまで無反応だった彼の性器は硬く張り詰めて涙を流していた。
「多串君って……ッは、マゾだよね…」
嘲るように耳元に吹き込んでやればびくんと身体が跳ねて痛いくらいに締め付けられた。
すっかり扉に額を預けて俯いてしまっている彼の表情が見え無いのが残念だけれど、真っ赤に色付いた耳朶が可愛らしかったので噛み付いてやる。
ぁ、なんて色っぽい声出すから益々調子付いて耳朶から首筋まで、思う存分噛んで、舐めて、口付けて痕を残した。
これは、俺のモノ。
俺の獲物。
俺の為に捧げられた生贄。
哀れな生贄は力尽くで犯されて快感を感じ、否定の言葉を紡ぎながらも俺を拒否しきれずに腰を振るのだ。
其処には真撰組副長なんていう肩書きも、俺の知らない過去なんかも関係無い。
お互いが欲し、欲されるから身体を繋いで、思う存分溶け合って、時には強引な手段や暴力なんかも混ざって一つになる。
どうせだったら、男同士でも一つになった証が出来ればいいのに、と思いながら俺は彼の体内を汚した。

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ショタ化した桐皇三年

桐皇学園バスケ部、恒例のIH直前合宿。
辛うじて青峰の捕獲にも成功し、初日は万事恙無く終わろうとしていた。

ハズだった。

初日からハードな練習の後の夕飯はとても美味しかった。
合宿所のおばちゃん達は飢えた高校生の胃袋事情をとても良く理解しており、ボリュームがありご飯が進む濃い味付けの食事は非常に美味しかった。
とにかく美味しかった。
夕飯が美味しかったのは間違いない。
問題はその後、一年生ながら既にマネージャーとしての信頼を得つつあった桃井が差し出した「でざーと」なる未知の物体だ。
あれがまさか食べ物という意味のデザートだとは誰も思いつかなかったレベルの未確認物質。
それが
「合宿では余りお手伝い出来る事が無いのでせめて、と思って身体に良い物たくさん入れたデザートを作って来ました!!よろしければ皆さんで食べて下さい!!」
と善意100%の美少女の笑顔と共に差し出される恐怖。

食べれば死ぬ未来しか見えない
だがしかしこの有能なマネージャーの笑顔を曇らせられるかと言われたら男として頷きかねる

そんな葛藤に固まった空気を壊したのは我らが主将の一声だった。
「すまんなぁ、ワシら今めっちゃ腹一杯やねん、これは後で夜食代わりに食べさしてもろてええか?」
その言葉を切欠に皆慌てて満腹を訴え始める。
俺も、そういえば俺も食べ過ぎたから、そんな声があちらこちらから上げられ始め、主将の機転を無駄にしてなるものかと必死のアピール。
あの問題の一年生暴君すらも幾らか顔を青ざめさせながら「今はこれ以上食えねぇ」とぼやくように零すくらいだからその場の一体感は半端な物では無い。
個人主義を謳って居たとしても所詮は団体競技、この分なら最低限のチームワークはちゃんとありそうですねと遠くの方で一人お茶を啜りながら監督が微笑んでいたとか居なかったとか。

かくしてなんとかその場での死を免れたバスケ部員達。
しかし先延ばしにしただけであって未だ死亡フラグは目の前にある。
逃げるように食堂から離れ、男だけでの緊急会議が開かれた時、そこでも頼れる主将は男前であった。
「これはワシらでどうにかするから、自分らはうっかり食べるの忘れてたとでも言うときや」
部員達は主将の男っぷりに涙した。
腹黒陰険眼鏡と思っててごめんなさい、普段は胡散臭い眼鏡と思っててすみません、各々日頃の主将に対する思い込みを心の中で謝罪する中、一人待ったを掛ける男が居た。
「おい、それ食べる気じゃねぇだろうなアンタら」
キセキのガングロこと青峰である。
皆が自分の身可愛さに余計な口出しをしない中、一人声を上げる姿は正にエース。
日頃どれだけガングロでもやはり青峰は何年に一人という逸材なのだと皆の心に深く刻まれた瞬間でもある。
「青峰、細かい事は聞いたらあかん」
それを今吉は首を振るだけで黙らせた。
確かに今吉はあの物体を「食べる」とは言わなかった。
どうにかする、と言うのは決して食べて消費する訳では無いのだろう。
しかしその辺を深く突っ込んでしまうと悲しい結果しか見えない気がする。
人は、知らなくていい事だってあるのだ。

桐皇バスケ部員達は少しだけ大人になった顔で静かに頷き合い、その場は解散となった。



翌日早朝。
喉元過ぎればなんとやら、もはや某でざーとの事など皆の頭から抜けていた。
覚えていたくなかったとも言うが。
朝食前のトレーニングに欠伸をしながらも続々と部員達が集まる中、珍しく主将と副主将の姿が無い。
いつでも誰よりも早い時間に部室を開けて待っている二人の遅刻など始めての事かもしれない。
監督が現れてもまだ姿を見せ無い二人に、昨年の注目度ナンバーワンルーキーだった若松が立った。
「俺、二人を起こして来ます」



今回使って居る合宿所では大部屋の他に2、3人用の個室が6部屋あった。
監督が一室、女子マネージャーが一室、そして残りの部屋に一軍が割り振られている。
諏佐と今吉は二人で1部屋を使っており、普段きっちりと時間通りに現れる二人共が寝坊するのは中々考えずらい。
そうなると、何か異変があったか、それも誰かに連絡する事すら出来ないような。
自然と駆け足になった若松は目的地に着くなり拳で3度、扉をノックした。
「先輩たち、起きてますか!?」
先輩の部屋にするノックにしては荒々しい音で失礼だったかと思う物の今更取り戻せない。
落ち着くように数度、深呼吸をしても中からの反応は無い。
「主将?諏佐さん?」
今度は少し控えめにノックをしながらもう一度呼びかける。
しかし扉の向こうからはうんともすんとも返事が無い。
まさか本当に何か、と焦った若松は再びがんごんと扉を殴る。
ついでにノブを回してみたががちゃがちゃと鍵の掛かった音がするだけだった。
「ちょ、生きてますか!?大丈夫ですか!?何かあったんだったら助け呼…」
殴られるがままにがんごんがんごん音を立てるだけだった扉が不意に開いた。
良かった、と何も考えずに扉を大きく引いて姿を確認しようとしたが、其処には誰も居なかった。
「…へっ?」
正面にはカーテンの引かれた窓、右手には使った形跡のある二つ並んだベッド、左手には二人の荷物、荒れた様子も無く、ただ二人だけが居ない。
と部屋の中を一周した視線が足元へと辿りついて今度こそ若松は固まった。
そこには若松が扉を引く勢いに負けて転んでしまったのか、ぶかぶかのTシャツ1枚を着て座りこんで居る子供が一人居た。
少し眠そうにも見える眼差しがじっと若松を見上げて、それからことりと首を傾けた。
「どちらさまですか?」



合宿所中に響き渡る若松のどっせいに最初に駆け付けたのは桃井だ。
先輩二人が忽然と姿を消した事もおおごとだが、見知らぬ子供が突然部屋に居た事も十分おおごとだ。
まずは身元の特定を、とベッドの上に座らせた子供と桃井とのやり取りが始まる。
「初めまして、私は桃井さつきです。あなたのお名前はなあに?」
「すさ、よしのり」
返ってきた答えに再びどっせいしそうになるのを若松は辛うじて堪えた。
どっ、まで出てしまったがなんとか堪えた。
桃井も流石に驚いたのか一瞬、言葉に詰まった物の再び笑顔ですさと名乗る子供に向き合う。
「よしのり君は、今いくつ?」
「よんさい」
余り物怖じしない性格なのか、ずい、と4本指を立てた手を突き出して来る姿は何処か誇らしげである。
「これ、どう見ても諏佐先輩だよな」
「やっぱりそう思います?このおっきなお鼻とか先輩そっくりですよね」
最初こそ、驚きで分からなかった物のこうしてじっくりと見てみると良く分かる。
眠そうに見える目も、少し大きな鼻も、話す相手の事をじっと見つめる癖も。
此処に居ない諏佐佳典にそっくりだと言う事が。
「俺、監督呼んでくる…」
「あ、お願いします」



部屋に残された桃井は再び情報収集に勤しんで居た。
このすさよしのり(4)は年齢の割に落ち着いており、頭も回る子供のようである。
桃井が害の無い人間だと判断したのか聞いた事には割とはっきりと答えてくれる。
桃井が元から持つ情報と照らし合わせても、桐皇学園バスケ部7番、諏佐佳典が子供になったと判断しても間違いではないと言う事。
あくまで4歳であり、17歳だった時の記憶は持ち合わせていない事。
それともう一つ。
「此処に、もう一人居なかった?今吉翔一って人なんだけれど」
とりあえずの身元確認が済んだ所で気になるのは同部屋な筈なのに未だ姿が無い今吉の存在だ。
諏佐が寝巻にしていた物の、身体が縮んで脱げてしまったのだろうハーフパンツがベッド脇に落ちているのと同じようにもう1枚ハーフパンツが床に転がっているのだが本人が居ない。
問われた諏佐は始めて困ったように眉尻を下げてそわそわと辺りを見渡す。
どうしよう、と悩む声で零しながら桃井と、それからちらちらと背後へと視線を向ける。
桃井がじっと笑顔を保ったまま待っていればやがて、意を決したように諏佐が立ちあがった。
向かう先は二つのベッドの合間に綺麗に丸まって落ちていた掛け布団。
ぐい、と上に引っ張るも何かに引っ掛かったかのように持ちあがらず、四苦八苦している。
「こわくないよ、だいじょうぶだから」
「おふとんあついでしょ、でてきてよ」
布団に向かって呼びかけながら懸命に布団を引っ張り上げる姿は元は先輩とは言え微笑ましい。
言葉から察するに、丸まった布団の中で今吉が籠城をしているようなのも大変微笑ましい。
そっと諏佐の背後に近付きながら二人の攻防を見ていたが、ついに諏佐がばさりと布団を引き上げた。
そこに居たのは団子虫かと突っ込みたくなるように綺麗に正座のまま丸まった子供の姿。
この夏の日にずっと布団に包まっていた所為か、がば、と上げた顔は真っ赤に火照っているがあの特徴的な狐目は確かに今吉のようだ。
ぜぇぜぇと荒い息をしながら諏佐と桃井を見比べた後にさっと諏佐の影に隠れてしまったが。
普段の今吉からは考え付かないような逃げっぷりにええと、と桃井は考える。
「はじめまして、私は桃井さつきって言うの。あなたのお名前はなあに?」
優しく声を掛けても全くの無反応。
ぎゅう、と力いっぱい諏佐にしがみつきじっと俯いている。
このころからすでに諏佐先輩の方が大きいんだなぁ、なんてしみじみしてしまうくらいには小さく固まっている姿に、仕方なく桃井は諏佐へと視線を戻した。
「よしのりくんは、この子のお名前知ってる?」
「ううん、しらない。めがさめたらね、そこにいてね、おはなししようとしてもね、こっちみてくれないの」
「目が覚めた時からお布団の中にいたの?」
「ちがうよ、さいしょね、おててぎゅってしてたんだけどね、どあがごんごんいってね、かくれちゃったの」
「そっか、怖かったんだね」
「ぼくはこわくなかったよ。だからどああけてどちらさましたんだよ」
ふんす、と背中に今吉(仮)をしがみつかせたまま誇らしげな諏佐の頭を桃井はそっと撫でた。
もとい、撫でずにはいられなかった。
よしのりくん(4歳)はいたって普通の4歳児なだけであって特別可愛いわけではないのかもしれない。
しかし普段の大仏かと突っ込みたくなるくらいにどっしりと佇む巨躯と知的な雰囲気の諏佐佳典(18)しか知らなかった身としては、この舌っ足らずにドヤ顔連発の幼児を可愛がらずにはいられない。
否。
可愛がることを強いられているのだ。


眠たげながらもどこか満足げなよしのりくんをいい子だねーえらいねーと撫でていると背中のひっつき虫がちら、と顔を上げた。
桃井と目が合うなりぴゃっとまたよしのりくんの背中に顔をうずめて縮こまっている姿はこれもまた普段とのギャップで非常にかわいらしい。
さてこちらをどう攻略するかなと桃井が頭を悩ませていると、今まで力いっぱいしがみつかれても平気な顔をしていたよしのりくんが動いた。
べり、と音がしそうな程にいきおいよく腕をはがし、ぐるりと向きを変えて今吉(仮)と向き合う。
突然隠れるものがなくなった今吉(仮)はどう見ても今吉翔一(18)が小さくなったとしか思えない顔つきで、だがそのおろおろと困惑しきった眼差しだけが見慣れない。
「あなたのおなまえなんですか!」
褒められて何かのやる気スイッチを押したのだろうか、がっちり今吉(仮)の腕を掴んで大きな声でそう聞くよしのりくん。
よしのりくんと桃井を何度か見比べて逃げられないと諦めたのだろうか、それとも少しは慣れてきてくれたのだろうか。
若干へっぴり腰になりながらも初めて今吉(仮)の唇が開かれた。
「……しょーくん……」
ぽしょん、と近くにいてやっと聞こえるような小さな声で呟かれた声に桃井は思わず固まった。
「しょーくんじゃなくて、おなまえだよ!」
「しょーくんは、しょーくんやもん…」
「しょーくんはおなまえじゃないでしょ、みょーじとかあるんだよ」
「………しょーくんは、しょーくんちゃうん?」
ぽしょぽしょと自信なさげな声がますます小さく震えてゆくのに悶えたい気持ちを押し殺して桃井は理性を取り戻した。
今はまだ可愛さに打ちのめされている場合ではない。
しょーくんはまだ今吉(仮)なのだ。
「えっと、しょーくんは、いまよししょういちくん、でいいのかな?」
ともすれば詰問するよな勢いのよしのりくんをやんわりと留めて改めてしょーくんと視線を重ねる。
おろ、と彷徨いはするものの、やっと桃井を見てくれた今吉は少しの間の後、こくんと頭を縦に振った。

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