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空箱

映画館

 かつては商業地区の中心地であった繁華街の外れ、細い路地の一番奥にその映画館はあった。車で十分も離れていない場所に出来た大型の商業施設に客を根こそぎ奪われ、日が落ちれば人の気配すら無くなるような寂れた街は、夜も更けた今、しんと静まり返っている。まるで世界に一人きりになったかのような暗い路地を進むとそこだけぽつりと灯る明かり。古びた建物は一見すればただの小さな映画館だが数多の店がシャッターを下ろす中で営業を続けられるのはそれなりに固定客がいるのか、それとも採算度外視の趣味で営業を続けているだけなのか。暇そうに欠伸をこぼす無愛想な受付からチケットを買うと聞いたことも無いようなタイトルが印字されていた。これは後者だったかと一人納得しながら、中へと入足を踏み入れる。 
 
 無人のロビーを抜けてすぐに辿り着く重い扉を開ければ、100人も入れば満席になるのだろうか、小さめのホールには両手に満たないような人数が疎らに居るだけだった。映画はまだ始まったばかりのようだが既に眠っている者、これから眠ろうとしている者、明らかに泥酔している者等、まともに映画を見ている人などろくに居ない。そんな中、唯一顔をスクリーンへと向けている姿に目を止める。最後列の一番奥から二番目、人を避けるように入口から一番遠い場所に座る彼女の顔はスクリーンの光を浴びて一際色白さを際立てていた。新たな客には目もくれず、さも映画に夢中になっていますと言わんばかりの姿に口許を緩ませながらおもむろに階段を登り最後列を目指す。空席が目立つ中、細い座席の間を通り抜けあえて女性……レイヴスの左隣に腰を下ろすアーデンを気にするような人間は誰も居ない。人の活気と共に治安を失ったこの街でこんな夜も遅くに一人でいる女性のレイヴスですら誰にも気にされていないのだから、男であるアーデンなぞ空気のようなものだろう。  
 埃っぽいが座り心地は悪くない椅子に身を預けて横目でレイヴスを伺うが、この距離に近づいてもまだアーデンに気付いていませんとでも言うようにスクリーンへと顔を向けていた。否、見ている風に装っているのだろう、不自然なまでにアーデンを見ようとはしないくせに、腿の上に置かれた両の手がきゅうと丸められている。化粧っけのない整った顔にプラチナブロンドの長い髪を緩く片側で括り、丈の短いジャケットとタイトスカートにパンプスをはいた姿は地味なロースクールの教師のような出で立ちだが、スカートの前面には大胆に太股の半ばまで覗かせるような深いスリットがあり、いかにも手を差し込んでくださいと言わんばかりに誘う柔らかそうな肉の合わせ目がスリットから覗いている。思わず食い入るように見つめていると、そこで始めてアーデンの存在に気付いたかのようにレイヴスが向こう側へと角度をずらせてスカートのスリットを両手で隠す。その初な生娘のような仕草に不覚にも興奮してしまった。彼女は本当に男を誘うのが巧い。  
 膨れ上がる欲望のままにまずは右手の甲でそっと露な膝に触れてみる。生肌に見えていたがざらついた感触はストッキングだろうか、ぴくりと震えたものの、それ以上動く気配は無い。ならばと膝の側面から尻の近くまで、柔らかく肉付きの良い太股の形を確かめるようにスカートの上から手の甲を触れるか触れないかの場所で這わせて行く。相手がレイヴスだとわかっていても、悪いことをしているような気分で不思議な緊張感があった。ゆっくりと、いかにも痴漢らしく、最初から慣れ慣れしく触るのでは無く様子を伺うような振りをして何度も手の甲を沿わせていれば次第に唇を噛み締めうつ向く小さな頭。  
 そ知らぬ顔でスクリーンへと視線を戻し、映画を見ている振りをしながら何度触れても彼女が動かないのを確認した上で、今度は掌で膝の内側へと触れゆっくりと足の合間へと手を差し込んだ。咄嗟に拒むように挟み込まれた掌が柔らかな内腿の感触に包まれて心地よい。味わうようにやわやわと指先で肉を揉み込み、ストッキングの感触を楽しむように爪先に引っ掻けながら肌をなぞると拒絶以外の緊張に内腿が震えるのがよくわかる。さりさりと爪先だけで宥めるように薄い皮膚をくすぐっていると次第にスカートを押さえる手が緩み、アーデンの手を挟む力が弱る。少しずつ円を描くように爪先を沿わせる場所を広げて行くと徐々に膝が開かれ、スリットが広がって行く。常ならば簡単に開かれるその場所を掌の感触だけで開かせるのは思いの外、アーデンの征服欲を擽った。動ける場所が広がり、膝の内側から足の付け根までを焦らすように時間をかけて爪先を滑らせていけばついにスリットが広がる限界を越え、ずり上がるしかなくなったスカート。付け根に近付くほどしっとりと湿った感触になる内腿を丹念に上下に撫でる度に開かれ、露になっていく白い肌が暗い中で眩しい。そうして時間をかけて足の付け根のぎりぎりまで露になって行く様は下手なストリップよりもよっぽどアーデンの下肢に響いた。肩を大きく上下させ、吐息を震わせながらも恥じらうように顔を背けられていれば尚更。「触られるの、気持ち良い?」  
 そっと顔を寄せて耳元で囁けばぴくりと震えた後に小さく縦に頭が動く。誘うように開かれた場所にはまだ触れず、内腿を撫でて焦らす。  
「俺も、気持ち良くして欲しいなあ」  
 ただスカートの上におかれるだけになった彼女の左手をアーデンの股間へと導き、布を押し上げる場所へと押し付ける。そこは既に固さを帯びていた。なすがままに股間の上に置かれた細い指先が布越しにそっと触れ、恐る恐るといった様子で固い布の皺の山越しにゆっくりと形をたどるもどかしさに、込み上げた熱を吐息に乗せて耳元へと吹き掛ける。  
「おちんちん、好き?」  
 聞けば、先ほどよりもはっきりと頷いた。良い子、とご褒美代わりに髪の合間から除く耳朶にキスを一つ落とし、ウエストボタン一つだけを外したスラックスの下へとレイヴスの手を押し込むと、意味を察した指先が下着の下へと潜り込んでまだ柔らかさのあるアーデンの物に触れては躊躇うように引っ込める。いかにも不慣を装うたどたどしい動きに思わず喉が鳴った。布の上からレイヴスの手を自ら押し付けるようにして捏ね、彼女の手ごと掴んで上下に擦る。数回繰り返せば漸く自発的に細い指先がアーデンを包み込みゆっくりと扱き始めた。  
普段よりもよっぽど焦れったいその感触を楽しみながら、漸く彼女の開かれた足の最奥へと指先を辿らせると、そこには想像していた下着の感触はなく、ストッキングの存在すら忘れてしまいそうになるくらいに蜜を溢れさせている場所が露になっていた。ぷっくりと膨れ上がった突起から滴るほどに蜜を溢れさせた肉の合間へと指を辿らせればひくつく入り口から伸びる一本の紐。5cm程の長さの円になったその紐はもう一つの穴からも生えている。以前にも使った事のあるそれが何かなど、聞かなくてもわかる。アーデンはそんな事を命じた覚えは無い。ただ、たまには外で遊ぼうと場所と時間を伝えただけだ。それだけでレイヴスは自ら玩具を咥え込み、少しずり上がれば下着をつけていないことがバレてしまいそうなスカートを履いて治安の悪い夜の街を歩いて来たのだろうか。その危うさと卑猥さにくらくらする。  
「ねぇ、これなあに?」  
 わかっていながらあえて問い、中に入っているものを探るように中心を通るストッキングの縫い目ごと指を押し込むとびくんと肩が跳ね、ぁ、と密やかな喘ぎが耳に触れる。そのままぐいぐいと浅い場所を擦ってやると耐えきれないように掌で口許を覆い必死に声を堪える姿に体温が上がる。  
「こんな姿、誰かにバレたら逮捕されちゃうかな。それとも君を犯してくれるかな」  
 上がる息に細い肩が大きく上下している。知らない男達に手酷く犯される想像でもしたのか、きゅっと眉を寄せながらはしたなく入り口が収縮する。それでも彼女の左手がアーデンのものを絶えず撫で擦っているのが健気と言うべきか、淫乱と呼ぶべきか。  
「この辺りはガラの悪いのが多いから、きっと酷い事たくさんされるんだろうね」  
 入り口からより深くまで指を突き入れながら囁く。口元を掌で覆いながら振られる頭は拒絶しようとしているのか、それとも込み上げるものを耐えようとしているのか。薄い布地に阻まれて爪先だけがくぷぬぷと音を立てて出入りを繰り返していた。次第に収縮するように戦慄く縁を、二本の指で幾度も擦り立ててやれば不意にぷつりと指先に弾ける感触。それと同時に阻むものがなくなった指先がぬるりと奥深くまで飲み込まれる。勢いで、途中で指先にこつりと当たった物をぐっと更に奥へと押し込んでやれば、痙攣するように絡み付く粘膜がアーデンの指をきゅうきゅうと締め付けてレイヴスが達したのを知る。  
「~~~っっっ!!!」  
 声も出せずに固く身を強張らせて震える中を尚も追い立てるように折り曲げた指で擦りあげれば暖かい液体が勢い良く飛び出てアーデンの袖までをも濡らした。 
「あーあ、潮まで吹いて…」  
 痙攣が落ち着くのを待ってから指を引き抜くと手首まで滴る程に濡れていた。独特な匂いが纏わりつくように漂っている。くったりと体を弛緩させてただ荒い息を吐くので精一杯なレイヴスの口許へと濡れた手を差し出し、心得たように差し出された舌の上を滑らせて唇に指を捩じ込む。  
「美味しい?自分の味」  
 アーデンの指も二本も咥えれば一杯になってしまう小さな口内を唾液をかき混ぜるように荒し、しっかりと味を擦り付けてから引き抜く。まとわりついた物まで全て啜りあげて飲み下す従順な姿に股間が疼いた。  
「自分だけ気持ち良くなってずるいよね?」  
 呼吸が整うのを待ってから頭を引き寄せると、そこで漸く、今日初めて視線が合う。すっかりと蕩けた瞳がアーデンを見たあと、ゆっくりと下肢へと滑り落ちた。ただ彼女に握られるだけになっていたモノは熱く脈打つ程に硬さを増している。促すように前を寛げ、下着をずらしてそそり立つ物を露にしてやればゆるりとレイヴスが身を乗り出して唇を寄せていく。初心な女の仮面は剥がれかかっていた。殆ど横に寝そべるような形で先端へと口付けを落とす髪をそっと撫でてやりながら、右手はすっかりずり上がってしまったスカートをウエストに蟠らせ露になった尻を撫でる。指が埋まる程に柔らかい肉を揉みながら、レイヴスが唇と掌で奉仕する心地よさに深い息を吐く。  
 スクリーンへと視線を戻せば戦争ものなのだろうか、軍人らしき男達が小難しい話を繰り広げている所だった。改めて客席を見渡してもこちらに気付いた人も居ない。座席の影では美しくいやらしい身体をしたレイヴスが尻をまさぐられながら男の性器を夢中で舐めしゃぶっているというのに、映画館は深夜の廃れた空気のままだった。  
 音を立てないようにと一応気を使っているのか、常よりも控えめに這う舌の感触がくすぐったい。先端から根本、その下の重くなった袋まで丹念に舐められて自然と昂る気持ちを落ち着けるように深呼吸を一つ。そうでもしなければ今すぐレイヴスにぶち込んでやりたいと言う欲求に支配されてしまいそうだ。気をまぎらわせようと彼女の尻から手をずらし、先ほど開けたストッキングの穴から延びた紐をゆっくりと引っ張る。肌を震わせ一瞬の抵抗があった後、ぬるりと紐と繋がった頭を覗かせたのはやはり以前にも使った事のある遠隔操作の出来る玩具だった。卵ほどの大きさで柔らかい素材で出来ており、重く強い振動の割に音がしないこの玩具はレイヴスのお気に入りだったはずだ。今は稼働していないそれを軽く揺すぶるとするりと奥へと飲み込まれて行く。引き留めるように再び引き出しては尻を揺らして飲み込んで行く綱引き。きっと中は玩具を離すまいとうねっているのだろう。次第に引き戻す力が強くなり、腰が揺らめいている。強く引けばその分食い締めるように粘膜が玩具に絡み付いているのが紐越しにも伝わる。アーデンに触れる唇が疎かになり熱い吐息を溢すばかりになっているレイヴスの尻を咎めるように軽く叩くが、ぷるりと衝撃に揺れる肉と、びくびくと身を丸めながら震わせる様子に逆効果だったかと後悔する。そろそろアーデンもこの蟠った熱をどうにかしたい。  
 寝そべるレイヴスの両腕をそっと掴んで引き摺り上げ、そのまま足の間へと誘導すれば鈍い動作で椅子から滑り降りたレイヴスが地面に膝でにじり寄り、アーデンの目の前でぺたりと腰を下ろす。そのままそっと彼女の頭へと両手を置き換え股間へと近付けようとするがそこで初めて小さな抵抗にあった。どうしたのかと様子を伺えば自分のジャケットのポケットを探った後に差し出されたのは二つのリモコン。見覚えのあるそれは今彼女の中に埋まっている玩具のそれで、使われる事を期待する濡れた瞳がアーデンをそっと伺っていた。  
「……上手に出来たらね」  
 嬉しげに細められる瞳に思わずため息混じりの笑いが漏れる。レイヴスがこういう行為に抵抗が無い所か好んでいることはわかっていたつもりだが、その病的なまでに求める姿にはさも常識有る人間のように彼女を心配する気持ちが込み上げる。こんな安売りするような真似をせず堅実に暮らしていたとしても彼女ならば引く手数多だろう。見目も良く、教養もある。詳しい生い立ちを聞いた事は無いが、ふとした時に現れる仕草や癖を見る限りはそれなりの家で生まれ、きちんと育てられたのでは無いだろうか。  
 餌をぶら下げられて喜々として先端にかぶりつく姿は最早痴漢される女の姿では無く、自ら男を漁る淫らな生き物だった。めいっぱいに小さな唇を開きゆっくりと口内へとアーデン自身が飲み込まれてゆく心地良さに息を吐く。咥え切れない部分を懸命に手で擦りながら窄めた唇で奉仕する姿にご褒美としてリモコンのスイッチを一つだけ最弱にして入れてやる。  
「んんぐっ……っふ、……」  
「もっと奥まで飲み込んでくれたらもう一個もスイッチ入れてあげる」  
 与えられた刺激に身を震わせて動きを止めたレイヴスの耳元へと囁くと、浅い場所で抜き差しされていた性器がゆっくりとさらに奥へと迎え入れられてゆく。人よりは大きいと自負するアーデンの物を根本近くまで飲み込む技術はいつ覚え込まされたのかとふと考えそうになって打ち消す。限界まで開かれた唇が息苦しさに戦慄き、咽そうになるのを堪えて痙攣する喉に包まれて気持ち良い。幾度も喉の奥深い所に先端を擦りつけられて思わず歯を食いしばる。急速に上がる体温に限界が近い事を知り、一度レイヴスを頭を上げさせるととろりと粘度の高い唾液が糸を引いていた。  
 早く吐き出したくて焦りながらも彼女の目の前でもう一つのリモコンのスイッチも入れてやる。がくんと身体を跳ねさせ、咄嗟にアーデンの腿に顔を押し付けるようにして耐える頭を撫でてから、そっと両手でこめかみを包んで顔を上げさせ直す。唇を噛み締めながらもアーデンを見上げる瞳からぼろりと涙が溢れていた。そのままはち切れそうな程に昂った場所へと引き寄せれば震える吐息を必死に整えてから再び口内に飲み込まれて行く。  
「少し、頑張ってね」  
 一番奥まで飲み込まれ、勝手に拒絶しようと震える喉が収まるまで楽しんでからゆっくりとレイヴスの頭を小刻みに揺らし始める。最初は浅い所だけを、それから徐々に動きを大きくさせて喉の奥まで突き上げて行く。  
「んっ、ンぐ、っっんぉ、っぉ、」  
 必死に喉を開こうとするレイヴスの声が微かに届く。時折咽せながらもアーデンの腿にしがみついて懸命に歯を立てぬように開かれた口内を容赦なく突き上げて行く。びくびくと震えている肩に気遣う余裕も無かった。急速に込み上げる欲望のままに最奥ばかりを狙って突き上げ続ける。  
「――ッッ、」  
 限界まで昂り遂には溢れたものをレイヴスの口内へと吐き出す。体中の血液がその一点から放出されるような快感を奥歯を噛み締めながらレイヴスの舌を捏ねまわし、最後の一滴までを全て彼女の舌の上へと乗せた。ごほ、と咽せながらも最後までアーデンをとらえて離さなかった唇が、アーデンが落ち着くのを待った後に再び奥深くまで飲み込み、ゆっくりと根こそぎ絞り取るように吸い上げて離れて行く。口に含み切れなかった白濁が一筋、口の端から垂れていた。そっとそれを指先で救って唇へと擦り付けてやればぺろりと舐め取られ、そしてぱかりと唇が開き飲み込まずに溜め込まれた精液を見せられる。  
「すごく良かったよ。……そのまま、飲み込まないでお口に入れておきな。好きでしょ、ザーメン」  
 褒めてと言わんばかりの頭を撫でてやれば涙で赤くなった目元が嬉しそうに細められ、こくりと頷く。まだ喉奥を突かれた余韻で小さく咽せながらも味わうように舌で掻き混ぜては唇を舐める淫猥さに、早くもまた勃ってしまいそうだった。  
「――そこは冷えるね。おいで」  
 脇の下へと手を入れれば素直に首に腕をしがみつく身体を引き上げ、また元の椅子へと座らせる。脱げ落ちたヒールが床に転がっていた。そっとウエストを抱き寄せればすっかり初心な振りを止めたレイヴスが素直に肩へとしなだれかかる。その乱れた髪を軽く手で整えてやってから額へと口付けを一つ落とす。上半身だけ見ていれば映画館で恋人に甘えるだけの健全な姿なのに、何食わぬ顔でガムでも噛むように咀嚼されるのはアーデンの精液で、時折開かれる唇を小さな舌先がいやらしく辿っては熱い吐息を漏らす姿がたまらなかった。まだ彼女の中では玩具が二つ、細やかな振動を続けている筈だ。ふと思い出してジャケットのポケットに仕舞い込んだリモコンを操作し、一段階振動を強くしてやると、んんふ、と鼻から抜ける吐息を吐きながら腕の中でレイヴスが撓る。不意を突かれた所為か快感を逃すようにくねる身体をしっかりと抱き寄せると、更に目盛りを押し上げてやりながら右手でレイヴスの口元を覆う。  
「――~~んんっっっ」  
 予想通り、危うく開かれ漏れそうになった声が掌の下で震えている。かくかくと腰を揺する姿は快感を逃そうとしているのか追い求めているのかわからない。アーデンの腕と腿に置かれた指先がしがみつくようにぎゅっと食い込むのが心地よい。  
「気持ち良い?好きなだけイっていいからね。でもお口の中のもの、飲み込んじゃダメだよ」  
 耳朶に唇を押し付けて囁けば面白いようにビクビクと跳ねる。ふる、と逃げるように揺れた顔を掌で抑えつけて薄い耳朶を舐める。跳ねる身体を力尽くで抑えつけ、ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てて舐めてやればそれだけでレイヴスは震えていた。手探りで左手で彼女のジャケットの前を寛げてやれば露わになるジョーゼットのシャツ。それだけであれば清楚な雰囲気であるのに、当然のように下着をつけていない所為でくっきりと尖った先端を浮き出させている。腹回りはたっぷりと布を余らせているのに乳房だけが収まりきれずにボタンホールを引っ張っていた。  
「相変わらず、立派だよねえ」  
 重力でウエスト付近まで垂れた乳房を下から掌で持ち上げればたぷんと波打つ柔らかな感触。そのまま揺らすだけで液体のようにとろけ、アーデンの手でも余る質量は少し力を入れれば簡単に指が埋まり形を変える。柔らかく包み込まれるこの感触はアーデンの密かな楽しみだ。ころころと水風船を転がすように暫くその心地良さを堪能してから、シャツをつんと押し上げる先端を摘まんで持ち上げる。ぶるぶるとそのまま左右に揺さぶってやれば更に激しく波打つ乳房と、アーデンの肩に後頭部を押し付けるように仰け反り痙攣する身体。ふわりと濃くなる雌の匂い。  
「そろそろ、匂いでバレちゃうかもね?自分でもわかるでしょ、すっごく匂うの」  
 ふすふすと鼻でしか呼吸出来ないレイヴスは酸素が足りなくなってきているようだった。涙を溢れさせる程に蕩けた瞳が朦朧とアーデンを見た後、客席を彷徨う。疎らに覗く起きているかもわからない後頭部はこちらに気付いているのか伺う事は出来ない、だがレイヴスは怯んだように身を竦めては締め付けた玩具に苛まされて喉を鳴らしていた。  
「ほら、静かにして。バレちゃうだろ」  
 罰のように先端を強く指で弾けば一層強く跳ね上がった身体を抑えつけ、何度も繰り返し先端を弾き飛ばす。伝わる振動で胸の肉が揺れ、爪が食い込むほどにアーデンの腿を腕を掴む手が強く縋り付いて来る。痛みですら快感として捉えてしまう身体というのも難儀な物だと他人事のように思いながら押し潰す程に強く先を摘まんで捩じり上げれば腕の中で仰け反る身体。くぐもった悲鳴が掌の内側で弾ける。電撃でも与えられたかのように無理な姿勢で引き攣る身体を少しでも長く味わうように布越しに摘まんだ乳輪を乳房の形が変わる程に引き延ばしながら小刻みに振動を与えてやる。10秒、20秒、時折かくん、と震えながらも硬直していた身体が不意に弛緩してぐたりとアーデンに寄りかかるのを受け止めてから玩具のスイッチも切ってやり、唇を塞いでいた掌を外すと忙しない呼吸に喘ぐ口端から唾液で薄められた精液が零れ落ちていた。喉まで伝うそれを拭って唇へと塗りつけてやってからだらしなく開かれたレイヴスの下肢へと手を伸ばすと、スカートまでもがぐっしょりと濡れて肌にぴたりと張り付いていた。宥めるように内腿を撫で上げてから足の間をゆっくりと指で辿る。隠された部分に滴るものを拭うように掬っては上の方で固く膨れて剥き出しになった場所へと塗り広げると、まだ息も整わない身体がぴくんと震え、ぐいと細い指先がアーデンの腕を掴み押し退けようとする。それでも爪先で薄い皮膚をかりかりと引っ掻いてやればビクビクと全身を波打たせて強張る。イきっぱなしになってさぞ気持ち良いのかと思えば、それでもレイヴスの手は必死にアーデンの手を退けようと押している。珍しい抵抗に一度手を止めて首を傾げた。  
「どうしたの。好きでしょ、ここ」  
 つんと尖った先端をぬるぬると優しく撫でても身体は快感を受け入れてひくつかせる癖に小さく首が振られる。  
「こっちが良い?」  
 ストッキングの穴から女性器へと指を二本差し入れれば驚くほどすんなりと根本まで飲み込まれていとも簡単に玩具をノック出来てしまう。粘膜はぎゅうぎゅうと指に絡み付いて戦慄いているのに、レイヴスはまた首を振る。  
「じゃあ、どうしたいの」  
 男の欲のままに扱われる事を好み、痛みですら快感に変えて喜んで受け入れるレイヴスが此処まではっきりと拒否するのも珍しい。終わらない快感の波に俯いて耐える姿に名残惜しみながらも指を抜いて肩を抱き寄せる。言ってごらん、と目元から溢れる涙を吸い、息が整うのを待つ。  
「……こえ、でひゃぅ……」  
 未だに言われた通りにアーデンの精を含んだ唇からこぼれた不明瞭な言葉に、安心すると共に仄暗い支配欲を満たされるのを感じる。快楽を追い求めて好きに乱れるのでは無く、「声を出すな」「周りにバレるな」と言われたことを忠実に守り抜こうとする献身さがまるでレイヴスがアーデンだけの物にでもなったかのような優越感を与えてくれる。  
「もう少し、頑張れるでしょ?」  
 まだ止めてあげるつもりは無いことを含み囁き、なおも首を振るレイヴスを知らぬ振りで椅子から降りる。邪魔な彼女の足首を掴んで椅子の上へと押し上げても必死に首を振るだけでそれ以上の抵抗はなかった。座面の上で膝を折り曲げた足を限界まで開かせ、飲み込んだ玩具の紐を垂らしてひくつく場所にふぅと息を吹き掛けてやる。  
「んんぅ……っっっ」  
「ほらちゃんと自分でお口押さえて。聞こえちゃうよ」  
 不安と期待に瞳を揺らしながらも言われるがまま自ら口許を手で覆うのを確認してからべろりと舌を出し、いつもそこを舐めてやる時のように動かして見せる。怯えるようにふるりとまたレイヴスの首が振られるが視線は食い入るようにアーデンの舌を見ていた。緊張に強張る内腿を背凭れに押し付けるようにぐっと強く開き、ゆっくりと顔を足の合間へと近づけて行く。吐息が触れる程の距離まで近付くだけでレイヴスの息が荒くなっていた。その姿にひそりと笑いながらぱっくりと割れた割れ目を舌先でそっとなぞりあげる。びくんと震える腿の感触を掌で楽しみながら溢れる蜜を舐めとるように幾度も舌から上へと舌先を辿る。最初に開けたストッキングの穴がすっかりと広がってしまっており、時折残った横糸が濡れた肌に食い込んでいた。
「気持ち良い?」  
 口の動きで言葉を伝えるとこくんと小さく頷く頭に気を良くして飛び出た玩具の紐を歯に挟むとゆっくり顔を引いてゆく。絡み付く粘膜を引きずる重みを感じながら全て引きずり出すと閉じきらない穴がレイヴスの呼吸にあわせて口をはくはくさせていた。玩具を横に置くと顔を押し付けるようにしてべったりと舌の腹で舐めあげればひくつく粘膜の脈動まで感じられるようだった。何度も舌から上へと舌を這わせて溢れる蜜を丹念に味わう。舌先が縁に引っ掛かる度に吸い付いてくるのがまるでキスをしているようだ。反射的に閉じようとする腿を力尽くで開かせじゅうと蜜を啜るようにキスをお返ししてやればびくびくと波打つ身体。柔らかな肌に手形の跡が残りそうな程に力を込めて押さえつけながら何度もキスの雨を振らせてやる。  
「~~っっっ……」  
 唾液と蜜をたっぷりと絡めた舌で固く尖ったものを捏ね回してやればひぅ、と息を飲むような音が頭上から聞こえる。ちらと見上げれば必死に両手で口元を覆い声を押し殺しながらも眉根を寄せてアーデンを見詰める瞳とかち合う。止めてくれと訴えるように懸命に首を振っているが今更止める筈もない。  
 一度、口内に満たされたものを飲み下し、息を吐く。それから右手の人差し指と中指をそっと穴の中へと差し込み腹側を引っ掻いてやると押さえつけるものが無くなった太股がぺたりとアーデンの頬に当たる。すっかり伝線して生肌を露出させる内腿へと口付けを一つ落としてから再び足の間へと食らいつく。真っ赤に膨れた突起をちゅうちゅうと吸い上げながら舌先で薄い皮膚を舌先で転がし、中をくすぐるように擦ってみれば既にふっくらと膨れているようだった。逃れるようにのたうつ身体を左手一本で抑えつけながらうねり絡みつく粘膜を押しのけるように幾度も指の腹で柔らかく引っ掻いてやると頬に当たる内腿が細かく痙攣しながらぎゅうとアーデンの頭を挟んで行く。それでも尚も粘着質な水音を立てるほどに激しく内壁を擦り上げて強く突起を吸い上げる。  
「~~~っっっんんんんぅぅっ」  
 突き抜けるような細く甲高い悲鳴が上がり、激しい痙攣に硬直する身体が勢い良く潮を吹く。それを口で受け止め全て食らい尽くすようにじゅうじゅうと吸い上げればがくんとまたレイヴスの身体が跳ねてのたうつ。  
 潮が止まっても中々帰って来れないでいる姿を楽しみながら飲み込まずに口内に溜めた潮を舌で味わい、少し硬直が緩んだ所で立ち上がると口を塞ぐ両手を強引に外して唇を重ねる。すぐに開かれた唇に舌をねじ込み彼女自身の体液を流し込み、縮こまっている舌を絡めながら二人分の体液をかき混ぜてやった。  
「ん……っっふ、……んんん」  
 小さな口の中には収まりきらない量が口の端から溢れ出るのも構わずに、震えながらも差し出される舌を存分に擦り合わせていれば次第にレイヴスの身体の力が抜けて行く。自分の精液の味まで味わう事になってしまったがそれは考えないようにする。最後にちゅ、と音を立てて離れてから、飲んでいいよと許可を与えればこくんこくんと数度に分けて飲み下す音がした。そのまま両腕がアーデンの首に絡み付くのを引き寄せて抱き上げると、膝の上にレイヴスをのせるようにして再び椅子に腰を下ろす。何かを成し遂げたような達成感に満ち溢れていた。  
「……あ。流石にバレたみたい。あの人、こっち見てるよ」  
 客席を見れば、スクリーンでは無くわざわざ振り替えって様子を伺う人影が見えた。ひくんとまだ余韻を引きずる身体が震え、ぎゅうとアーデンにしがみつく。 「どうする?犯してくださいってお願いしに行く?」  
 揶揄するように耳元で囁いてやれば肩に押し付けられた頭が横に振られた。  
「……あーでんがいい……」  
 ぽつりと微かに聞こえたおねだりに思わず頬が緩む。例えそれが彼女なりの処世術だろうと身に染み付いた男への媚でも構わない。ペニスがついていれば誰でも良い、とでも思っていそうなレイヴスがアーデンを選んだと言う事実が想像以上にアーデンの心を昂らせていた。  
「……じゃあ、面倒な事にならないうちに逃げないとね」  
 歩ける?と聞いてみるがまた首を振られた。流石にここから車を置いた場所までレイヴスを抱えて運ぶのは無理だ。アーデンの腰が死ぬ。だが未だに思い出したように震える身体は自力で歩く事は困難だろう。  
 さてどうするかーー懐く身体を抱き締めながら一刻も早く車へと辿り着く方法を模索すべく頭を巡らせる。車に戻れたらまずはこの燻っている熱をレイヴスに埋め込むと心に決めながら。 

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日常

 小刻みなバイブレーションが机を叩く音に目を覚ます。一度、二度、断続的に震えて止まったから恐らくはメッセージアプリだろう。カーテン越しに差し込むのは夜明けが近いことを知らせる青い光。非常識な時間の着信に重い瞼を擦りながら端末を取ると、思った通り「たすけて」の短い一文。どこ?とこちらも簡素な文字を送り返せばすぐさま地図アプリのURLが返って来たので開く。アーデンの家から車で20分程度の繁華街だった。過る複雑な想いを溜め息一つで吐き出してベッドから降りて車のキーを掴む。ちゃんと隠れられる場所にいて、と一文を送り返す事も忘れずに。  
 メッセージを送ってきた相手……レイヴスを迎えに行くのはこれが初めてでも無い。月に一度か二度の頻度で呼び出されるのでトランクには彼女を迎えに行く時の為の水やタオル、羽織れるものや救急セット等が入れっぱなしになっている。今日はどんな状況になっていることやらと考えそうになって頭を振る。どんな状況であろうと驚かない、咎めない、諭そうとしないのが鉄則だ。破ればきっと彼女は気紛れな野良猫のようにアーデンから離れて行く。それは出来れば避けたかった。  
 アプリに従い辿り着いた場所は治安の良くない繁華街の一角。薄明かるくなってきた空の下では出歩くような人影も無くしんと静まり返っている。一番拡大した地図の上に赤く表示されたマーカーは目の前のビルを指しているが、果たして中にいるのか外にいるのか車からはわからず、仕方なく降りる。冬の名残の冷たさがひやりと通り抜けて行くのを感じながら辺りを見回していると、がらりと軽い金属が転がる音。半ば確信を持ってそちらへと近付けば、ゴミバケツにもたれ掛かるようにして座り込んだレイヴスがいた。乱れてはいるが、整えれば人前に出れる程度には服を着ている事にひとまず安堵し、それから傍らに広がる吐瀉物に眉を寄せる。  
「怪我は?」  
 問いかけに緩く首を振った後、のろりとあげられた顔は明らかに泣き腫らしたのがわかるような酷い顔だった。  
「怪我は無い、けど、たぶん、薬、盛られた」  
 きもちわるい、と再びゴミバケツへと寄り掛かるのに漏れそうになった溜め息を飲み込む。  
「……とりあえず、車に乗って。お水あるから。俺の家で良いんでしょ?」  
 こくりと頭が揺れた後、無言でアーデンへと両腕が伸ばされるのを迎え入れるように屈み込んで抱き上げる。華奢な身体は随分と冷えていた。知らない男の精の臭いもする。今度こそ飲み込みきれなかった溜め息を吐いて車へと戻った。 
 
 自宅に戻り、レイヴスを抱えたまままずはバスルームへと向かう。車の中で一眠りした彼女は先程よりはマシな状態になったようだったが、床に下ろしても服を脱がせてもただ為すがままにぼんやりとアーデンを見ているだけだった。自分で動く気の無い身体をどうにかこうにかして露になっていく豊満な体は、至る所に生乾きの体液をまとわりつかせていれば情欲よりも哀れみを誘う。平常を装いながら最後に下着を下ろす。飲み込みきれずに溢れ出した大量の精液が乾く事も出来ずにどろりと重い糸を引いていて思わず眉を潜める。  
「……今日は何人だったの」  
 ただ自分の股から流れ出す精液を眺めているだけだったレイヴスがとろりと瞬いてからゆっくりと首を傾ける。  
「三人……四人?記憶が飛んでいるから、わからない」  
「いつものクラブ?」  
「たぶん……最初はトイレだったと思う。でも車の中?何処かの部屋?でもしていた気がする」  
 他人事のように話す言葉に随分長い時間犯され続けていたのだと知る。何度も場所を変えている辺りからして相手にした人数も随分多い事だろう。以前にもレイヴスと寝た事のある相手かもしれない。凌辱と言うに相応しいどれだけ酷い行為であってもレイヴスならば絶対に警察沙汰にしないと確信が無ければ、今時ポルノビデオでも見ないような精液まみれのまま放り出される事は無いだろう。普通の感性を持った女性ならば逃げ出すような酷いセックスでも、レイヴスは喜んで受け止める。そんなことをしていればいつかもっと酷い目に合うのでは無いかと心配し、そして諦める。言葉では彼女に届かない。あまり深く考えないようにしてレイヴスへと意識を戻しざっと全身を見たが、小さな擦り傷や内出血はあるものの目立った外傷は無い様子にひとまず安心することにしてアーデンも服を脱ぎ捨てる。成人した女性を洗うのにはどうしたってずぶ濡れになってしまうからとそうしただけだったのだが、裸になったアーデンを見上げたレイヴスはことりと首を傾けると表情一つ変えずに「するの?」と問うのだから頭が痛くなる。  
「君がしたいなら、するけど。でも綺麗にしてからね」  
「後でする?」  
「君がしたいならね。俺は眠いからとっとと君を洗って寝たいんだよ」  
 そう、と返事ともつかぬ声を聞きながらコックを捻り、湯が暖まったのを確認してからレイヴスにシャワーを当て、それきりアーデンを眺める置物になった彼女の全身を清めていく。干からびた体液がこびりついた髪を解し、肌に張り付いたものを優しく拭い去り、染み付いた臭いをソープの香りに塗り替える作業はまるで大型犬を洗うのと同じような心地だ。暴れないだけ犬よりマシだが心を抉る虚無感が比べ物にならない程に辛い。
「それじゃあ、中も洗うから膝ついて、お尻こっちに向けて」 「……このままでいい」  
「そういうわけにもいかないでしょ」  
「……空っぽになってしまう」  
「また俺が満たしてやるよ」  
「今、アーデンが欲しい」  
「他人のザーメンまみれのトコに入れたく無いって言ってんの」 渋々といった様子ながらようやく大人しく尻が差し出される。叩かれたのか真っ赤に腫れた尻を一撫でしてぐいと肉を割り開く。幼子のように一本の毛も生えていない綺麗なそこには閉じきれなくなっただらしない入り口が二つ、ひくひくと誘うように蠢いては白いものを覗かせていた。  
「ほら、いきんで」  
 バスタブの縁に捕まったレイヴスがン、と返事のように喉を慣らすと、どろどろと白く泡立ったものが勢い良く押し出される。良くもまあこんなに溜め込んだものだと感心してしまうくらいに、何度も何度もレイヴスが力を入れる度に溢れては内腿を伝い落ちて排水溝へと吸い込まれて行く塊を無機質に見送る。幾度か繰り返し、何も出てこなくなった頃に女性器へとゆっくり指を差し入れると彼女の口からはぁ、と少し熱っぽい吐息が漏れた。酷使されて腫れぼったく充血した粘膜がきゅうきゅうとアーデンの指に絡み付いてくる。なるべく刺激しないように中を掻き出し指を引き抜こうとしても逃すまいと尻を押し付け、もっと深くへと誘うように手首を捕まれる。  
「邪魔しないの」  
「だってアーデンの指、気持ち良い」  
「それはありがとう」  
 まだ何か言いたさそうに向けられる視線を黙殺してもう一つの穴にも指を入れて同じように掻き出す。二つの穴を同時に指でかき混ぜられてくねる白い背中が艶かしい。精液を全て出しきっても涌き出る彼女自身の蜜がアーデンの手に滴る程に溢れ、清浄な空気に雌の匂いが広がる。  
「……っあーでん、……っ欲しい……っ」  
「だあめ」  
 今すぐこの熱く熟れた場所に欲望のまま腰を打ち付けたい欲はある。だが何人もの男を受け入れ、荒れてざらつく粘膜に気付いてしまえばそうもいかない。これ以上傷つけないように、少しの痛みも与えないように最新の注意を払って指を出し入れさせる。  
「あーで、っゃ、あっ、ぁ、ぁっ」  
「指だけでも気持ち良さそうじゃない」  
「ゃだあ……っっ」  
 バスタブにしがみついて身悶えるレイヴスに身を寄せて耳元に唾液を絡ませたリップノイズの雨を降らせる。指では彼女の良い所だけを執拗に狙って小刻みに刺激を与え、うねり絡み付く粘膜が痙攣を始めた頃合いを見計らい一際強く擦り上げながら指を引き抜く。  
「ほら、イけよ」  
「あぁあああっっーー」  
 がくんと滑り落ちそうになる身体を抱き締め、達して制御できずに跳ねる身体を腕の中に閉じ込める。ぷしゃ、と小さく潮まで吹いて長い快感に身を委ねる体はもうすっかり熱を取り戻していた。  
「……はい、おしまい。お湯に浸かろっか」  
 くたりとアーデンにもたれ掛かり呼吸を取り戻すのに精一杯なレイヴスは顔色こそ良くなって来たがやはり疲労が滲み出ていた。それでも隙有らば誘おうとするその病的なまでの性行為への執着心にはうすら寒いものを感じる。セックスが好きと言うよりは「人から求められたい」という渇望だろうか。自分の価値を男の身勝手な性欲の捌け口くらいにしか思っていない彼女は、本能のままに暴力的な性欲をぶつけてくる男が好きだ。わざわざ治安の悪い場所へ男を誘うような格好で出向いては、誰彼構わず咥え込んで何かを満たす。例えそれがはたから見ればレイプであろうと体を求められたという事実があればそれだけで十分なのだろう。胎に溜め込んだ精液は「求められた証」だ。だが流石にこの状態のレイヴスを抱く気にはなれなかった。どうせ数時間後には欲望のままに彼女を組み敷く事になろうとも今はまだ、性欲よりも慈しみ癒してやりたい気持ちの方が大きい。例えそれを求められていなくとも良いと思っているし、それを求めているからこそレイヴスはアーデンに助けを呼ぶのだと思っている。 
 
 レイヴスを腿の上に乗せて湯に浸かりようやく一心地ついた気持ちで息を吐く。ぴったりと背中を預けて微睡むレイヴスの穏やかな呼吸のリズムが心地よい。腹へと腕を回して抱き寄せればそれだけで大きな乳房が手に触れる。水の浮力もあってふよふよと手の項をくすぐるその感触は純粋に気持ちが良かった。ついつい下から掌で包み込んではふにふにととろけるような感触を楽しむべく揉んでしまう。人より大きなアーデンの掌でも包みきれずに溢れて揺れる脂肪の塊はささくれだった心を癒してくれる気がする。たぷりと手の中で波打つ心地よさを両手で存分に味わいながら、手癖でぷくりと赤く色付く先端を指でかりかりと引っ掻けばぴくりと華奢な肩が跳ねた。  
「……する?」  
「しないよ」  
「もう、綺麗になったのに?」  
「綺麗にしたからだよ」  
「アーデンが、満たしてくれると言ったのに」  
「一回寝て、君が元気になったらね」  
 言葉では宥めながらも指先はどんどん硬くなるそこを指先で掻き、時折強く弾いてやる度にびくびくと跳ねる身体が水面を揺らす。背を浮かせ、アーデンの手に胸を押し付けるように仰け反り露になった頬に、目元にと慈しむように口付けを落とした。  
「しないなら、何故……っんん」  
「何でだろうねぇ」  
 アーデンの腕にしがみつき批難するような眼差しを向ける彼女に苦笑いを返すしかない。安らぎを与えたいと思っていたのは事実だが、目の前に誘うような身体があったらつい手を出してしまいたくなるのも事実だ。そもそもアーデンだって下心があるから常識外れの時間に呼び出されてもほいほい応えているだけであって、餌が無ければ警察に通報してまた眠る道を選ぶ。そういう意味では彼女の体に群がる有象無象と同じだ。違う所と言えば、レイヴスと一期一会のセックスを楽しむだけではなく少しでも長くこの関係を続けたいと彼女の心を繋ぎ止める事に必死なくらいだろうか。彼女の心の闇に全力で向き合って救おうとする訳でも無く、優しくする振りで結局は自分の欲を押し付けている。  
「……っあー、でん……っ」  
「気持ち良さそうだね。ほら、舌出して」  
 こりこりとした感触を楽しむように二本の指で捏ね回して押し潰してやれば面白いくらいに身体がしなり水面が波打つ。言われるがままに差し出された小さな舌先にしゃぶりついてじゅるじゅるとわざと卑猥な音を立てながら吸い上げれば腕の中で一際大きく身体が跳ね上がり心地よい悲鳴がバスルームに反響する。先に一度達したせいでイきやすくなっているのだろう、がくがくと震えながらも健気に差し出されたままの舌を吸い上げ、唇を重ねる。アーデンが舌をいれただけでいっぱいになってしまう狭い口内を丹念に舌先で辿り撫ぜてゆく。二人分の唾液をこくこくと喉を鳴らして必死に飲み込む様が愛らしい。彼女の震えが収まるのを待ってから、最後に音を立てて吸い付き、離れる。  
「……そろそろ出ようか。茹だっちゃう」  
 この短い間に二度も達したレイヴスは、肩で呼吸をしながら虚ろな瞳でぐったりとアーデンに身を委ねていた。流石に少し虐めすぎたかと反省しながらそっと抱き上げてバスルームを出る。レイヴスは本格的に睡魔がやって来た様子で身体を拭くときも髪を乾かす時もとろとろと瞬くだけになっていた。服を着せるかどうか悩み、結局面倒だからと二人とも裸のままでベッドへと雪崩れ込む。ふぁと小さく欠伸をこぼしたレイヴスは、大人しくアーデンの胸元へとぴたりとくっついて身を丸めるとすぐに寝息を立て始めたのでやはり相当疲れていたのだろうと思う。そっとその身体を抱き寄せてアーデンも欠伸を一つ噛み殺す。外はすっかり日が登り朝になっていた。これから一眠りして、アーデンは昼前に起きるだろうがレイヴスはどうだろうか。夕方か、下手したら夜まで起きないかもしれない。目を覚ましたら何か胃に優しそうな物を食べさせてやりたい。冷蔵庫の中身を頭に思い浮かべながらアーデンも瞼を下ろす。穏やかな寝息と暖かい体温は明るい日差しの中でも睡魔を連れて来てくれた。これならレイヴスを気持ち良くさせるばかりで一度も発散されずに下腹部に重く蟠っていた熱も忘れられそうだ。レイヴスから薫るアーデンと同じ洗髪料の匂いに包まれながらいつしかアーデンも眠りに落ちて行った。 

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4.もう迷わないこの道を君とゆく

 青白く血の気の引いた肌は死人のようにも見えるが、まだ命の灯が消えたわけでは無い。冷え切った皮膚の下では人としての活動を終えた身体を浸食すべく、アーデンによって長年にわたり丁寧に送り込まれた「想い」が着実にレイヴスの身体を作り替えている筈だ。  
「巧く行くといいよねぇ」  
 人の意思を持ったままでのシガイ化。研究が完成に至る前にこのような事態になってしまった為に確実に成功するという保証は何処にもない。神凪の研究と称してヴァーサタイルがせっせと仕込んだタネが巧く動けば良いと思う。  
「せめて、名前を覚えていてもらえる程度の知性は残って欲しいなあ」  
 自我があれば身体を維持出来ずに霧散してしまった後でも再び「自分」の形に戻る事が出来る。だが個を持たずに大きな「塊」の内の一つとしてしか認識していなければ、せっかく永遠の命を与えた所で空中を漂う黒い靄にしかならない。レイヴスがレイヴスで居られるか、それとも有象無象のシガイと同じように壊れれば簡単に散らばってしまうだけの存在になるかは彼自身の意思の強さに掛かっている。  
「あ、始まった」  
 こぷりと半開きになった唇から黒く粘度の高い液体が零れ落ちる。それと同時にびく、びくと徐々に体の中心から始まる痙攣。喉が壊れそうな程の咆哮と身体が内部から破壊されているような生々しい音。  
「頑張れよ、俺、結構楽しみにしてるんだから」  
 がくがくと人ならざる動きをしながら徐々に染み出す黒い液体、それが左半身にばかり集まり異形な姿へと変わって行く様を眺めながらアーデンは無邪気に笑った。 

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3.救いになりたかった

「明日、君の妹を殺すよ」  
 ビクビクと身体の内側を貫かれる悦びに跳ねる背を見ながらつい呟いてしまったのは無意識にも等しかった。もう二度とこの背を見る事は無いのだろう、とらしくなく感傷に浸ってしまったせいなのだと思う。荒い呼吸に大きく上下する背が、少しの間を開けた後に勢い良く飛び起きようとするが、片腕しか無いレイヴスを背中から抑え込む事はさほど大変な事でも無い。予測出来ていたから尚更。彼とてそれをわかっているだろうに、なんとか必死に体制を変えようと暴れるその直情さを愚かだとは思うが嫌いでは無い。  
「暴れるな」  
 耳元でたった一言。はっきりと命令の形で告げてやればいとも簡単に肩を強張らせて動けなくなってしまうレイヴスの顔が見たいとも思うし、見たくないとも思う。よくもまあこれだけ大人しく調教されてしまったものだ。先よりも怒りを押し込めた荒々しい吐息に背が大きく膨れているというのに。引き千切らんばかりにシーツを握り締める拳が震えているというのに。アーデンのたった一言で容易く為すがままになってしまう姿は愛おしくもあり、憐れでもある。  
「ごめんね、君の敵になるつもりは無かったんだけど」  
 王に見捨てられ、神凪の運命から逃れようと足掻いたレイヴス。過去の王にすら見捨てられ腕を?がれ、王に跪くことしか出来なかった憐れな子。未だ王と敵対しているように見せてはいるが肌身離さず持ち歩くレギスの剣がその証拠だろう、それを咎めるつもりはない。むしろ王に翻弄された憐れな生贄の生き様はアーデンの心の柔らかい所をちくちくと刺してつい手を差し伸べてやりたくなってしまっただけだ。  
 最後の逢瀬をこのような形で終わらせる事になるのは不本意だがアーデンのミスが原因なのだから我儘は言えない。名残を惜しむように耳の下へと吸い付いて跡を残すと圧し掛かっていた身体を起こす。  
「――っアーデン!!!」  
 離れた背が振り返り、たった一本の手が正確にアーデンの首を掴んでベッドから床へと身体を叩き落とすのは一瞬の事だった。酷く頭を打ち付けたようにでガンガンと脈拍と同じタイミングで痛みが響く。素早く馬乗りになったレイヴスがぐ、と首を掴む力を込めて息苦しい。狭くなりかける視界の中でなんとか顔を見上げれば、想像したような怒りに染まった鬼のような顔では無く、ただ唇を噛み締めてぼろぼろと涙を零しながら真正面からアーデンを見据える視線とかち合った。言いたい事はきっとたくさんあるのだろう。けれどその全てが無駄だと理解しているが為に感情だけが暴れまわっているようなその姿。  
「……――」  
 何か、言葉を発したようにも見えたが音にまでならず、ただすすり泣く声にかき消された。 
レイヴスは知っている、自分ではアーデンを殺せない事を。アーデンに抗えない事を。アーデンを止められない事を。  
「――ごめんね、」  
 アーデンの掌が頬を流れる涙をそっと拭っても、それを払いのける腕がレイヴスには無い。代わりに強くなる首を絞める力に抗わず、アーデンの意識は静かに闇に飲まれて行った。 

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2.助けてくれて嬉しかった

 気付いた時には既に足が覚束なくなっていた。アルコールによる身体能力の低下とは明らかに違う倦怠感と異様な火照り。じくじくと膿むような熱が腹の下に集まって気持ちが悪い。せめて外へ逃れたくても次から次へと「挨拶」にやってくる有象無象のせいでままならない。皇帝陛下主催の懇親パーティ、集まるのは帝国貴族と一定階級以上の軍人。見た目ばかりは華々しく優雅だが中身は陰謀渦巻くパワーゲームの場でしかない。中でも属国出身でありながらも若くして大佐にまで上り詰めたレイヴスは注目の的だった。有能なのか、それとも強力なコネクションがあるのか、味方に引き込むべきなのか早々に叩き潰すべきなのか。一挙一動を頭から足の先まで見定める視線に囲まれた中で醜態など晒せない。いくら将軍、准将に次ぐ地位にあるレイヴスと言えどこの場ではいとも簡単に踏み潰される塵芥に過ぎない。  
「ご歓談中失礼します閣下、少々大佐をお借りしても?」  
 熱さでぐるぐると回る視界の中で、目の前で動く唇が止まるタイミングを計ってはなんとか相槌を返すのが精一杯になってきた頃に割り込んだ声。のろりと視線を動かせば緩やかな赤い波に包まれた顔がぬっと近づいてくる所だった。  
「此処を出るまでは耐えろ」  
 突然耳元に吹き込まれた低音に肩が跳ねそうになるのをなんとか奥歯を噛み締めて堪え、それでは皆様良い夜をとさっさと踵を返す男にレイヴスも慌てて中座の謝辞を必死で吐き出して追いかける。先程までは何処を見ても人の波で到底抜け出せそうに無かった場所を、先導する男が歌うように挨拶を交わしながら道を開けさせてゆく。レイヴスがすることと言えば今にも崩れ落ちそうな身体を叱咤して悠然と歩いているように見せる事だけだった。

 人気の無い廊下へと出た瞬間に崩れ落ちた身体をいとも簡単に引き摺られて放り込まれたのは屋敷のゲストルームのようだった。外に出れた安堵感で一気に思考すらままならなくなったレイヴスは何処をどう通ったのかもわからない。ただ転がされたシーツの冷たさが心地よかった。  
「まんまと盛られて馬鹿じゃないの」  
 氷よりも冷えた声に返す言葉も無くただ荒い呼気に肩を揺らす事しか出来ない。実際、まさかそんなものを飲まされるとは思わず油断したレイヴスの落ち度だった。何処で口にしたのかすらわからない。  
「お前の周りには敵しか居ないって散々学んで来ただろ」  
 知っている。神凪の血筋と言うだけでこの国では嘲りの対象になることも、属国上がりの癖に着々と出世を重ねている為に妬まれていることも、こうしてこの男が何かと構うせいでこの男の敵すらレイヴスを見ている事も。  
 けれどその中で唯一、手を差し伸べて来たのは。  
 馬鹿にした言葉を投げ付けながらもわざわざ体裁を取り繕って助け出したのは。  
 自分こそ大勢の人間に囲まれて身動き取れないだろうにレイヴスの異変に駆けつけたのは。  
「借りは、返す」  
 だから、と相手へと手を伸ばせば冷えきった眼差しが一層鋭く細められ、それから大きな溜め息一つ。呆れたと言わんばかりの顔をしながらも伸ばした手を握り返す冷えた温もりに、レイヴスは自分の頬が緩むのを感じた。 

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