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結婚式の話

 ノクティスとルナフレーナの結婚式がようやく終わった。国を代表する大企業の御曹司とご令嬢の結婚ともなればさぞ豪勢な物になるのだろうと思いきや「式くらいは気心知れた人だけを呼んで慎まやかにやりたい」とのルナフレーナのお言葉一つで身近な親類、それから一握りの友人のみを招いた海の見えるリゾート地での挙式となった。その代わりに披露宴は国内で友人知人取引先の会社の人間まで招いて盛大にやるらしい。本来ならばアーデンはかつて両家の会社に大損害を与えた会社の役員であり、首謀者とも言える立場であるが為にこのような場に呼んでもらえるような身分ではない筈だが「ルナフレーナの友人」の枠に確り数えられてしまっていたらしい。人が大勢いる披露宴ならともかく、そんな元敵しか居ないような場所では、今は和解したと言っても針の筵だと暫くは行くのを渋っていたのだが、珍しいレイヴスの「おねだり」に折れてしまった。あのレイヴスがあれやそれや、普段なかなかさせてくれない諸々をしてくれると言ってくれたのだから折れざるを得ない。 
 式は慎まやかと言ってもルナフレーナのする事である。普通の人ならば百人以上招待して豪勢な披露宴を開いてもまだおつりがくるくらいの金額は式だけでかかっている。その勢いに飲まれたのかレイヴスが新しくスーツを仕立てようと言い出し、それならついでに靴も一緒に揃えてしまおうと採寸や試着に何度も職人を呼ぶ羽目になった。その何から何までレイヴスが仕切り、レイヴスが支払うと言っているので総額幾らになっているのかは知らないがあの妹にしてこの兄であるからして相当な金額はかかっているのだろうなとアーデンは思う。そのお礼というわけでも無いが、アーデンからは二人で揃いの指輪を新調しようと提案したらいたく喜ばれた。別に焦るものでも無いしデザインや材質に拘って時間をかけようと思っていたアーデンとは裏腹に「どうしてもルナフレーナの結婚式に間に合わせたい」というレイヴスの珍しく懇願するような必死さに折れてこれも慌てて打ち合わせを繰り返した。式の日取りが決まってから当日までそれなりの長い期間があった筈だが、元々アーデンのスケジュールはあまり余裕が無い。そんな中でスーツと靴、更には指輪の打ち合わせを繰り返したのだからとにかく落ち着かなかった。それだけ必死になって作ろうとした指輪は結局間に合わなかったがそれ以外はなんとか今日までにレイヴスの望むクオリティで準備が出来、無事式に参列することが出来て漸く荷が下りたような気分だ。 
「疲れたか?」 
 アイスブルーを基調としたスイートルームには至る所に生花が飾っており甘い匂いがする。ほろ酔いのふわふわとした心地のままにベッドに転がる。火照った頬にひんやりとしたシーツが気持ちよかった。あれだけレイヴスが拘ったスーツのままベッドに転がっても何も言われず、それどころか労うように額を撫でる指先が心地よい。その手を引いてレイヴスをベッドに座らせると遠慮なくその腿の上へと頭を乗せた。真下から見上げたレイヴスは普段適当に遊ばせている髪をきっちりと撫で付けまるでモデルか映画俳優のように美しかった。 
「良い式だったね」 
「ルナフレーナこだわりの式だからな。……ノクティスは少し可哀想だったが」 
 レイヴスが笑う振動につられてアーデンも口元を緩ませる。細部に至るまでルナフレーナが拘ったのだろう、美しく幻想的な式だった。その準備に振り回されたのであろうノクティスは式前には既にぐったり疲れ切った様子で、今が一番幸せだと言わんばかりにきらきら輝いていたルナフレーナとあまりに真逆の様子に思わず指差して笑ったものだ。本番はきっちりと顔を取り繕っい王子様の如き振る舞いでいたのはさすがと言った所だが。 
「君も、……本当だったらあんな式が出来たんだよね」 
 たまに、考える。この綺麗で有能な男は、本来ならば親の会社を受け継いでゆくゆくは社長の椅子へと座り、良家の嫁をもらって暖かな家庭を築いていた筈だ。子供好きなレイヴスの事だからさぞ賑やかな家庭になっていただろう。その機会を全て奪ったのはアーデンだ。何度も逃がしてやる機会はあった筈なのに手放せずにずるずるとここまで引き摺って来てしまった。今更手離してやる気は無いが申し訳ないと思わない事も無い。一応。 
「なんだ、式を挙げたいのか?」 
「違うよ、君と誰か……女性とだよ」 
「お前は挙げてくれないのか?」 
「レイヴスくんは挙げたいの?」 
 今までお互い共に在る事だけが大事で、その形式や紙切れ一枚の繋がりに何の興味も持っていなかったからこんな話した事も無かった。指輪こそ目に見えてお互いを縛っている証として好んで贈っては居たがレイヴスがそういったものに興味があるというのも初耳だ。妹の式で何かが触発されたのだろうか。 
「お前と一緒なら、何でもやりたい」 
 その穏やかな微笑みと殺し文句に耐え切れずに身を起こすと改めてレイヴスに抱き着いて押し倒す。何処をどうしたらこんなにさらりとアーデンの心を一撃で仕留める言葉が言えるのか。悔しい、だがそれ以上に心が喜びで満ちている。この溢れ出る感情をどうにか伝えたくて鼻先に頬に顎にキスの雨を降らせながら愛してる、と何度も向けた言葉を唇と共に押し付ける。 
「髭が無いのもなんだか違和感あるな」 
 礼服だからと珍しくつるりとしたアーデンの顎を笑うレイヴスがそっと抱き締め返してくれるのを良い事にそのまま唇は下へと降りて行く。幾重にも重なる布を解いても咎められる事無くむしろアーデンのネクタイを解き始めるのはつまり、そういう事で。 
 今日は早くて寝しまおうなんて話していた気がするのに、結局夜更けまで絡み合って過ごしてしまった。 

 珈琲の香りに目が覚める。すでに隣に温もりは無く、優雅にソファでカップを傾けている所だった。昨晩あれだけ散々泣いて善がって乱れていた癖にアーデンよりも短い睡眠時間で朝から元気にしているのを見ると若いなあとしみじみしてしまう。
「おはよ」 
「起きたか。十一時には出掛けたいから、支度しておいてくれ」
 そういえば昨日、寝る前にそんな事を言ってた気もする。何処に行くのかと聞いてもはっきりとした答えは得られず、ただアーデンに一緒について来て欲しいとだけしか聞いていない。まあきっとアーデンを驚かせるような観光スポットか、美味しいスイーツの店か、何かそういった類の物だろうと少し楽しみにしながらベッドから抜け出す。大雑把に見えてこういう細やかな気遣いが出来る所がレイヴスが男女問わず人気がある理由なのだろうなと少しばかりの優越感。自分の恋人が良い男だと認識するのはとても気分が良い。 

 予定の時間を少し過ぎた頃にようやく借りた車に乗り込み出発する。運転席にはレイヴスが座ったのでアーデンは大人しく助手席へと収まった。お互い昨日とは打って変わってラフな格好でいかにも観光に来た外国人という装いだった。開け放たれた窓から入り込む風が潮の匂いを運んで来る。会話は無かったがレイヴスはとても機嫌が良いのか鼻歌を歌っていた。帰国するのは明日だ、今日一日はこうしてまったり過ごすのも悪くは無い。少し調子の外れた鼻歌を聴きながらアーデンは長閑な海辺の景色を楽しんだ。 

 二十分程走らせた車が止まったのは昨日ルナフレーナの式が行われた式場だった。どういうこと?と尋ねてもレイヴスはまぁいいからとそれ以上言わずにさっさと中へと入ってしまう。訳が分からずついて行く事しか出来ないアーデンを他所に、訳知り顔のスタッフと挨拶を交わしたレイヴスは案内されるままに奥の部屋へと行ってしまった。 
「奥様は、こちらへ」 
 レイヴスの背を追おうとしたアーデンにかけられる声に足を止める。おくさま。 
「本日はおめでとうございます。私が奥様のお世話を担当させて頂きますのでどうぞよろしくお願いいたします」 
 控え目な笑顔の女性の言葉に薄っすらと企みを理解した気がする。レイヴスは此処で結婚式をする気なのだと。昨日の会話が切欠かとも思ったがそれにしては準備が早すぎる。不審に思いつつもレイヴスが仕掛けた何かだ、楽しむに越した事は無い。少しだけわくわくとした気持ちで案内されるままにレイヴスとは違う部屋へと足を踏み入れると、中には真新しいグレーのフロックコートが掛けられていた。そこから先は一人二人とスタッフが増え、アーデンが座っている間に髪やら爪やら肌やら何から何まで勝手に手際よく整えられ、気付けばつやつやのぴかぴかにさせられていた。さすがに着替えはアーデン自身が動かなくてはならず、プロの施術が気持ちよすぎて眠りそうになっていた身体を起こしてシャツから順に腕を通す。 
「あ……やられた……」 
 スラックスを履いた時に一瞬感じた違和感は、ジャケットを着た時に確信へと変わった。形は違うが元になっているパターンはルナフレーナの挙式に参列する為に作ったスーツと同じだ。フィット感といい、本来ならばもう少し絞り気味に作る所をあえて余裕を持たせた造りといい、ついこの間まで散々注文を付けて作ったスーツと全く同じだった。まさかと思い靴へと足を入れればこちらもやはり昨日履いていた靴と全く同じ履き心地だ。一体どれくらい前からこの式が計画されていたのかと思うとしてやられた悔しい気持ちと微笑ましい気持ちと愛しい気持ちで笑ってしまう。 
 全ての準備が終わり、案内されるままに式場の扉の前へと向かうと既にレイヴスが白いタキシードを着て待っていた。アーデンを見つけた途端に満足げにその眼が緩んだのを見てなんとなく気恥ずかしくなってくる。 
「ねぇ、何も聞いてないんだけど」 
「言って無かったからな」 
「どうしたらいいの、これから」 
「腕を組んで入場して、愛を誓って、指輪を交換して、サインをして、キスをすればいい。昨日も見ただろ」 
「指輪?」 
「お前が作ってくれた物が、実はもう出来上がっている」 
「そっちまで手を回したんだ」 
「嫌だったか?」 
「そんなわけないでしょ」 
 差し出された肘にそっと腕を絡める。あくまでアーデンが花嫁らしい。なんだかひどく擽ったい気持ちでいっぱいだった。一緒に準備をしたかった気持ちが無いわけでもない。けれど考えすぎる向きのあるアーデンにはこれくらい突然の方が良いのかもしれない。心は落ち着かないが、その分、羽が生えたかのようにアーデンの心は昂っている。。 
「そろそろ入場のお時間です」 
 案内係の声と同時に扉の向こうからオルガンの音がする。べったべたなあの曲だ。思わず二人で顔を見合わせて笑う。なんだか本物の結婚式を挙げる人同士みたいな感じがしてわけもなく照れた。少し強く腕を抱きしめるとぐっと応えるように引き寄せられた。なんとなく深呼吸をして呼吸を整える。 

そして、扉が開いた。

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ごっこ遊び

 やっと手に入れた。  
 やっと彼に触れる事が出来る。  
 真っ白なシーツの上に横たわる名だたる彫刻家が大理石で掘った彫像のような肢体は想像よりもずっと美しく、触れるのを躊躇ってしまいそうな程に神々しい。男らしく骨ばった、だが歪み一つ無い爪先から細く引き締まった足首、張りのある脹脛からつるりとした膝を通って思わず噛みつきたくなるような太腿、そしてだらりと力なく項垂れた重量感のある性器。弛緩していてもくっきりと影を落とす腹筋を通り緩やかな盛り上がりを見せる胸筋、そして浮き出た鎖骨と喉仏。呼吸に合わせてゆっくりと上下するそこに触れるとぴくりと掌の下で皮膚が張りつめた。  
「ねぇ、起きてるの?」  
 問いかけてみるも、それ以上の反応は無かった。確認するように顔を伺うも、分厚い布で目隠しをさせてしまったから目が覚めているのかはわからなかった。  
「早く起きて欲しいなあ、見せたい物があるんだ」  
 滑らかな肌を堪能するように掌を這わせながら呼びかけると少しだけ息が細くなった気がする。これは起きているのかもしれない。真っ白な胸の先にぴんと立ち上がっている場所を気紛れに指先で突くとぴくりと肩が跳ねたのを見て思わず口元が緩む。  
「ふふ、起きてるでしょ。緊張しなくていいんだよ、これからは此処が君の家だからね。慣れるまでは心配かもしれないけれど大丈夫、俺がついてるからね」  
 ベッドの上に乗りあがり覆いかぶさるようにしながら囁いてあげると怯えるように身を竦めた彼ががちゃりと手錠を鳴らした。無粋だとはわかっていたけれど、誰かに盗られてしまわないようにとつけた手錠はしっかりと彼の両手首とベッドヘッドを繋いでいる。その事実に心が喜びで満たされるのを噛み締めながら頬へと口付けを落とすと、すい、と顔を背けられてしまった。  
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ、此処には俺しか居ないんだから」  
 細く震える吐息を溢す小さな唇にかぶりつくと、先程よりも大きく手錠の音を立てて逃げようとする身体に馬乗りになって頭を押さえ付ける。口を閉じられないように頬の上から歯の間に親指をめりこませて彼の奥深くまで存分に舌でかき混ぜてやる。小さな唇に比べて奥行きのある歯並びの一つ一つの形がわかるくらいに丹念になぞり、緊張に縮こまる舌の根本から先端までまんべんなく唾液を絡ませて味を覚え込ませて行く。苦しげに喉を鳴らしながら溢れそうになる二人分の唾液を飲み込む姿に酷くそそられた。  
「っはあ、……」  
 十分に口内を楽しんでから解放してあげるとすっかり荒くなった呼吸に喘ぐ唇が濡れて艶めいていた。紅潮した肌が汗でしっとりと濡れている。誘われるように目元を隠す布へと手を滑らせてゆっくりとずらして行く。逃げたいのか、それとも早く取りたいのかいやいやをするように頭を振る彼から布が剥がされようやくその瞳が露になるーーー  

「んごっぐふぅっ」  
「どう?気に入ってくれたかな?君を迎える為に一生懸命用意したんだ」  
 きっと彼の目には俺と、それから壁から天井まで埋め尽くす程に張り付けた彼の写真が目に入っている筈だ。出会った時から今日この日まで、ずっと撮り続けて来た写真は数え切れないほどある。少しでも俺の愛を伝えたくて飾りつけたこの写真を彼は気に入ってくれるだろうか。  
「待て、ちょっと一回待ってくれっ」  
「嬉しい?こんなに俺に愛されてるんだものね、嬉しいに決まってるよね」  
「いや本当にちょっと……っぶふぇ……無理だアーデン待ってくれ」  
 笑ってるんだか堪えてるんだか、変な声でぶひゃぶひゃ言いながら震える姿に仕方なく身を起こす。  
「えええ……せっかくノって来たとこじゃない」  
「いやお前の演技も凄すぎておかしいんだが……っ」  
「何が不満なの」  
「写真、お前これ、お前が用意したのか」  
「そうだよー、片っ端からデータをプリントアウトしてせっせと張り付けましたよぉ」  
 ひぃぃ、なんて引き笑いする所初めて聞いた。顔どころか全身真っ赤にしながら何がそんなにツボに入ってしまったのか笑い転げる彼、レイヴスに思わず唇を尖らせる。  
「せっかくこれだけ頑張って用意したんだからさあ、もうちょっとストーカーに誘拐されて監禁される可哀想な君役を頑張ってくれても良いんじゃない?」  
「だってお前、あそこにあるのどう見てもお前と俺が仲良くセックスしてる写真じゃないか、設定がおかしいだろう」  
 ひぃひぃ言いながらも目線で示された方向をみれば確かに以前ハメ撮りした時の写真があった。ストーカーと言えばまずは部屋中に貼られた被害者の盗撮写真、と言う理論で持っているデータを全てプリントアウトしたので内容までは細かく吟味していなかった。そもそもカメラを向ければいつでもキメ顔してくれるレイヴスの盗撮写真なんて殆ど無いのだ、細かい事に拘っていられない。結果、ストーカーとその被害者が仲良く笑って写ってる写真ばっかりになってしまったと思わない事も無かったのだが。  
「でもそんなに笑わなくたって良いじゃない、頑張ったんだよお?」  
「だって、天井まで、そんな、お前がうきうきしながら一人でせっせと貼ってたのかと思うと……っっ」  
 想像して声が出なくなる程笑い転げるよりも、その努力を評価して役になりきって欲しかった。ずっと腕を上げて写真を貼り続けていたから肩は痛いし腕もだるいし、それでも「ごっこ遊び」が出来るからと思って頑張っていたのに。一生懸命準備して、役に入りきる為に設定まで色々考えてなりきってと積み重ねて来たものが崩れるようにレイヴスの肩に突っ伏す。  
「もぉー俺の努力台無しじゃない」  
「っまさかこんな本格的に準備してるとは思わなかったんだ」 はあはあと未だに笑いを引き摺りながらも少しは落ち着いて来たらしい。拘束されて不自由な中、こてりと首が傾き甘えるように頬を擦り寄せられるとそれだけで心がほわりと暖かくなってしまうのが少しだけ癪だ。  
「そもそも……俺はお前ほど役に入り込めない。努力はするが……やはりあまり強い抵抗は出来ないぞ」  
「そこはほら……怯えて思うように動けないとか解釈の仕方は色々あるから」  
「怯える……と言ってもお前相手ではどうしてもすぐ絆される気がする」  
「んんん愛されてるね、俺」  
「当たり前だろう」  
 全裸で拘束されている情けない姿の筈なのに俺の恋人がこんなにもカッコいい。心がきゅうとピンク色に染まり溢れる勢いのままに顔中にキスの雨を降らせてやる。ふふ、とくすぐったげに笑いながらも満足げに受け止めているのを見れば愛しさは更に増すばかりだ。  
「あ、それじゃあさあ、監禁されて暫く経ってすっかり洗脳されちゃった設定とかはどうだろう?」  
「それは普段のセックスと何が違うんだ?」  
「……なにも違わないね」  
 思わず二人で顔を見合わせて笑う。監禁も洗脳もしていない、けれどレイヴスの心はアーデンのものだし、もちろんアーデンの心だってレイヴスのものだ。その事実に改めて心を満たされる。  
「じゃあ、もういいよ、普段通りの、だけど君が拘束されてるだけのセックスで」  
「それは構わないがせめて場所は変えてくれ。写真が目に入るとどうしても笑ってしまう」  
「そこは我慢して!頑張ったんだからもう少し我慢して!」  
 早速また腹筋を震わせている恋人の唇を塞ぐ。今度はちゃんと、恋人同士のキスで。 

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浮気現場

 本来、三日間の連休を取ってのんびりとレイヴスと二人でどこかに出掛けようかと思っていたところへ突然のイドラ社長からの出張随伴命令。それも商談相手がアーデンが以前より顔を繋げないかと狙っていた相手と聞けば二つ返事で行くしかない。家でのんびりしているさ、と折角の予定が無くなってしまったレイヴスに見送られて泣く泣く飛行機に乗ったのが一昨日の事。本来ならば明日まで掛かる筈だった商談が一日早く終わる事が出来たのは良かった、しかしその為に分刻みのスケジュールになっていたのは正直しんどかった。もうとっとと帰ってレイヴスを抱きしめながら寝たい。どこかに出掛ける時間は無いからただひたすらいちゃいちゃぬくぬくして癒されたい。そんな思いで脇目も振らずに神聖なる二人の愛の巣へと帰って来た。まだ日差しが残る午後、出立前の言葉通りに過ごしているのならばきっとリビングで飼い犬と共にごろごろしている時間だろう、その微笑ましい光景を想像しながらリビングの扉を開け放つ。
「ただいまレイ……ヴ…………す…………」  
 姿が見えればすぐにでも飛びつこうと勢い込んだ足が止まる。確かにレイヴスも飼い犬も居た。家の中では裸族なレイヴスが今日も全裸でラグの上に寝ころがっているのは良い。美しいから良い。犬が日の当たる窓辺ですぴすぴ昼寝を決め込んでいるのも良い。可愛いから良い。だがレイヴスの上に裸で覆いかぶさっている男…グラウカは予想だにしていなかった。いや、レイヴスが社員であった頃は直属の上司だった男だし、身体の関係があったという事もレイヴス本人から聞いていた。だがそれも過去の事だ、深く追求はしない。けれど今は。外で遊ぶ事は百歩譲って見ない振りをするにしても、長年の紆余曲折を経て漸く二人で暮らせるようになったこの愛の巣で。違う男と。レイヴスが。  
「早く帰って来るなら連絡しろ、びっくりするだろう」  
「えっ、あ、っうん、ごめん」  
 余りにも堂々と家主どころか住人でも無いグラウカに責められて思わず謝ってしまった。いや俺は悪くない筈だと思いながら縋るようにレイヴスを見る。  
「おかえり、早かったな…ッぁ」  
 眼があった途端にふわりと綻ぶように笑う愛しい人に思わず頬が緩みかけるが甘く響いた嬌声に我に返る。考えないようにしていたがやっぱり真っ最中だったの?え、浮気現場見られているのにまだ腰振るの?  
「すぐ終わらせるから先に着替えてきたらどうだ」  
 言いながらも段々と早くなる律動にレイヴスが気持ちよさそうに鳴いている。首に腕を絡めて足までグラウカの腰に巻き付けて快楽に従順な姿を惜しげも無く晒している。グラウカもその言葉を最後にレイヴスの腰をしっかりと掴むと肉のぶつかりあう程の音を立てて責め立て始めてアーデンはすっかり蚊帳の外だ。本来浮気現場を見られた二人ってもっと慌てて隠そうとしたり弁解しようとしたり謝って来るものじゃないの?続けるの?この状況で最後まで行くの?止めないの?止めさせようとした俺が悪いの?  
「うん……うん、とりあえず、着替えてくるね……」  
 なんだかよくわからない圧に圧されて思わず言われるがままに自室へと退散した。  


「おっかしいよね!!???何で!?俺何も悪い事してないよね!!!???」  
 部屋にすごすごと戻りキャリーを放り投げ、とりあえず楽な部屋着に着替えて少し。あまりにも衝撃的過ぎて止まっていた思考が動き出して漸く怒りを覚える。あまりにも悪びれず堂々とした二人に飲まれてしまったがアーデンは悪くない筈だ。パートナーの居ない隙に違う男を連れ込んでセックス三昧なぞ夫婦であったら即離婚だ訴えて慰謝料まで踏んだ食ってやるやつだ。
 鼻息荒くリビングへと戻って扉をあけ放つ。  
「ってコラいい加減離れろ!!!!!いちゃいちゃすんな!!!!!!」
 確かにすぐに終わらせたらしい、そこはかとなく生臭い臭いが漂っているし二人の呼吸も落ち着いている。だが浮気現場を見られた後に何故そんなにちゅっちゅちゅっちゅいちゃついているのだ。今度こそ何か言われる前にべりっとグラウカを引き剥がせば思いの他大人しく両手を上げて離れて行った。その顔がニヤついているのが腹立たしいが。問題はその下できょとんとした顔でアーデンを見上げているレイヴスだ。というよりもあまりにもわかりやすく顔に書いてあるので気付いてしまった。  
「レイヴスくん、俺は怒っています。何故だかわかりますか」
 怒りとも悲しみとも遣る瀬無さともなんとも言い難い感情に声の抑揚が消える。問われたレイヴスと言えばのそのそと起き上がりながら辺りを見渡し、そしてはたと気付いたように顔を上げる。  
「お気に入りのラグを、汚したから?」  
「ちっがうっ!!!」  
 ああやっぱり。アーデンの中で渦巻く怒りの理由を一ミリ足りとも理解していない。思わず膝から崩れ落ちるアーデンの横では裸のままソファにどっかりと寛ぐグラウカが盛大に噴いていた。  
「ほんと、レイヴスはそういう方面ポンコツだよなあ」  
「外野は黙って!」  
 そもそもの原因であるグラウカがしみじみと傍観者を決め込んでいるのが腹立つ。こちらはこちらでアーデンの怒りの理由をわかっている癖に逃げるどころか煙草を取り出し始めてこのまま此処に居座る気でいるのが余計に腹立つ。というかこれはもう何処から怒って何処をどうすればいいのか。状況について行けずに「あ、垂れてきた」と呑気な事を言っているレイヴスにも、にやにやと眺めているだけのグラウカにも勝てる気がしなくてアーデンは頭を抱えた。 





余談

ア:君と俺は恋人だよね?  
レ:そうだな  
ア:ここは俺と君の家だよね?  
レ:そうだな  
ア:俺の知らない間に自分の家で自分の男が違う相手とセックスしてたら嫌な気持ちになると思わなかった?  
レ:……三人でするか?  
グ:ぶはっ  
ア:ちっがうそうじゃない!君が他の男に抱かれてるのを見るのが嫌なの!  
グ:自分も他所では男に抱かれてるのに?  
ア:今はしてませんー外野は黙って下さいー  
レ:していないのか?  
ア:レイヴスくん俺の事そんな男だと思ってたの…?  
グ:男は過去でも女は今でも遊んでいるだろうが  
ア:外野は黙ってってば  
レ:グラウカとするなら他所でやれと言うことか  
ア:違うぅぅ…けどなんかもうそれでもいいや…  
グ:負けるな、頑張れ(笑)  
ア:お前にだけは励まされたくない… 

 
別の日 

ア:うわデカっ  
グ:お前にも味合わせてやろうか?  
ア:ケッコウデス  
レ:グラウカのはすごいぞ一度は試してみろ  
ア:そういう感想も要らないデス  
グ:処女でもあるまいし  
ア:俺のお尻はレイヴスくんの物なの!  
レ:俺はお前がグラウカに抱かれている所が見たい  
グ:爆笑 

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焦らす話

 ゆうるりと閉じた場所を押し開かんとする熱の固まり。そのままゆっくりと腰を落とせば限界ギリギリまで縁を広げられてからすとんと細くなる。じんじんと痛いほどに疼く奥と、もう一度目一杯広げられたくてじくじくする入り口、どちらを取るかを悩んだ末に少しだけ前のめりに身体を倒して尻を浮かせる。先程とは違い、縁の内側を擦りながら広げられて思わず熱の籠ったため息が漏れた。  
「きみ、そこ好きだよね」  
 揶揄うような声は無視してゆるゆると腰を揺すれば思った通りの快感が背筋を駆け上っていった。気持ち良い、それと同時に奥の疼きが酷くなった気がする。下肢へと伸ばした指先でそうっと縁をなぞれば引き伸ばされてつるりとした感触。きぅ、と中が入り口に引っ掛かっただけの熱を引き込むように絞られて、つい尻の下に敷いた男と同時に喘ぎを溢す。  
「ねぇ、早く奥まで入れてよ」  
 熱に浮わついた声が泣き言めいて心地よい。普段好き勝手に人の身体を好きに開く男は今、レイヴスの下でただレイヴスから貰える快感を待ち望んでいる。悪戯な両腕はベッドヘッドへと繋がれ、急かすように腰を浮かせても上から体重をかけて押さえつけられていればそれも微々たる抵抗だ。むしろ予期せぬタイミングで浅い所を抜き差しされてレイヴスの楽しみに貢献している。  
「ゆっくり、な。約束だろう」  
「こんな生殺しにされるとは思って無かったんだよぉ」  
 はあはあと荒い息に肩を上下させなから耐えるように眉をひそめる顔はたまらなくセクシーだと思う。絶対に本人に言ってやるつもりは無いが。普段ならば既に奥深くまで熱を突き入れて思う存分腰を振っている頃合いだ。それが手も足も出せずにただ耐える事を強いられている。生かすも殺すもレイヴス次第、その実感がまた体温をあげる。荒くなる呼吸を宥めるように乾いた唇を舐めると既に固くひび割れていた。  
「もう少し、我慢しろ」  
 鼻先に宥めるような口付け1つ。レイヴス自身、奥はそこに心臓があるかのように疼いて破裂してしまいそうなくらいだ。それを勿体振ってゆっくり、ゆっくりと腰を下ろして行く。じわじわと奥へと染み込む熱が遂に脈打つ場所へと辿り着く寸前で止めれば自分でも面白いくらいに中がうねって飲み込んだ熱に絡み付くのがわかった。  
「ぅあっ……」  
「んんぅ……」  
 ぞくぞくと背筋を走り抜ける感覚に思わず身を守るように肩がすくむ。内腿ががくがくと震わせながらもなんとか溢れそうになったものを押し込めた。まだだ。まだゆっくりと味わいたい。  
「ねぇ早く、限界だよお」  
 本当にこの男は堪え性が無い。弱々しく掠れた声にねだられて再び込み上げそうになる熱を細い吐息で逃す。言葉通り、ビクビクと跳ねる熱が中の浅い場所をかき混ぜてぬちぬちと音を立てている。  
「うるさい」  
 そっと片手で口許を覆ってやれば、間髪入れずにぬるりと指の間にねじ込まれる舌先がねっとりと指の股をなぞるのに息を呑んだ。遅れてじわじわと肌の上に熱が滲んで溶けて行く。暑い。思考までがぬかるんで行くようだ。  
 は、と浅く息を吐き出してから意を決して更に腰を下ろして行く。期待通りに良い場所を擦りながら奥深くへと潜り込んで行く熱に知らず天井を仰いだ。身体を満たす充足感を一つ残さず受け止めるように自然と目蓋が下りて意識がそこだけに集中する。  
「……っは、」  
 知らない間に息を止めていたらしい。絶え間なく押し寄せる緩やかな快感に頭がぼうっとする。再び瞼を持ち上げた視界はぼんやりと滲んでいた。尻の間に男の下生えが触れてようやく息が漏れる。ぺたりと体重を落として座り込んでしまえば身体の奥底がみっちりと熱に埋め尽くされている満足感に口の端が緩む。ゆうるりと腰を前後に揺らせば中を一杯に押し広げるそれがずるりと内側全体を擦り上げて行く。いつもよりも時間をかけたお陰か脈打つ血管までわかりそうなくらいに敏感になった粘膜が喜んで熱に絡み付いている。男の腹筋の動きに合わせてびくりびくりと中で跳ねる熱を宥めるようにぎう、と締め付けてやれば情けない声が掌の下で震えた。  
「ゆっくり、な?」  
 もう一度、確認するように恨めしげなアンバーの瞳に告げてから、本格的に動き出す為にレイヴスは両手を男の胸元へと置いた。 

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犬の話

 そういえば、とため息のように吐き出された言葉にアーデンは動きを止めた。  
「先週、レオがお手を覚えたんだ」  
 一瞬、何のことだかさっぱりわからなかった。丁寧に丁寧に指先で唇で請うように固い身体をほどいて行き、とろとろにとろけた所にようやく己の欲望を突き刺した所、の筈だった。腹の底で滾る熱量のままに突き上げようと腰を引きかけた中途半端な姿勢で少し考えて、そしてようやく二人で飼っている犬の話だと理解して力が抜ける。  
「えぇ……それ今言うことぉ……?」  
「ずっと教えようと思っていたのに忘れていたから」  
「今じゃなくても良いじゃない」  
「今言わなくてはまた忘れる」  
 組み敷いた体の上に脱力感のままに突っ伏す。緩やかに首に回された腕に抱き締められて髪に口付けが落とされる感触がするがそうじゃない。そういうことを求めたわけじゃない。だから勝手に腰に足を絡めて揺らさないで欲しい。このなんとも形容しがたい切なさを片付けるのに手一杯なのだから。  
「しないのか?」  
 だがこの男にそんな繊細な男心は伝わらないらしい。何故動かなくなったのか検討もつかないと言わんばかりのきょとんとした顔で問われて可愛さ半分、切なさ五割増しだ。あと耳の穴を爪先でくすぐるのも止めてください耳弱いんだから。何か文句言ってやりたい気持ちよりも下半身の欲求に飲まれそうになる。  
「……するけどさぁ……」  
 結局言葉にならずに唸り声を上げるしか出来ないアーデンに焦れたのか、急かすように粘膜に包まれた自身がぎぅ、と締め付けられる。顔を上げればはやく、と吐息混じりのおねだりと共に濡れた瞳が期待に満ちてアーデンを見ていた。すっきりしないモヤモヤを溜め息一つで外へと逃すとレイヴスの鼻先へと口付けを落とした。  
「仰せのままに、お姫様」  
 その後、照れ隠しなのかなんなのか、容赦無い踵落としが背中に落ちてくるなんて想像もしてなかったじゃない? 

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