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空箱

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噛み癖

さて、困った。
ジャミルは部室の明かりをぼんやりと眺めながら溜息を吐く。薄情な部員達はジャミルと目を合わせぬままそそくさと着替えてさっさと出て行ってしまった。残されたのはフロイドと、二人きり。
そのフロイドといえば、ジャミルを後ろからしっかりと抱え込んで首筋をはぐはぐと齧っている。尖った歯が肌を傷つけない程度の強さで幾度も立てられ、時折大きな舌がべろりと舐めてはちゅうと吸い付く。くすぐったいとも痛いとも言えない、なんとも言えない感触。
「なあ、そろそろ行かないと」
「ん、ん~~」
朝練でしっかりと汗をかいた後だから、正直な所、恥ずかしいし勘弁して欲しい。一度寮に戻ってシャワーを浴びようと思っていたから碌に汗も拭いていないし、フロイドに齧られているせいで右肩がべしょべしょになっている。だがまるで大事なぬいぐるみでも抱えるかのように長い腕で確りと腕の中に閉じ込められていては逃げ出す事も出来ない。一時間目が始まる前に飽きてくれれば良いのだが、飽きてくれなかった場合はどうしようか。
「早く着替えないと、授業が始まる」
「ん~~」
ジャミルの腹をがっちりホールドしている腕をぺんぺんと叩いてみるが、何がそんなに楽しいのか夢中になったフロイドからは生返事しか返ってこない。仕方なしに、ぐ、っと身体を前に倒して立ち上がるそぶりを見せれば、今まで加減されていた歯が容赦なく項に食い込む。
「い”っっっ……ったぁ……」
何か、抗議のような声が聞こえるが齧る事を止めない所為でふがふがと何を言っているのか全く聞き取れないし、肋骨を折る気かというくらい腕の力が強くなって苦しいし、歯が痛いし吐息が擽ったい。
「せめて、いったん着替えないか?またその後齧ってもいいから」
「そーやって逃げる気でしょー?だめー」
流石に同じ手は二度使えないかと漏れそうになった舌打ちを飲み込む。そう、別にフロイドにただ延々と齧られるのは今日が初めてというわけでもない。「噛み心地が良い」という謎の理由でしょっちゅう齧られている。最初こそはなんとか逃げようと抗ったものだが、抵抗すれば抵抗するほどテンションが上がって齧る事に熱中するフロイドを見て抗う事を止めた。一時間もずっとひたすら右肩をがじがじちゅるちゅるされた後、がっちり抱え込まれたまま寝落ちられて更に三時間も身動きが取れなくなったトラウマは大きい。
「なら、せめて場所を移動しないか。此処、汗臭くて嫌だ」
「んー、しょーがないなー」
漸く解放された右肩がひんやりしている。だが安心したのも束の間、立ち上がろうとする前に、腹に掛かる圧と浮遊感、気が付いた時にはフロイドの肩の上に荷物のように担がれていた。
「お、ッ前、なあ!」
「だってー、逃げる気だったでしょー?」
見えるのはフロイドの背中ばかりで表情はわからないが、楽し気な笑い交じりの声が応えだろう。がっしり片腕で足を抱えられてしまっては逃げようもない。否、やろうと思えば出来るが下手に事を荒立てるよりは穏便に行きたい。抗えば抗う程フロイドのテンションが上がるのはわかりきっているのだ。
「何処行こっかなあ」
「校舎、校舎が良い」
「んー……」
頼むから校舎に行ってくれ。逃れられなくてもせめて人目につく所に行ってくれ。そうしてこの状況を見た誰かが早く保護者に連絡してくれ。いっそアズールが直接通りかかってくれ。
ひょろ長い見た目からは想像つかない程安定した歩みに揺られながら逆さになった周囲を伺うが、誰も彼もが好奇の眼差しで見ているか、そっと憐れみの表情を浮かべた後に視線をそらして何処かへ行くばかりだ。あ、おい、写メを撮るんじゃない、いや撮っていいからそのままアズールに送ってくれ。頼むから。
「ぃいいっっっだだだだだだ!!!」
「あはっ、此処もいー噛み心地ー」
シャツがめくれあがって剥き出しになった腰骨ががじがじ齧られて痛みが走る。確かに噛みたい欲求を中断させていたわけだし目の前にあるしでつい齧ってしまうのも仕方ないのかもしれない。いやそんなわけあるか。
「痛っ……後で好きなだけ齧っていいから前見て歩け!」
がじがじするフロイドにさすがに抗議の意を込めてなんとか自由になる膝から下で腹を蹴ったり、手で背中をべしばし叩いてみるが、あはは~と楽し気に笑うばかりで効いた気配が無いし、知らぬうちに人気の無い方に来てしまっている。せめて、スマホを持ってくればよかったと後悔してももう遅い。はあ、と深い溜息一つ吐き出してジャミルはただ運ばれるままだらりと身体を弛緩させた。


通行人から報告を受けたアズールとジェイドが慌ててやってくるのはそれから十分後の事。





蛇足
アズール「フロイド、もうすぐ授業ですよ」
フロイド「えー、興味なーい」
ジェイド「貴方はそうでも彼は授業に行きたい筈です。放課後ならいくらでも好きにして良いですから今は離してあげてください」
ジャミル「おい」
ジェイド「楽しみを後に取っておくのも良いと思いますよ」
アズール「今、解放してあげれば夜に彼が何でも食べたい物を作ってくれますよ」
ジャミル「俺の意思は」
フロイド「んー……じゃあそうする……」
ジャミル「俺はそんな事するなんて一言も……」
アズール「(フロイドの事ですから、放課後まで覚えてるとも限りません。運よく忘れてくれればそれで良し、もしも覚えていたら……あなたの主の宿題をこの僕が見て差し上げましょう)」
ジャミル「(お前が見てくれるのは確かにありがたいと言えばありがたいが、俺にあまりメリットは無いぞ。というより多少の手間が減って噛み跡が増えるだけならデメリットの方が大きいんだが)」
アズール「(今更噛み跡くらい構わないでしょう。ライオンの歯形よりは痛くないのでは?)」
ジャミル「!」
アズール「商談成立ですね^^」

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4

昼休みのチャイムが鳴ったというのに、運悪く廊下でクルーウェルに捕まりお小言を少々。勿論ラギーに対してのお小言では無い、我らがサバナクロー寮長のサボりについてのお小言だ。へいすんませんっス、と殊勝な態度でなんとか交わして食堂に辿り着く頃には既に何処もかしこも人だらけ。げんなりしつつもレオナを探すが見つからない。
まさか自分からあの長蛇の列に並ぶわけが無いからと座席を端から端まで丹念に見渡すがそれらしき姿は居ない。
と、なると授業をサボったまま昼休みになった事も気付かずにどこかで寝ているのだろう。
出来れば放って置きたい。居ないならこれ幸いと知らぬ振りで平和に昼食を堪能してまた授業に戻りたい。だが昼食を食べ損ねたレオナが起きた時に、「腹が減ったから何か作れ」とラギーに授業をサボらせてまで食事を作らせる事は目に見えてわかっている。なんとしてでも昼休みのうちに引き摺ってでも食事を取らせなければならなかった。


レオナのサボりスポットは何か所かあるが、天気と時間によって大体が決まっている。晴れた日なら運動場か中庭付近の木陰、雨なら寮の自室、今日は曇りだから暖を求めて植物園だろうか。
はたして、レオナは植物園の定位置に居た。ジャミル・バイパーの足を枕にして。
マジフト大会翌日の時ほどの驚きは無かったが、それでも十分驚いた。なんせ初めて二人が人目につく所で「それらしい」ことをしている現場を目撃したのだ。ジャミルも驚いたようにまじまじと目を見張りラギーを見ていた物の、すぐに諦めたように眉尻を下げて笑った。まあ、がっつりと両腕でジャミルの腰を抱え、下腹部に顔を埋めてすやすや寝ている獣が居れば逃げたくても逃げられないだろう。
「初めてっスよ、レオナさんの部屋の残り香以外で二人がそんな感じになってる現場見るの」
「そんな感じ、……って。先輩が、此処なら俺の縄張りだから誰も近づかないとか言うから」
「あー、確かに俺以外は近付かないかもしれないっスね。まあ俺なら見られてもいいって思ってるんでしょ」
はあ、と溜息一つ吐きだしたジャミルがぽすんと八つ当たりのようにレオナの頭を叩く真似をした。その気安い動作だけでもう仲の良さはわかる。
「俺、昼飯呼びに来たんスけど……必要無かったみたいっスね」
座るジャミルの傍らには大きなランチボックス。中には半分以下になったサンドイッチが詰まっていた。
「碌に食べずにまた寝始めたが。――……余らせても邪魔だし、ラギー、食べるか?」
「いいんスか!?俺、今更碌な物残ってない食堂戻るの面倒だったんスよね!」
ジャミルにランチボックスを差し出されて喜々として受け取る。もしも二人が恋人なんだと言われていたら多少は遠慮するが、そうとは聞いていないから遠慮は要らないだろう。それにジャミルが作る料理の味も気になる。
ジャミルの正面にどっかりと腰をサンドイッチを物色する。卵とマヨネーズを和えたらしきもの、トマトとレタスとハム、チーズのオーソドックスな物、それからオニオンスライスとローストビーフがはみ出た物まで随分と色々作った物だ。まずは卵サンドを手に取り思い切り頬張ると、隠し味のピクルスと胡椒が効いたペーストが美味しい。その感想をそのまま伝えるも、「そうか、ありがとう」と言われ慣れている笑顔が帰って来た。
「で、結局アンタらの関係ってなんなんスか」
「前も言ったよな?俺もよくわからない」
確かに聞いた。良くわからないって何だと、あの後で残されたレオナに聞いても「うるせえ」しか答えてもらえなかった。
「……じゃあ、レオナさんの何処が良かったんスか?」
二人が、そういう関係なのだとすれば。何かしらあるだろう、惚れたとまで言わずとも「この相手なら」と思う何かが。しかし思い切り眉を潜め、顎に手を当てて首を傾げたジャミルは暫し考え込んだ後に、漸く、といった風にしてやっと答えをぽつりとこぼす。
「――……俺に興味が無い所?」
「へ?」
予想外の返答に思わず口に入れたサンドイッチを落としそうになり慌てて詰め込む。目をぱちくりとさせているラギーなぞ露知らず、うーん、と唸り声をあげてからジャミルが唇を開く。
「多分、俺はその辺で安く売ってる使い心地の良い毛布みたいなもんで……」
「そ、そんな事無いッスよ多分……」
「いや、そうだと思う。だから飽きたりボロボロになったら簡単に捨てられるし、未練が残らないというか」
「そんな自分を卑下しなくても」
「卑下している訳じゃなくて……どう言ったらいいんだろうな。とにかく楽なんだ」
「楽……」
「俺も、この人の事はちょっと噛みつき癖のある野良猫くらいに思ってるからな。ほら、アニマルセラピーってあるだろ?」
「あにまるせらぴー……」
「野良猫はお世話する必要も無いし、じゃれてきた時だけ構ってやってお互い楽しめればwin-winだろ?」
「よくわかんねーっス!けどジャミルくんが爛れた大人だって事はわかったっス!」
ますます持って、本当によくわからない。そういう行為はもっと、少しでも興味があったりそそられる人とするものだとラギーは思っている。というより、出来たら可愛くて優しくておっぱいが大きな女の子と想いを通わせてからしたい。そこに愛が無くても関係を持つ人がいる事も理解はしている。金とか、コネとか、利益とか。この二人は多分、そういった生々しい取引として寝ている訳ではなさそうだが、では何の為に寝ているのかは未だに理解出来ない。真面目そうに見えたジャミルがそんな理解出来ない人種だったとは驚きだ。手持無沙汰にレオナの髪に指を入れて梳いているのが野良猫を撫でるのと一緒だと言われてしまえばそうなのかもしれない。だが普通、野良猫とセックスはしないだろう。
とそこまでぼんやり考えてはたと思い出す。
「じゃ、じゃあ、あと一個だけ聞きたいんスけど…」
「なんだ?」
「どっちが……下なんスか」
びくん、と一瞬ジャミルの肩が跳ねた。驚いたのだろうか、何故かレオナの頭をまた叩いている。そんなに何度も叩かれて良く起きないものだと思いながらまじまじと眺めていると、誤魔化すようにぐ、っとレオナの頭を無造作に肘置きにして抑えつけたジャミルが首を傾けた。本当によく起きないな、というよりもジャミル以外がそんな事をしたらはっ倒されるのではないだろうか。
「どっちだと思う?」
「ジャミルくんがレオナさん組み敷いてる所想像出来ないっス」
「まあ、御想像通りだな。と言っても、この人だって相当抱かれ慣れてぃ痛っっっったあああ!」
先程よりも大きく身体を跳ねさせたジャミルが反射的にべこん、と音がする程にレオナの頭を叩く。叩かれた方はといえば笑いをかみ殺すようにくつくつと喉を鳴らしながら背を震わせていた。
「そんなに俺らの事が気になるなら見てくか?」
のっそりと起き上がったレオナが牙を剥き出しにして笑うので思わず仰け反る。何か、違う。散々レオナの凶悪な笑顔は見てきたが、この笑顔は普段見慣れている笑顔では無い。それよりも、もっと、何かいやらしい笑いだ。ラギーの知らない世界を知っている大人の笑顔だ。思わず本能で後退る。
「遠慮するっス!あ、サンドイッチご馳走様でした!じゃ、俺そろそろ行くんで!」
未知の脅威からは尻尾捲って逃げるのも手の一つ。何か最後にとんでも無い事を聞いたような気もするけれど此処からとっとと逃げるのが先だ。ラギーは可愛い女の子のえっちなあれそれならば吝かでは無いが、先輩と同級生のえっちなあれそれはまだ見たくない。というか一生見たくない。
「あ、午後の授業はちゃんと出てくださいねレオナさん!クルーウェル先生めっちゃ怒ってましたよ!」
大事な事だけはきちんと叫んで一目散に温室から走って逃げた。



残されたのは、レオナとジャミルの二人。未だに楽し気に喉を震わせ笑うレオナに溜息一つ吐いてジャミルは下肢を見下ろした。スラックスの、腰骨の辺り。くっきりと歯の形に濡れている。布越しとはいえ、きわどい所を思い切り噛みつかれればさすがに悲鳴も上げる。
「行ったか」
しゃあしゃあと言ってのけるレオナに思わず半目になって睨む。
「人が気を使って狸寝入り見ない振りしてやったのに何するんですか」
「楽しんだだろ?」
にいと口角を釣り上げて持ち上げられた大きな掌、その中指と薬指が揃えられ、くいくいと何かを引っ掻くように折り曲げられる。それはちょうど先程ラギーがまだ居た時、こっそりとジャミルの背に隠れて下着の下にまで滑り込んだ指先が中の浅い場所を引っ掻いていた動きそのもので。
「っっ、馬鹿言うな、そろそろ午後の授業が始まる……」
「サボればいいじゃねーか」
「アンタと違って俺は真面目なんだよ!」
圧し掛かろうとする顔面を掌で押しのけ立ち上がる。手早く広げたランチボックスをしまい始めればそれ以上、レオナは追いかけてはこなかった。
「安物の毛布が良く言う」
「野良気取りの箱入り猫に言われたくない」
テンポよく応酬される悪口に思わず二人で笑う。不快だとは思わなかった。
「今日、来いよ」
再びこのまま眠るつもりなのだろう、肘をついて身体を横たえたレオナの翡翠色の瞳が真っ直ぐにジャミルを見た。
「気が向いたらな」
素っ気なく答え、レオナに背を向けて歩きながら早くも脳裏では今日の予定を思い浮かべる。レオナを訪ねる時間は、有りそうだった。

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チェカレオ

「レオナ」
ベッドの上に乗りあがり、こちらに向けられたシーツ越しの背中をぎゅうと腕の中に閉じ込めて愛しいその名前をそっと耳元に落とす。ぴくりと耳先が震えるが、反応はない。
「レオナ」
もう一度呼んで、薄くひんやりとした耳朶を唇に挟み込み、産毛をたっぷりの唾液で湿らせてじゅうと強く吸い上げると容赦のない肘がチェカの腹にめり込んだ。
「っっぅぐ、……痛いよ、レオナ」
頑なにこちらを向かない癖に、逃げる事も無い。これがレオナなりの譲歩なのだと思うことにして腹に回した掌でしっとりと滑らかな肌を辿る。右手はくっきりと深い溝を作る腹筋の筋を辿り更にその下の叢へと、左手は柔らかくしなやかな筋肉を纏う胸元へと。その先端で可愛らしくつんと主張している場所を爪先でカリカリと引っ掻いてやればぴくんと抱き締めた身体が跳ね、手首に思い切り爪を立てて引っかかれる。
「っっ痛い、ってば。ねえ、遅くなってごめん。怒ってるならせめて言葉で言ってよ」
仕返しとばかりに硬くなってきた胸の先をぎゅっと摘まんでやればんんぅと押し殺した声が聞こえた。おねだりしても背を向けたままのレオナは、より一層身を丸めて頑なにチェカを見ようとはしない。洗い立てのふわふわの髪はこんなにも良い香りをさせているのに、触れる肌は期待にしっとりと熱を孕んでいるのに、恥ずかしがり屋のレオナはいつだってそれを認めようとしない。あくまでチェカが求めるから、既にレオナよりも一回りも二回りも大きくなり王となったチェカには逆らえないから従っているのだというスタンスを崩さない。
「ね、お願いレオナ。こっちを見てよ。お詫びにいっぱい気持ちよくしてあげるから」
項にじわりと滲む汗を舐め取り口付けを落としながら小さな尻に期待で盛り上がった股間を押し付ける。毎度ながらこんなに薄くて小さな尻にチェカの物がすっぽりと飲み込まれるのが信じられない。よく「せめて半分にそぎ落として来い」なんてレオナは憎まれ口を叩くけれど、レオナが「化け物」と呼ぶこれで中をぎちぎちに満たされるのが好きな事はわかってる。逃げられないように細い腰を押さえ付けて思うままに容赦なく奥まで何度も突き上げてやる時の事を思い出してチェカもぞくりと肌が泡立つ。早く、中に埋まりたいのに今日のレオナは頑固にチェカに背を向けたまま動かない。
「ねえレオナ、どうして欲しい?」
聞いても絶対に答えてくれないのはわかっている。けれどレオナだって期待でじっとりとした熱を孕んでいるのがわかる。その気になっているのに素直になれないだけなのだ。
「今日は時間いっぱいあるから、たくさんえっち出来るよ。嬉しい?」
首の付け根の、ぽこりと浮いた骨を丁寧にしゃぶってちゅうと痕が残るくらいに吸い付くともぞりと腕の中でレオナが身じろぐ。こちらは向いてくれない、けれど先程までの緊張に強張った身体がとろりと熱に蕩け始めている、気がする。
「いっぱい舐めて、触って、しゃぶってあげる。中まで全部。………あれ?」
背骨の一つ一つをたどるように丁寧に舌を這わせながら、足の間、その更に奥へと伸ばした指先に触れた違和感。いつもならば慎まやかに硬く口を閉じている筈の場所がぬめりを帯び、つるりとした無機物の感触が埋まっている。チェカの記憶が確かならば、今触れている物はずいぶん前に戯れにレオナにプレゼントした男性器を模した玩具だ。チェカのものよりはずいぶんと小さいが、レオナと同じサイズくらいはあるもの。こんなもの要るかとすぐに投げ捨てられても、まあそんな反応だろうと予測していたので特に気にすることなく今の今まで忘れられていたそれが、今、レオナの中に入っている。殆ど根本まで飲み込まれて触れられるのは少しだけ浮いたストッパーの部分だけだ。昂る気持ちが抑えきれずについ、ぐ、っと強く押し込むと腕の中で面白いくらいにレオナの身体が震える。
「~~っっぁ、ぐ、……ッっぅぅ……」
ぎゅうと枕に顔を押し付け奥歯で噛み殺した声。どうせ、最後はあられもない声を上げて鳴くのだから我慢しなくても良いのに、と思うがこれがレオナの可愛い所でもある。それにしても、あの、レオナが。チェカの居ない間に、こんな玩具で。
「一人で、シてたの?」
「~~ぉ、っまえが!!!来ない……か、……ら……」
払いのけるように手を叩かれ、勢いよく叫んだ声が、すぐにまた萎んで消える。涙声で、そんな事を言われたらたまらなかった。結局こういうのは惚れた方が負けなのだ。もっと、大人っぽくレオナをリードしてやりたいのに込み上げる欲に抗えない。
「ごめん、本当にごめん。嫌いにならないでレオナ」
抱き締めていた身体を一度離し、改めて上から覆い被さる。薄明りの中でも真っ赤になって涙に濡れたレオナに睨まれるが綺麗だという感想しか抱けない。溢れる涙を丁寧に舐め取り、八つ当たりのように肩を腕を殴る両手を捉えてシーツに縫い留める。かつてチェカが散々登っていた大きな叔父は、今ではすっぽりとチェカの影に収まってしまう。そのことがとてつもなく嬉しい。素直に言う事を聞いてくれるような人では無いが、こうして不器用ながらも少しずつ想いを返してくれるのが愛しい。
「お待たせ、レオナ。たくさん、愛してあげるからね」
期待に濡れた目をしながらまだ往生際悪く藻掻く身体を体重掛けて抑えつけ、唇を塞ぐ。夜はまだまだこれからだ。

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3

熱く、張りつめた物の先端を、そっと差し出した舌の腹に乗せる。つるりとした表面の感触を堪能するように舌先を滑らせれば濡れた吐息が頭上で聞こえた。見上げればぐるると喉を鳴らし飢えを滲ませた双眸と視線がかち合い、ジャミルの優越感を煽る。急かすように舌の腹に先端が擦り付けられるのをそのまま大きく唇を開いて迎え入れる。ずっしりとした熱い塊が舌の上を擦り口いっぱいに押し込まれると腹の奥がじくじくと疼いた。この大きな熱で早くぐちゃぐちゃになるまで掻き混ぜられたい欲を、息を吐く事で逃す。歪になった喉が、んんふ、と音を立てた。
ゆっくり、ゆっくり、喉奥まで咥え込んで、一息。喉を開いて確かめるようにゆるゆると前後に頭を動かしてから根本深くまで飲み込むと鼻先に触れる叢から濃厚な雄の匂いがしてくらくらする。じゅわりと粘度の高い唾液が溢れ出て口の中がいっぱいになってしまう。
一度、頭を引くと名残惜し気に透明な唾液の糸が伝ってはぽたりと跪くジャミルの足に垂れて冷たかった。足りなくなった酸素を補うように大きく呼吸をしてから、顔を上げ、舌を差し出してぱかりと口を開けてやれば待ちかねたレオナの熱い掌にがっしりと両手で頭を掴まれ期待に胸が高鳴った。再び舌の上に乗せられた熱が焦らすように表面を擦られて、ふぁ、と間の抜けた声が上がってしまう。
「――……っは、」
頭上に落ちる声が低く、甘い。口の中の浅い所でゆるゆると舌を口蓋を擦られて気持ち良い。もっと、と強請るようにレオナの足に縋りつくと、心得たようにゆっくりと大きな熱が喉の奥までごりごりと張ったエラに擦られて息が詰まる。咳込まないように開いた喉では上手く呼吸が出来ずにじわじわと酸素を奪われて行く感覚。
「んっ、ンん、ん……」
「……っふは、」
笑う音に視線を上げればいつの間にか視界はぼやけていた。瞬きをすれば溢れた涙が滲み、思いの外優しい親指が拭う。その心地良さに瞼を伏せ、どろどろした唾液の海の中でゆるゆると熱に口内を犯される快感に浸る。思考が霞みただ熱くて気持ち良い。
何度か口内を往復した後に、ぐ、っと強く後頭部を握られて背筋が伸びる。頭をしっかりと固定し、道具のようにジャミルの口を使おうとする気配に否応にも昂る。この男がジャミルで我を忘れる瞬間が、嫌いでは無い。舌の上で震える熱は今にも弾けそうな程に張りつめていた。
「んっ、ぐぉ、……ぉご、っお、」
「……ッはあ、……っは、……ぁ」
力強い掌に押さえつけられて逃れられないのに、喉の奥深い場所まで突き入れられて苦しい。咽そうになるのを必死に押さえつけてぐぽぬぽと重みのある水音が脳にまで響く。息継ぎする余裕無く幾度も喉奥を突き上げられて辛いのに身体の奥から染み出すような熱で飛びそうな程に気持ち良い。荒い呼気と共に余裕なくジャミルの口を使うレオナに恍惚とした気持ちでただ歯を立てぬようにと必死で吸い付きその時を待つ。
「――……ッッ、」
奥歯を噛み締めた唸り声をぼんやりとした思考の中で聞いた、と同時に舌の上にどくどくと吐きだされる温かなもの。刷り込むようにゆるゆると舌の腹を擦りながら幾度も吐きだされるそれを飲み込まぬようにしながら、最後の一滴まで搾り取るようにじゅるじゅると纏う唾液ごと啜り上げてやってからようやく解放され、大きく呼吸を吐く。独特の生臭さがいっぱいに広がりすっかり昂った身体が疼いた。
舌でたっぷりと唾液と絡めてから口を開けて溜め込んだ物を見せれば肩で息をしながらも喉奥で笑ったレオナが優しく髪を撫でる。普段ならばそのまま口を閉じ、飲み込んでやる所だったがふと、思いついたままにレオナの上へと乗りあがり唇を重ねる。
「んぅ――ッ?」
無防備な唇に舌を差し入れて溢れそうな程に溜め込んだレオナ自身の体液を流し込む。嫌がるだろうか、逃げるだろうか、下手したら突き飛ばされでもするのでは無いか、そう思って身構えていたジャミルだったが、レオナは一瞬眉を潜めたものの、すぐさま大きな舌がジャミルのそれと絡みつき貪るように吸い上げられた。
「んんぁ……ッふぁ」
それどころかぐるりと体制を入れ替えられ、気付けばジャミルはシーツに押し付けられていた。逃れる間も無く酸素すら奪われる勢いで口内を荒されてぞくぞくする。気持ち良くて息苦しくて、二人分の唾液と精液が混ざったものを喉を鳴らして飲みながらレオナの舌を追いかける。


漸く解放された頃には息も絶え絶えになったジャミルの滲んだ視界に、牙を剥き出しにして満足げに笑うレオナの姿があった。仕掛けたつもりがまんまとやり返されてしまったが悔しさはあまり無かった。それよりも痛い程に下腹がじくじくと疼いているのを早くどうにかして欲しかった。上がる息ではまともな言葉にできず、代わりに両腕をレオナに向かって伸ばせば応えるように覆い被さる広い背中を、ジャミルは強く抱き締めた。

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こんなはずじゃなかった

ジャミルの手を握り「今晩、良いか?」と聞く。
少しだけ考えた後「では22時に」とジャミルが時間を指定する。
誘う時はいつもそれだけで済んだ。ジャミルが指定する時間はまちまちだったが、断られた事は一度も無い。
後は寝室で待っていれば、時間になると風呂上がりのジャミルがやってきて、身を委ねるだけで気持ちよくしてくれる。
ジャミルはこの行為を「処理」だと言う。ヤりたい盛りのカリムが性欲を持て余して余計な子種をばら撒かないように、病気をもらって来ないように、変な相手に引っかからないように定期的に処理をするのだと。だからジャミルはいつでも積極的にカリムに奉仕してくれたし、カリムのしたいようにさせてくれた。カリムが望めばただ寝転がっているだけでもジャミルが口と手で丁寧にカリムを昂らせ、自ら上に跨り腰を振って高みまで連れていってくれた。縛ってみたいと言えば簡単に両手を差し出されたし、玩具を使ってみたいと言えば次の日には望んだ物が用意されていた。
それが嫌だとまでは言わないが、味気ないと思うのも事実だ。
今もカリムの股間に顔を埋めてさも美味しいキャンディを味わうかのようにカリムの物を舐めしゃぶっているジャミルの一房垂れ落ちた髪を指先で掬いあげ、耳にかけてやればふわりと淫蕩に微笑まれて思わず腰が重くなる。だが身体とは裏腹に、的確に男を煽る振舞いをこなすジャミルに違和感を覚えてしまう。まるで、入学前に女を知って置けと親から宛がわれた娼婦のような姿。
ちゅう、と先端に吸い付かれて思わず肩を跳ねさせたカリムに笑いながらのし上がったジャミルに、押し倒されるままに仰向けに寝転がされ跨られる。片手をカリムの腹につき、片手でカリムのものを支えて尻に宛がう姿に否応なく期待で息が上がる。早く中に埋まりたくて細い腰を両手でつかめば宥めるように額に口付けを落とされた。
「ゆっくり、な?」
この両手に思い切り力をかけて思い切り奥まで突き上げてやりたい欲を見透かしたかのように濡れた声が囁く。だがジャミルが自らカリムを受け入れる姿も好きだった。乾いた唇を真っ赤な舌で舐めて濡らし、それからゆっくりと腰を下ろして行くにつれ、先端が暖かな粘膜にめり込んで行く。触れても居ないのに柔らかく蕩けた粘膜が絡みついて気持ち良い。くびれた所まで飲み込んだ所で具合を確かめるように腰を揺らされて思わず変な声が上がってしまったカリムをジャミルが笑う。その余裕ぶった姿が悔しくて、ぐっと両手でジャミルの腰を引きずり落としてやった。
「ッッぁ――」
甘く張りつめた声がジャミルから上がり、一気に根本まで包み込んだ粘膜がぎゅうぎゅうとカリムを締め付け、思わず出そうになって必死に耐える。
「っは、……ゆっくりって言っただろう……」
ふうふうと息を吐きながら上目遣いに睨む姿すら、艶っぽいと思うのに同時に何か、壁のようなものを感じてしまう。
「ジャミルだって気持ち良かっただろ?」
「俺のことはいいから」
あくまでこれは「カリムの性欲の処理」なのだと言外に振り払われて閉口する。恋人のように振舞いたいという訳ではない。でもせめて、共に気持ち良くなるためのセックスがしたかった。カリムが発散出来ればそれで終わりなのではなく、カリムも、ジャミルも、同じくらい気持ちよくなって満足出来る事がしたかった。従者としての仕事の一環ではなく、ジャミルにも存分に楽しんでもらいたかった。だがジャミルの腹の下でしっかりと硬くなり動くたびに揺れる物に手を伸ばそうものなら「お前はそんなことをしなくていい」「余計な事をするなら止めるぞ」「目を閉じて、好みの女の事でも考えながら自分がイく事だけを考えろ」と言われて、キスだってよっぽどの事が無ければしてくれない。ジャミルにとって、この行為はあくまで「カリムの性欲処理」でしか無いのだと、言葉で態度で突きつけられていた。
カリムは二人で楽しみたかった。
カリムがただ奉仕されるだけではなく、カリムの手でジャミルが鳴く姿を見てみたかった。
真正面からねだるのはもう既に散々やって惨敗し続けている。
ならば、策を練らなければならない。


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夕食は終わった。後片付けも済んだ。洗濯物は既に片付けた筈だし明日の朝食と弁当の仕込みも済んでいる。課題は明日提出の物が無いから目を瞑る事にする。授業の合間にでもこなせばよいだろう。
頭の中でそこまで確認してからようやくソファへと腰を下ろす。カリムお気に入りの柔らかなクッションがジャミルの体重を受け止めて柔らかく沈み、気を抜けばそのまま溶けて眠ってしまいそうだった。カリムの世話だけなら慣れたものだが、自身の学業と同時にこなすとなるとそれなりに一日の終わりには疲労が溜まっている。自分自身の時間を楽しむ前に、少しだけ休息が欲しかった。
「ジャミル!」
今までどこにいたのやら、見計らったかのように現れたカリムの声に落ちそうになった瞼を持ち上げる。何がそんなに楽しいのか、駆け寄る笑顔の眩しさに思わず眼を眇める。
「どうした、何かあったのか」
「いや、毒見して欲しくて」
そう言って差し出されたのは冷蔵庫にしまっておいた筈のチョコレート。おやつ用だから飾り立てる必要も無いだろうと味気ないステンレスの容器に並べられたそれは確かにジャミルが作った物で、ジャミルが作ったのならば毒見など要らない筈だ。意味がわからずに眉を寄せたジャミルに構わず、目の前に立ったカミルがチョコレートをずずいと差し出す。
「毒見が、必要か?」
ジャミルが毒を持ったのではないかと疑われているという事だろうか。だがそれにしてはカミルの笑顔はまるで悪戯を仕掛ける前のわくわくした気持ちを隠しきれない子供のように煌いているし、すでにこのチョコレートは二人で何度か食べている。
「そういうわけじゃなくて……いいから食べてみてくれよ、お前に食べて欲しいんだ」
わけはわからないままだが、この様子だとジャミルが従うまでずっとこのままなのだろう。溜息一つで諸々の感情は飲み込み、チョコレートを一つ摘まみ上げる。ジャミルが作った時の記憶と違わない、何の変哲もないチョコレート。口に放り込んでまずは舌で転がす。溶けだす甘みがとろりと舌に絡みつくが特別おかしな所は無い。歯を立てて柔らかくなったチョコレートを割れば溢れ出すのはリキュールを使ったガナッシュの味、だが。
「――ッんんぅ」
これは飲み込んではいけないものと判断し、吐きだすべく口を開こうとした所で、狙ったように圧し掛かってきたカリムに唇を塞がれる。
「んんぁ……ッんぅ、……っ」
逃れようにも膝の上に腰を下ろされ、ソファに押し付けるように体重をかけて確りと両手で頭を掴まれてしまっては顔をそむける事も出来ない。抗議の意思でジャミルに跨る足を遠慮なしに叩いてやってもおかまいなしで、チョコレートを舌先で掬い取ろうとするものだから慌てて取り返そうと舌を伸ばす。
「んぅ……ん、……ふ」
どろどろに溶けたチョコレートの味が口の中いっぱいに広がる。そこに混ざり込んだ異物の味も。ジャミルの記憶が確かならばこれは媚薬の類だ。これほど強烈な味がするという事は適量の三倍……いや五倍は入っているのでは無いだろうか。幼い頃より毒見役をしていたジャミルは毒に耐性がある。というよりも、毒に耐えられるように訓練されている。普通の人ならば死んでしまうような量の媚薬であっても耐えられるだろうが、カリムはそういうわけにもいかない。一欠片たりとも飲み込ませるわけにはいかないというのに、溶けたチョコレートを飲み込むまいと堪えているジャミルを揶揄うように舌先が絡みついてはちゅうと吸い上げて、うっかりそのままカリムが呑み込んでしまうのでは気が気ではない。
漸くカリムの意図を察して睨みつけてやっても、にんまりと眼を三日月型にして笑う顔に止める気が無いのだと知る。このチョコレートをジャミルが飲み込むまで解放するつもりはないのだろう。上からかぶりつかれて溶けたチョコレートと二人分の唾液で溢れそうになった口内をカリムの舌先が楽しげに舌の根を擽っていた。
最初の時点でもっと強く拒絶しておけばよかったと思っても後の祭りだ。腹を括ってごくり、ごくんと幾度かに分けて飲み下し、カリムの舌に一滴すら残さないように啜り、チョコレートの味がしなくなるまでたっぷりと舌を絡め合わせては唾液を啜って飲み込む。戯れに逃げようとする舌を追いかけ、カリムの口内にも味が無いのを確認するように舌先で粘膜を丹念になぞり、漸く大丈夫だろうと安心するころにはすっかりジャミルの息が上がっていた。
「っはは、情熱的なちゅーだな!」
「……っ誰の、せいだと……!」
「俺だな!」
悪びれもせず笑う姿にどっと疲労が増した気がする。早くも毒が効いてきたようで肌がじんわりと熱を持っている。
「……で、何がしたかったんだ。処理が必要なら言ってくれたら――」
「ジャミルにも楽しんで欲しいんだ、セックスを」
「セックスじゃない、ただの処理だ」
「じゃあセックスがしたい」
「それは、卒業してからそういう相手としてくれ」
「嫌だ。俺は、ジャミルとしたい」
こうなってしまってはもうカリムは頑なに意思を貫こうとするだろう。面倒な事になったと思いながらもぼうっとしてきた頭では上手い打開策が思い浮かばない。
「……はあ。わかった、わかったから。準備してくるから一時間待ってくれ」
とにかくまずは少しでも薬を抜かなければならない。幾ら慣れていると言えど、流石にこの量はジャミルとてただでは済まないだろう。カリムの胸を押して離れるように促すが、離れるどころかジャミルの両腕を握ったカリムが首筋に口付けを落とし、つうと舌先を滑らせるのにぞくぞくと背筋が痺れる。
「準備なら俺がするさ、ちゃんと調べたんだ」
「そ……んな事、お前はしなくていい……ッ」
「俺が、したいんだ、ジャミル」
「ッッッ~~~!!!!」
耳元に唇を押し付けて囁かれただけで、たったそれだけで駆け上がる快感に体が震える。本格的に毒が回ってしまう前にどうにか逃げ出さねばと思うのに力が入らない。せめて唇から逃れようと頭を振るも動きは緩慢で、それどころかくらりと視界がぶれて崩れ落ちる身体をカリムに抱き留められ、ソファに横たわらせられる。今すぐ押しのけて逃げ出したいというのに、ジャミルの服を脱がしては唇を押し付けているカリムはびくともしない。
「嫌だ、……っなあ、カリム……っっ」
「んん~~?」
「止め、ろ……って……」
「んっふっふ」
これほど必死に訴えているというのにカリムは喜色満面の笑みで止める気配がない。身を捩って逃げようとしてもいつの間にか脱がされた服が絡み合って思うように動けない。
「心配すんなって!ちゃんと気持ちよくしてやるから!」
心配しているのはそこじゃないと抗議する前に再び唇を塞がれ、絶望的な気持ちでジャミルは瞼を下ろした。


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少しばかり強引に事を進めてしまったとは思うが、仕方ない。こうでもしなければ言葉巧みにジャミルに逃げられてしまうのだから。
すっかり媚薬の回ったジャミルはふにゃふにゃと力の入らない抵抗をしながら「嫌だ」「止めよう」とまるで縋るように必死に訴えて来ていて、その見慣れない姿を可愛らしいと思う。
褐色の肌は既にジャミルが何度も吐きだしたもので白く濡れていた。腹の上で塗り広げるように撫でてやるだけでびくびくと震えて悲鳴を上げる姿は普段のなんでも一人でこなしてしまうジャミルよりもよっぽど愛しい。
「すっげえ、もうこっちまでぐしょぐしょ……」
出しても萎えず震えているジャミルの物から垂れ落ちるものを追いかけるように指先を伝わせ、辿り着いた普段ジャミルが自分で準備をしてカリムには触れさせてくれない場所、縦に割れた不思議な形のそこに白濁のぬめりを借りて指を押し込めばいとも簡単にするりと飲み込まれきゅうと吸い付かれる。
「っふぁ、……ッやだぁ……ッ」
指で感じるジャミルの中は熱く、嫌だというばかりには歓迎するように絡みついて離れない。確かめるようにぐにぐにと指を動かしてみるが気持ちよさそうな鳴き声を上げて身体を撓らせるばかりだったので、もう一本、二本と少しずつ馴染むのを待ってから指を増やして行く。
「っゃだ、あっ、あ……あ、も、イきたくな…ッっ」
想定していたよりもすんなりと馴染んでしまった中の様子に夢中になっているうちに気付けばジャミルは涙混じりの悲鳴を上げていた。少し中を揺さぶったり強くこすってやるだけで簡単に戦慄き仰け反る姿にカリムも痛いくらいに昂っている。早く指先で散々味わったジャミルの中に入って自分も気持ちよくなりたい。
「ごめんな、遊び過ぎた。けどもうちょっと頑張ってくれ」
「んん、……ッ」
指を引き抜くだけでジャミルの物が跳ねたが、もう何も出てこなかった。疲れ果てたかのように茫洋と虚空を彷徨う眼が涙に濡れていたのを舐め取り、目尻にキスを一つ送って抱き締めると珍しくジャミルの手が弱弱しくカリムの背へと回された。普段ならばこんな縋るような仕草はしないというのに。嬉しくなってジャミルの腰を抱え、柔らかく蕩けた穴へと自身を押し込む。
「入れるぞ」
「ん、――」
さほど抵抗なく、むしろ自ら誘い込むような粘膜の蠢きに引き寄せられてずぶずぶとジャミルの中に沈み込む。
「ぁ、あ……ッ●●様……――ッッ」
期待に胸を高鳴らせてぐ、っと強くジャミルの腰を掴んだ時に聞こえた名前に思わずカリムの動きが止まる。
普段、ある程度ならカリムの我儘を聞いてくれるジャミルが此処までずっと嫌がるのには何かしら理由があるのだとは思っていた。ジャミルにとっては重要かもしれずとも、カリムから見れば大したことのない理由だとも。
「っはやく、――っジャミルに、ください……ん、あ、あっ」
ジャミルの長い脚がカリムの腰に絡みつく。まるでもっと奥深くまでと強請るように身を捩り、懸命に腰を振っては一人で鳴いていた。動きを止めたカリムに甘えるように抱き着いた首筋に懐きながらもその双眸はカリムを見ていなかった。
「●●様、……」
媚びる声音は胸焼けしそうな程に甘い。こんな声が出せるなんて知らなかった。この声で名前を呼ばれたらすぐにでも達してしまいそうな程に蠱惑的な声。
そんな甘い声で、何故、ジャミルは父の名を呼ぶのだろうか。

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