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空箱

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10

何のきっかけでそんな話になったのかは覚えていない。
気付いたらダンスの話になり、踊る事自体は好きだから色んなジャンルを齧って来たと言うジャミルに、レオナはソシアルくらいしか習った事が無いと話した所、それは知らないジャンルだから是非教えてくれと目を輝かせて強請られ。
二人で一緒にシャワーを浴び、普段ならばそのまま水気を拭くだけ拭いたら裸のままベッドに縺れ込む所だったが、とりあえず下着一枚身に着けて部屋へと戻る。素肌のままだとリードがし辛いだろうとその辺にあったレオナの運動用の黄色いTシャツをジャミルに着せてやると余りにぶかぶかと色んな所を余らせていて笑いを誘う。丈が余り、下着をすっぽりと隠してしまうせいでまるで何も履いていない幼子のようだ。かくいうレオナも下着一枚だけのくせに運動用のスニーカーだけを履いた姿だったのであまり人の事を笑ってはいられない。
「とりあえず、お手をどうぞお姫様」
右手を背に、左手をジャミルへと差し出して恭しくお辞儀をすれば、一瞬嫌そうに顔を顰めてから恐る恐るというように右手が重ねられる。
「三拍子はわかるな?女は……お前は、右足からだな、繋いでる手と同じ方からと覚えりゃいい。拍に合わせて交互に足を動かせ」
重なった手を握り、右手はジャミルの背に宛がいぐっと引き寄せる。ぴたりと胸が重なる程の距離。勢いあまって一度顔をぶつけたジャミルが驚いたようにレオナを見上げた。
「近……こんな密着するのか?」
「細かく言えば違うが、この方がわかりやすいだろ。最初はまず俺の足の上に乗れ」
意図を察したらしいジャミルがぱちと一度瞬き、それからそっとレオナの靴を踏みつけるように右足、左足と乗りあがる。安定する場所を探すように何度か足踏みした後、靴の越しに足の甲の上、ぴたりと足の裏が張り付き体重がかけられた。
「何処見ればいいのかわからない……」
「俺の顔でもいいが?」
「……なんか嫌だ」
「見惚れるからか?」
「……」
返す言葉を失い唇がへの字に曲がるジャミルに思わず笑う。好きにしろよ、と告げるも行き先を無くした視線はすぐ間近のレオナの鎖骨辺りを見て居た。
「それじゃあ、行くぞ」
ジャミルの背に当てた右手でまず、いち、に、さんと本来のテンポよりもずっとゆっくりとしたリズムで背を叩く。そこから流れるように次のいち、で背をぐっと引き寄せ左足を大きく前へ一歩、に、で右足を揃え、さん、で左足をその場で踏む。ジャミルの体重が掛かった足を強引に動かしているためにそれなりに力が居る。今度のいち、は右足を後ろへ大きく引き、に、で左足を揃え、最後にさん、で右足をその場で踏む。これで1セット。まずは一拍目にアクセントを置く独特のワルツのリズムに慣れてもらおうともう一度左足を動かそうとするとジャミルの踏む力が弱くなり、レオナの右足に全体重が掛かる。だが次に右足を動かそうとする頃には既に体重は左足に移り、また左足を上げる頃には体重が移動していた。踊る事が好きだと言う言葉通り、飲み込みは早いのかもしれない。少しテンポを上げて動かしてもコツをつかんだかのようにすっかりレオナのタイミングに合わせて体重を乗せる足を変えていた。ならばと、ただ前後に動くだけの動きから、ボックスステップへ動きを変える。最初こそ急に足の浮いている時間が変わった事に戸惑ったようだったが二週目になる頃にはすっかり心得たように動きについて来ていた。ジャミルはただレオナに運ばれるまま動くだけだが、自分で体重の移動をしてくれるかどうかでレオナのやりやすさが随分と変わる。だが遠慮か、急いているのか、先走るジャミルの足が度々レオナの足から離れそうになる。
「自分で動こうとするな。俺の呼吸を読んで、合わせろ」
一度、動きを止め、アドバイスのつもりでそう告げれば他に何も言わずともジャミルの背がぴしりと伸び、左腕がレオナの二の腕に触れる。足の裏だけでなく腿を、腰を、胸を、レオナの呼吸を読み取る為の器官としてひたりと押し当ててくる。釣られるようにレオナも背筋を伸ばし、本来美しいとされる形をとりながらまず最初に背中をいち、に、さんと叩いてから足を運ぶ。繋いだ手を横へと引きながら左足を横へと移動させればぴたりと吸い付いたようにジャミルの足がついてくる。向きを変えくるりくるりと回転しても面白いくらい自然にジャミルはレオナに合わせていた。繋いだ手と、背に当てた手、それから触れ合う足の一瞬の呼吸で正確にレオナの向かう先を理解し初めからそう振り付けられていたかのように踊っていた。ふふ、と楽し気な笑い声が胸元で揺れている。
「大体わかったな?今度は、自分で足を動かせ。またスピード落としてやるから」
こくんと頷いたジャミルがレオナの足から下り、それから踵を踏んでレオナも靴を脱ぎ棄て遠くへと蹴り飛ばす。Tシャツ一枚羽織っただけのジャミルと、下着一枚のレオナと見た目は酷い物だが、ぐ、と背中を引き寄せてやるだけでまるで誂えたようにぴしりとレオナの身体にフィットする背中に自然と口角が上がる。
とん、とん、とん、と三度、動くスピードを伝えるように背中を指先でノックしてから左足を一歩大きく踏み出す。
「……っと、」
「さっきと同じだ。自分で動こうとしないで合わせろ」
大きく後ろへと移動しようとし過ぎてバランスを崩しかける身体を支え、意識させるように敢えてぴたりと腿を触れ合わせる程に近くに位置取る。本来ならばお互いの間にはスカートとスラックスがあり、多少の隙間があっても摩擦で纏わりつく布が上手く呼吸を伝えてくれるのだが、お互い素肌ではそうも行かない。今度は後ろへと引こうとする動きに慌てて追いかけてきたジャミルの足がレオナの足を踏んだ。
「あ、……」
「いい。気にするな。まずは慣れろ」
「ん、」
どうせお互い裸足だ。踏まれた所で痛くない。身体に馴染むまで、まずは基本の前後を幾度も繰り返す。いち、に、さん、いち、に、さん。ただ規則正しく前後に足を動かすだけだった動きに慣れてきた頃、少しばかり膝を使ってアクセントをつけてやる。一は強く、二と三は弱く。それだけで途端にジャミルの合わせ方が格段にうまくなってきた。初心者だからなるべく余計な動きは省いた方が覚えやすいかと思ったが、機械的に動く「運動」では無く「踊る」方が得意なタイプだったようだ。急にステップをボックスに変えても難なくついてきている。
「慣れてきたじゃねえか」
「……なんか、お堅い踊りだと思ってたんだが」
「だが?」
「……ヤらしいな、コレ」
ちらと上目遣いに見上げるジャミルが舌先を覗かせて吊り上がった唇の端を舐める。まるで挑発するようなその笑みにレオナの吐息もふつふつと込み上げる笑いに揺れる。
「こいつの相性で結婚相手を決める国もあるくらいだからな。大事だろ、相性」
「ダンスの相性で?」
「男と女が身体を密着させて運動するんだ、わかるだろ」
「本当にヤらしいな!」
声を上げ笑う合間にも足はボックスステップを踏んだままリズムは途切れていない。顔を上げて笑いながらも既に手慣れた様子でレオナの足運びにひたりと寄り添い付いて来ている。いち、に、さん。握った左手と背中の手に掛ける力加減一つで方向転換も移動も熟練のそれと変わりない。右手を離し、繋いだ左手を引いて頭上でくるりと回してやるだけでジャミルも素直にくるりと一回転してそしてまたレオナに抱き留められて元の姿勢に戻る。
その、常よりも幼い顔で笑うジャミルの笑顔に引き寄せられるように唇を重ねた。口の端に触れるだけの幼いキス。驚いたように乱れた足がレオナの足を踏み、バランスを崩した身体をしっかりと背中から支えてやる。
「っふは、やらしい」
縺れる足にジャミルがまた笑い、抗議のようにステップを乱してわざとレオナの足を踏もうとするのを避け、代わりに反対の足でジャミルの爪先を踏みつければけらけらと楽し気な声が上がる。避けて、踏み込んで、踏みつけて、踏まれて、三拍子のリズムは辛うじて保っているものの既にステップはぐちゃぐちゃだった。強引に引き摺り回すような力で方向転換をすればなんとかついて来ようとしつつも抜け目なく足を踏もうと試みるジャミルの肩が、腰が、膝がぶつかり合う。先程までの滑らかな足運びとは程遠いじゃれあいにレオナも笑う声が抑えられない。
「へったくそ」
「先輩のリードが下手なんだろ」
くるりと方向を変えて足を運びながらふと目についた何の変哲もない、自室の壁。くるり、くるりと回転しながら自然とそちらへと足を運びジャミルの背を壁にそのままの流れで押し付ける。レオナに誘導されるまま身を預けていたジャミルが突然背に触れた壁の感触に驚き逃れようとする前に、圧し掛かるように身を寄せて壁に縫い付け、勢いのまま唇を重ねる。先程までの戯れのような物では無く、今度は上がった呼吸を飲み込むくらいに深く、舌を潜り込ませて貪る。
「ん、……」
左手を指を絡めるように握り替えれば素直に絡まる指先。肩にしがみついていた手が背を滑り、ぐしゃりと髪の中に潜り込んでもっとと強請るように抱えられる。角度を変え、より深く舌を絡め合わせてはくちりと微かな水音が響き、隙間から熱の籠った吐息が漏れ、体温が蕩ける。先程まで子供のようなじゃれ合いで笑い転げていた空気がしっとりと湿り気を帯びるようだった。
「……は、……」
二人とも薄っすらと汗ばんでいた。最後に下唇に吸い付いて離れるとジャミルの長い睫毛が震えていた。それがゆっくりと持ち上がり、レオナを見上げる夜色の瞳が濡れていた。
「……やらしいことするのか?」
問う、というよりも確認するようなジャミルの囁きに笑い、頬に、耳朶にと唇を滑らせて行く。
「好きだろ、やらしいこと」
「うん」
素直に言えたご褒美とばかりに耳朶を唇に含みわざと水音を立てて吸い付いてやれば鎖骨に熱っぽい吐息が触れた。髪を引かれ求められるままに再び唇を塞ぐ。積極的に差し出される舌をしゃぶってやりながらシャツの下へと手を潜り込ませ湿った肌を探った。


見慣れた運動用の黄色いTシャツ。レオナのみならず、サバナクロー寮の者ならば誰でも持っている。
壁に手をついたジャミルの背に汗を吸ったTシャツが張り付いていた。その上に散らばる、サバナクローではあまり見かけない射干玉の真っ直ぐな髪。
「っっぁあ、…ッぁ」
ぐ、と腰を押し付けるように奥まで突き上げてやれば強張り、うねる様が布越しにもわかる。壁に額をつけて俯くジャミルの顔は背後からは全く見えない。だが爪先が白くなるまで必死に壁にしがみつく指先や、突き上げる度に嬉しそうに絡みつく内壁、呼吸を合わせるように揺れる腰が雄弁に語っていた。
「あ、ああっあ、あ、あ」
とん、とん、と浅いリズムで奥を捏ねれば憚る事無く蕩けた声が壁から跳ね返って来る。
悪く無い、と思う。
ただそこにあったから着せただけだった。別の物があれば迷いなくそれを着せていただろう。だがサイズの合わない黄色に着られて普段よりも幼く見える癖にめくれ上がった裾から覗く尻が、足が、艶めかしく震えているのが征服欲をそそる。ゆるゆると揺するリズムを崩さぬままに一房、髪を掬いあげてはそっと唇を押し付けた。きっと、ジャミルは気付いていない。
「そのシャツ、やるよ」
「っ……は……?…ぁ」
意味を理解せずに戸惑うような声にひそりと笑い、それからずろりとギリギリまで引き抜いてから一気に奥まで突き上げた。ただ、もらってくれれば良い。意味など考えなくて良い。
「――ッっんあああ、あっ」
上がる声を心地よく聞きながら細い骨盤を両手でしっかりと掴み、圧し掛かる。レオナの限界ももうすぐそこまで来ていた。

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オメガバカリジャミ

バイパー家に生まれたαはアジーム家当主の右腕となるべく育てられる。
バイパー家に生まれたβはアジーム家に仕える者となるべく育てられる。
バイパー家に生まれたΩはアジーム家の子を産む為に育てられる。

母もかつては現当主の兄にあたる男の為に集められたΩだったのだという。
その男は跡目争いの際に亡くなり、主を失った母を現当主の右腕であった父が引き取り、番となってジャミルが生まれた。
父にとっては初めての子だったが、母にとっては三人目の子。
顔も名も知らぬ異父兄弟達は、父親が亡くなったのを機に国外追放になったと聞いた。

幼少の頃から父に似て優秀であったジャミルはαであろうと誰もが思っていたし、ジャミル自身も自分がαである事を信じて疑っていなかった。次期当主の右腕となるべく教育され、いずれは家を継いだカリムの隣に立つのが当たり前の未来だと思っていた。
それが覆されたのは十二の時のに受けたオメガ性検査結果。
誰もがαだと思っていたジャミルの性別はΩ。
父は落胆し、母はジャミルが哀れだと泣き、カリムはずっと一緒に居られるのは変わらないと笑っていた。

その日からカリムを守る為、育てる為、支える為の術を会得する為の時間は全て、カリムを発情させ、悦ばせ、強い子を産む為の術を得る時間に変わった。
万が一にも間違えて番を作らないようにと犬のように首輪をつけられ、いつか来るヒートを見逃さないようにと毎朝メディカルチェックを受け、生殖機能のチェックも入念に行われた。
辛い、とは思わなかった。
漠然とした未知への恐怖はあったが、その時はまだαであることとΩであることの違いが良くわかっていなかった。
ひとまずヒートが来るまでは今まで通りにカリムの側に居ることを許されたと言うのもある。以前となんら変わり無く笑うカリムの側で今まで通りに世話を焼いていると、性別の差なんて大したこと無いのだと思わされていた。いつかこの子の子供を孕み産むのだと言われても、ままごとのような想像しか出来なかった。

初めてのヒートは十三の時に来た。朝目が覚めた時にはただ少しだるいだけで何とも思わなかったのに、医者に強制的に何処かの部屋に隔離されて昼になる頃には異常な程に発熱し、下腹部がじくじくと腐敗していくような痛い程の疼きを抱えて唸っていた。身じろぐだけでシーツに服に擦れる肌がぴりぴりとした快感を生み出し、疼きはどんどん強くなる一方で自分で自身を慰めるようになるまでさほど時間はかからなかった。好きに使いなさい、と与えられた男性器を模した玩具の中から使いなれた物を選んで疼く場所に押し込むと、訓練の時よりも余りにもすんなりと飲み込み走り抜ける快感に震える。どろどろに蕩けた場所が玩具に喜び絡みついているのが自分でもわかる。ちょっと揺するだけでも制御の効かない快感に支配されて何度も悲鳴を上げながら夢中になって玩具を動かした。
知識としては知っていた。実際に体感してもこの時はまだ、こんなものかと思った。毒の耐性を付ける訓練で似たような状況は何度か経験があったし、ヒートが終われば元に戻るという安心があったからかもしれない。
終わらない快感を延々と追い続けては体力が尽きて気絶するように眠り、合間に恐らくΩなのであろう大人たちに世話を焼かれる。水を飲まされたり、食べたくもない食事を口に詰め込まれたり、排泄までも面倒を見られた気がするが、ヒートの間のΩには必要な処置だと教わっていた為にあまり気にならなかった。それよりも体の疼きをどうにかしたくて恥じらいも無く彼らの前でも自慰に耽っていた気がする。もはや身体も思考もぐちゃぐちゃで理性も何もあったものではない。
このままおよそ一週間、独りこの部屋に閉じこもり、本能に身を任せてやり過ごしていれば終わると思っていたジャミルの前に、突然カリムがやってきたのは何日目の事なのかはわからない。
理性も無く乱れていたジャミルを無機質に世話した有象無象とは違う、強烈なαの匂いを纏った雄。
勉強が嫌いで、好奇心旺盛で、散々ジャミルは振り回されているのに憎めない、笑顔の絶えないカリムを弟のように思っていた。
カリムが初めて夢精した時だって無邪気に報告されて、そのあまりの邪気の無さに呆れてしまったくらいだというのに。
まだ幼い輪郭をしているのにその目だけが見慣れぬ情欲に濡れて光っていた。声変わりも終わっていない声がジャミルを呼び、捕食せんと伸ばされた手に震える。
それは決して恐怖等では無い、早く身体に「本物」を埋めて子種を残して欲しいという飢えからだった。
性欲とは無縁のような顔をして笑っていたカリムの笑顔が脳裏にちらついているのに、身体は関係なく涎を垂らしてカリムのペニスを求めていた。一刻も早くあれを身体の奥底まで埋めてぐちゃぐちゃになるまで掻き混ぜて欲しい、疼く柔らかな内側を食い荒らして種を植え付けて欲しいという欲だけで頭がいっぱいになる。
大雑把だが優しく面倒見の良いカリムが、力づくでジャミルを押さえ付けまるで獣のように犯す度にあられもない声を上げて歓喜し、数えられないくらいに達してなお求めていた。
この時初めて、Ωという生き物がどういう物なのか、ジャミルは身を持って理解し、そして絶望した。


それ以降はヒートになる度にカリムと二人部屋に閉じ込められ、獣のように交わる日々が続いた。
それが役割だと言われれば、諦める事は簡単だった。だが、ヒートが終わる度にボロボロになっているジャミルを見てカリムが自責の念で項垂れるのだけは哀れで見て居られなかった。
ヒートの間、カリムにされる事はなんでも気持ち良いとしか感じられないから気にしなくて良いと言っても、音すら出せない程に喉が枯れ、まともに歩けない程に足腰が言う事を聞かず、首輪の周りが真っ青になるくらいに何度も噛まれ血を滲ませているのを見ては「ごめんな」と大粒の涙を流して謝るカリムを、ただ抱き締めてやる事しか出来ない。
ヒートを終えてもジャミルが普段の生活に戻るには数日を要し、そうしてカリムの世話が出来るようになってもお互いヒートの時の事が頭から離れずにぎこちない空気が流れる。それも少しすれば慣れて、漸く元通りに笑い合える関係に戻れた頃にはまたヒートが来てしまう。
ジャミルは、仕方ない事なのだと割り切っていた。これが、バイパー家に生まれたΩの役割だと。
だがカリムはまだジャミルをΩとして扱う事に戸惑っているようだった。

何度目かのヒートの後、ジャミルは妊娠した。
それまでヒートの間はカリムとずっと一緒に過ごし、それ以外の半月程も今まで通りカリムの世話を焼く事を許されていたが、妊娠を機に殆どカリムと会えなくなってしまった。
ジャミルはアジームの血を孕んだΩとして丁重に扱われる代わりにカリムの世話も何もかも取り上げられて、ただ安静に大人しく過ごし無事にアジームの子を産む事だけに専念させられた。
代わりにカリムには別のバイパーが宛がわれ、ジャミルの代わりに世話を焼いていた。
一日に数度、隙間を見つけてはジャミルの部屋にカリムが訪れる時間が唯一、二人が共に居られる時間だった。今までほとんどの時間を共に過ごしていたことを考えると余りにも少ない時間。だがヒートが起きなくなった分、かつての頃のように穏やかな気持ちで会う事が出来たのは「幸せな時間」だったと言っても良いかもしれない。カリムが訪れる以外は他に何もすることが無くて暇を持て余していたというのもある。カリムも恐らくそれを察して、少しの時間でもジャミルの元を訪ねては今日の出来事、失敗談、楽しかった事等を話してくれた。少しでも楽しませようとしてくれる気遣いが、ジャミルには嬉しかった。
大きくなっていく腹を二人で撫で、一緒に名前を考えた。
恐らく、この子を二人で育てる事は周りが許さないだろう。それはカリムと彼の生母の関係を見て居ればわかる。
戸籍上のαの母親とは違い、実際に孕み産んでくれたΩの母親とはあまり会わせてもらえないのだと、関わる事をあまり良く思われていないのだと寂し気に笑っていたカリムを思い出す。親子三人で過ごせるのはきっと今だけだ。

そしてジャミルは子供を産んだ。カリムに良く似た女の子。
新しい子の誕生を喜ぶ声と共に、男子で無かった事を嘆く声も多かった。
カリムはいずれ王家の血を引くαの娘と結婚する事が決まっている。
α同士の結婚で子供が生まれるのは稀だ。その為に、ジャミルが居る。
カリムがジャミル以外のΩを抱く気にさえなってくれれば、ジャミルは「選ばれなかったΩ」の烙印を押されつつも今まで通りにカリムの傍にいられたかもしれない。
だがカリムは集められたΩに一切手を付けずに追い返したらしい。
それを喜べばいいのか、悲しめばいいのかはよくわからなかったが、ジャミルがせめて男子を一人産むまでは、きっとこの生活は変わらないのだろうと思うと少しばかり悲しい気がした。





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たぶん書かないので続きのメモ書きだけ置いときます




・カリジャミ+ジャミの代わりのカリム付きになったバイパー家の者(α)の三人でNRC入学
・主であるカリム、その従者のもう一人のバイパー、カリムの性欲処理係のジャミという役割でアジーム家はNRCに入学を許したけれど、なるべく友人として過ごしたいというカリムの小さな我儘を叶えて上げる&バイパー家の二人にも外の世界を満喫して欲しいと言われたのでジャミはお小遣いでサムのお店でヒート抑制剤を買うように
・副作用に苦しみつつもヒートが無い生活は平和で幸せ。けど素面でカリムと抱き合うのは初めてだしくっそ恥ずかしい。けどカリムが強請るからベッドに引き摺り込まれちゃう。お互いめっちゃ照れながらする。むしろジャミが恥ずかし過ぎて泣く。カリムにっこにこ
・二年生になって、下級生が出来た…と思ったらジャックがジャミの運命だった為に突然発情期入り、ジャックも引きずられて発情、とりあえずジャミ攫って寮の自室に籠ってにゃんにゃんしようとするのを(獲物は安全な場所で食べる派)なんとかレオナ先輩が阻止。アジーム家に手出したらどう考えてもヤバいだろ止めてくれ
・レオナのオメガバースは両性具有。どちらの器官も持っているけれど生殖能力は殆ど無いって言われてる。色々中途半端。
・ひとまず自分の部屋にジャミを避難させてお迎え待ち…してる間に、辛そうだったから発散に付き合ってあげるレオナ先輩。生殖能力無いって言われてるしって運命に会って完全に発情してるΩのフェロモンにα部分が引き摺られてしまってつい生ハメしてしまう
・無事ジャミル一発妊娠、カリムともしてたけれど発情期以外は殆ど妊娠しない筈(という世界)だから発情期にはしてなかったつまりレオナの子だろうって事はすぐにわかり……これからどうしよう


までは妄想してました

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9

今日一日の汗をシャワーで流し、さっぱりとした気分でベッドに突っ伏す。何も纏わない肌にひんやりと冷えたシーツが心地よい。枕に顔を突っ伏して深呼吸すればすぐに訪れる睡魔にくぁと欠伸を一つ。元より何処でもすぐに眠れるという自負があるが、自分の匂いが染み付いたベッドは特に駄目だ。縄張りの中でも最も安全な場所にいるという安心感ですぐに瞼が重くなる。ちらりと時計を見れば約束の時間まではまだ間がある。少しくらいならいいだろうと、もう一度欠伸を零すとそのままレオナの意識は眠りの中に吸い込まれて行った。


とん、と小さな足音を捉えて浅い眠りを漂っていた意識が覚醒する。開け放たれたベランダの方、獣人にしか拾えないような微かな音しか立てずに此処まで登ってこれる技量に内心で感心する。
一言も発しない侵入者の動きは微かな衣擦れの音と匂いで大体わかる。そのままどうするのかと様子を伺っていれば、無遠慮にベッドに近づき乗りあがった後、レオナの背にべったり張り付くように俯せに突っ伏して背中に顔を押し付けられる。何かあるのかと少し待ってみるも、そのまましがみついてじっとりと動かなくなってしまった。
レオナが寝ていない事はきっとわかっている筈だ。尻尾でぺすぺすと足の合間を叩いてみても反応は無い。図体こそでかいが、まるで普段騒がしく跳ね回る毛玉が拗ねている時を思い出すような姿。夜の気配を纏わせた体温しか寄越さないので内心何を思っているのかまでは全くわからないが。
「………しねえのか?」
体勢は変えないまま、静かに問うてみる。ジャミルがこの部屋に来る時、身体を重ねなかった事は無い。むしろその為に来ているのだと思っている。絶対にしなければ気が済まないという訳でも無いが、よくわからない状況で焦らされるのは好きじゃない。
「……する……」
どう聞いてもやる気があるとは思えないような、ぼそりと低く唸るような声が背中に落とされくすぐったい。両肘をついて身を起こし背中を伺うが、昼に見る時よりも緩い形に結われた髪しか見えなかった。
「……そんなんで出来んのかよ」
「……やる……」
「その気も無ぇやつとする趣味は無ぇ」
「……やだ……する……」
ぎゅうとレオナの背中にしがみつきぐりぐりと頭を押し付けられ、本当に毛玉を相手にしている時のようだ。それも眠い癖に遊びたいとぐずる時の、一番面倒なそれ。
「とりあえず一旦離れろ」
ぺすぺすと尻尾でジャミルの背を叩くが、ずりずりと嫌がるように首が振られ、ますますもって毛玉がぐずっているようにしか見えずに思わず喉奥に笑いが籠る。
「その体勢だと「抱っこ」してやれねえんだが?」
絶対離さないとでもいうような力でしがみついていたジャミルが止まる。あまりに素直な反応に、声を上げて笑い出したくなるのを口角を緩ませるだけに留め、暫し待ってやればもぞもぞと背中に張り付いていた温もりが離れてひやりとした風が通り抜ける。
ようやく身を起こして身体を反転してジャミルを見る。むっすりと口をへの字にして俯いていた。拗ねているようにも見えるがレオナに心当たりはない。どちらかと言えば、頭の回転が良すぎる為にぶち当たった理不尽の壁に文句をつける事すら出来ずに鬱屈を抱えているような顔。レオナにも経験があるだけに、同情めいた気持ちが沸いてしまうのは致し方ない。
クッションに背を預けて座り直し、ん、と両腕を広げてやれば迷いなくジャミルが首に腕を回しぴったりと抱き着いて来て、やはり普段の澄ました顔からは想像もつかぬほどに素直な行動に思わず笑ってしまう。まだ大人になりきらずすっぽりと腕の中に納まってしまう背を抱き締める。ついでに首筋に懐く頭の、髪の合間に覗く耳朶に口付け唇で食む。獣人と違い、薄く、程よい硬さを持ってひんやりとした感触が存外心地良く舌まで這わせればひくりと腕の中でジャミルが震えた。
「……したい、けど、動きたくない……」
「俺にご奉仕しろと」
「たまにはいいでしょ」
「高ぇぞ」
「俺のご奉仕だって本来、馬鹿みたいに価値高いんですよ」
「此処にいるのはアジーム家の従者か?」
「……名も無きビッチです」
「じゃあ、仕方無ぇからご奉仕してやるよ。出世払いでな」
「ビッチが出世したら何になるんだ……」
「――……第二王子のオンナ?」
ふは、と漸く笑ったジャミルをそのまま押し倒し、シーツに押し付けて余計な事を言われる前に唇を塞ぐ。
柄にもない事を口走ったとは思うが、ジャミルが笑ったのならまあいいだろうという気持ちになってしまうのがもう駄目だ。
これは恋ではない。
同情、連帯感、同じ暗がりで震える者同士が身を寄せあい熱を分け与えるだけの、何の生産性も発展性も無いいずれ消え行くだけの関係。
それでも、二人で暖まれるのなら良いと思ってしまう程度には大事にしていた。



――――――――――――――――――――



尊大でありながらも優雅。
無能に見えて、その実ただ爪を隠して怠惰を装っているだけ。
さも地位のある男特有の、ただマウントを取る為のようなセックスをしそうな見た目とは裏腹に、レオナの手付きは優しい。
口で態度でどれだけ嫌だと言って見せても、いとも簡単にジャミルの本音を汲み取り欲しい物だけを潤沢に与える。国での扱いはどうであれ、この男は確かに王なのだと思う。物心ついた頃から共に在る主にすら明かせないジャミルの内側を曝け出しても恥と思わない程度には、この男に腹を見せてしまっている。それを心地良いと思ってすらいるのだから救いようがない。
「ぁ、あ、も、やだぁ……ッ」
「嫌じゃねえだろ、てめぇの好きなトコだ」
三本差し込まれた指がゆるゆると柔らかくジャミルの弱い場所を撫でている。そのまま果てられる程の強さは無く、無視できる程には弱くない。じっくりと弱火で炙られるように、事前に受け入れられるように準備してきたはずの場所をしつこいくらいに捏ね回されて、もどかしさばかりが募る。
「せんぱ、……っ早く、欲しい……っ」
「まぁだ駄目だ。俺にご奉仕させてぇんだろ?」
「ちんぽください……っ」
「んな安っぽい台詞が俺に効くと思うなよ」
ぐ、と一瞬だけ強く擦られるだけで期待に背が撓るのに、それ以上はくれない。あと一歩、強い刺激をくれたらこの渦巻く熱を少しでも発散できる気がするのに、それをわかっている筈なのにまた泥濘のように蕩けた中をゆるゆると掻き混ぜる事しかしてくれない。
いつも他人と肌を重ねる時には常に理性があった。相手が望む姿を演じ振舞う為に、常に手放さずにしっかり抱き締めていた筈だった。いかに相手好みの振舞いをするかそれだけに意識を集中し、肉体が得る快感は理性の下にコントロールできるはずの物だった。
それがこの男の前ではどうだ、いつも隣にいてくれたはずの理性は飛び、どう演じればよいのかも分からずに戸惑う心ばかりが取り残される。ただ気持ち良い事を追い求める心ばかり育てあげられて何一つままならない。
男を受け入れる事に慣れた場所をただ指で撫でられ、肌を丹念に唇で辿られているだけだというのにどうしようもないくらいの焦燥感に追い立てられ、思いつく限りの媚びを売って解放を願っても鼻で笑い飛ばされる。
「イきてぇか?」
問われ、こくこくと何度も頷く。れおな、と強請るように呼んだ声は自分でも驚く程に甘く媚びていた。
「それいいな。もっと呼べよ」
「っれおな、……れお、な……れおな、……はやくっ……」
「早く?」
「犯して、」
「ご奉仕してる相手にそんなご無体出来ねぇな」
鎖骨に痛みが走る程に噛みつく男がそんな戯言をほざく。ジャミルばかりが追い立てられて余裕ぶった顔で嗤うのが腹立たしいのに、つい、見惚れる。熱っぽい吐息を吐きだしながらジャミルを見下ろすエメラルドに一度捉えられてしまうともう逃れられなかった。
媚びる為の言葉ならばいくらでも思い浮かぶのに、レオナに届く言葉がわからない。こんなにも身体は求めているのに、その一欠けらもレオナに伝わらない。否、伝わっているのかもしれない。わかっている癖にただ高みからジャミルを見下ろす瞳にこんなにも焦がれているのにどうにも出来なくてただ悔しさに視界が滲むばかり。男をその気にさせる術には自信があった筈なのに、いつもはレオナも乗せられたように振舞ってくれていた筈なのに、それを拒否されてしまったらジャミルには何も残っていない。
「お前は、本当に……」
ふ、とレオナの空気が緩むのが分かった。眉尻を下げ、幼子を相手にするように目尻に滲んだ涙を吸い取られ、あやすように頬に唇が触れる。
「……欲しいなら、愛して欲しい、って言え」
「やだ……っ」
理解するよりも先に反射的に拒絶の言葉が飛び出した。ただの戯言、実りの無いいつもの軽口なのだからさらりと同じような薄っぺらい言葉を返せば良いのに考える前に声が出た。心臓がどくどくと煩い程に跳ねている。まるでナイフを突きつけられているかのような緊張感に襲われ逃げ出したいのに濡れたエメラルドが見てる、たったそれだけで動けない。
「俺に、愛されたいと、言え」
「いやだ、……れおな、やだ……」
「俺は、お前にとって不要か?」
「れおな、……っっっ」
なんと、応えればよいのかわからなかった。何か、考えてうまい言葉を返さなければと思うのに頭が真っ白になって思考する事すら拒絶していた。考えては駄目だと身体が拒絶していた。それなのに目の前のエメラルドはジャミルを真っ直ぐに射抜いていて、悲しくも無いのにぼろぼろと涙が溢れるし心臓がずきずきと痛い。最早どうしてよいのかわからずレオナの名を呼ぶ事すら嗚咽に塗れて出来ず、縋るように背を抱き締める。
「――……悪かった。忘れろ」
頬に唇が触れた、と思った瞬間にはぐずぐずに蕩けた場所に待ち望んだ熱が埋め込まれ、びりびりと走り抜けるような快感に貫かれて背が跳ねる。
「――ッっぁ、」
涙で震えて息が出来ずに声すら巧く出せない。それなのに確かめるように緩く抜き差しをした後はすぐに肉のぶつかる音がするほどに腰を打ち付けられ、絶え間ない快感を逃す事も出来ずに身体が強張り高みへと上り詰める。
「――ッっんん、っんぅ、……」
僅かな吐息すらも許さないように唇を塞がれ舌が絡まる。頭のてっぺんからつま先までどろどろに溶けるような快感に溺れそうになりながら、ジャミルはただ身を委ねる事しか出来なかった。

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8

ベッドの上で怠惰に寝転ぶレオナの足の合間に陣取り、緩い熱を蓄えたまだ柔らかな塊に丹念に口付けを落として舌を這わせる。たっぷりと唾液を擦り付けるように大きく出した舌でなるべく下品に、水音を立てるようにしてやれば持ち主とは違って素直なそこがむくむくと膨らんで硬さを帯びるのが楽しい。
「お前、それ好きだよな」
「ほふぇ?」
のんびりとジャミルの頭を撫でていた手が耳の裏をそろりと撫でる擽ったいともむず痒いとも言い難い感覚に息を震わせ、ちゅうと先端に吸い付いてから唇を離す。
「舐めるの。それともそう躾られてるのか?」
レオナの眉がぴくりと寄せられ、手の中で熱が震える。その反応に満足しながら少し考えてみるも、よくわからなかった。
「そうかもしれない」
「難儀なこった」
「でも、言われてみれば確かに命じられてもいないのに、自然と咥えていたな」
普段、レオナから舐めろと言われた事は殆ど無い。そうしなければいけない決まりも無い。今までこれを好きとも嫌いとも考えた事は無かったが、自発的に舐めたいと思ったのだから好きといっても間違いでは無いのだろう。
「クソビッチじゃねえか」
笑う声に色が滲んで来ているが、続きをよりも会話を楽しんでいるようだったので硬さを帯び始めたそこを掌で緩やかにと撫で擦る。分厚い皮膚の内側でぽってりとした熱が育っている。これが、後でジャミルにも快感を与えてくれるのだと思えば、期待で自然と吐息が濡れる。
「レオナ先輩だって舐められるの好きでしょう?」
これ見よがしに大きく出した舌で裏筋をべったりと舐めあげてやれば耳を撫でていた指が止まり、息を詰める音。
「っ……まあまあだな」
「誰と比べてるんです?」
「……」
余りにもわかりやすくしかめっ面をするものだから思わず笑いが漏れる。お詫びの代わりに先端のつるりとした皮膚を舌先で擽り溢れた唾液を啜ると、綺麗に割れた腹筋が目の前で深い溝を刻んでいた。
「っ、てめぇこそ……誰に教わったんだよ」
「知りたいです?クソビッチの男遍歴」
「暇潰しくらいにはなるだろ」
「一晩じゃ語り尽くせませんけどね」
「ほんとにクソビッチじゃねえか」
手の中で育てられた熱はすっかり硬さを帯びている。っは、と笑う吐息にも似た熱が吐き出されるのを心地よく聞きながら、合間に幾度もキスの雨を降らせてやった。
「でもまあ……先輩の舐めるのは好きですよ」
「クソビッチのお眼鏡に敵うちんこだったか?」
「そうですね、自ら舐めてやりたいと思うくらいには」
「光栄だな」
ジャミルの人種とは少し違う形のそれ。硬さもジャミルが知るモノよりも硬くなりきらず、その代わりにむっちりとした熱の塊が柔らかく中を押し広げる時の事をふと想像してしまって知らず膝を摺り寄せた。早く息苦しいくらいの重量感に喉奥まで埋め尽くされたくて、溢れる唾液で口の中がじくじくしている。
「……本当に、好きでやってるんだな?」
不意に落ちる静かな声に、思わず見上げれば検分するような細められた双眸とかち合う。
この期に及んで、今更そんな事を聞くレオナに思わず笑ってしまう。傍若無人のエゴイストに見えてこれだからこの男は。
「――先輩のそういうところも好きですよ」
「……もう黙って咥えとけ」
本人なりに失言であったと照れているらしい。込み上げる笑いを隠し切れないまま後頭部を無造作に掴まれて押し付けられるそれを頬張った。


レオナの温もりに包まれながら、行為後の倦怠感を大事に抱き締めるように身体を丸める。身体はすっきりした筈なのになんとなく離れがたいこの時間が、ジャミルは嫌いではない。
「先輩の初めての男って、誰でした?」
黙っていたら間が持たないという訳でも無いが、こういう時はどうでも良い話がしたくなる。ふと唇を突いて出た問いだって、本当にただの思い付きだ。それなりにデリカシーに欠けた酷い問いだという事には口にしてから気付いたが、すぐにレオナ相手だからまあいいか、とどうでもよくなる。
「……物好きが何人も居てたまるかよ」
レオナの胸元に額を預けて懐いているから顔は見えないが、とても顰め面をしているであろう事は容易につく声。
「じゃあ、今までずっと……」
「お前はどうなんだよ」
思い浮かべた名前を唇に乗せる前に遮るようにして問われ、ゆるりと笑いつつも首を傾ける。
「……あまり覚えてませんね。名前も知らない相手だったので」
「はあ?」
「俺には物好きが何人もいたんですよ」
「なるほど。これ以上無いくらいわかりやすい」
レオナが何を察して何を思ったのかはわからないが、そっと抱き寄せられてぴったりと余韻を残した肌が密着し、体温が蕩ける。足を絡ませながらまだ湿った胸元に顔を押し付けて、汗と精の香りが残るレオナの匂いを胸いっぱいに吸い込むとジャミルまでもがレオナの一部になったかのような錯覚に陥る。
「……俺も、その物好きの一人か」
ぽつりと落ちる独り言めいたレオナの声に応える言葉を、ジャミルはまだ持ち合わせていない。
聞こえなかった振りをして、ただぎゅうと広い背中を抱き締めた。

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7

することをして、シャワーを浴びて、またベッドの上。
夜ともなれば涼しい風が通り抜けるサバナクロー寮では、レオナの身体の上にぺったりと俯せでくっついたジャミルの体温がちょうど良い暖かさだった。レオナの胸に耳を押し当てて心音を聞いている頭をのんびりと撫でながら、穏やかな時間の流れを噛み締める。
「……先輩、将来の夢、ありますか」
唐突な問いに首を捻る。
恐らくは、本気で将来の夢が聞きたいわけじゃない。レオナがそんなものを持ち合わせていない事なぞ百も承知の筈だ。
「……ツラと身体は良いけど中身最悪な男と二人で海辺の小さな家で静かに暮らす事だな」
「趣味悪……」
「照れるなよ」
「俺は中身も最高な男なので心当たりありませんね」
「何処がだよ」
くつくつとレオナの上の身体が笑いに揺れる。恐らくは、正しい回答が出来たのだろう。思いついた言葉を適当に並べただけの荒唐無稽な夢物語。以前ならそんな紛い物を語る事なぞあり得なかった筈なのに、ジャミルが部屋に訪れるようになってからつい誘われるままに空想する事が多くなってしまった。あまり良い趣味では無いとは思うが、そうでもしなければジャミルとの間には何も生まれない。そうまでして繋ぎ止めて置きたいと思う程度には、愛着があるつもりだった。
「じゃあお前の夢は何なんだよ」
「……顔と身体しか取り柄の無い男と何処か人気の無い……森の中の家とかで慎まやかに生きる事ですかね」
「真似すんなよ両想いじゃねえか」
「そうですね式はいつ挙げますか」
「明日でいいだろ」
「適当だな」
「仰々しくやって欲しいのか?やるぞ?国から正式にお前を嫁入りさせたまへ候って手紙出させるぞ?」
「勘弁してください」
「じゃあ明日な」
「……本当にするんです?」
「お前がいつやるかって聞いたんだろ」
「プロポーズされてませんけど」
「……俺がするのか?」
「したければ、どうぞ」
「遠慮する」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ」
「お前が恥ずかしがるだろ」
「臆病物」
所詮は戯言。わかっていてもその言葉には少々頭に来た。ジャミルの身体を抱え込むようにして体勢を入れ替え、至近距離から見下ろす。すっかりレオナの影に覆い隠されてなお揶揄するような笑みを浮かべるジャミルと視線を重ねて目を細め、牙を見せつけるように口角を釣り上げて笑う。
「てめぇは、俺のモンだろ」
「は、……」
それなりに気合を入れて低音を浴びせてやったつもりではあったが、想定以上に効果はあったようだ。はく、と言葉を失った唇が動き、そして逃れたいのに逃れられないとでもいうように揺れる瞳がレオナを見上げていた。わかりやすく言葉に詰まった顔。常の澄ました顔よりも随分と幼く見えて気分が良い。少しでも気を緩めればすぐさま尻尾撒いて逃げてしまいそうな獲物の両手を握りシーツに縫い留め、額を合わせて覗き込む。
「返事は?」
「……異議は、無いです……」
「なんだそりゃ」
それでもまだ抵抗しようとしているのか、不思議な答えが返って来て思わず吹き出す。
「……凄く悔しいし先輩の顔に苛々する……!!」
「んな真っ赤になりながら言われてもな」
「うるせえです」
抗議のようにじたばたと抑えつけた身体が暴れるが可愛い物だ。本人とてただ駄々を捏ねているだけで本気で抜け出そうとしている訳では無い。すべては茶番、朝になれば消える。
悔し気に眉を寄せて、うー、だか、あー、だか唸り声を上げる唇を唇で塞いでやれば、まるで待ち構えていたかのように舌が差し出されて逆に強請られる。なんだかんだとジャミルもこの茶番を楽しんでいるのだろう。素直な唇に免じて求められるがままに舌を絡ませ、存分に温もりを分け与える。性欲を煽る訳でも、欲のままに貪る訳でもない、穏やかに幾度も水音を立てながら呼吸を重ねていく心地良さを知ったのも、そういえばジャミルからだったなとふと思う。
「ふ、は……」
合間に密やかに漏れる喘ぎが空気を揺らす。抑えつけていた筈の指先が握り返されてじんわりと熱い。まるで一塊の別の生き物にでもなったかのように境界線が曖昧になっていた。
「ん、……レオナ先輩」
「あ?」
「左手、貸してください」
とろりと眼を瞬かせたジャミルに強請られ素直に左手を渡すと、そのまま手の甲が唇の辺りに寄せられ、そうしてちゅうと強く指の付け根に吸い付かれる。一度、二度、巧く行かないのか何度かレオナの手を見て様子を確かめながら吸い付いてはちくりとした痛みを齎す。何がしたいのかわからずにただ好きなようにさせていたが、数回吸い付かれて漸く満足気に解放される左手を見れば、薬指の付け根に随分と大きな痣が出来ていた。キスマークと呼ぶには随分と色気のない鬱血に首を捻る。
「婚約指輪の代わりに」
「ロマンチックなんだか物騒なんだかわからんな」
「俺の愛の結晶なんだからもうちょっと感動してくださいよ」
「ただの打撲痕にしか見えねえ」
「愛が足りないんじゃないです?」
愛、の余りにも白々しい響きに思わず二人で笑う。だが贈られたのならば返さなければならない。男として、王家に連なる者として、愛には愛を返すべきだろう。確かに受け取った証として、これみよがしにジャミルの目の前で婚約指輪とやらに口付ける。
「俺の所じゃあ、指輪を贈るような習慣は無ぇんだが」
それから、ジャミルの目尻に唇を押し付け、頬、顎、そして首筋へと滑らせる。清潔な水の匂いとジャミルの匂いが織り交じった香り。後で煩いだろうから痕は残さない程度に、けれど肌を余す事無く味わうように唇を、指を、舌を這わせて行く。
「その代わり、娶った女には違う贈り物をする。なんだと思う?」
唇は鎖骨を食んだ後に胸元に吸い付きながら指先は腰骨から足の付け根、その合間を通りつい先程まで散々味わった場所へとたどり着く。まだ柔らかいそこに指を一本埋めても簡単に飲み込んでゆるりと絡みつく粘膜。さすがに危機感を覚えたジャミルが、先輩、と咎めるような声と共に腕に触れるがもう遅い。
「俺の国ではな、娶った女には子供を作ってやらなきゃいけないんだ。意味は、わかるな?」
「う、っそだろ……もう今日は無理……!」
「せっかくお前に良いモン貰ったんだ、俺からの礼も受け取れよ」
「ゃっ……あ、っ無理だってば!」
「俺の愛が受け取れねえって言うのか?」
自分から悪ふざけを始めた手前、何も言えなくなったジャミルに勝利を確信して頬が緩む。すっかりと夜風に冷えたようでいて、蕩けたままの内側は未だに熱い。少し腫れぼったくも感じる粘膜に更に一本、二本と指を押し込んでやればずぶずぶと泥濘のように受け入れてきゅうきゅうと締め付けて離さない。
「ちゃんと、孕むまで愛してやるからな」
「………ッくそ、」
小さく毒吐くのすら心地良く、込み上げる笑いで肩を揺らしながら再び唇にかぶりつく。今度は先程までの微温湯のような優しさでは無く、欲のままに貪る勢いで口内を荒してやれば、動きを止めるべく腕を掴んでいた指先が首の裏へと回されて引き寄せられるままに体重をかけて圧し掛かる。
まだ、朝が来るまでは時間があった。

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