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空箱

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妊活

※結婚してるレオジャミ
※ジャミルが後天的に女体化


首から下腹部までなんの引っかかりも無く撫で下ろせるほどに平らなライン。少し胸を突き出してみた所で肋骨の骨の影が浮くだけで余計な脂肪は一切ありませんと言わんばかり。身長が縮んだばかりか肩幅も腰幅も狭まり、男であった時よりもさらに凹凸が無くなってしまった気がする。十年前くらいの妹がこんな体型だったような覚えがあるが、つまりは幼児体型、と呼ばれるものなのでは無かろうか。そのくせ、乳輪だけはぷっくりと膨れて存在を主張し、男の時には普通に見えていたはずの乳首が膨れた乳輪の中に埋まっている。
「おい、落ち着いたか?」
部屋の外からのレオナの声に我に返ったジャミルは、反射的に目を見開いたまま凝視していた鏡から顔を上げて扉へと向かう。正直なところ、一人で現状と向き合える気がしなかった。慣れない位置にあるドアノブを勢い良く押し開け、そのままレオナに飛びつこうとした。が。
普段なら目の前にはレオナの首から鎖骨辺りがあった筈だった。だが今視界を埋め尽くすのはレオナのみぞおち辺り、胸筋と腹筋が繋がり複雑な陰影を刻む肌。思わず足を止め、顔面を探して顔を上げれば、首が痛くなるほどに高い所から綺麗なエメラルドの瞳が困惑したようにジャミルを見下ろしていた。
「………これはまた……随分と縮んだな?」


レオナとジャミルが結婚して数年。そろそろ子供を、となった時、同性同士での子供の作り方は数多にあれど、ジャミルが暫くの間女性の身体に変身する方法を取る事になったのはお互い良く話し合った上での事だった。男性の身体のまま子供を宿す器官を新たに作り出す方法と共に伝統的な手法として広く知られるこの方法ならば安全性が高い事が一番の理由。二番目の理由は純粋なる女体への興味。
元々男でも細身な方ではあったから肉感的な女性になれるとは思っていなかったが、さすがに此処まで酷いとも思っていなかった。
再び全身を映す鏡の前に二人で立つと、背後のレオナの影にすっぽりと収まってなお余るくらいでジャミルの小ささが際立つ。
「……この身体でその気になれます……?」
随分と甲高くなってしまった声は自分でも驚く程に不安で揺れていた。レオナの親族の女性は流石レオナと血の繋がりがあるだけあって、女性としての魅力に溢れた人ばかりだった。その目の肥えた男の前にこの身体はあまりに貧相だ。
「お前であればどんな見目だろうと興奮する。……それよりもだな」
ジャミルの背後からただじっと鏡を見据えていたレオナが屈み込むと軽々と横抱きに抱えられる。あまりにも簡単そうにするものだから、まるで荷物にでもなったような気分だ。首筋に腕を回せば寄せられた唇が挨拶代わりに啄まれる。唇すらもいつもよりも違う感触のようで不思議な気分だった。そうしてまじまじと視線を重ねてから、レオナがゆるりと眉尻を下げて笑う。
「まずは、肉食って太れ。さすがにこの身体で子供を産ませられねぇ」
「やっぱりその気になれないんじゃないですか」
「違ぇよ」
ジャミルを抱えていてもレオナの歩みは軽かった。ベッドまで運ばれシーツの上へと下ろされると覆い被さる身体の大きさがまざまざと見せつけられる。
「ヤりてぇのは山々だがな、その華奢な身体で腹にもう一人抱えたら共倒れしかねないだろ」
「俺より小さい母親なんてザラにいるでしょう?」
「細すぎるって言ってんだよ。出産は体力勝負なんだろうから、まずは体力つけろ」
頬を撫でる掌はジャミルの首を容易く片手で折れそうな程に大きい。確かにレオナの心配は理解した。自分でもこの華奢な身体に命を宿せるというのはいまいちピンと来ない。まだ変身したばかりで見慣れないせいもあるだろうが、頼りないと思うのもわかる。だが。
「……………じゃあ、俺が太るまでは、してくれないんですか?」
自分の唇から出た聞き慣れない声があからさまに拗ねた音になっているのを他人事のように聞く。未知の体験に不安が無かったわけではないが、それでもジャミルとてそれなりに楽しみにしていたのだ。
「するのは構わねぇ、というよりはヤりてぇんだがな」
そう言って身を起こしたレオナがおもむろにスウェットをずり下ろす。下着も履いていないせいでぼろりと零れ落ちるのは見慣れた筈のレオナの、まだ柔らかいモノ。
「え……おっきい……」
「入ると思うか?コレ」
コレ、と。腹の上に乗せられたものすら男の身体であった時よりも大きく見える。感覚的には普段の臨戦態勢にまで膨らんだ時のサイズだが、現実にはまだ萎えた状態のまま。つまりは、これが最大サイズになった時は小さくなったジャミルの身体の半分くらいまで易々と貫いてしまうのではないかと思うとぞわりと肌が粟立ち、今までとは違う腹の奥深くがきゅうきゅうと疼く。多分、これは期待。疼く場所に触れてもらう気持ち良さをジャミルは知っている。
「……入るか否かじゃなくて、入れるんですよ」
「たまに馬鹿みたいに脳筋になるよな、お前」
くは、と笑ったレオナがスウェットを脱ぎ捨てると改めてジャミルの上にのしかかる。いつもと違い過ぎる状況に、初めてレオナと身を重ねた時のようにわけもなくどきどきした。
「じゃあ、まあ、覚悟して受け入れろよ?」


どこもかしこも細くて繊細な生き物になってしまったジャミルの肌を全身くまなく、それこそ足の爪の先まで丹念に指と舌で辿り熱を灯す。これがジャミルだと知らなければ、こんな幼い身体に欲情するのは変態のクソ野郎だと軽蔑していただろう。舌で触れるだけでもわかるほど薄い皮膚の下には骨の感触。出る所も引っ込む所も無いまっすぐなライン。立派な成人男性が欲情をぶつける相手では無いと頭ではわかっているのに、それがジャミルだと思うだけで身体は素直に反応するのだから正直なものだ。性欲とは無縁だと言わんばかりの身体のくせにレオナを知り尽くした瞳が、手が、慣れた手管でレオナを誘えば抗えない。匂いは確かにジャミルなのに強烈な雌の匂いが混ざっていればなおさら。
「れお、な……も、やだぁ……ッ」
狭い癖に溺れる程に蜜を溢れさせる場所を啜ってやるだけでジャミルの身体がびくびくと跳ね上がる。どろどろに蕩けているはずなのに無垢な場所はレオナの指をやっと二本受け入れられるようになっただけで、痛い程に昂ったままお預けを食らわされている物を入れれば双方痛みを伴う事だろう。
「お腹、奥がぎゅううってしてるんです……はやく、入れてくださ……」
「此処だろ?」
男を受け入れる事も出来ていない癖に下りてきている子宮口を捏ねてやれば悲鳴を上げてジャミルが仰け反りまた達したようだった。戦慄く粘膜の強い締め付けを指で味わう事しか出来ない虚しさに余計に下腹部の痛みが増した気がした。
「っひ、……ぅ、も、入れてくださいぃ……」
「入るわけねぇだろ、狭すぎる」
「痛くても大丈夫ですからぁ……っ」
「俺は嫌だ」
「じゃ、じゃあお尻の方で……」
「そこは本来入り口じゃねえんだよ」
一度やり遂げると腹を括ったジャミルの強さは美点だと思ってはいるがこんな時には邪魔なだけだ。そこが愛しいと思うのも事実ではあるのだが。
レオナは息を一つ吐くとかぶりついていたジャミルの足の合間から身を起こし、ジャミルの上に覆いかぶさるとジャミルの手を自らの股間へと導いてやった。熱く昂るその場所にはジャミルの細くなってしまった指先がひんやりと感じた。
「ひ、」
「入ると思うか?コレ」
小さくなったジャミルの手では余る程の大きさのソレの凶悪さは十分に伝わったらしい。息を飲んだまま固まってしまったジャミルにほっと息を吐く。
「……せ、せめて舐めたいです……」
「ああ、それは頼む」
申し訳ないとばかりに小さな掌がレオナを撫でる、その感触だけでもずっと我慢させられていた場所が暴発してしまいそうになるのを細く息を吐いて堪える。思うような性交が出来るようになるには、まだ暫く時間がかかりそうだった。

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バトル

「あ……先輩ごめんなさい……っ」
振り返るジャミルの瞳孔が開き切っているのを認識すると同時に後ろへと飛び退ると、たった今レオナが立っていた場所で空気を切り裂くかまいたちが一気に破裂する。落ち着く間も無く距離を詰めるジャミルを交わしながら先ほどまで二人で対峙していた敵の姿を探せばどこかへと逃げ去った後だった。せっかくここまで追い詰めたというのに悔しいが、此処でうっかり敵の罠にハマり洗脳されているジャミルと共に襲い掛かられてはレオナとて対処しきれない。
「っっぶねぇ!!!」
よそ見した事を咎めるようにレオナの目前すれすれをジャミルの拳が横凪ぎに払われる。ただの拳だけであれば、ジャミルの動きは素早い物の軽いので受け止めれば良い。だが恐らく、長めの袖口には毒入りの刃が仕込まれている筈だ。掠るだけで容易くレオナの自由を奪うだろう。
自分のパワー不足を熟知したジャミルは素早い動きで敵を翻弄しながら幾度も浅い傷から毒を塗り込み行動不能にするスタイルを取る。力で傷つける事を目的としない為に踏み込みも浅く、力を溜める動作も殆ど見られず、まるで踊るようにレオナを追い詰めて行く。逆にレオナが何か行動をしようと踏み込めば容易く懐に潜り込んで来るだろうと思えば強引に動きを止めにかかるにもそれなりの隙を伺わなければならない。
「っんと敵に回すと面倒臭ぇなあテメェは!」
踊りの振りの一つのようにレオナの首へと伸ばされた腕をなんとか掴むも、それを待っていたかのように捕まれた腕を視点にぐんとレオナの懐に潜り込んだジャミルに、思わず反射的に風の魔法をぶつけて押し退ける。いとも簡単に宙を舞った身体はしかし、器用に空中で風を操り体勢を立て直すとふわりと地面に着地した。ひたりとレオナを射る眼が虚ろに見開かれているおぞましさに思わず顔を顰めつつ舌打ちを一つ。
「テメェ正気に返ったら覚えてろよ……!」

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あけおめ

あ、と。
あえかな吐息交じりの声がひんやりとレオナの聴覚に触れ、ぬかるみのような快感の中から理性を思い出させる。どうしたと問う代わりに、纏う汗すら残さず味わうように舌を這わせていた肌から顔を上げてジャミルを見下ろせば、快楽に蕩けた瞳が緩い弧を描いてレオナを見ていた。その満足げな顔に誘われるまま、少し干からびた唇を潤すように幾度か啄む。んふ、と待ち望んでいたかのような、吐息すら飲み込み同じ体温の舌を食むだけで、奥深くまで突き入れた場所がきゅうきゅうと締め付けられレオナも深く息を吐く。背を抱いていた指先がさも愛おしいと言わんばかりにレオナの肌に張り付く髪をかき上げ、髭が生え始めたざらつく頬を撫でていた。目と目を合わせ、肌の内側がさざめくような幸福感に満たされながら、言葉にせずとも全てを委ね、そして委ねられているような陶酔を噛み締めてようやく、思わせぶりな薄い唇が開かれる。
「あけましておめでとうございます」
一瞬、色欲に浸りきった脳では異国の言葉のように聞こえた。あけましておめでとうございます、もう一度心の中で繰り返し唱えてようやく意味を理解し、思わず片眉を上げる。
「……今言う事か?」
「だって、ほら、年が明けたの、本当についさっきなんですよ」
ジャミルの目が動く方を見れば確かに時計は0時を20分程過ぎた所だった。年号が変わることよりも、ベッドにジャミルを引き摺りこんでからもうそんなに時間が経っていたことへの驚きの方が強い。此処までレオナが没頭していたというのに、ジャミルは時計を気にする余裕があった事が面白く無くて、レオナを暖かく包み込む場所を揺する様に捏ねてやれば容易くジャミルが喉を晒して鳴いた。
「ずいぶんと暇にさせたみてぇで悪かったな?」
「ふ、そんなこと言ってないじゃないですか」
少し突くだけで簡単に快楽に飲み込まれるほどに蕩けている癖に、まるで保護者のような顔で年下の男が笑う。
「ただ、去年は日付が変わった事に気付く余裕もなかったなあって思って」
確かに去年の今頃はこんなにまったりと溶け合うようなセックスではなく、互いに奪い合うような激しい行為で貪っていた気がする。気付いた頃には外が明るくなり始め、ジャミルの喉は枯れ、お互い体力を使い果たして気絶するように眠り、そのまま一日中ベッドの中で元日を過ごした。
「……嫌だったか?」
「まさか。最高でしたよ。次の日の事を考えなければ」
そうしてねだるようにジャミルの腕がレオナの首に絡みつき引き寄せられる。結局、言葉を取り繕っても物足りないという訴えに違いないことにひそりと笑いながら、レオナはジャミルの足を抱え直した。
「あ、でも流石に歩けないのは困るので加減してください」
「それは自力でどうにかしろ。ぶっ飛んだら延々とねだるのはテメェの方だ」

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つづかない

これのつづかない続き

部活を終え疲れ果てた身体で何よりも安全が約束された筈の自室の扉を開けた瞬間に香る、思考を乱す不快な甘い匂い。過去に一度しか嗅いだ事の無い匂いではあるが、その強烈な匂いは違えようも無い。
「はっ、二度と同じ過ちは犯さないとかなんとか言ってた癖に結局オネダリに来たのか?」
匂いの元のジャミルは大した面識も無い他寮の寮長部屋に不法侵入を果たしたくせに、扉脇の冷えた石造りの床の上で蹲っていた。汚物に触れるように爪先で脇腹を小突いても小さく呻き声をあげるだけで荒い呼吸に丸めた背中を泳がせている。前回のように何の抑制もされていない状態よりは大分マシだが、到底日常生活が常と変わらずに送れる状態には見えない。今回もまた薬を飲むのが遅れたか、それとも効きが悪くなったか。どちらにせよ、レオナには迷惑以外のなにものでもない。
「それとも本気でガキでも作りに来たか?たかだか商人の従者殿のお眼鏡に適って光栄だが生憎と俺は、」
「違い、ます……!」
地の底から絞り出したような掠れた低音が足元でとぐろを巻いていた。ぬらりともたげた頭がレオナを見上げ、発情しきった相貌に擦りきれそうな理性を残した瞳。
「不躾なお願いとは、重々承知しています……レオナ先輩の、服を、ください……」
そう言って食い縛られた歯は、荒れ狂う欲を抑える為か、それとも。
可愛げの無さを鼻で笑いながらレオナはジャミルを置いてベッドへと近付き汗の染み込んだ運動着を脱ぎ捨てて行く。別に言われるがままに服をやるつもりはない。単純に着替えたかっただけだ。
「番でもねぇのに巣作りごっこか?アルファならテメェの傍にちょうど良いのがいるだろうが」
「カリムでは、効果が無くて……」
「だからって俺以外にもアルファなんざ、」
「レオナ先輩のが良いんです!!!」
真っ直ぐにレオナを見上げ吠えるジャミルはなけなしの理性の皮を被っただけの餓えた野生の獣のようだった。以前のように暇を持て余しただ惰眠を貪るだけであったなら構ってやっても良いが、此処はレオナの褥だ。安全が約束された場所で無ければならないこの部屋に理性を乱す異物が存在するだけで苛立ちを覚えるには十分だ。前回が特例だっただけで。
「一回抱いてやっただけでもう番ヅラか?気持ち悪ぃ」
「俺だってアンタみたいな人に頼むなんて嫌だった!でも俺はアンタしか知らないから!」
「はっ、あれがハジメテだったとでも言うのかよ」
「そうですよそうじゃなきゃ誰がアンタなんかの……!」
つづかない

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年齢逆転

※一年生レオナ×三年生(ただし年齢はさらに一つ上)ジャミル


入学式も三回目となれば慣れたものだ。
長々と新入生の入寮先が決められる風景を来週一週間の献立を組み立てながらぼんやりと眺め、スカラビアに入る者と事前情報のあった要注意人物だけ記憶の中に留めて行く。
子役で有名なヴィル・シェーンハイトはポムフィオーレへ。何万年に一人の美少年だなんだと持て囃されていた彼ならば妥当な結果だろう。
魔法工学の分野で静かに噂になっているというイデア・シュラウドはイグニハイドへ。頭脳明晰であるのならスカラビアに来てもらいたいという気持ちはあったが、実際のイデアの陰気な姿を見ればイグニハイドしか無いというのが良く分かった。
妖精族の王子だというマレウス・ドラコニアと、その王子と随分親し気に話すリリア・ヴァンルージュは揃ってディアソムニアへ。正直、王族なんてややこしい存在がスカラビアに来られても面倒なだけなので他の寮にさえ行ってくれればそれで良い。
それから、もう一人夕焼けの草原の王族であるレオナ・キングスカラーはサバナクローへ。がさつな者が多いかの寮で、ヴィル・シェーンハイトに負けず劣らず愛らしい姿をした彼は王族である以外にも余計な揉め事を引き寄せそうだなと他人事ながら思う。まあ、ジャミルには関係の無い事だが。


中略


確かに顔は好みだった。女性であれば成長した頃に恋をしたかもしれないと思う程度には。
だが同時に弟のようだとも思っていた。学年で言えば二つ、年齢で言えば三つも下となればどうしても幼く見えてしまうのは仕方のない事だろう。この年頃の三歳差はとても大きい。
だから、膝を貸せよ、と上級生に向かってふてぶてしく命じ、そして今すやすやとジャミルの膝の上で幼い寝顔を晒すレオナに欲情を覚える日がくるだなんて、思ってもみなかったのだ。
入学式での印象を裏切り早々にサバナクロー寮を掌握したレオナは半年も経つと成長期を迎え随分と男らしくなっていたが、ジャミルに比べればまだまだ線が細くどこか危うげに見えて庇護欲をそそる。その上、王族らしく高慢な物言いをしつつも美しいエメラルドの瞳が上目遣いでジャミルを見る、年上の男への甘え方をよく知る手管にまんまと乗せられてしまった。
ただ甘やかし守ってやりたいというだけであれば妹と同じである筈だ。ジャミルは妹がたとえ全裸で目の前にいようと、はしたないとは思えど欲情はしない。しかしレオナに対しては、ジャミルのことを腹黒だ陰険だと罵る癖に無防備に身を預けて眠るようなこの寝顔一つで落ち着かない気持ちにさせられる。
目の前の男がただ無償の愛に身を捧げる優しいだけの人間ではないこともわからないような子供だと頭ではわかっていても、まだ柔らかさを残す頬が、穏やかな寝息に薄く開かれた唇が魅力的な物に見えて仕方ない。
「……油断してると食うぞ」
そう、ぼやいては見るも、ジャミルのこの恋は誰にも知られぬまま終わるだろう。なにせ相手は王族だ。従者である自分が手を出したなんて知られたら国際問題になりかねない。
せめても、と。ジャミルには、柔らかな髪を撫でる事しか出来なかった。


中略


「人を部屋に呼びつけるならちゃんと服を着ろと何度も言ってるよな?」
扉を開けるなり目に入った光景にジャミルは辛うじてげんなりした顔を作って見せる。そうでもしなければ理性を保てそうになかった。
辛うじて下着だけは纏っているものの、子供から脱却しつつあるしなやかな身体が無防備にベッドに投げ出されていた。これがジャミル以外の、例えばサバナクローの多少腕に覚えのある男ならば簡単に凶行に走ってしまいそうな魅惑的な光景。
「テメェ相手に気を使う必要ねえだろ」
当の本人と言えば、くぁと欠伸を零しながら呑気なことをのたまう。その信頼がジャミルの優越感をくすぐると共に、一番に気を使うべき相手だと全く理解されていない失望を齎す。自分がどれだけ魅力的で年上の男の心をくすぐるかを知っている癖に、それがどれほどの危険を伴っているのか全く理解していないレオナに腹立たしさすら感じていた。
「何故、そう思う?」
うつ伏せに寝そべるレオナの隣に腰を下ろす時に軋むベッドの音がやけに耳に大きく届いた。恐らく、ジャミルは緊張している。だが、レオナは思い知るべきだ。
「テメェの心配は見当違いだって言ってんだよ、この木偶の坊」
そう言って、はしたなく大股を開いてジャミルの脇腹をつま先で小突くレオナに、見当違いはどちらの方だと呆れるやら、可愛いやらで小憎たらしい。
「何が、どう、見当違いなんだ」
上半身に比べてはしっかりとした足首を捉え、無造作に引き寄せてから強引にレオナの身体をひっくり返し圧し掛かる。ともすれば、今にも挿入する寸前のような性行為を匂わせる体勢だと言うのに、レオナと言えば瞳を輝かせてジャミルを見上げていた。
「逆に聞きてぇんだが。テメェは何をそんなに心配してやがる」
さらには体の細さに見合わぬ大きく胼胝のある掌がジャミルの頬を撫でる。男に組み敷かれていても意にも介さず、それどころか誘うようなその手管にふつりとジャミルの血管が切れる音がした。
「だから、お前は自分がどれだけ人の目を惹きつけるのか理解しろと――っ」
普段ならばジャミルと対等に舌戦を繰り広げられるレオナと言葉を交わすのも楽しみの一つだが今はその手間をかけるのも煩わしい。実際にどうなるのかわからせる為に、頬を撫でる手を捉えてシーツに縫い付けて顔を寄せ、唇を重ねる。重ねた筈、だった。
「―――っっっ!!??」
夢にまで見た柔らかな感触は一瞬だけ。ぐん、と身体が浮く感覚に目を見開けば、気付いた時にはジャミルがシーツに背をつけ腰に跨るレオナを見上げていた。
「テメェは、俺に、惹かれたんだな?」
咄嗟に身を起そうとしても、胸に置かれたレオナの掌一つでシーツから離れる事が出来なかった。見た目こそ華奢な美少年である為に忘れがちだったが、レオナは一年にしてサバナクローの寮長であることを不意に思い出す。
「答えろ。お前は、そういう目で、俺を見ていたか?」
見下ろすエメラルドが獲物を狩る獣のように煌々と濡れていた。失敗したのだと、ジャミルはようやく理解する。教育の為に、という言い訳があったとしても、身分知らずにも王者に手を出そうとした不届き者は処分されるだけだ。
「ジャミル。答えろ」
断罪者はせっかちにもジャミルの上に体重を乗せて圧をかけて来た。端から叶わぬ恋だとわかっていた。実る事は無い儚い物だとわかっていた。欲を掻けば身を滅ぼすだけだと、重々承知の上だった。ならば、罪を問われた以上、罪人は自ら罪をつまびらかにすべきだろう。どうせ終わりになるなら全てぶちまけてやりたいという投げやりな気持ちもあった。
「ああそうだよずっとお前のことが好きだった!」
叫ぶように告白したジャミルを前に、レオナの綺麗な顔が年相応にあどけなく、だが雄の香りを纏わせて喜色を滲ませて口角を釣り上げていた。

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