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空箱

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骸を抱く

王の私室の、その奥。王のみが入る事を許された特別な部屋。
魔法によって隠された唯一の入口は王の証たる指輪を持つ者にしか開かれない。
窓一つ無い、薄暗く四角い部屋の中。
ぼんやりとした薄明りに照らされた室内には、肌触りの良いラグが一枚敷いてあるだけだった。その上で猫のように丸まって眠る褐色の肌。両手足首に拘束と生命維持の両方の機能を兼ね備えた金色の装飾具を巻き付けただけの姿でレオナは眠っていた。
近付き、横へと腰を下ろして穏やかな寝顔を撫でればゆっくりと瞼が持ち上がる。眠気を纏わせた眼がゆっくりと数度瞬き、そうして訪問者に気付くととろりと蕩けた笑顔を見せる。
「兄さん」
恋人でも呼ぶかのような甘い声で囁き、伸ばされる両腕。今は、その辺りの年頃か、と一人納得しながら腕の中に身体を収め、そうして背中を抱いて膝の上に乗せる。
「兄さん、待ってた」
「……うん」
「兄さん、好き」
「うん」
「兄さん、しよ」
「うん」
ただ無機質な相槌を打つだけで幸せそうに微笑み、自ら首に縋りついて唇を食むレオナにかつての面影は無い。ちゅうちゅうと幼子のように唇に吸っては差し出される舌を気紛れに食み、啄んでやるだけで気持ちよさそうな息を漏らしてもっとと強請るように身体が擦り付けられる。
「おにいちゃん、れおな、ちゃんと良い子にしてたよ」
「うん」
「ごほうび、ちょうだい」
「うん」
甘く濡れた低音には不釣り合いな幼い言葉が強請り、腿に擦り付けられるレオナの股間が早くも硬く熱を持っていた。痩せて枯れ枝のようになったレオナとは対照的に、太くしなやかな筋肉を纏う腿にゆるゆると擦り付けては一人で快感を拾い集めて喉を鳴らす。はやく、と訴えるように髪を引かれ、引き摺り倒そうとする力に抗わず、レオナを押し倒して覆い被さる。
「っは、んん……」
顔を傾け、深く舌で口内を探ってやればそれだけでさも気持ちが良さそうにエメラルドが蕩けていた。なるべく、余計な感情を持たないようにしながらそっと肌を撫でる。すべらかな肌はかつての美しいラインを失い、ごつごつとした骨を浮き上がらせていた。仰向けになるだけでべこりと凹む腹を撫でて下腹部へと手を伸ばし、硬く立ち上がって震える物をそっと指先で撫でる。
「っっぁあ、あ……もっとぉ……」
語尾にハートマークでもついているのではないかと思うくらいに媚びた甘い声。お望み通りに掌で包み、ゆるゆると扱いてやるだけでびくびくと身体が跳ねていた。
「あっあ、あ、ぁ、あ」
恥じらいなく上がる濡れた声が悲しい。手の中で大きくなるものは優しく擦り上げるだけでとろとろと先走りを溢れさせて掌を濡らして行く。そっと塗り広げるように掌で撫ぜられるだけでは足りないとばかりにレオナの腰がかくかくと前後に揺すられ、自ら擦り付けては甘い声を上げて鳴く。あともうすぐで達するだろう、という頃。
ざくりと、頬に走った熱。レオナに引っかかれたのだと気付いたのは、そこから温かい液体が垂れ落ちたからだった。
「っい、嫌だ、兄貴、やだ……ッやだああ!!」
先程まであれだけ甘えて懐いていた身体が突如がむしゃらに暴れ出す。組み敷かれた場所から逃げようとむやみやたらと暴れる手足を、放って置く事だって出来た。むしろ、そうしてレオナが望むまま、レオナから離れた場所で落ち着くまで待ってやるのが、本当は正しいのだろう。
だが、拒絶する事だけは許せなかった。処刑される筈だったレオナを此処に匿い、生き永らえさせているのは自分だ。王以外が入れないこの部屋でも生きられるように高名な魔法士を呼び、自死や自傷を禁ずる魔法や生命維持に必要な水分や栄養を体内に転送する魔法、更には髪や爪の手入れも不要になるように幾重にも魔法をかけさせた。
そうまでしてレオナは生き永らえたいとは思っていなかっただろう。けれど、そうまでしてレオナを手に入れたかった。
やっと、こうしてこの部屋に閉じ込める事が出来たのだ。今更逃がすつもりは無いし、拒む事は、許さない。
必死で遠ざけようと暴れる細くなった手首を掴み、ラグに押し付ける。ついでに骨の浮いた骨盤の上へと腰を下ろせばいともたやすく動きを封じる事が出来た。
「いや、だ……!離せぇ……っっ」
藻掻く力は、弱い。レオナの頭上で両腕をまとめて片手で押さえつけたって軽々と抑え込める程に儚かった。最後まで抗うように暴れる頭を押さえ付ける為に片手の中に簡単に収まってしまう細い顎を掴み、すぐ間近から見下ろす。
「レオナ」
今日初めて名前を呼べば、嫌悪を剥き出しにして睨みつけていたエメラルドからふつりと色が消え、信じられないものを見たかのように眼を見開いた後に、ぼろりと、涙が溢れる。
「あ、ひ、……ごめ、……なさ……」
「……うん」
「ごめん、なさぃ……兄貴、ごめんなさい……ッ」
「うん」
ぼろぼろと涙を流しながら幼子のように泣きじゃくるレオナの頬に、頬を伝い顎から垂れた赤がぽたりと落ちては涙に紛れて滲んで消えた。かつての凛々しく美しかった顔をぼろぼろと溢れる涙で濡らし、恥も外聞も無くぐしゃぐしゃに歪ませて泣く姿は酷く、愛らしいと思う。気付けば股間が熱を持ち、服の中が窮屈でずきずきと痛かった。手と、顔を解放してやり、骨盤の上から下りると無防備に投げ出された足を抱え上げ、下肢を寛げて取り出した熱を、尻の狭間へと押し付ける。
「ごめんなさ……ッひぅ、ごめん、なさ……ッ置いてかないで……ッ」
「うん」
乾いた場所を、力ずくでこじ開ける。反射的に逃れようとのたうつ腰を押さえ付けて、無理矢理中へと昂りを押し込めて行く。
「ぃっっ、ああああああああああ!!!!あにき、っぁ、あ、置いてかないで……ッやだあ、っあう、あ、あ、っごめんなさい……ッあ、ああ、あ……ッ置いてかないで!!!!!!」
「うん」
痛みにか、溢れる感情にか、がくがくと跳ねる身体の奥深くまで貫く。仰け反る背中が痛々しいまでに肋骨の骨を浮き上がらせていた。狭い胎内がぎちぎちに締め付けて、痛い。
「っああ、あ、あああ、ああああああ!」
強引に浅く何度か揺すっていれば、そのうちレオナの中は濡れて来る。少しずつ湧き出るようなその滑りを広げるように幾度も腰を押し付けては引き、徐々に動きを大きくして行けばぐちゃぬちゃと泡立つ水音が響き始め、ただ悪戯に締め上げるだけだった粘膜が絡みつくようないやらしさへと変わって気持ち良い。それから、辺りに広がる血の香り。正直、興奮する。か弱い身体は自分を犯す者の肩に縋りつく事しか出来ず、断続的に体を跳ねさせながら獣のような慟哭に身を震わせていた。
何よりも大切で、愛しいレオナの額に、頬に口付けを落とす。酷く、穏やかで、優しい気持ちだった。誘われるままに幾度も強く腰を打ち付けながら、そっと耳元へと唇を寄せて、囁く。
「でも、父さんを殺したのは貴方だよ、叔父さん」

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0721の日

今日は、一日大事な会議をするから。
そんな言い訳一つで普段纏わりついている側近も、身の回りの世話を焼く為に控えている召使も、なにもかも全部部屋の外に追い出して。代わりに小腹を満たせる程度の軽食やフルーツ、一日の喉を潤せるだけの水からアルコールまでたくさん用意させたから、部屋から一歩も出ずとも過ごせるようになっている。重要な事を話し合うからと、こちらから呼ぶまでは何人たりとも扉を開けるな、と国王陛下直々に命令を下し、そうして漸く、一カ月ぶりの国王と宰相の二人だけの休日が始まる。
王の執務室の奥にある王専用の仮眠室は、有事の際に広い城内を移動せずとも生活が出来るようにと一通りの物が揃っている。その滅多に使われないベッドに昼前から縺れ合い、絡み合い、まずはこの一カ月に溜まった物をぶつけあう。噛みつき引っ掻くような荒々しさで痛いくらいに飢えていた腹を満たしたら、少しだけ休憩を挟んだ後に物足りない分を補うようにもう一度。
部屋の外では、国王と宰相がクソ真面目な顔をして真剣に国について熱い議論を交わしていると思われているのだろうに騙す事になるのは悪いとは思うが、こうでもしなければ国を担う二人が真昼間から睦み合う機会なぞ無いに等しい。
真実を誰にも知られて居ないとはさすがに思っていないが、様式美、というのは何処でも必要だった。
枕に頬を預け、腰を抱えられたまま背から圧し掛かる兄の重みを噛み締める。ぴったりと重なる肌が汗で滑り、兄の鍛えられた筋肉の隆起が背中の上で波打っていた。二戦目を終えて、ひとまずの飢えは収まった。髪をかき分け、晒された項を丁寧に舌と唇が愛でるのを受け止めながら、はふ、と息を吐きだす。身の内に埋められたままの塊は力を無くしても存在を主張し、柔らかなそれでゆるゆると内側を撫でられると余韻の残る身体に染み渡るような心地良さを齎した。漏れる吐息を枕に押し付け、蕩けた場所を捏ねられて身の内に宿る熱を煽られる感触に酔う。くふんと知らず甘えるような吐息が漏れて、腹の中ではたっぷり吐き出されたものが泡立ち、卑猥な音を立てていた。
「……は、零れちまう」
とろりと、縁を伝い落ちる感触があった。そろりと伸ばした指先で、足の合間から繋がった場所を辿る。めいっぱいに押し広げられた縁を慰めるようにそっと撫でるだけで、兄が腰を引く度にに掻き出されたものがとろとろと指を伝い、手の甲までを濡らした。気紛れに埋まる兄の物の根元を擽り、溢れた体液を二本の指の腹で拭い集めてから身を捩じり、兄から良く見えるように大きく舌を出して掌を濡らす液体をべったりと舐め取る姿を見せつけてやると、レオナの腹の中でぴくりと大きな物が跳ねていた。笑みを象りながらも食い入るように見つめる兄の視線が心地よい。掌から、手の甲、手首まで垂れ落ちた白濁を、はしたなく伸ばした舌先で追いかけて舐め取り、こくりと飲み下す。まだ濃い、兄の味。二本の指に絡み付いたものは指の合間まで舌を絡ませてから、ずっぽりと根本まで唇の奥に埋めてしゃぶり、一滴たりとも逃さぬように啜る。ゆっくりと唇で絞りあげて、最後に爪先が離れて行く時に、ちゅ、と名残惜しげな水音が響いた。
「……レオナ」
溜め息のように呼ばれ、熱い掌に手首を取られて兄の顔が近付き、唇が触れる、という時だった。
こちらからの音は漏らさないが、外からの音は良く通る魔法をかけられた外からのノックの音と、急ぎ陛下に報告したい事が、と緊張した声が届く。
空気一枚だけを挟んで止まっていた唇が押し付けられ、そうして同時に吐き出された溜め息が混ざりあう。レオナを包み込んでいた温もりが離れてしまい、ひやりと触れた空気の冷たさに身が竦んだ。
「すぐに戻る」
そう言ってもう一度唇を啄まれた後、ずるりとレオナを満たしていたものが抜け落ちてしまうと急に寂しさが募る。仕方ない事とは言え、応えないわけにもいかない。支えを失った身体をシーツに泳がせて身を丸める。兄の残り香を抱き締めていたかった。手早く身だしなみを整える兄をぼんやりと眺めていたら慰めるようにそっと大きな掌に頬を愛しげに撫でられ、そうして国王陛下に戻った背中が足早に去って行ってしまった。
一度扉の向こうに消えた兄が帰って来るのは思いの外、早かった。期待に身を起こしかけたレオナに、だが兄は苦く笑う。
「少し、時間をくれ」
「俺は必要か?」
「いや、私だけで大丈夫だ。休んでいると良い」
レオナの機嫌を取るように頬を撫でられ、そうして唇が重なる。ゆったりと絡み合う舌の温度は温い。離れていた僅かな間に冷えてしまったものを暖めるようにとろりとレオナを溶かして、それなのにもっと先を強請るように差し出した舌はそっと啄まれただけで離れてしまう。
「すまないな」
謝るくらいならそんなもの放り出して自分の傍を離れるなと我儘を言ってやりたい気持ちは、ある。だがそれを言えるだけの若さはもう無かった。ん、と小さく頷いてやれば、ほっとしたように兄は笑い、そうして執務室へと帰って行く。
一人残されたベッドの上。休む、と言っても、体は疲労よりも物足りなさに疼いている。手の届く場所に置かれた瓶を適当に手に取り、直接口をつけて中の液体を喉に流し込むがそれくらいで誤魔化されてくれはしない。代わりに、ほろりとアルコールが臓腑に染みた。
することもなければ、したいこともない。そうしたらレオナに出来ることと言えば眠りの世界へ逃げ込むことくらいしか思い付かない。
羽織り忘れたらしい兄のガウンを手繰り寄せ、顔を埋めて思い切り息を吸い込むと濃い兄の香りに包まれる。ぎゅう、とそれを腕に抱き締めて、溜め息一つでレオナは目を閉じた。
目を覚ましたのはそう遠い時間では無かったが、すっかり体は冷えていた。兄の姿は、無い。時計を見れば一時間ほど寝ていたようだった。予想よりも長い時間一人にさせられた事に、知らず眉間に皺が寄る。
少し、時間をくれと言っていた。
少し、と言うには十分な時間が経った筈だ。
言われた通りに少し待ってやったのだからもう、良いだろう。ただ一人で待つのにはもう飽きた。
気だるい身体を起こし、すっかり汗も乾いた肌に抱き締めていたガウンを羽織る。レオナとて立派な成人男子である筈なのに、ぶかぶかと色んな場所が余ってしまうのに鼻を鳴らす。
ベッドから下り、裾を引きずりながら執務室へと続く扉を開けると、兄は一人デスクに向かって真剣にペンを走らせていた。レオナに気付きもせず、国王陛下の顔で政務に励んでいる姿は殊勝だが、未だに終わる気配が無いのを見れば不満しか感じられない。
そろりと近付き、真正面からデスクへと寄りかかればようやく気付いた兄が顔をあげ、レオナを見ては困ったように笑った。
「……すまない、思ったよりも手間取ってしまった。やっと目処がついたから、」
言い訳が聞きたいわけじゃない。完全にデスクの上に尻を乗せ、ぐるりと向きを変えれば尻やら足の下敷きになった書類がぐしゃりと悲鳴をあげていたが知った事ではない。向かい合い、兄を見下ろす高さから、広い肩へと裸足の足を乗せる。一瞬、呆気に取られたようの兄の瞳が、レオナと、目の前で恥じらい無く開かれ晒された足の間を見比べた後に好色に緩む。肩を踏む足に触れようと足首が捕まれ、唇が寄せられるのを軽く蹴り飛ばしてやった。
「終わるまで、触るんじゃねえよ」
「意地悪を言わないでおくれ。これでも努力したんだ」
懲りもせず足の裏を救い取られ、爪先に、甲にと口付けられる。まるで傅くようなその光景はレオナの心を満たした。請うように肌の上を滑る唇に、爪先で踏みつけれるように押し込めば躊躇い無く口に含まれ、分厚い舌が指の間まで念入りに舐めしゃぶるものだから肌がぞくぞくと粟立つ。親指から小指まで、一本ずつ唾液をまぶし、卑猥な水音を立てながら啜られると本気で強請りたくなってしまう。ぐい、と兄の顔面に足の裏を押し付けて、遠くへと退けるように蹴る。この国の王の顔を足蹴にしても許されるのはきっとレオナだけだろう。無残に足の裏で高い鼻が潰されているというのにふふ、と笑う吐息が足の裏に当たって擽ったかった。
「……終わったら、な」
「……努力するよ」
降参とばかりに兄が両手を上げるのを見届けてから、顔を踏んでいた足を再び肩の上へと乗せる。濡れた感触を拭うようにそっと足で肩から胸元をなぞれば熱を宿した瞳がゆるりと笑い、そうして再び手元へと視線を落としてペンを走らせ始めた。そうしてしまえば結局、暇を持て余すのはレオナだ。自分で兄を払い退けたくせに、レオナを見て居ないのが気に食わない。だがこれ以上邪魔をしていては結局、焦らされるのはレオナでしかない。
思いついた、というよりは、無意識に自分の指を舐めていた。デスクの縁に片手を付いて身体を支えながら、使い慣れた右手の人差し指と中指で唇の薄い皮膚をなぞり、そうっと奥まで差し入れたっぷりの唾液を絡めて濡らす。微かな水音に、手元へと視線を向けたままの兄の耳がぴくりと震えていた。上顎の、奥の方を爪の背で擦れば、気持ち良さは余り無いがどろりと口の中に粘度の高い唾液が溢れる。兄の大きなもので苦しい程に口を満たし、喉の奥まで突き入れられる時の事を思い出すとそれだけで喉が締り、んん、と鼻から期待したような息が零れた。口の端から溢れるままに零れた唾液が手首を濡らし滴る程に存分に濡らした後、はあ、と熱に濡れた息と共に指を唇から抜くと、兄が、見て居た。羽織った物の滑り落ちて腕に引っかかっているだけのガウンを絡ませ、はしたなく大股を開き、政務に励む兄の前で発情するレオナを、飢えた目が見て居た。自然と口角が吊り上がってしまう。
濡れててらてらと光る手を、思わせぶりにゆっくりと足の間へと運べば兄の視線がついてくる。すっかりとペンを動かす手は止まっていた。つい一時間前まで兄を口いっぱいに咥え込み、まだ閉じ切らずにひくつくそこを中指でそっと撫でればこくりと唾を飲む音が響く。
「ん、……」
自分では、触り慣れない場所。縦に割れた場所にそっと指を押し当てれば呼吸をする度に吸い付いて来る感触が面白かった。呼吸に合わせて自分の指を食むそこを爪先でほんの薄く引っ掻くだけでじっとりとした熱を帯びる。期待に浅くなりそうな呼吸をゆっくりと吐き出し、少し力を籠めるだけでするりと指が飲み込まれ、自分の内側の感触を知る。暖かくて、滑っていて、柔らかい。物足りなくてもう一本指を差し入れてももっと太くてたくましい物の味を知るそこはいとも簡単に根本まで深く飲み込んで、指の間を開く余裕すらあった。
「あ、」
とろりと、内側を伝い落ちる感触。それは開かれた穴の縁から溢れて尻の下に敷いた書類を汚した。
「レオナ、……」
押し殺した兄の声は、もう止めろと咎めているのか、もっと続きをと渇望しているのかわからなかった。ただ、レオナだけを求める瞳が疼きを癒してくれた。
「っは、……んん、……」
指で穴を広げたまま、下腹に力を込めていきむとどろりどろりと粘度の高い物が伝い落ちては書類の上に積もる。ヒクつく自分の内側の感触なぞ初めて知った。いきんで、その後は息を吐いて力を抜いて、ゆっくりと交互に繰り返せば面白いくらいに後から後から白濁が溢れて止まらない。二度の行為でどれだけ中を満たしたのかと思わず吐息が笑いに揺れた。
「……レオナ、余り煽るな」
深い溜息のような声が唸る。いつも兄には翻弄されるばかりで、奥歯を噛み締めて堪えるような姿は余り見れるような物じゃない。
「兄貴が、早く終わらせればいいだけだろ」
「あともう少しだから」
「早くしろよ」
ぐるると唸りながら兄が再びペンを走らせ始める。紙を引っ掻くような荒れた音が兄の中に蓄えられた熱量を知らしめるようで思わず唇を舐める。
「……大人しく待っててやるから、左手、貸せよ」
右利きの兄ならば問題無いだろうと強請れば、今にも噛みつきそうな眼をした兄と視線がかち合い、少し逡巡した後に左手が差し出される。
「これ以上、煽るなよ」
釘刺す声からして相当に追い詰められているらしい。がり、と、強すぎる筆圧が今にも紙を破いてしまいそうなのがレオナの頬を緩ませる。
「アンタが早く終わらせないのが、悪い」
「なるほど。これは罰か」
「そうだな」
御納得いただけたようで、とにこりと笑ってやってから、受け取った左手の、掌を上にしてデスクへと押し付ける。手の甲をぴたりとつけたまま、人差し指と、中指を折り曲げ天井を指すような形にしてから一度、その二本をまとめて掴み、太さを確認する。まあ、こんなもんだろう。膝でにじり寄ればデスクに乗っていた書類やら何やらが無造作に落ちるが、そんなものを気にしてやる義理も無い。今書いている書類さえ無事ならば文句はつけられないだろう。
そうして兄の手を跨ぐように膝をついて、尻の真下にある二本の指をしっかりと握って支え、その上へとゆっくりと腰を下ろして行く。れおな、と縋るような声が聞こえたが知らぬふりをした。
「ん、……は、やっぱ、兄貴の指の方が、気持ちぃ……」
太く、骨ばった兄の指を、柔らかいそこはずぶずぶといとも簡単に飲み込み、いとも簡単に根本までを収めて掌の上にぴったりと尻をつけて座る。腰を前後に揺すれば太い関節がごりごりと中を擦って気持ち良い。
兄は、既にレオナを見てはいなかった。指をレオナの中に埋めたまま、何も見ない振りで一心にペンを滑らせていた。ちらと覗いた文章の内容からして、もうそろそろ書き終わるだろう。きっと、あともう少し。もう少し待てば、欲しい物が貰える。
「っふ、……ッぁ、あ、……あ、」
そのくせ、レオナの中の指が、そっと粘膜をなぞるように蠢く。一刻も早く仕事を片付ける為に集中していますと言わんばかりの顔をしながら、レオナの弱い場所を折り曲げた指が撫ぜて反射的に跳ねた身体がまた一つ、何かをデスクから物を落とし、絨毯の上を転がる音がしていた。
「ぁ、あふ、……っぁ」
指先に、間接に、押し当てるように揺れる腰が止まらない。レオナよりもレオナの内側を知り尽くした指がただ前後に動かしていただけで良い場所に当たるように折り曲げられていて、レオナが押し付けるタイミングに合わせて擽られたり、強く捏ねられたりと予測のつかない動きで翻弄する。止まれば容赦なく良い場所ばかりを引っ掻かれ、腰をくねらせればうねる胎が勝手に指を食い締めてレオナを高みへと連れて行こうとする。前後に尻を擦り付けていた動きが、次第に上下に揺れる動きへと変わっていた。兄の、太い関節が入口の薄い皮膚の内側を引っかけるのが好きだった。ぐぽぬぷと卑猥な音を立てながらごつごつとした関節が縁の内側を容赦なく抉り、尻尾の先まで痺れるような快感が走り抜ける。
「っは、……終わったぞ、レオナ」
とん、とサインの後に一度紙にペン先を押し付けた兄が、漸く顔を上げてレオナを見る。その顔は笑っていたが、瞳に宿る熱は人を食い殺そうとでもしているかのようにぎらついていた。今にも喉仏を噛み千切られそうな程の、強い視線にぎゅうぎゅうと中が締って兄の指を食み、ぞくぞくと期待に肌が粟立つ。
「このまま指だけででイかされるのと、腹の奥に種付けされてイくの、どっちがいい?」
滅多に聞かぬ、兄の下品な言葉にぞくぞくが止まらない。そんなもの、勿論答えは決まっていた。

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夢見た未来

※二人とも妻子が居ます
まだ正式に跡を継いだわけでは無いが、次期当主としてアジーム家の実務に関わるようになり、隠居の準備に入った現当主に代わって一族の顔となりつつあるカリムの側近を務めるジャミルの毎日は忙しい。今まで通りカリムの身の回りの世話に加えてビジネスの場でのフォローもある。従者の中でも高位に位置するようになり、屋敷内の事にも携わるようになった。公私共にカリムに捧げる生き方は結局今も変わらない。だが、それでも十分幸せだった。幸せだと思えるようになった。
カリムは魔法士養成学校を卒業してすぐに王家の血族の娘を嫁に迎えた。ジャミルはその娘の従者の女を娶った。二人とも親の決めた結婚だったが、不満は無かった。むしろ婚約を申し込みに行く日まで会った事すら無かった筈なのに、まるで最初からその為に生まれてきたかのようにぴったりとジャミルの横に隙間も余分も無く嵌った彼女は、もはや手放せないかけがえのない人になっている。それは勿論、二人の間に生まれた愛しい子も。
生涯の伴侶を得て、そして子を成し家庭を持つようになるとジャミルの目に映る世界は変わった。それはカリムも同じだったようで、かつては主だ従僕だ、友人だのそうではないだのと争った物だが今ではすっかり戦友のような間柄になっている。背中を預けるに足るという信頼。この男になら背中を預けたいと思う信用。生まれた時から育んだ絆のお陰か、後継者として商いをするようになったカリムと、心から生涯をカリムの為に捧げると誓ったジャミルがアジーム家の中心となって動くようになってから、一族はより一層栄えている。
幸せだった。充実していた。
カリムと共に世界を相手にして戦い、家に帰れば愛しい家族がいる。
それ以上に何を望む物があるだろうか。


今日は遅くなってしまったから、とアジーム家の本邸に宛がわれたジャミルの私室に戻る。少し歩けば同じ敷地内に家族が眠る自宅もあるが、今日はなんとなく、妻の横では寝れない気がした。それは予感だが、確信に近い。
仕事をする為に用意されているこの部屋に、ベッドなぞ無い。広く使いやすいデスクと書棚が三つ、クローゼットが一つ、それからソファとローテーブルがあるだけの簡素な部屋。それでも、一従者の部屋としては破格の物だ。カリムが次期当主として認められて来た事によって、従者の扱いも大分変ってきている。ジャミルが此処まで重用された事により他にも実力でのし上がる者が出てくる事だろう。それは同時に余計な諍いを生み出す危険を孕んではいるが、悪くは無いと思う。少なくともジャミルは、漸くありのままに生きることが出来るようになり、ありのままの世界を愛せるようになった。
窮屈な布地に指を引っ掻けて首元だけ緩めると疲れた身体をソファへと身を横たえる。度々訪れては仕事の話をするために何かと長居するから、とカリム自ら選び、勝手に置かれたソファはこういう時に有難い。それなりに上背のあるジャミルが寝転がっても何処もはみ出る事無く、体重を受け止めるクッションは柔らかすぎず、硬すぎず、次の日に腰が痛くなることも無い。
時計を見ればまだ日付を跨ぐ前だった。普段ならば限りある時間を無駄にしたくなくてこれ幸いとばかりにもう少しだけ仕事を片付けてしまおうとしていただろうに、素直に横になっている自分に、笑う。クッションに顔を埋めてゆっくりと深呼吸を一つ。熱砂の夜の空気が疲れた身体に染み渡る。身を丸めて瞼を閉じれば、普段は足首につけたまま体温に馴染み忘れ去られていた細いチェーンがさらりと静かに主張していた。



再び目を開けた時、ジャミルは砂漠の真っ只中にぽつねんと立っていた。
右を見ても、左を見ても、空と砂しか無い世界。雲一つない夜空には満天の星が煌き、ありえない程に大きな満月が煌々とジャミルを照らしていた。頬を撫でる風は、温い。何も無い砂漠の夜だというのに、恐怖は一つも感じられず、むしろ帰るべき場所に来たかのような安心感だけがあった。
さくり、さくりと砂を踏み、歩き出す。行く当てなどないが、辿り着いた場所が目的地だ。迷いはなかった。
浮世離れした世界をのんびりと歩いていると、やがて少しだけ周りよりも高い砂の山のてっぺんに不自然に絨毯が敷かれていた。砂に足を取られ登るのに難儀しながらもなんとか辿り着き、大の大人が何人も寝転がってもまだ余るような広さの絨毯の上へと腰を下ろす。緩やかに風は吹くのに砂粒一つ纏わりつかない、心地よい空気、真正面には大きな大きな満月。一番最初に此処へ来た時は見慣れたベッドがある、いかにも一つの目的だけに用途を限られた光景だったというのに、随分とロマンチックになった物だと笑ってしまう。
足を投げ出し、後ろに手を付いて身体を支え、寛ぐ。気付けば履いていた靴は無く、素足だった。裾から覗くアンクレットが静かに月明かりを反射していた。
どれほどそうしていたかはわからないが、遠くの砂の上にぽつりと一滴の緑色が落ちた。
ぽつり、ぽつり、降り始めの雨のようにあちらこちらに落ちた緑は音もなく静かに何も無い砂漠に面積を広げて行く。それと同時に緑に塗り替えられた場所から数多の植物が芽を出し、暗い夜空へと向かって枝葉を伸ばして成長しては色とりどりの花を咲かせていた。気付けばジャミルの居る砂山のすぐ後ろにも広がった緑が立派なジャングルを形成し、乾いた空気に青々とした自然の香りを漂わせている。穏やかで美しい緑の風景。きっと、彼も平和に歳を重ねているのだろうと人知れず微笑む。
さくり、と砂を踏む足音を耳にしてそちらへと視線を向けると、そこには想像通りの、否、想像よりも随分と優しい顔で笑うレオナが居た。体格こそ以前とさほど変わらないだろうに、纏う空気が、大きい。甘く、危うげで気だるげな色気を漂わせていた顔が、すっかり地に足のついた大人の色気へと変わっていた。
「ご無沙汰しています」
絨毯に辿り着き、遠慮なくジャミルの隣に腰を下ろしたレオナへと向けて笑う。ああ、と応えたレオナは、だがジャミルを見ると変な物でも見たかのように片眉を上げ、そしてジャミルの顎を指先で捕らえる。
「なんだその髭。似合わねえ」
消せ、と。ジャミルが応える前に親指がジャミルの顎髭を一撫でし、そうして戻る指でもう一度撫でられる頃には最近になって伸ばし始めた髭の感触が消えていた。
「俺は老け顔だと思ってたんですけど、最近若く見られる事が多くて。カリムよりも年下だと思われるんですよ?だから生やしたんですけど……似合いません?」
「ああ」
「自分では結構気に入ってたんですけどね」
「俺は好きじゃねえ」
「我儘」
そうして、目が合って、ふは、と同じタイミングで笑う。触れるか触れないか、そんな距離に座ったレオナが同じように素足を投げ出し、そうして後ろ手について身体を支える。その手が、ジャミルの手の上に重なっていた。ジャミルよりも大きくて高い体温がじんわりと沁み込む。
「……今回も、随分と間が空いたな」
「二年、くらいですかね。前回、カリムの六人目の子供の話しましたっけ?」
「五……六……?どうだったろうな。カリム似なのに気が強くて手がつけられない女の子だったか?」
「それは二人目です」
「聞いちゃいたが、アジームはすげえな」
「一応、本人も余り兄弟を増やしてやりたくはないらしいんですけどね。可哀想な境遇の女の子を見てしまうと、駄目らしくて」
「片っ端から嫁にしてるのか」
「ええ。それで、嫁に迎えたからには子供を作ってやらないと立場が無いからって、結局子供を増やして」
「相変わらず苦労してるんだな」
「もう慣れましたけどね」
そう、もう慣れた。カリムの優しさは、誰かに抑制出来るような物ではない。それが時に人を傷つける結果になるかもしれなくても、カリム自身が深い傷を負うとしても、カリムは立ち止まらない。自らの足で立つ事を覚えたアルアジームはいつだって希望に満ちた顔で前を向いていた。ジャミルに出来る事はそれを陰から支え、見守り、少しでもカリムが笑って生きていける事を願うだけだ。笑顔の仮面で心を隠していた男が、漸く自分の意思で差し出した手を咎めるような野暮はもう、しない。
「そういえば、先輩の所の娘さん、いくつになりました?」
「来週で六歳だな。マセガキで手がつけられねえ」
「女の子の成長は早いって言いますからね」
「それにしても、だ。もうチェカのお嫁さんになるとか言い出してやがる」
「あっは、父親の楽しみを殿下に奪われたんですか!?」
「別にそれは構わねえんだが、チェカもチェカで娘にべたべたでな。馬鹿みたいに猫可愛がりしやがるからアイツが勘違いするんだ」
「滅茶苦茶嫉妬してるじゃないですか!」
「してねぇよ」
憮然とした横顔は、少し、学生時代のレオナを思い出す。重なった掌の、指の合間をなぞる指を挟み込み、そっと肩に頭を預けた。思い出よりもずっと厚みがあり、安定感がある。こつりと、そのジャミルの頭に触れるレオナの頭が預けられ、随分と伸びた髪がふわりと流れて重なった掌を擽っていた。
話題なら、いくらでもあった。二年の間に笑い話になるような出来事は山ほどあったし、家族の事だって、同じ子を持つ父として愚痴やら惚気やら事欠かない。妻の事を語らせれば、ジャミルだって自分の妻が世界で一番良い女だと胸を張って言えるが、レオナの砂を吐くのではないかと思えるくらいの甘い惚気話を嫌という程に聞かされて腹が捩れる程笑った。あの、レオナ・キングスカラーがまさか自分の妻を女神とまで称え崇め奉る未来が来るなどと、あの頃は思ってもみなかった。
そうしてふつりと、まるでレコードの再生が終わった時のように声が途切れる。唇を開けば言葉を紡ぐ事は出来るが、しようとは思わなかった。満ち足りていると思った。もう、二人の間にある空白を埋めようと躍起になるような歳では無かった。飢えを満たす逢瀬から、幸せを分け与える為の逢瀬になったのだと思う。それがとても誇らしく、そして少しだけ寂しい。
気付けば大きな満月はとうに二人の頭上を通り越し、砂と緑の入り混じる地平線の向こうがほんのりと明るくなっていた。
重なった掌が、表皮をそっと引っ掻くように、撫ぜていた。水分を失い、硬くなった皮膚が、名残惜しいとでもいうようにジャミルを撫ぜていた。それだけで十分だ。
見上げれば、穏やかな、深みを増したエメラルドがジャミルを見て居た。目尻に笑い皺が出来た、愛する妻と子供を持つ男の顔。ジャミルも同じ顔で笑っているのだろうか。きっと笑っているのだろう。
笑みを深めたレオナに手首を掴まれて、引かれる。決して強くはないその力に身を委ねてレオナの足を跨ぐとそのままぺたりと身体を預けて押し倒す。すぐに背が抱き締められ、懐かしい体温に包まれる。此処でしか息が出来ない時間があった。此処にいる時だけが、ジャミルで居られる日々があった。けれどもうこの腕の中で息をする事は出来ない。何よりも安らぎを得ていた筈のレオナの体温が、遠い。せめて、今だけはもう少し傍に寄り添いたくて、ぎゅう、と抱き締める。
「……今、お前は、幸せだな?」
慰めるように髪を撫でられ、歳を重ねて甘さの中に渋みを帯びた低音が穏やかに問う。首筋に懐くようにこくりと一つ頷けば、身体の下で緩く笑う吐息が零れた。
「レオナも、幸せだろ?」
「ああ」
問い返せば、深い溜息のように染みる声が陶然と答えた。思わずジャミルも笑う。身を起こし、レオナの身体の上を這い、広がるブルネットの海に手を付いて見下ろす。記憶よりも削げた頬を指先でそっと撫でれば喉でも慣らしそうな程にエメラルドが緩んでいた。
「……もう、捨てた方が良いと思います?」
聞いてから、少しだけ後悔する。余りにも無粋だった。けれど気になっていたのも事実だった。もはや二人に必要が無い物なのだとわかっていたのにこうして見つめあう事が許されているのはただの甘えであり、惰性であるとわかっていた筈だ。少しだけ考えるように目を細めたレオナが、同じようにジャミルの頬を撫でる。大きな掌に頬を押し付けて甘えるのが、ジャミルは好きだった。
「……要らないと思ったら、捨てれば良い」
そのまま指先はジャミルの髪の中へと潜り込んでぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。結わいていた髪が引っ張られ、乱され、まるで犬扱いだ。そんなので喜ぶ筈も無いのに、なんだかおかしくて声を上げて笑う。そうすると、髪を乱していた掌がぐ、とジャミルの後頭部を掴み、引き寄せ、こつりと額が重なった。間近のエメラルド。吐息が触れる距離で、視線が重なる。
「俺は、いつまででもテメェの幸せを願ってやるよ」
そう言って、長い睫毛が下りてエメラルドが隠された。触れた額から何かを通じ合わせるような、穏やかな祈り。ジャミルも両手でレオナの頬を包み込み、瞼を閉じる。
「……俺もですよ」
もうすぐ、朝が来る。



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それを思いついたのは、レオナの卒業を一カ月後に控えた頃のこと。
レオナとジャミルは、お付き合いをしている。と、周りには思われているが、それはある意味で正しく、ある意味では間違っている。
レオナとジャミルは、お付き合いの真似事をしているが、それはレオナの卒業と同時に終わりを迎えるような儚い関係である、というのが正しい。
そもそも惚れた腫れたなんて話をジャミルとした事は一度もない。気付いたらそんな関係になっていた。思ったよりも居心地が良かったから、そのままずるずるとレオナは手を伸ばしたし、ジャミルはその手を拒まなかった。それだけの話だ。
情は、ある。
惚れてる、と言っても過言では無いし、同じだけの想いをジャミルがレオナに向けているだろうことはわかっていた。触れて、抱き寄せて、身体を重ねて、じゃれる事もあったし、喧嘩だってした。けれど、想いを言葉で伝える事はしなかった。出来なかった。
所詮、二人は帰る場所が違う。互いよりも大切な物があった。大切な物の為ならば簡単に切り捨てる事になるであろう相手に、今までの人生を捨てて傍に居ろなどと言える筈も無い。終わりが見えているものを愛でられる程、まだ二人は強く無かった。



だから、卒業と同時に絶つ筈だった縁を繋ぎ留める物を贈ろうと思いついたのはほんの気紛れだった。
ジャミルは二年次のウィンターホリデー以降、随分と呼吸がしやすくはなったようだが、レオナの傍ほどに寛げる場所まだ見つけられていないようだったから。
仮にも先輩であるレオナなら、学年トップ争いに食い込む程の実力を持つジャミルの勉強の相談にも乗ってやれるから。
ジャミルの立場上、一人くらいはアジームも学園も力の及ばない知り合いが居た方が良いだろうから。
色んな言い訳をしながら冗談めかした軽口で向けた提案は、思いの外あっさりと受け入れられた。曰く、俺も思い出が欲しい、との事。そう、これは思い出だ。思い出を形にすれば、きっと心は楽になる。
そうして二人で捲った古代魔法の分厚い辞書。前から目星をつけていた魔法を示してやれば「顔に似合わずロマンチックですね」などと失礼な事を言いながらひーひー笑い転げていたので、その日はそのままベッドに引き摺り込んでしまって作業は何一つ始まらなかった。そんなじゃれ合いも、もう一カ月後には出来なくなる。



古の姫が、愛し合いながらも敵国同士になった為に別れざるを得なくなった王子を想い、編み出したという魔法。身に着ける事で想い人を恋しく思う気持ちを蓄え、蓄えられた力が満ちた時に二人の夢を繋ぐという。
その姫は指輪の内側に埋めた石に魔法を籠めたという話だったが、流石に指輪は目立つし炊事を行うジャミルには不向きだったので、二人で相談した上でアンクレットにすることにした。目立たぬ合成魔法金属製の細いチェーンに念入りに千切れないようにと防御魔法をかけ、石はジャミルが翠玉を、レオナは黒曜石を選んだ。
術式はさほど複雑では無いが、とにかく手間のかかる魔法だった。卒業までの一カ月は毎日のようにジャミルと顔を合わせては石に魔法を籠め、改良案を思いついては議論し、試行し、時には些細な言い争いになったりもしたが、それもこれも含めて「思い出」だ。最初で最後のジャミルとの共同制作。何も生み出せず、何も残せない関係が唯一残せる「思い出」作りに二人で夢中になった。



そうして卒業したレオナがジャミルと再会したのはたったの一カ月後の事だった。レオナの記憶と寸分違わぬサバナクローの、レオナの部屋。特別隠す事はしなかったが、関係を見せびらかせて歩くのは嫌だとジャミルが言ったから、二人の逢瀬は殆どがレオナの部屋だった。思い出の大半は、この部屋の記憶が占めている。たった一カ月で繋がるなんてアンタどんだけ俺の事好きだったんですか、お前こそ、と軽口を叩き二人で笑いながらベッドに縺れ込み、一カ月ぶりの温もりを存分に貪り合った。
二度目と三度目はやはり一カ月程度の間隔をあけて、レオナの部屋で会った。
四度目は一カ月と少しの時間が空き、レオナは数える程しか足を踏み入れた事のないジャミルの部屋で会った。夢の中なら自室でも存分に声を上げられるとジャミルは笑っていた。
五度目、六度目、と回数を重ねるごとに少しずつ再会までの時間は伸び、十度目を迎える頃には三カ月も過ぎていた。ジャミルも学園を卒業した後だった。



そこからは、期間も、場所も、様々に変化した。たった一週間で会う事もあれば、半年、酷ければ一年も会わない事もある。今まではどちらかの私室だった風景が、見知らぬ寝室であったり、学園の一室であるようでいて何処か違う、まるで掠れた記憶のように不明瞭な場所だった事もある。最初の頃はそれが目的だったとばかりに必ず肌を重ねて温もりを確かめていたのに、徐々にその頻度が減った。ただ寄り添い、手を繋いで過ごすだけの時間が増え、いつしか唇を重ねる事も無くなった。
もう隠す事も無いだろうと、妻を娶った事をそっと打ち明ければ、ジャミルはとうの昔に結婚していた上に既に子供まで作っていて、あまりの馬鹿馬鹿しさに二人で腹を抱えて転げまわった事もある。
ジャミルも、レオナも、もはやお互いに向けているのはかつてのような甘酸っぱい物では無い。レオナが家族を愛し、何よりもかけがえの無い物と思っているように、ジャミルもまた家族を愛し慈しんでいるのは話していればよくわかる。
きっと、今突然石が壊れて二度と夢で会えなくなったとしても、それなりの悲しさは覚えても溜息一つで済ませてしまうだろう。石に力が溜まる頻度だって、年単位の時間をかけてやっと一度会える程度に減っている。
それでも、まだ会えているのだ。もう要らない、と捨てる事も出来ず、お互いに恋しいと思う気持ちをほんの少しずつ抱えて生きているのだと再会する度に突き付けられている。
ジャミルを心の底から愛しいと思う。傍に居なくても構わない、ただ、幸せに笑ってくれているのならそれだけで良いと願う気持ちは、恋慕というよりは家族に対するような愛情だった。


もう、いいだろうか。


「――……今度、家族を連れて、お前を訪ねて良いか」
もう何度目かもわからない逢瀬。今日は、雪景色の街並みを見下ろせる石造りのバルコニーだった。ベンチにぴたりと身を寄せて座る二人の上に雪がちらほらと舞い落ちているのに少しも寒くは無かった。ただ、雪に煙る夜の明かりが美しく煌いていた。
ぱちりと瞬いたジャミルが、久々に見るような幼さを滲ませた顔でレオナを見て、それからとろりと蕩けるように笑う。
「ええ、勿論。それより先に、俺が先輩を訪ねますよ。妻と、子供を連れて」
きっと、もう実際に会ったとしても迷わないだろう。迷うかもしれないと怯える事も無いだろう。むしろ一度腹を括ってしまえば何をそんなに躊躇っていたのかとすら思う。
本物の、ジャミル。卒業して以来、一度も会っていない。願望を投影する夢の中のジャミルと、現実のジャミルが同じだとは限らない。だがきっと、もう大丈夫な筈だ。
久方ぶりの再会を喜び、握手をし、ハグを交わす。お互い自慢の妻と子供を紹介し、そうして古い友人同士の、家族ぐるみの付き合いを始める。
妻や子を前にした知らないジャミルを見るだろうし、レオナもきっとジャミルの見たことが無い顔を見せては笑われるのだろう。
なんと幸せな光景だろうか。これを、幸せな光景だと思える日が漸く来たのだと、嬉しくて泣きたいような気持ちだった。
「目が覚めたら、真っ先に手紙を送り付けてやるから、予定を調整しておけよ」
「此処二年くらい、休みなしに働いてたんで思い切り長期休暇もぎ取ってやりますよ」
ジャミルの肩を抱き寄せて、頭にこめかみを預ける。ジャミルの体重が肩に預けられ、宥めるようにレオナの腿を撫でていた。こんな触れ合いはもう二度とないのかもしれない。夢で会う事すらなくなるのかもしれない。
それでも、レオナは初めて夢から覚めるのが待ち遠しいと思った。

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先輩が男に抱かれて善がってる姿が見たい

※兄レオ要素含
※非常に下世話な会話文のみ
J「レオナ先輩が男に抱かれて善がってる姿が見たい」
L「……」
J「レオナ先輩が男に抱かれて善がtt」
L「うるせえ二回も言うな」
J「聞こえて無いのかと思って」
L「聞こえない振りがしたかったんだよ察しろ」
J「相手誰が良いです?適当にユニークで連れてきますよ」
L「話を進めるな承諾してねえ」
J「我儘言って困らせないでください」
L「どちらかと言えば我儘言われて困ってるのは俺だ」
J「聞き分けてくださいよ」
L「そもそも仮にも自分の男を何で他人に抱かせようとするんだお前は」
J「仮にも?」
L「違ったか?」
J「最初で最後の大本命ですけど?裏切られたらアンタを殺して俺も死にますけど?」
L「重い」
J「まあ冗談は置いといて。お気に入りのちんぽとか居ないんです?」
L「いるわけないだろお前と一緒にするな」
J「俺を何だと思ってるんですか酷いです」
L「自分の男を他人に抱かせようって発想する方が酷いだろ」
J「だって……抱かせてくれないじゃないですか」
L「まあな」
J「お兄さんには散々抱かれて来たくせに」
L「その話は止めろ」
J「いいんですわかってるんです…俺のちんこが小さいから嫌なんですよね…」
L「おい待て」
J「お兄さんのあんなに立派なイチモツに抱かれてたらガバガバになっちゃいますよね…俺のなんかじゃ満足出来ませんよね…」
L「誰ががばがばだ」
J「性嗜好は人それぞれですから、恥ずかしがらなくていいんですよ」
L「お前が言うと洒落にならんから止めろ」
J「で、誰が良いです?それとも先輩のケツはお兄さん専用ですか?」
L「……」
J「専用なんですね?じゃあお兄さん呼びましょうお兄さん呼んでください」
L「仮にも一国の王をほいほい呼び出そうとするな」
J「でも先輩が呼んだらほいほい来るでしょう?」
L「……呼ばない」
J「先輩が呼んでくれないのなら、俺からお手紙出しますけど。レオナ先輩のお尻が疼くそうなので至急助けてあげてください、って」
L「ふざけんな」
J「じゃあほら、早く」
L「は?」
J「今すぐ呼んでください。通話でもメッセージでもいいから早く」
L「……冗談だよな?」
J「冗談に決まってるでしょう何ちょっと本気で焦ってるんですかw」

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おうまさんごっこ

本日三度目ともなれば、跨る足から力を抜くだけでまるで剣を鞘に納めるかのごとく、ずるり、とスムーズに腹の内に熱が収まる。
「……は、……ぁ……」
追い立てられるようにして求めるような飢餓感はもう無い。既に二度も、溢れる程に満たされた身体は倦怠感と心地良さの合間を揺蕩っていた。
それはレオナも同じようで、のんびりとジャミルの足を撫で、やわやわと肉を揉む姿からは急くような気配はない。お互い、ほんの少し足りなかったものをぴったりと分け与えられたような充足感を噛み締めていた。
レオナの腹の上に手を付き、骨盤を前へと倒すだけで埋まる熱が中で擦れ、元に戻せば中を満たしていた物が掻き出されて粘着質な水音を立てる。緩やかに思考が蕩ける心地良さ。ゆらゆらと波間を漂うように揺れて、染み渡るように穏やかな快感に、浸る。
「ぁ、……っふ、……」
とろり、とろり、快感が一滴ずつ、滴るように肌の内側へと溜まってゆく。見下ろしたレオナも煌くエメラルドを蕩けさせてゆったりと息を吐いていた。腹を満たされた豪奢な獣が、満足そうにジャミルを見て居た。柔らかく波打つ髪を張り付かせた頬を撫でれば、薄い皮膚の下に男らしく硬い骨の感触。弓形にエメラルドが歪み、手首を掴まれると掌に頬が擦り付けられ、甘えるようにべろりと掌が舐められる。煽るというよりは、子猫がじゃれつくような、それ。戯れに中指の背を柔らかな唇に押し付けてやるとかぷりと甘く歯が立てられ、関節を飴玉を転がすように舐めしゃぶられてひそりと身体が震えた。
「っん、……は、ぁ……」
戦慄いた腹の奥が咥え込んだ物を食み、濡れた吐息が漏れた。それを面白がるように片手で足を押さえ付けられ、下から捏ね回されると、くちり、ぬちりと水音が響く。反射的に逃げようとしても肌に指が沈む程に押さえ付けるレオナの掌がそれを許さない。
「あ、……ッあ、……ッん、」
動きは決して激しくはない。だがとろとろに蕩けた脆い場所を馴染んだ形が良いように撫ぜるだけで、すっかり慣らされた身体は勝手に快感を拾い集めてジャミルの中を満たしてしまう。まだ、もう少しこの波間を揺蕩っていたいのに。
「ん、んん……ッふ、……」
目についたのは、レオナのこめかみから垂らされた三つ編み。汗を吸い、重みを増したそれを指先で掬い取って、抗議のように軽く引く。ぴん、と三つ編みが直線に伸びて、痛みにかレオナの顔が歪み、そして動きが止まる。良かった。溢れそうな程に蟠った熱を、ほっと吐き出す息に乗せて逃した。
レオナは何も言わなかった。ただ先程まで高みから見守るような笑みを浮かべていた顔が、少しだけ変わっていた。目を眇め、咎めるような、面白がるような、うっそりとした笑み。自分の顔の良さを存分に輝かせるそれが面白く無くて、ついもう一度、先程よりも少しだけ強く三つ編みを引く。
「っっんぁ、……ッっ」
引っ張った突端に、ぐっと下から突き上げられて思わぬ声がこぼれた。急に与えられた物に脈が五月蠅い程に早くなる。だが、一度だけだった。まるで何事も無かったかのようにジャミルの足から尻までの肌を撫で、ジャミルを見て、笑っていた。その愉悦を滲ませたエメラルドを暫し見詰め、そして察する。
「……っぁ、……」
確かめるように緩く三つ編みを引けば、ゆるりと奥を突かれた。強く引けば、その分強く突き上げられ、ただ三つ編みを揺らすだけならば、そっと中を捏ねられる。
「っふ、は……ッ!」
思わず笑ってしまう。子供染みた、余りにも馬鹿馬鹿しい遊び。だがそういうのも嫌いでは無い。この男と仄かな甘さを共有する行為は、温もりだけでは満たされない何かを暖かくする。
それならば、ともう一本の三つ編みも緩く手に取り、レオナを見下ろす。満足気に笑うレオナは何も言わず、ただ両手でしっかりとジャミルの尻を掴み直した。
「っん、……っふふ、……ッ」
ゆるゆると弛ませた三つ編みを揺すれば、呼応するように掴まれた尻を揺すられてくちくちと水音が立つ。気持ち良いのもあるが、面白い。合間にぴん、と軽く三つ編みを引けばその分ゆるりと下から突き上げられ、手を止めればレオナも、止まる。
まるで乗馬だ。三つ編みを手綱代わりにレオナを操っている。馬を鞭打つように、手首のスナップを聞かせて三つ編みをぺしぺしと打ち付ければ心地良く突き上げて応えられる。
「あっ、あふ、あ……ふふ、っふぁ、」
ぱちゅぱちゅと打ち付けられる度に水音が響き、奥に当たる度に小波のように広がる快感のままに身を躍らせる。並々と注がれた快感が、溢れる寸前で辛うじて表面張力で支えられている、そんなぎりぎりの感覚を楽しみながら三つ編みを振るう。
「っあ、あ、あ、っあ、あ」
絶えず与えられる快感に酔い痴れ、三つ編みを振る手が止まってしまってもレオナは止まらなかった。尻に指先を食い込ませる程に掴み、広げた場所に容赦なく熱が叩きつけられてゆく。
「っゃ、あう、あ……っあ、あ」
込み上げる物に浮き上がる尻ががつがつと掘られ、否応無く高められて行く。三つ編みでは頼りなくて、レオナの胸元に手をついて呼吸を掌で感じながら、与えられる快感に抗うことなく身を委ねる。
「ぁ、あ、――……ッッッ!!」
ぞわりと膨れ上がった物が、遂に溢れて流れ出す。きゅう、と背が撓り、収縮する胎の中でレオナもまた上り詰め、熱い物が注がれている感覚にこれ以上ないくらい、満たされる。塗り付けるようになおも緩やかに中を擦られると引き摺る余韻が長引く。とろとろと溢れた快感が幾筋も表面を伝い落ちていくような、穏やかな絶頂。
「――……は……」
思考が痺れるような快感を噛み締め、やがて弛緩する身体。心地良い疲労感に包まれぺたりとレオナの上に寝そべればゆるりと抱き締められ、頭を撫でられた。先程まで尻を掴む荒々しさとは違いその手つきは優しい。
荒い呼吸に上下する胸が波のようで、ゆらりゆらり、揺れながらレオナの肩に頬を預けて懐く。まだ、なんとなく離れがたかった。
「――……腰が、死ぬ」
それなのに、余韻もへったくれもない感想をレオナが言う物だから、思わずジャミルは吹き出してしまいながらレオナの三つ編みを強く引っ張った。

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