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空箱

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そして弟は死んだ

呼べば素直に部屋に準備を整えてやってくる癖に、憂いを含んだエメラルドは決してファレナを映そうとはしなかった。その身をシーツに縫い付ければ諦めたように目蓋の裏に消える色を許さぬように唇を開く。
「レオナ、私を見なさい」
命じれば静かにファレナを映す瞳は、決してファレナを見てはいなかった。だがそれ以上を求める言葉が思い付かず、代わりに肌を暴く手が乱雑になってしまってもレオナは黙ってただ受け入れていた。
舐めなさいと命じれば不慣れな舌遣いでファレナの雄をしゃぶり、声を殺すなと命じれば素直に鳴いた。自分で腰を振りなさいと命じればはしたない格好でファレナに跨がり淫らに踊って見せたし、達する事を禁じれば泣きながら自ら性器を両手で握り締めて必死に堪えていた。
愛しく哀れなファレナの最愛の弟。
ようやくここまで堕ちてきた。
今のレオナにはファレナに向ける牙も爪も持ち合わせてはいない。
「レオナ」
汗と涙と吐き出した物にまみれ、ぐったりとシーツに沈み込んだ身体は、それでも呼べば濡れたエメラルドでファレナを見上げていた。
「私を、ころしなさい」
今までと同じように、命じる。
「首を折っても良い。胸を刺しても良い。砂にするのも良い。お前の好きなように、ころしなさい」
力無く投げ出されていたレオナの両手を掬い取りファレナの首へと触れさせようとすれば初めて、拒絶するように指先に力が籠っていた。
「……できない」
「なぜ?私が憎いだろう?」
「…………できない」
「私が死んだ後のお前の身の心配をしているのならば遺書でも書こうか。この国には居られなくなるかもしれないが、」
「止めろ!」
初めて感情の籠った声がレオナから上がる。複雑な色をしたエメラルドがひたりとファレナだけを見ていた。
「俺は、お前をころせない……」
「ならば私を愛していると言ってくれ、レオナ」
見つめ合い、込み上げた何かを飲み込むように一度唇をつぐんだ後、まるで別れを告げるかのような悲しい顔でそっと長い睫毛が下ろされた。
「愛している、ファレナ」

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おやすみ三秒

「はたらきたくない」
「はあ」
突然ぽつりと落ちた声に、レオナはただ溜め息のような曖昧な相槌を打つことしか出来なかった。
「……それで、レザル地区復興の優先順位なんだが、」
「もう仕事の話は聞きたくない!嫌だ!」
何食わぬ顔で話を続けようとしたが、うわあんと可愛げもくそも無い泣き真似と共に腕を引かれてぬいぐるみのように抱き抱えられてしまった。椅子に座る兄と机の狭い隙間に無理矢理納められた身体があちこちにぶつかって痛い。
「毎日毎日仕事ばっかり!レオナが目の前にいるのに!」
「俺が嫌なら別の者と代わるが」
「そういう話じゃないのはわかってるだろう!」
もうやだあ、と嫁も子供もいる中年と呼んで良い歳に差し掛かる兄が嘆いた所で面倒臭いという感想しか浮かばない。逃げ出そうにも無駄にたくましい腕はがっちりとレオナを抱えてびくともせず、すんすんと髪に顔を埋めて項の匂いを嗅がれるがまま溜め息を吐く。
義姉が公務で国を長く空けている間に流行り病と異常気象による水害が同時に発生し、その対応で連日寝る間もない兄は確かに疲労のピークに達しているのだろう。一度心配した義姉が予定を切り上げて帰ろうかと兄に連絡してきた時はいかにも国王様らしく「国の事は私達に任せて君はどうか君にしか出来ない事を成して欲しい」と余裕の笑顔を浮かべて見せていたくせに、レオナと二人きりになるとこれだ。
「……なら、30分仮眠してこい」
「嫌だレオナを抱きたいもうこんなになってるんだ」
「疲れマラだろ寝れば治る」
「レオナ」
寝不足で熱い身体に抱え込まれ、尻に硬く昂った物をごりごりと押し付けられながら耳元で名前を呼ばれるとレオナまで妙な気分にさせられてしまいそうで、反射的に肘鉄を入れる。
「うっ……」
「わかってんだろ、そんな場合じゃ無いって」
うううと背後で恨めしげな呻き声が聞こえるがそれ以上の反論はなかった。
レオナが兄を支えるようになりもう何年経つだろうか。かつてはレオナの行く手を遮る強大な壁に見えた兄は、紆余曲折を経て相互理解を深めてしまった今ではレオナ以上の孤独を抱えた男でしかなかった。王になるには優しすぎて逃げ場所を見つけられなかった哀れな男。レオナに良く似た、たった一人の兄。
今のこの我儘だって決して本気で逃げたいわけではなく、ただほんの少しの息抜きに甘えてみせているだけだということもわかっている。わかっているからこそ、そっと嗜めることくらいしかできない。
「いいから、少し酒でも飲んで寝ろ」
「お酒は要らないから、このままこうして寝ても良いか?」
「……腕は動くようにしてくれ。書類の整理をしておくから」
「ありがとう」
レオナの腹に腕を回し直した兄が肩に額を乗せた、と思った頃にはすぅ、と穏やかな寝息に変わっていた。こんなところは腐っても兄弟なのだと思わず笑ってしまいながら、少しでも早く解決出来るようにとレオナは気合いを入れて書類の山へと視線を落とした。

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余談

夕焼けの草原、王宮からそう離れていない市街地の外れにあるレオナの私宅、明るい陽射しが降り注ぐ中庭。緑溢れる景色の中、疎らに建てられたガゼボの中でも一番大きな屋根の下にレオナとジャミルは酒を片手に向かい合っていた。妻達は少し離れたガゼボで早くも意気投合したようにころころと笑い声を響かせながらお喋りに夢中になっているようだし、ジャミルの三人の子供達はレオナの人見知りをする内気な一人娘と仲良く遊んでいる。
久方ぶりの再会ならば積もる話もあるでしょうからと妻にこの場をセッティングされたのは良いが、お互い何をするでもなく、ただ二人の妻と子供達が穏やかに絆を紡いで行く様を眺めているだけだった。この暖かな時間をこうして共に過ごせるようになった事実に、言葉は無くとも大切な物を共有する幸福感で二人は満たされていた。
「……アサドの、名前なんですけどね」
鬼ごっこでも始めたのか、きゃあきゃあと歓声を上げ走り回る子供を眺めながら先にぽつりと唇を開いたのはジャミルだった。アサドは確かジャミルの長男の名だっただろうか。最初の鬼役となった彼は随分と上手に手加減してやりながら追いかけているようだ。本気を出せば一瞬で全員捕まえてしまいそうな走りを見せるくせに、いつもギリギリの所で捕まえ損ねて見せている。
「俺の国の言葉で、獅子って意味なんですよ」
穏やかに放れた矢は確かにレオナに突き刺さった。口に運ぼうとしていたグラスを止め、ぱちりと瞬いてから口角を吊り上げる。
「未練か?」
「全く無かったとは言えませんけど」
そう言って笑いながらレオナを見たジャミルの瞳には、かつてのような情熱は宿っていない。
「貴方のような、立派な方になって欲しいという願いを込めてお名前を頂きました」
あまりにも真っ直ぐに、何の裏も感じさせない顔でジャミルが笑うものだから、柄にも無くレオナははにかみ、誤魔化すようにグラスへと口をつける。
「……反抗期にどうなっても責任取れねえぞ」
「あっは、流石に俺も二十歳まで反抗期やって欲しいとは思いませんけど」
「うるせえな」
「でも、貴方に憧れていたのも事実ですから」
「……そうかよ」
誰よりもレオナを知り、妻ですら知らないレオナの弱さを唯一知るジャミルがそんなことを言うのは物好きだと思いながらも悪い気はしない。
だがそんな話を聞いてしまっては、レオナもジャミルに伝えなければならない話がある。
「……クロエの名前の意味、知ってるか」
少し前に六歳になったばかりのレオナの娘の名前。まさか、と目を見開いたジャミルに肯定するようにレオナは頷いた。
「大雑把に言えば、美しいという意味だ」
「アンタ俺の名前の意味知ってたのか」
「王族を舐めるな」
「だからって子供につけなくても良いだろ」
「どの口が言う」
「だって、俺は、先輩に甘えてばかりで……」
「そうだな、細君を迎えるまでは俺以外に甘えることも知らねえで、それでも強く美しく生きてたよな」
「……先輩これ結構恥ずかしいんですけど」
「安心しろ、俺もついさっき味わったから知ってる」
恥じ入るように目線をグラスへと落とし、ふふ、と笑うジャミルの肌がほんのりと色付いていた。それを美しいとは思っても、もう焦がれるような衝動に支配されるような事はない。そのことを寂しく思うことすら無くなった。
ジャミルとはきっとこれからもこうして家族を引き連れて交遊を深めて行くだろう。かつての先輩、後輩として。かけがえの無い友として。
常に夜だった夢の中とは違い、現実は明るい陽射しに満ちていた。

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「海!!!」
「うみい!!!!」
車から降りた途端に駆けだそうとする兄妹を辛うじてレオナが小脇に抱え上げたのを確認しながらトランクから荷物を引きずりだす。昼ご飯を詰め込んだクーラーボックス、着替えやその他雑多な荷物を四人分詰め込んだ為にパンパンに張りつめた大きなカバン、それからテントや遊具が入った袋。本来ならレオナにも持ってもらう筈だったのだがレオナの両手は初めての海にはしゃぐ子供で埋まってしまった。仕方なく一人でこれを全て持つにはどうすれば効率が良いかと頭を悩ませていると横から伸びた腕が一番重いクーラーボックスを攫って行く。腕の持ち主を見れば兄のアサドを肩の上に乗せたレオナが空いた腕にクーラーボックスを担ぎながら笑っていた。
「それも持つか?」
それ、と手にしていた大きなカバンを指差されて慌てて首を振る。
「後は大丈夫です。それより転ばないでください」
ああ、と機嫌良く答えたレオナが歩き出すのを見送りながら、ジャミルも荷物を担ぎ、戸締りをした事を確認してから歩き出す。
雲一つない空、真っ白な砂浜、そして何処までも青く続く海。諸外国からも観光地として人気の高いビーチは見慣れた筈のジャミルですら浮足立つような高揚を覚えた。子供達に至ってはレオナの肩の上と腕の中でじたばたと暴れていると形容するに相応しいくらいに全身で興奮を表していた。その姿に思わず笑いを誘われながら、適当な場所を確保するとレオナの荷物だけ預かり、波打ち際へと送り出す。砂浜へと下ろされた子供たちが歓声を上げながら一目散に走りだして行く背中をゆったりと大股で歩くレオナが追いかける、その大小三つの背中が齎す満ち足りた気持ちをジャミルはひっそりと噛み締めた。
全員車の中で着替えているからそれは良いとして、興奮のままに海を味わった後には遊具が欲しいと強請られるのだろう。寛ぐための拠点の設営をしたいのも山々だが、取り急ぎ必要になりそうな子供用の浮き輪を二つ、足踏みポンプで膨らませる。ちらと波打ち際を見やれば三人が仲良く水を掛け合っては笑っていた。アサドがレオナに波の中へと放り上げられた時は一瞬ひやりとしたが、引いた波から顔を出した顔はこれ以上ないくらいに満面の笑顔を浮かべて楽しそうにしていたので息を吐く。妹のクロエもそれを見てはレオナに強請り、放り投げられていたが先程よりも随分と手加減して投げられているのを見て任せておいて大丈夫だろうと作業へと戻る。浮き輪の後はエアーで浮くボートとボール。とりあえずこれだけあれば十分だろう。
休む為のテントを立て、その隣には四人で座ってもまだ十分なスペースがあるレジャーシートに日よけのパラソル。全てを組み上げ切った頃にようやく三人は帰って来た。既に全身水浸しとなり、折角出掛ける前に綺麗に結い上げてやった筈のクロエの髪もボロボロになっており、どれだけはしゃいでいたのかがわかる姿に思わず唇が緩む。
「まま、髪なおして!」
「はいはい」
ジャミルの足の間に背中を向けて座り込んだクロエの髪を解き直してやる間、レオナはクーラーボックスから飲み物を取り出して兄妹に与えていた。会社では有能ではあるが扱い難い所のあるこの男の子煩悩な姿を見たら部下たちは倒れるのではないかと一人想像しては笑う。
細く濡れた子供の髪を再び複雑な形に結い上げるのは諦め、邪魔にならないようにと簡単にまとめてやった頃にその扱い難い男もまたジャミルの傍に背を向けてどさりと腰を下ろしていた。
「まま、髪なおして」
クロエの台詞を真似る、笑いを滲ませた大人の男の声。ふは、と思わず吹き出してしまいながらもジャミルよりも高い位置にある髪へと手を伸ばす。緩やかなウェーブを描いていた筈の髪は、海水を含んでべったりと肌に張り付いていた。
「俺、こんな大きな子供産んだ覚えないんですけどね」
「コイツらは一回しか通って無い場所を何度も通ってんだ。産んだようなモンだろ」
「下ネタは止めろ」
咎めるように一度ぺしっと背中を叩き、張り付いた髪を集めて背中で一つにまとめてやる。留めるヘアゴムがクロエ用の可愛らしいリボンがついた物なのは不可抗力だ。それしか持っていなかったのだから仕方ない。
「ぱぱ、おそろい」
だが目ざとく見つけたクロエが髪留めを見て嬉しそうに笑ったのを見て、自分の状態を知ったレオナが半目でジャミルを振り返るが、肩を竦めて見せればそれ以上何も言えないようで不服げにしながらも文句は上がらなかった。
「ねえ、今度はママも行こう!海気持ち良いよ!」
待ちきれないとばかりにジャミルの手を取ったアサドがぐいぐい引っ張りながら立ち上がる。それに仕方ないな、という態度を取りながらも漸くジャミルも海に入れると心が浮ついていた。
水分は取らせた、風に飛びそうな荷物はテントの中に仕舞ってあるし、貴重品は防水のウエストポーチに全てしまってある。開いている手はクロエが取り、そしてそのクロエの反対側の手をレオナが取り、皆で揃って立ち上がる。
アサドと、クロエと。そしてレオナと目を合わせて、ふと、笑いが漏れる。
駆けだしたのは全員一緒だった。自分が一番だと言わんばかりのアサドより一歩後ろをついて行きながら、レオナとの間に挟んだクロエを腕の力だけで持ち上げて一気に波打ち際へと突き進んで行く。
「「「「海だーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」

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なれそめ

一年最後の錬金術の授業は創作錬金薬の作成。事前に作成予定の薬の効果や使用する材料、それから作業工程を纏めた計画書を何度もクルーウェルに提出しては訂正され、なんとか作成を許された薬をやっと形にできる日。普段クルーウェルに丁寧に手順を教わりながら皆揃って同じ薬を作るのとは違い、それぞれの釜で思い思いに違うものを作っている為に普段よりも教室内は騒がしかった。
他の授業時間を選択している生徒で終わらなかった者も来ているらしく、見慣れぬ顔も多く教室内に居た。少し離れた釜では前回サボったから今日は必ず連れて来いと、クルーウェル直々に指名されたラギーがなんとか引きずり出してきたレオナが渋々と言った様子で釜をかき混ぜているのが見えた。適当にざかざかと材料を放り込んでいるように見えて恐らく高度な薬が完璧に作られているのだろう。工程表も見ずに作業する手には淀みが無い。
レオナを眺めていても薬は出来上がらない。ラギーも自分の作業に集中しようとした時だった。
「レオナさん!危ない!」
レオナの右側を通りがかった生徒が躓き、手にした薬剤がレオナに掛かろうとしているのを見つけて思わずラギーが叫ぶ。
「おい、危ねぇ!」
だが事件はそれ以外にも起きていた。叫ぶレオナの左隣の釜が合成失敗の爆発を起こす前兆の変色を見せ、たまたま側を通りかかろうとしていたジャミルを護るようにレオナの腕が伸ばされ引き寄せられていた。
結果。
ばふん、と間の抜けた爆発音と、ばしゃりと薬がぶちまけられる音。もくもくとドピンクの煙が一瞬にして視界を覆う程に溢れて教室内を満たす。
「窓を開けろ仔犬ども!」
クルーウェルの鋭い声が上がりがらがらと窓を開ける音、それから恐らく魔法なのだろう、ぶわりと教室中の空気を全て押し出すような風が吹いて煙が払われた後、二つの事件の丁度真ん中にいた二人の姿は忽然と消えていた。
騒然とする教室内で、薬をぶちまけた生徒と、合成を失敗させた生徒の両方から今回の計画書を引ったくったクルーウェルは非常に渋い顔をしていた。錬金術はやろうと思えばいとも簡単に人の命を奪う薬を作る事も出来る非常に危険なものだ。何が起きたのかはラギーにはわからないが、指導者の厳しい表情には不安が募る。
「……あの、二人は、どうなっちゃったんっスか?」
「……恐らくは命に別状は無い」
「じゃあ」
「恐らく、数時間もすれば戻ってくるだろう」
「良かったあ……」
ほっと安堵に胸を撫で下ろすが、それならクルーウェルの表情が気にかかる。どう尋ねたものかと悩んでいると、ざわつく生徒達に一言二言、今日の授業は中止だから片付けろと指示を出したクルーウェルに着いてこいと呼ばれ、教室の外へと連れ出される。
「お前はキングスカラーの世話役だから話すが」
なった覚えは無いが、否定も出来ないので黙って聞く体制に入る。
「二人が被った薬は惚れ薬の類いだな。効果も薄ければ有効時間も十分程度しかない玩具みたいなものだが……」
クルーウェルは優秀な指導者だ。派手な見た目とパフォーマンスで最初こそ驚くが、実際には飴と鞭を巧く使い分けて生徒の能力を伸ばすことに長けている。クルーウェルの授業はラギーでもわかりやすく、錬金術の成績は手先の器用さもあって高評価を得ている。
だがそのクルーウェルも現状に多少動揺しているのだろう、詳しく説明してくれてはいるのだが、まだ授業で習っていない単語が多すぎていまいちどういうことなのか理解が出来ない。暫く工程表を睨みながら長々と説明していたクルーウェルが顔をあげてようやく、右から左に説明が抜けて落ちぽかんと口を開ける事しか出来ないラギーに気付いた様子で益々顔をしかめ、そして溜め息をついた。
「要は、キングスカラーが咄嗟に防衛しようと発動させた結界と、浴びた惚れ薬、それから爆発の煙の成分が非常に面倒な具合に噛み合ってしまって……二人はセックスしないと出れない結界に、発情した状態で閉じ込められている」
「………………………は?」
「今から解除の薬を作るつもりではあるが……必要な素材の採取に時間が掛かるから完成まで五時間は必要だ。二人が自力で脱出する方が早い可能性がある」
「自力で、って……」
「皆まで言うな察しろ」
「あ……はいっス」
「薬を作っている間、この部屋を立ち入り禁止にするからブッチ、お前は二人が帰ってくるか見張っていろ」
「ええ……」
「大丈夫だとは思うが帰ってきたら二人が本当に無事なのか色々確認せねばならん。……だが誰かが見ていなければキングスカラーはきっとそのまま逃げるだろう」
「そうっスねえ」
「バイト代はやれんが成績には色をつけてやる。頼んだぞ」
半ば押し付けられるようにして教室に一人ぽつんと待機して既に五時間近く。薬の効果のまま我を忘れてセックスしていれば一時間とかからず帰ってくると思っていたが、なんだかんだ言っても仲良くなれそうにない二人だから流石にセックスは出来ずに困っているのかもしれない。その事に少しだけほっとしながら誰も居なくなった教室でだらだらと過ごす。もう少しすればクルーウェルが来て二人を呼び戻してくれる筈だ。
スマホを弄りながらクルーウェルの到着を待っていると、不意に教室の中央に淡い光が浮かぶ。ピンク色のそれはゆっくりと大きくなって行き、人がすっぽり入れそうな大きさにまで膨れ上がったと思うとぱちんと音を立てて弾けた。
「なんっっでもっと早く出れるようになってたのに言わないんですか!」
「離さなかったのはお前だろうが」
「俺はこの後も予定が色々あるんです!どうしてくれるんですか立てなくなるまでするとか本当にただのケダモノじゃないですかあの異常事態に平気で腰振れるとか知性は無いんです?」
「その異常事態に散々悦がってたやつに言われたくねぇな」
「悲鳴って言うんですよああいうの……は…………」
光が弾けて消えた後には、ラギーが待ち望んだ二人がいた。だが声をかけるよりも早くに口喧嘩を始められてしまい、タイミングを失ったままラギーはただあんぐりと口を開けたまま動けなくなってしまった。今更ラギーの存在に気付いたらしいジャミルが口を噤み身を縮こまらせているが、あのレオナにお姫様抱っこされていてはもうラギーは全てを悟った顔で笑うしかない。
「……二人とも、お帰りなさいっス」

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