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空箱

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4

昼休みのチャイムが鳴ったというのに、運悪く廊下でクルーウェルに捕まりお小言を少々。勿論ラギーに対してのお小言では無い、我らがサバナクロー寮長のサボりについてのお小言だ。へいすんませんっス、と殊勝な態度でなんとか交わして食堂に辿り着く頃には既に何処もかしこも人だらけ。げんなりしつつもレオナを探すが見つからない。
まさか自分からあの長蛇の列に並ぶわけが無いからと座席を端から端まで丹念に見渡すがそれらしき姿は居ない。
と、なると授業をサボったまま昼休みになった事も気付かずにどこかで寝ているのだろう。
出来れば放って置きたい。居ないならこれ幸いと知らぬ振りで平和に昼食を堪能してまた授業に戻りたい。だが昼食を食べ損ねたレオナが起きた時に、「腹が減ったから何か作れ」とラギーに授業をサボらせてまで食事を作らせる事は目に見えてわかっている。なんとしてでも昼休みのうちに引き摺ってでも食事を取らせなければならなかった。


レオナのサボりスポットは何か所かあるが、天気と時間によって大体が決まっている。晴れた日なら運動場か中庭付近の木陰、雨なら寮の自室、今日は曇りだから暖を求めて植物園だろうか。
はたして、レオナは植物園の定位置に居た。ジャミル・バイパーの足を枕にして。
マジフト大会翌日の時ほどの驚きは無かったが、それでも十分驚いた。なんせ初めて二人が人目につく所で「それらしい」ことをしている現場を目撃したのだ。ジャミルも驚いたようにまじまじと目を見張りラギーを見ていた物の、すぐに諦めたように眉尻を下げて笑った。まあ、がっつりと両腕でジャミルの腰を抱え、下腹部に顔を埋めてすやすや寝ている獣が居れば逃げたくても逃げられないだろう。
「初めてっスよ、レオナさんの部屋の残り香以外で二人がそんな感じになってる現場見るの」
「そんな感じ、……って。先輩が、此処なら俺の縄張りだから誰も近づかないとか言うから」
「あー、確かに俺以外は近付かないかもしれないっスね。まあ俺なら見られてもいいって思ってるんでしょ」
はあ、と溜息一つ吐きだしたジャミルがぽすんと八つ当たりのようにレオナの頭を叩く真似をした。その気安い動作だけでもう仲の良さはわかる。
「俺、昼飯呼びに来たんスけど……必要無かったみたいっスね」
座るジャミルの傍らには大きなランチボックス。中には半分以下になったサンドイッチが詰まっていた。
「碌に食べずにまた寝始めたが。――……余らせても邪魔だし、ラギー、食べるか?」
「いいんスか!?俺、今更碌な物残ってない食堂戻るの面倒だったんスよね!」
ジャミルにランチボックスを差し出されて喜々として受け取る。もしも二人が恋人なんだと言われていたら多少は遠慮するが、そうとは聞いていないから遠慮は要らないだろう。それにジャミルが作る料理の味も気になる。
ジャミルの正面にどっかりと腰をサンドイッチを物色する。卵とマヨネーズを和えたらしきもの、トマトとレタスとハム、チーズのオーソドックスな物、それからオニオンスライスとローストビーフがはみ出た物まで随分と色々作った物だ。まずは卵サンドを手に取り思い切り頬張ると、隠し味のピクルスと胡椒が効いたペーストが美味しい。その感想をそのまま伝えるも、「そうか、ありがとう」と言われ慣れている笑顔が帰って来た。
「で、結局アンタらの関係ってなんなんスか」
「前も言ったよな?俺もよくわからない」
確かに聞いた。良くわからないって何だと、あの後で残されたレオナに聞いても「うるせえ」しか答えてもらえなかった。
「……じゃあ、レオナさんの何処が良かったんスか?」
二人が、そういう関係なのだとすれば。何かしらあるだろう、惚れたとまで言わずとも「この相手なら」と思う何かが。しかし思い切り眉を潜め、顎に手を当てて首を傾げたジャミルは暫し考え込んだ後に、漸く、といった風にしてやっと答えをぽつりとこぼす。
「――……俺に興味が無い所?」
「へ?」
予想外の返答に思わず口に入れたサンドイッチを落としそうになり慌てて詰め込む。目をぱちくりとさせているラギーなぞ露知らず、うーん、と唸り声をあげてからジャミルが唇を開く。
「多分、俺はその辺で安く売ってる使い心地の良い毛布みたいなもんで……」
「そ、そんな事無いッスよ多分……」
「いや、そうだと思う。だから飽きたりボロボロになったら簡単に捨てられるし、未練が残らないというか」
「そんな自分を卑下しなくても」
「卑下している訳じゃなくて……どう言ったらいいんだろうな。とにかく楽なんだ」
「楽……」
「俺も、この人の事はちょっと噛みつき癖のある野良猫くらいに思ってるからな。ほら、アニマルセラピーってあるだろ?」
「あにまるせらぴー……」
「野良猫はお世話する必要も無いし、じゃれてきた時だけ構ってやってお互い楽しめればwin-winだろ?」
「よくわかんねーっス!けどジャミルくんが爛れた大人だって事はわかったっス!」
ますます持って、本当によくわからない。そういう行為はもっと、少しでも興味があったりそそられる人とするものだとラギーは思っている。というより、出来たら可愛くて優しくておっぱいが大きな女の子と想いを通わせてからしたい。そこに愛が無くても関係を持つ人がいる事も理解はしている。金とか、コネとか、利益とか。この二人は多分、そういった生々しい取引として寝ている訳ではなさそうだが、では何の為に寝ているのかは未だに理解出来ない。真面目そうに見えたジャミルがそんな理解出来ない人種だったとは驚きだ。手持無沙汰にレオナの髪に指を入れて梳いているのが野良猫を撫でるのと一緒だと言われてしまえばそうなのかもしれない。だが普通、野良猫とセックスはしないだろう。
とそこまでぼんやり考えてはたと思い出す。
「じゃ、じゃあ、あと一個だけ聞きたいんスけど…」
「なんだ?」
「どっちが……下なんスか」
びくん、と一瞬ジャミルの肩が跳ねた。驚いたのだろうか、何故かレオナの頭をまた叩いている。そんなに何度も叩かれて良く起きないものだと思いながらまじまじと眺めていると、誤魔化すようにぐ、っとレオナの頭を無造作に肘置きにして抑えつけたジャミルが首を傾けた。本当によく起きないな、というよりもジャミル以外がそんな事をしたらはっ倒されるのではないだろうか。
「どっちだと思う?」
「ジャミルくんがレオナさん組み敷いてる所想像出来ないっス」
「まあ、御想像通りだな。と言っても、この人だって相当抱かれ慣れてぃ痛っっっったあああ!」
先程よりも大きく身体を跳ねさせたジャミルが反射的にべこん、と音がする程にレオナの頭を叩く。叩かれた方はといえば笑いをかみ殺すようにくつくつと喉を鳴らしながら背を震わせていた。
「そんなに俺らの事が気になるなら見てくか?」
のっそりと起き上がったレオナが牙を剥き出しにして笑うので思わず仰け反る。何か、違う。散々レオナの凶悪な笑顔は見てきたが、この笑顔は普段見慣れている笑顔では無い。それよりも、もっと、何かいやらしい笑いだ。ラギーの知らない世界を知っている大人の笑顔だ。思わず本能で後退る。
「遠慮するっス!あ、サンドイッチご馳走様でした!じゃ、俺そろそろ行くんで!」
未知の脅威からは尻尾捲って逃げるのも手の一つ。何か最後にとんでも無い事を聞いたような気もするけれど此処からとっとと逃げるのが先だ。ラギーは可愛い女の子のえっちなあれそれならば吝かでは無いが、先輩と同級生のえっちなあれそれはまだ見たくない。というか一生見たくない。
「あ、午後の授業はちゃんと出てくださいねレオナさん!クルーウェル先生めっちゃ怒ってましたよ!」
大事な事だけはきちんと叫んで一目散に温室から走って逃げた。



残されたのは、レオナとジャミルの二人。未だに楽し気に喉を震わせ笑うレオナに溜息一つ吐いてジャミルは下肢を見下ろした。スラックスの、腰骨の辺り。くっきりと歯の形に濡れている。布越しとはいえ、きわどい所を思い切り噛みつかれればさすがに悲鳴も上げる。
「行ったか」
しゃあしゃあと言ってのけるレオナに思わず半目になって睨む。
「人が気を使って狸寝入り見ない振りしてやったのに何するんですか」
「楽しんだだろ?」
にいと口角を釣り上げて持ち上げられた大きな掌、その中指と薬指が揃えられ、くいくいと何かを引っ掻くように折り曲げられる。それはちょうど先程ラギーがまだ居た時、こっそりとジャミルの背に隠れて下着の下にまで滑り込んだ指先が中の浅い場所を引っ掻いていた動きそのもので。
「っっ、馬鹿言うな、そろそろ午後の授業が始まる……」
「サボればいいじゃねーか」
「アンタと違って俺は真面目なんだよ!」
圧し掛かろうとする顔面を掌で押しのけ立ち上がる。手早く広げたランチボックスをしまい始めればそれ以上、レオナは追いかけてはこなかった。
「安物の毛布が良く言う」
「野良気取りの箱入り猫に言われたくない」
テンポよく応酬される悪口に思わず二人で笑う。不快だとは思わなかった。
「今日、来いよ」
再びこのまま眠るつもりなのだろう、肘をついて身体を横たえたレオナの翡翠色の瞳が真っ直ぐにジャミルを見た。
「気が向いたらな」
素っ気なく答え、レオナに背を向けて歩きながら早くも脳裏では今日の予定を思い浮かべる。レオナを訪ねる時間は、有りそうだった。

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