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空箱

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百獣の王の褥は暖かい。
用が済んだのならさっさと帰れば良いのに、ついつい抱え込まれるがままに仮眠をとるようになってしまったのはこの暖かさが抗いがたい心地良さだからだ。
元々ジャミルの寝起きはあまり良い方では無いが、この暖かさに包まれているとたった数時間の仮眠でしか無いというのに目覚めが良い気がする。
眠気を引きずる瞼を何度か瞬かせ、室内の暗さから時間を推測する。ほんのりと白んでいるからもう少しすれば夜明けだろう、部屋に戻るにはちょうど良い時間だ。
巻き付く腕をなるべく動かさないようにゆっくりと身を起こした所でシーツの剥がれた肌にひやりと冷えた空気が触れる。普段ならば気にならないような温度である筈なのに、この暖かさに慣らされてしまった肌には随分と冷たく感じる。それでもレオナが起きないうちに抜け出さなくては、と腰を上げようとした所で巻き付いていた腕がぐっとそれを留める。
やはり起きてしまったか、と諦め半分、むしろ期待していたのも半分。この温もりから離れなくて良い言い訳を、ジャミルは自分で用意出来ない。
「寒い…」
寝起きの掠れた低音は情事の吐息を彷彿とさせる。とろりと半分以上眠気に支配された眼がジャミルを引き寄せ絡め取ろうとするのに、形ばかりの抵抗で突っぱねる。
「そろそろ寮に戻らないと」
「まだ大丈夫だろ」
「誰かに見られる前に帰りたい」
「まだ大丈夫だろ」
「朝食の支度もしないと」
「うるせえ」
ずるり、ずるり。絡みついた腕が、足が、ジャミルを暖かな褥に引き摺り戻してがぶりと唇に噛みつかれる。思わず痛みに口角を引けば、肉厚の舌が無遠慮に口内をひと舐めして出て行った。
「っは、……ちょっと、待……ッ、」
ぎゅうと抱きこまれたかと思えば背筋を降りて尻へと伸びた手がまだ閉じ切らない場所を撫でて浅く指先が潜り込む。乾きかけた指先に引っ掻けられた入口がちくちくと痛いのに名残を残した奥がきゅうと疼く。
「待て、起きろ、朝だぞ!」
しなやかな筋肉に覆われた身体はジャミルが藻掻いた程度ではびくともしない。無造作だが、気遣いが見える指先がゆっくりと奥深くへと潜り込もうとしていくのに必死に身を捩って抵抗する。さすがに今から一戦交える程の余裕はない。だが抵抗すればするほど、脚の間に膝が差し込まれ抱え込まれていただけだった筈が上から抑えつけるように圧し掛かられ、耳朶を水音を立てて舐られる。ずぷりと奥まで差し込まれた二本の指が疼きの残る場所をゆるゆると撫でるのに恐怖と期待がせりあがる。
本気で蹴飛ばせばなんとか出れるかもしれない、だがそれは最終手段だ。リミットは何時くらいに設定すればいいだろうか、最後までしたとしたら後処理の時間も必要だからそれも考慮して朝食には昨日準備しておいたあれとこれとそれと……。
必死に今後の段取りを頭で巡らせていればふと、レオナの動きが止まった事に気付く。がっちりと片腕でジャミルの身体をホールドし、指を中に埋めたまま、すぅすぅと穏やかな寝息が濡れた耳元で揺れている。
「――………っはー……」
始めたのなら最後まで責任を取れ、と文句を言いかけて口を噤む。そうじゃない、寝落ちるならば手を出すな……いやそれも違う。
ジャミルもまだ寝起きで頭が回っていないのだ、たぶん。そう結論付けて、諦める。もう少しこの温もりに浸っていたいと思ってしまったのはジャミルとて同じだ。
レオナの身体に押しつぶされて多少苦しさはあるが、その分ひたりとくっついた肌の暖かさが染み渡る。溜息一つ吐きだして、ジャミルはレオナの背に腕を回した。

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