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空箱

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4.アイラブユー

アントーニョが笑わなくなった。
それどころか電話を掛けても家を訪ねても拒まれるようになった。急ぎの用がある、先約がある、今日は調子が悪いから、様々な理由を持ってしてロヴィーノと 会う事自体を避けるようになった。のらりくらりと、だが常とは違う何処か歯切れの悪い断り文句ばかりを何度も突きつけられて自然とロヴィーノの心に不安と も苛立ちともつかない蟠りが腹の底に溜まり行く。何故、どうして、思い当たる節が無いとも言い切れないがそれを認めたくなくて思考はただ問い掛けばかりが 渦巻き、叫び出しそうな程の淀んだ何かが身体を支配する。それとなく弟に聞いてみても弟とは普通に会うし常と変わらぬ姿であるらしい事を聞いて余計にロ ヴィーノの胸に不快感ばかりが増してゆくばかりだ。
そもそも昔からアントーニョはロヴィーノ達兄弟に対してべたべたに甘かった。本当は怒ると怖いのだとフランシスに聞いた事もあるが全く信じていなかった。 否、信じられるはずも無かった。ロヴィーノを見ればいつもにこにこと暢気な笑みを浮かべてこちらの気持ちなどお構いなしに暖かな腕に抱き締められてばかり だったのだ、怒る姿だって出会った最初の頃に数度見ただけだが決して恐怖を感じるようなものでは無かった。
それが突然、ロヴィーノの存在を無視しようとしているような拒絶。会話をするのすら億劫だとでも言いたげに視線を合わせぬままに紡がれる会いたく無いとい う意味合いの言葉の羅列。アントーニョに拒絶されるなどと未だかつて想像すらした事が無かった。あの暖かな存在が、受け入れてくれなくなるなど。
「…っくしょ、どうしろってんだこのヤロー…」
鬱々とした物ばかりが溜まっているのに常にアントーニョのことばかりが頭の中をぐるぐるして憂さ晴らしすら出来無い。する気力が沸かない。日がな一日ベッ ドの上で蹲りただ怠惰に、無為な時間を過ごすばかりだ。時々心配したフェリシアーノが様子を見に来るものの、会話は全て思考の斜め上の辺りを滑るばかりで 正直、此処最近どんな話をしたのかは全く覚えていない。
「もー、にーちゃんいい加減にしないと黴生えちゃうよー」
「うるせーほっとけあっち行けよコノヤロー」
扉越しに兄を心配するフェリシアーノの声を追い払って深く溜息を吐き出す。アントーニョから会う事を拒否され始めてからもうどれくらい経つ?余りにも何度 も断られるものだから連絡すら怖くて取れなくなった。声すら暫く聞いて居ないのだ。思い出そうとしても脳裏に浮かぶのは優しい過去の思い出ではなく最近の 冷たいアントーニョばかりで切なさだけが膨らんで行く。会いたい、せめて声だけでも、だけど怖くて身動きが取れない。
あの日、酒に飲まれて勢いで押し倒さなければ。そのまま行為へと雪崩れ込まなければ。次の日の朝、アントーニョが余りにもけろりとしていたからその時はた だ満たされた気持ちだけで一杯だった。だが其の後すぐ。こちらから幾ら誘っても応じなくなったという事はあの日の出来事が原因なんだと思われる。けれど何 故。強引にことを運んだ自覚はあるが、アントーニョとて最後の方は自らロヴィーノの上に跨り腰を振るほど興が乗っていたではないか。どちらのものともつか ない体液を纏わりつかせ、程よく筋肉の乗った身体をしなやかに躍らせて幾度も掠れた声でロヴィーノを呼んだではないか。欲を宿した濡れた瞳が柔かく笑みの 形に歪むのを見て一度は想いが通じ合っているのではないかとまで思ったのに。
ぐるぐる、ぐるぐる。思考は同じところばかりを延々と巡り続けて果てし無く、鬱々とした感情だけを振り撒いて止まる事を知らない。次第に溜まり行くどす黒い物がついに身体に収まりきらなくなって弾け飛んだ。
「っっっあああああああああもうちくしょうコノヤローふざけんな!!!」
勢い良く部屋を飛び出して吠える。数日ぶりにまともに顔をあわせたフェリシアーノが驚いたような顔をしていたが構うことは無い。今まで身体を押さえつけて いた薄暗い感情が暴発して止まる事を知らない炉のように燃え上がっている。会いたいなら会えばいい。アントーニョが嫌がる理由なぞ知るものか。会って、話 して、此処最近の拒絶の理由を聞いて確り納得するまで説明させてやる。



そうして勢いのままに辿り付いたアントーニョの家。断りも無く玄関の扉を開ければそれは常と変わらず容易く開かれた。相変わらずの不用心さにどす黒い物が また容量を増すのを感じながら足音荒く家の中を探し回る。リビング、キッチン、バス、トイレ。そして最後に辿り付いた寝室へと足を踏み入れればベッドの上 にシーツ一枚だけ纏わせ惰眠を貪る姿があって。
「テメェは一人で暢気に昼寝かよコノヤロー!!」
姿を見ただけで胸中で渦巻いていた物が晴れてゆく自分が嫌だ。びくりと肩を震わせて目を覚ますアントーニョが起き上がるのを阻止するように足音荒くベッドへと近付けば其の上へと覆い被さるようにして乗りあがる。
「え…あ、ロヴィ…?…どないしたん、こない急に…」
目を白黒させて驚くアントーニョの顔が酷く頼り無い。自分はよほど恐ろしい形相をしているのだろうか、怯えを孕んだ翡翠の瞳に見詰められて身体の奥が疼く。
「うるせー、こうでもしねーとテメェは俺と会わねぇだろーが」
「ちゃ、ちゃうねん!会いたく無かった訳とちゃうんやで!?」
「じゃあなんだってんだよ」
慌てて言い繕おうとした言葉を遮れば途端に言葉を詰まらせ視線を泳がせる、その顔。まるで悪戯を咎められた子供のような幼い顔は見た事が無い。焦がれた相 手のそんな庇護欲をそそるような顔を見せられて憤りが少しだけ落ち着きを取り戻す。誘われるように頬へと掌を触れさせてそっと撫ぜる。柔らかな丸みを帯び たそこは柔かく肌に吸い付いた。
「言えよ。本当に俺が嫌なら…もう…、二度と来ねぇから…」
無いとは言い切れない可能性に、ただ言葉にするだけでも沈みそうになるロヴィーノの心を、ちゃう、と消え入りそうな声でアントーニョが救う。
「嫌、ちゃうねん、…嫌いともちゃう…けど」
「けど、何だよ。」
「俺、ロヴィの親分やから、あかんねん」
「何が」
「ロヴィには幸せになって欲しいねん」
まるで言葉の拙い幼子と会話しているような歯切れの悪い言葉と意味の繋がらない言葉の数々にロヴィーノの眉間に皺が寄る。ロヴィーノと会わない事が何故ロ ヴィーノの幸せに繋がるのか、わけが判らない。だが不意に思い出す。先走って身体を先に繋げてしまったけれど、ロヴィーノは想いを相手に伝えたことがま だ、無い。根本的な事実に気付いて愕然としながらも今が言うべきチャンスなのだと俯くアントーニョの頬を両手でそっと包み込んで視線を重ねる。唇が触れそ うな程に近くに顔を寄せ揺れる翡翠を真っ直ぐに見据える。
「俺は、お前が好きだ。お前の傍に居れば幸せになれるし会えねえと凄く、辛い。…愛してるんだ、アントーニョ」
今まで言う機会を逃していたという理由を盾に唇を割る事の無かった想いが滑らかに滑り落ちて行く。翡翠を見開き固まっているアントーニョの唇へとそっと触れるだけの啄ばむだけの口付けを落とした。
「…え…いや…けど…」
「お前の翡翠色の瞳も、子供みたいに柔かい頬も、太陽の下で輝く笑顔も底抜けに明るくて能天気な所も全部…全部、愛しいんだ。いつも俺の瞼の裏にお前の姿が焼き付いて夜も眠れ無いくらいにいつもお前を想って離れられねー、愛しているんだ」
戸惑いを露にするアントーニョに重ねて畳み掛ける。一度言葉にしてしまったらもう引き返すことなど出来無い。覚悟を決めてしまえば迷う事は無い、今まで素直に言えなかった想いを唇に乗せて囁く。
「でも、俺、親分やし…」
「そんなの関係無ぇよ、お前は、俺の事どう思ってんだよ…受け入れられないって言うなら二度とお前の前には現れねーよ」
「っそんなん嫌や…!!」
不意に伸びたアントーニョの両腕がロヴィーノの首を捉えて引き寄せる。自然とアントーニョの上に倒れることとなった体がひたりとシーツ越しに重なり温もり が滲み出す。ぎゅっと抱き締める腕の強さに顔を首元へと埋めることになったロヴィーノにアントーニョの香りが纏わりつく。
「二度と会わんとか悲しいこと言わんといて、そんなん絶対嫌や…!」
「な、ならお前、俺のモノになんのかよ…」
突然の勢いに飲まれて思わずどもりながらも問い返す声が自然と震える。この男相手に期待してはいけないと理解しているはずなのに高鳴る鼓動が抑えられない。抱き返す腕すら持てずに硬直したようにロヴィーノはただアントーニョの腕の中でじっと次の言葉を待つ。
「自分と離れるくらいやったらなんぼでも俺なんぞやるわ。やから会わないとか言わんといて。」
呆気ない程にすぐ帰って来た返答に思わずロヴィーノはぽかんとアントーニョを見詰めた。この男は結局、分かっているのだろうか。あまりにも考えなしに紡が れる言葉の羅列に、もしかしたら己の想いを含めた今まで全ての会話は全くの無駄だったのでは無いかと悲観的な思考すら過ぎる。
「お、俺の恋人になれって言ってんだぞ、親分でも保護者でもねーんだぞ」
「わかっとるよ」
「う、浮気とかしたら駄目だからな!そんな事したら相手を殺してやるんだからな!」
「絶対せぇへんて約束したる」
「…もう、二度と離してやんねーぞ…」
「ええよ。ロヴィと離れ無いで済むならなんでもかめへん」
どれもこれも。わかっていっているのか、分かっていてこの返答なのか。胸にあった筈の心臓が耳元で激しく脈打っている。信じていいのか、今度こそ、想いが通じ合ったのだろうか。
「…お前は、俺の事どう思ってんだよ。」
「何言うてんの、俺は昔っからロヴィのことが世界の何よりも一番大事なんやで」
結局。それは親分としてなのか恋焦がれる相手としてなのか判断につきかねるのだが。
とりあえず、拒絶はされていない。そう、知ると同時にロヴィーノの身体から力が抜ける。細かい事はどうでもいい、とりあえず言質は取れた。後はこれから じっくりみっちり教え込んでやればいい。お前が了承した事柄はそういうことなんだと、例え分かっていなかったとしてもこれから身体でもって知ればいい。
「お前、その言葉、覚えてろよ…」
手始めにまずその唇からロヴィーノは侵略を開始した

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