本来、三日間の連休を取ってのんびりとレイヴスと二人でどこかに出掛けようかと思っていたところへ突然のイドラ社長からの出張随伴命令。それも商談相手がアーデンが以前より顔を繋げないかと狙っていた相手と聞けば二つ返事で行くしかない。家でのんびりしているさ、と折角の予定が無くなってしまったレイヴスに見送られて泣く泣く飛行機に乗ったのが一昨日の事。本来ならば明日まで掛かる筈だった商談が一日早く終わる事が出来たのは良かった、しかしその為に分刻みのスケジュールになっていたのは正直しんどかった。もうとっとと帰ってレイヴスを抱きしめながら寝たい。どこかに出掛ける時間は無いからただひたすらいちゃいちゃぬくぬくして癒されたい。そんな思いで脇目も振らずに神聖なる二人の愛の巣へと帰って来た。まだ日差しが残る午後、出立前の言葉通りに過ごしているのならばきっとリビングで飼い犬と共にごろごろしている時間だろう、その微笑ましい光景を想像しながらリビングの扉を開け放つ。
「ただいまレイ……ヴ…………す…………」
姿が見えればすぐにでも飛びつこうと勢い込んだ足が止まる。確かにレイヴスも飼い犬も居た。家の中では裸族なレイヴスが今日も全裸でラグの上に寝ころがっているのは良い。美しいから良い。犬が日の当たる窓辺ですぴすぴ昼寝を決め込んでいるのも良い。可愛いから良い。だがレイヴスの上に裸で覆いかぶさっている男…グラウカは予想だにしていなかった。いや、レイヴスが社員であった頃は直属の上司だった男だし、身体の関係があったという事もレイヴス本人から聞いていた。だがそれも過去の事だ、深く追求はしない。けれど今は。外で遊ぶ事は百歩譲って見ない振りをするにしても、長年の紆余曲折を経て漸く二人で暮らせるようになったこの愛の巣で。違う男と。レイヴスが。
「早く帰って来るなら連絡しろ、びっくりするだろう」
「えっ、あ、っうん、ごめん」
余りにも堂々と家主どころか住人でも無いグラウカに責められて思わず謝ってしまった。いや俺は悪くない筈だと思いながら縋るようにレイヴスを見る。
「おかえり、早かったな…ッぁ」
眼があった途端にふわりと綻ぶように笑う愛しい人に思わず頬が緩みかけるが甘く響いた嬌声に我に返る。考えないようにしていたがやっぱり真っ最中だったの?え、浮気現場見られているのにまだ腰振るの?
「すぐ終わらせるから先に着替えてきたらどうだ」
言いながらも段々と早くなる律動にレイヴスが気持ちよさそうに鳴いている。首に腕を絡めて足までグラウカの腰に巻き付けて快楽に従順な姿を惜しげも無く晒している。グラウカもその言葉を最後にレイヴスの腰をしっかりと掴むと肉のぶつかりあう程の音を立てて責め立て始めてアーデンはすっかり蚊帳の外だ。本来浮気現場を見られた二人ってもっと慌てて隠そうとしたり弁解しようとしたり謝って来るものじゃないの?続けるの?この状況で最後まで行くの?止めないの?止めさせようとした俺が悪いの?
「うん……うん、とりあえず、着替えてくるね……」
なんだかよくわからない圧に圧されて思わず言われるがままに自室へと退散した。
「おっかしいよね!!???何で!?俺何も悪い事してないよね!!!???」
部屋にすごすごと戻りキャリーを放り投げ、とりあえず楽な部屋着に着替えて少し。あまりにも衝撃的過ぎて止まっていた思考が動き出して漸く怒りを覚える。あまりにも悪びれず堂々とした二人に飲まれてしまったがアーデンは悪くない筈だ。パートナーの居ない隙に違う男を連れ込んでセックス三昧なぞ夫婦であったら即離婚だ訴えて慰謝料まで踏んだ食ってやるやつだ。
鼻息荒くリビングへと戻って扉をあけ放つ。
「ってコラいい加減離れろ!!!!!いちゃいちゃすんな!!!!!!」
確かにすぐに終わらせたらしい、そこはかとなく生臭い臭いが漂っているし二人の呼吸も落ち着いている。だが浮気現場を見られた後に何故そんなにちゅっちゅちゅっちゅいちゃついているのだ。今度こそ何か言われる前にべりっとグラウカを引き剥がせば思いの他大人しく両手を上げて離れて行った。その顔がニヤついているのが腹立たしいが。問題はその下できょとんとした顔でアーデンを見上げているレイヴスだ。というよりもあまりにもわかりやすく顔に書いてあるので気付いてしまった。
「レイヴスくん、俺は怒っています。何故だかわかりますか」
怒りとも悲しみとも遣る瀬無さともなんとも言い難い感情に声の抑揚が消える。問われたレイヴスと言えばのそのそと起き上がりながら辺りを見渡し、そしてはたと気付いたように顔を上げる。
「お気に入りのラグを、汚したから?」
「ちっがうっ!!!」
ああやっぱり。アーデンの中で渦巻く怒りの理由を一ミリ足りとも理解していない。思わず膝から崩れ落ちるアーデンの横では裸のままソファにどっかりと寛ぐグラウカが盛大に噴いていた。
「ほんと、レイヴスはそういう方面ポンコツだよなあ」
「外野は黙って!」
そもそもの原因であるグラウカがしみじみと傍観者を決め込んでいるのが腹立つ。こちらはこちらでアーデンの怒りの理由をわかっている癖に逃げるどころか煙草を取り出し始めてこのまま此処に居座る気でいるのが余計に腹立つ。というかこれはもう何処から怒って何処をどうすればいいのか。状況について行けずに「あ、垂れてきた」と呑気な事を言っているレイヴスにも、にやにやと眺めているだけのグラウカにも勝てる気がしなくてアーデンは頭を抱えた。
余談
ア:君と俺は恋人だよね?
レ:そうだな
ア:ここは俺と君の家だよね?
レ:そうだな
ア:俺の知らない間に自分の家で自分の男が違う相手とセックスしてたら嫌な気持ちになると思わなかった?
レ:……三人でするか?
グ:ぶはっ
ア:ちっがうそうじゃない!君が他の男に抱かれてるのを見るのが嫌なの!
グ:自分も他所では男に抱かれてるのに?
ア:今はしてませんー外野は黙って下さいー
レ:していないのか?
ア:レイヴスくん俺の事そんな男だと思ってたの…?
グ:男は過去でも女は今でも遊んでいるだろうが
ア:外野は黙ってってば
レ:グラウカとするなら他所でやれと言うことか
ア:違うぅぅ…けどなんかもうそれでもいいや…
グ:負けるな、頑張れ(笑)
ア:お前にだけは励まされたくない…
別の日
ア:うわデカっ
グ:お前にも味合わせてやろうか?
ア:ケッコウデス
レ:グラウカのはすごいぞ一度は試してみろ
ア:そういう感想も要らないデス
グ:処女でもあるまいし
ア:俺のお尻はレイヴスくんの物なの!
レ:俺はお前がグラウカに抱かれている所が見たい
グ:爆笑
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