そういえば、とため息のように吐き出された言葉にアーデンは動きを止めた。
「先週、レオがお手を覚えたんだ」
一瞬、何のことだかさっぱりわからなかった。丁寧に丁寧に指先で唇で請うように固い身体をほどいて行き、とろとろにとろけた所にようやく己の欲望を突き刺した所、の筈だった。腹の底で滾る熱量のままに突き上げようと腰を引きかけた中途半端な姿勢で少し考えて、そしてようやく二人で飼っている犬の話だと理解して力が抜ける。
「えぇ……それ今言うことぉ……?」
「ずっと教えようと思っていたのに忘れていたから」
「今じゃなくても良いじゃない」
「今言わなくてはまた忘れる」
組み敷いた体の上に脱力感のままに突っ伏す。緩やかに首に回された腕に抱き締められて髪に口付けが落とされる感触がするがそうじゃない。そういうことを求めたわけじゃない。だから勝手に腰に足を絡めて揺らさないで欲しい。このなんとも形容しがたい切なさを片付けるのに手一杯なのだから。
「しないのか?」
だがこの男にそんな繊細な男心は伝わらないらしい。何故動かなくなったのか検討もつかないと言わんばかりのきょとんとした顔で問われて可愛さ半分、切なさ五割増しだ。あと耳の穴を爪先でくすぐるのも止めてください耳弱いんだから。何か文句言ってやりたい気持ちよりも下半身の欲求に飲まれそうになる。
「……するけどさぁ……」
結局言葉にならずに唸り声を上げるしか出来ないアーデンに焦れたのか、急かすように粘膜に包まれた自身がぎぅ、と締め付けられる。顔を上げればはやく、と吐息混じりのおねだりと共に濡れた瞳が期待に満ちてアーデンを見ていた。すっきりしないモヤモヤを溜め息一つで外へと逃すとレイヴスの鼻先へと口付けを落とした。
「仰せのままに、お姫様」
その後、照れ隠しなのかなんなのか、容赦無い踵落としが背中に落ちてくるなんて想像もしてなかったじゃない?
[0回]
PR