青白く血の気の引いた肌は死人のようにも見えるが、まだ命の灯が消えたわけでは無い。冷え切った皮膚の下では人としての活動を終えた身体を浸食すべく、アーデンによって長年にわたり丁寧に送り込まれた「想い」が着実にレイヴスの身体を作り替えている筈だ。
「巧く行くといいよねぇ」
人の意思を持ったままでのシガイ化。研究が完成に至る前にこのような事態になってしまった為に確実に成功するという保証は何処にもない。神凪の研究と称してヴァーサタイルがせっせと仕込んだタネが巧く動けば良いと思う。
「せめて、名前を覚えていてもらえる程度の知性は残って欲しいなあ」
自我があれば身体を維持出来ずに霧散してしまった後でも再び「自分」の形に戻る事が出来る。だが個を持たずに大きな「塊」の内の一つとしてしか認識していなければ、せっかく永遠の命を与えた所で空中を漂う黒い靄にしかならない。レイヴスがレイヴスで居られるか、それとも有象無象のシガイと同じように壊れれば簡単に散らばってしまうだけの存在になるかは彼自身の意思の強さに掛かっている。
「あ、始まった」
こぷりと半開きになった唇から黒く粘度の高い液体が零れ落ちる。それと同時にびく、びくと徐々に体の中心から始まる痙攣。喉が壊れそうな程の咆哮と身体が内部から破壊されているような生々しい音。
「頑張れよ、俺、結構楽しみにしてるんだから」
がくがくと人ならざる動きをしながら徐々に染み出す黒い液体、それが左半身にばかり集まり異形な姿へと変わって行く様を眺めながらアーデンは無邪気に笑った。
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