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空箱

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 綺麗に綺麗に焼け落ちた左腕の、その根元。普段は義腕に隠されたそこは覆うものが無くなってしまえば上腕骨ごと失った肩関節がぼこりと凹んで影を落とす。無理矢理縫い合わされて引き攣れ変色した皮膚から生えるのは無機質な金属。人の腕よりも重い義腕を支え、意のままに操る為に身体の奥深くまで差し込まれた金属は肩甲骨まで延びてレイヴスの皮膚を歪に波打たせていた。腕が焼けた時、ただ普通に治療をするだけであれば此処まで醜い身体にならない筈だったが、レイヴスは戦う力を失わない為に、更なる力を求める為に残っていた上腕骨を削ぎ落してでも義腕を求めた。提案したのはアーデンだ。だがそこまであっさりと受け入れられるとは思わなかった。ルシスが陥落したあの日から胸に確かな決意を秘めたようなあの凪いだ色違いの瞳がアーデンは嫌いだった。  
「これ、痛い?」  
 肩から突き出た金属と皮膚の境目を爪の先でつぅとなぞる。魔導エネルギーに浸食され始めている皮膚は大動脈が近い場所だというのにひんやりと硬い感触をしていた。  
「別に」  
 返る言葉は素っ気ない。だが皮膚の感覚は鈍くなっていたとしても金属部分は義腕とのジョイントの為のパーツであると同時に義腕を生身の時と同じように扱う為に纏められた神経の末端でもある。これが義腕の疑似神経と繋がる事で動かすだけでは無く、触覚に近いものを感じられるようになる。その大事な神経そのものとも言える場所を触られていれば何かしらの感覚を感じているのだろう、ぴくぴくと肩が震えている。  
「止めろ、くすぐったい」  
 耐えきれなくなったのかすいと逃げられ、そのままの流れで義腕が音も無くはめ込まれる。神経が繋がるその一瞬だけ眉根を寄せると硬い左手を数回握ったり開いたりを繰り返して動作を確認、それでお終い。義腕自体は細い金属のパイプと数色に分けられた数多のコード、それから動力となる魔導エネルギーを収めたバッテリーと数枚のチップだけのシンプルな造りだ。だがそれだけではレイヴスの荒々しい動きに耐えきれず、一度は肩甲骨にヒビまで入った為に今では服を着た後、さらに上から防護の為のアーマーをつけている。どんどん人とはかけ離れた見た目へと自ら変化させてゆくその姿はアーデンの胸の柔らかい場所をチクチクと突き刺してきてあまり良い気持ちにはならない。  
「こんな筈じゃなかったんだけどなぁ」  
「何か言ったか」  
「ううん、なんでも」  
 この胸に蟠るもやもやとした感情から目を反らすようにしてアーデンは瞼を下ろした。 

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