抱えて来た体を無造作に投げる。消耗しきっているらしい体はぐぅと小さな呻き声一つあげただけで人形のように力無く揚陸艇の床に転がった。
「なに勝手な事してるの」
荒い呼吸に上下する背を蹴りつけても反応は薄い。表情を窺いたくても顔面に張り付いた髪に邪魔されて伺い知ることは出来ない。どれだけ脂汗を流したのか、髪の合間から見える肌は濡れていて痛みの凄まじさが伝わるが、アーデンの苛立ちを増す要因にしかならなかった。
「ねえ、聞いてる?」
左肩の下、焼けた肉へと爪先をめり込ませてやれば今までの静けさが嘘のように跳ね上がる身体と絞り出された悲鳴に少しだけ溜飲が下がる。焼かれたばかりの傷口を抉られるのはさぞかし辛いだろうが、所詮は自業自得だ。逃れようとする髪を踏みつけて強く爪先で肉を抉ると鼓膜が痛い程の絶叫とともにがくがくと跳ねた身体が、不意にふつりと糸が切れるように力を失くした。
「寝るな、起きろ」
不快に湿った前髪を退け、濡れた頬を叩く。一度だけでは起きない事に余計に苛立ちを募らせてもう二、三度。そうしてようやくうっすらと開かれた瞳の覇気の無さにぶわりと膨れ上がった怒りで毛が逆立つのを感じた。込み上げた衝動のままに手を振り上げる。
「……好きに、しろ」
揚陸艇の稼働音に掻き消されそうな声に思わず手が止まった。乾いてがさついた声が無気力にアーデンの前に身体を投げ出している。弁明も、心情の吐露も無く、ただ諦めた瞳が自ら罰を望むかのようにアーデンを見ている。たった数刻前まで野心に燃えていた男は少し目を離した隙に全く違う何かになってしまった。そしてその事に衝撃を受けている自分に気付いて思考が乱れる。たかだか暇潰しの玩具が一つ壊れかけただけで何をそんなに狼狽えなければならないのか。感情が乱されたという事実がまたアーデンの心に不快感を垂らす。何かを考える前に後ろ退る足が、止める間も無く踵を返しレイヴスに背を向けて歩き出すのを止められない。振り替える事すら出来なかった。認める訳にはいかなかった。アーデンがレイヴスから逃げている等とは。
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