帝国有数の公爵家の元当主。家督の全てを嫡男へと譲った後でも尚、帝国内で絶大な権力を誇る老年の男はレイヴスの初めての「相手」であり准将の立場になってなお関係を続けている相手でもある。既に盛りを過ぎて自身は不能になっているというのに若い男を寝室に呼び寄せてはあらゆる手段を使って乱れさせるのが好きなのだと豪語する通り、訪れる度に前後不覚に陥る程に嬲られ、出来れば相手をしたくない所ではあるが見返りの大きさにそうも言っていられない。属国出身の身では貴族に取り入り便宜を図ってもらうのが何よりも効率的だった。
「よく来たね、さあお入り」
通いなれた元公爵の寝室の扉を開けてレイヴスは安堵する。今日はフィグリン……置物と呼ばれる男が共にいる。彼は不能になった元公爵の代わりにレイヴスを抱く為に此処に居る。妙な体勢を強いられる事はあるが、元公爵自身による無機質な玩具での責めに比べたら生身の身体とのセックスは楽と言っても過言では無い。長年通っていながらまだフィグリンが言葉を発するところは聞いた事は無いが、元公爵に従順ながらもレイヴスを抱く手つきは優しい。
「それでは始めようか」
まるでお茶会を始めるかのように爽やかに笑う元公爵の声に合わせてフィグリンが動く。レイヴスはただ思考を放棄して身を任せるだけだ。
こんこん、とノックの音が聞こえたのは既にレイヴスが二度も果てて視界も思考もぼんやりとしてきた頃だった。それでもまだ命じられるがまま寝そべるフィグリンのいきり立ったモノの上へと座り腰を動かしていると開かれる扉。ことの最中に人が入って来る事はあまり多く無いが皆無というわけでも無い。使用人が余計な玩具を運んで来たのかそれとも元公爵の悪趣味な友人が遊びに来たのか、今日もまだ暫く解放されないのかと諦めの境地で扉へと視線をやれば予期せぬ赤色が見えてレイヴスの身が強張る。
「ご無沙汰しております閣下、今宵はお招きいただきありがとうございます」
「久しぶりだね愛しいアディ、君を再びこの部屋に招けて嬉しいよ」
確かにこの元公爵を紹介したのは宰相であるアーデンだった。力が欲しいなら後ろ盾があった方が良いでしょ、と接触するチャンスをくれた。宰相という立場上、貴族との繋がりがあるのは何ら不思議では無い。だが親し気に抱き合い顔中にキスの雨を降らせては微笑み合う二人は。
「っひ、……」
想像もしていなかった光景に動きが止まった事を知らしめるように突き上げられ、思わぬ声が上がる。予想以上に大きく響いたそれに二人の視線がこちらへと向いてじわじわと羞恥で肌の温度が上がるのを自覚した。貴族相手にはしたない姿を見せる事にはとうの昔に慣れた。けれどこの男は。動揺して動けなくなっているレイヴスを他所に、フィグリンは主の言いつけを忠実に守ってゆるゆると腰を突き上げてくる。
「随分可愛がって頂いているようですね。この子、頑固だから大変だったでしょう」
「最初は初物なんぞ手間が掛かるだけだと思っていたが……お陰様で教える喜びを知る事が出来たよ」
「それは何より。まさかこの子がこんなに可愛い顔をするようになるとは思いませんでした」
いつもの飄々と笑う姿とは違う、色を含んだ笑みを浮かべたアーデンがレイヴスへと近づいて頬を撫でる。反射的に逃れようとした身体をフィグリンの大きな手ががっしりと腰を掴んで離さず、それどころか緩やかだった突きあげが次第に強まり突き抜けた快感の強さに悲鳴を上げる事しか出来ない。
「ほんとまあ気持ちよさそうな顔しちゃって」
哂う宰相の声にかっと熱が上がるのを感じた時には射精する事無く達していた。吐き出せば終わるそれとは違い、いつまでも続く快感の波にぐぅと喉を鳴らして身を震わせる事しか出来ないレイヴスを他所に場違いな程に楽し気な会話は続く。
「それで、わたくしめはどなたにご奉仕すれば?」
「君にしゃぶって貰いたいのは山々だが、残念ながらもう私は使い物にならなくてね」
「俺が心を込めてしゃぶっても?」
「それは元気になるかもしれないな。けれど今日は彼と君が愛し合う姿が見たくてね」
「相変わらず良い趣味をしていらっしゃる」
フィグリン、と元公爵が呼ぶ声にずるりと体内を押し開いていた熱が抜け落ちて情けなく細い声が漏れた。中で達した後の沁み出るような熱でぼやけた視界に広がる宰相の赤。
「それじゃあ、よろしくね?」
一瞬唇に触れたひやりとした柔らかさが宰相の唇だと気付いたのは、すっかり力の抜けた身体が再びシーツに沈んだ後だった。
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