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空箱

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お留守番

 幾重にも厳重にかけられた電子ロックを解除し、ようやく扉を開けた瞬間から香る血生臭さと真っ赤に様変わりした壁を見てアーデンは思わず脱力した。  
「またかぁ……」  
 ジグナタス要塞内、元は将軍用の部屋だった一室はかつてそれなりに整った内装があったのだが今ではむき出しの壁材と床板、それからキングサイズのベッドが一つ置いてあるだけの殺風景な景色だ。それが見事なまでに真っ赤に染まっている。天井まで赤が飛び散っているところをみるに相当時間をかけてなぶり殺したに違いない。  
「誰が掃除すると思ってんのさ……」  
 部屋に進もうにも足元には一面に赤い水溜まりが広がっていて突っ込む気も起きない。そんな惨状を産み出した元凶はと言えば血溜まりの真ん中でどうだと言わんばかりに千切れた腕を咥えて見せつけてる所だった。  
「そんなもの咥え無いの、べーっしなさいべーっ」  
 言えば素直にべーと声を出しながら口を開けて腕を無造作に床に落とす。その口の回りと言わず全身が血なのか肉なのか内蔵なのかわからないもので真っ赤に染まっていた。傍らにある人の形をしていた筈の肉片を見れば大体の事は想像つく。どうせまた遊んでいるうちに引き千切って壊した上に、思う存分齧りついたり引き裂いたりしたのだろう。遊びの激しさが肉片の細かさに現れている。  
「……あれ?また食べた?そんなに目玉って美味しいの?」  
 なんとは無しに肉片を眺めていれば半分に割れた頭部の眼球にあたる部分が瞼ごと引き剥がされたようにぽかりと穴を開けているのに気付く。確かめるように身を屈めて口許へと手を伸ばせば構ってもらえると勘違いしたのか思いきり飛び付かれてべちゃりと血溜まりに尻餅をつく羽目になった。  
「だからー!……あーもー俺まで血塗れになっちゃったじゃない」  
 首に腕を回してぐりぐりと肩になつく姿は可愛いとは思うものの血まで一緒に擦り付けられているかと思うと素直に喜べない。こら、とべっちゃり血に濡れた後ろ髪を引っ張って少し強引に引き離す。
「あーでん、おこる?」  
「そうだよ、前にも壊しちゃ駄目って言ったでしょ」  
「こわす、してない、あそぶ、だけ」  
「でももう動かなくなったでしょ」  
「うごく、する、うごく、できる」  
 髪を引っ張られてもなおもだもだとくっつこうとして暴れるのを無視して立ち上がれば少しは危機感を覚えたらしい。再び抱きつくのでは無く、肉片の元へと戻ると腕と足だったものを血溜まりから拾いあげてぶんぶんと両腕で振り回し始めた。  
「うごく、する」  
 どうだと言わんばかりにまっすぐ見つめられて、余計に血が飛ぶから止めてくれだとか、お前が動かしてるだけだろうとか、この状況で何故そこまで自分の非を認められないのか等言いたいことが幾つか過っては言葉にならずにため息へと変わる。  
「うん……うん、とりあえずお風呂入ろうか」  
「あーでん、おふろ、する?」  
「俺も入るよ、君のせいで汚れたからね」  
「おふろ、する!」  
表情こそ殆ど変わらないがその声はどこか喜んでいるように聞こえてしまうのだから始末に終えない。怒られていたことなど既に忘れたように飛び付いてくる獣を引きずってアーデンはバスルームへと向かった。 

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