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空箱

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アーデンと猫

 猫を一匹、飼っている。 
 白銀の毛並みに均整の取れた身体、顔立ちはとびきりの美人。性格は好奇心旺盛で、気紛れなところはあるが概ね飼い主に従順。手を煩わす事も多いけれど、案外この猫との生活は楽しい。 
 神凪は死に、王はクリスタルに囚われ、世界は闇に閉ざされた。外はシガイで満たされ、人は僅かに残された拠点を頼りに細々と命を繋いでいる。かつて栄華を極めた帝都グラレアにあの頃の面影は無い。シガイや魔導兵に好き放題に破壊しつくされ、暖かな血肉を持つものの絶えた死の世界。まるで世界中で猫とたった二人きりになってしまったようで悪くない。 
 すり、と足に押し付けられる柔らかな毛の感触に宙に浮いていた意識が戻って来る。暇を持て余してソファに身を預けていたらそのままぼんやりとしてしまったようだ。 
 ジグナタス要塞、元は将軍用の執務室だった場所に多少の手を加えて猫の為の部屋にした。何だかんだとアーデン自身、此処に居ることが多いので二人の部屋と言っても間違いでは無い。見下ろす先には黒く煌く眼球にくっきりと浮かび上がる金色の瞳。人ならざる者の証であるそれがひたりとアーデンを見据えてはぐるるぅと喉を鳴らした。 
「ごめんごめん……ちょっとぼーっとしちゃってたよ」 
 ご機嫌取りに頭を撫でてやれば滑らかな指通りの中で数本、指先に絡んだ毛先。これはまた後で丁寧にトリートメントとブラッシングをしてやらねばならない。「彼」と比べたら驚く程に風呂嫌いになってしまった猫をどうにか風呂場まで連行し、顔に湯が掛かるのを嫌がるところをなんとか宥めすかして髪と身体を洗ってやるのはなかなかに骨が折れる仕事だが、それなりに楽しいとも思っている。なんせ頑なに余計な接触を拒んだ彼と同じ形をした物を、ほんのちょっとの手間だけで自由に弄り回せるのだ。お気に召さない時は容赦なくもとに戻されてしまうが、それでもアーデンが作業をしている間は大人しくしていてくれる。 
 煮るも焼くもアーデンの意のまま。アーデンだけを頼り、アーデンだけを慕い、アーデンの為に応えてくれるこの猫を可愛いと思わないわけが無い。たまにご機嫌斜めになってこっちを見てくれない事だって無いわけでは無いが、そんなものは拗ねているだけにしか見えず、結局可愛いだけだ。 
 そんなアーデンの思考などお構いなしに猫はもっと撫でろと言わんばかりにぐいぐいと頭を押し付けてくる。 
「焦らなくてもちゃんと構ってあげるよ。ほら、おいで」 
 そう言って両手を広げてやれば躊躇い無く膝の上に乗りあがる猫の体温はひやりと冷たい。体温が無いわけでは無いのだから、せめて服を着てくれたら此処まで冷える事はないだろうにどうしてかこの猫は服を嫌う。以前の「彼」と同じようなデザインの物から気心地が良く楽な物など多種多様な服を与えてはみたが、着せられる時は大人しくしている癖にすぐに脱ぎ捨ててしまう。 
 その代わりにとでも言うべきか、「彼」の時は考えられない程にすぐアーデンにくっつきたがる。アーデンとて人のような温度は有していないというのに素肌同士をぺたりとくっつけて抱き締められる事を好む。今もアーデンの膝の上で力任せに服を剥がそうと引っ張られて息が詰まりそうだ。 
「ちょっと、丁寧に扱ってよ。一張羅なんだかさぁ……」 
 知性を失った指先は「彼」程に器用は動かない。留め金もボタンも、猫にとっては力で引き千切れるものでしかない。今にも服を破きそうな程に力の入った指先をそっと握ってやれば喉の奥で不服そうな唸り声が上がった。それでも大人しく布から手を放し、じっと金の瞳が伺うようにアーデンを見る。 
「ほら、オネダリしたい時はどうすればいいんだっけ?」 
 冷え切った指先を温めるように包み込んだまま問いかければ、少しだけ考えた後にぺろりと乾いた唇を舐める姿。恐らくは、普段言葉を発する機会が無い為に硬くなりがちな舌の準備運動のようなものなのだとは思う。だが真っ白な猫のそこだけ赤く色づいた舌が無造作に唇を湿らせる姿は酷く扇情的だ。 
 お上品さを崩さなかった「彼」の姿を模しているから尚更。「ぅ、あ、あー、でん」 
「うん」 
「あーで、あーでん、す、き」 
 余り使われずにがさついた低音がたどたどしく音を紡ぐ。 
 アーデンよりもよっぽど体格に恵まれた身体が。 
 顔を合わせれば嫌悪、疑心、拒絶しか向けてこなかった「彼」と同じ形をしたものが。 
 言葉の意味も分からぬまま、ただアーデンに求められるままに発する舌っ足らずな言葉はなんとも言えない背徳感で背筋がぞくぞくする。 
「そっかぁ、俺の事、好きなの?」 
「あー、でん、す、すき、あーでん」 
「よくできました」 
 縺れそうになる舌を必死に動かして紡ぐ言葉は「彼」であれば死んでも口にしない言葉であっただろうに、目の前の猫はただアーデンにご褒美をもらいたいが為だけに必死だ。応えるようにショールを外し襟を寛げて行けば待ちきれないとばかりにぐりぐりと頭が首筋に懐いてくる。 
「こら、ちょっとは待ってってば。脱ぎ辛いでしょ」 
 さらさらと肌をくすぐる毛先がくすぐったい。懐くだけでは足りなくなったのか首筋に舌が、歯が、唇が押し付けられて唾液に濡れた場所がひやりとした。それからむき出しになった腹へと無遠慮に押し付けられる熱。隠すものを纏わない猫の昂りが恥じらいも無く二人の間で形を成して揺れている。 
「オネダリしただけでこんなになっちゃうの?ヤらしいよねぇ」
 卑猥な野次だって今の猫には意味を持たない。簡単な言葉なら理解はしているようだが応えてくれる事は稀であるし、そもそも言葉で意思の疎通を図ろうという意欲が感じられない。猫が必死に繰り返すあーでん、すき、の二つの言葉だってベッドの上で快感を餌に根気よく教え続けてやっと言えるようになった。この二つの言葉を言えば気持ちよくしてもらえる、たったそれだけの理由で口にしているに過ぎない。 
「ほら、ベッドに行こうか。早く欲しいんでしょ?」 
 上は前を寛げ終えて後は脱ぎ落すだけだが猫が邪魔でそうもいかない。だが猫はと言えば無理やり服を押し開いてぺったりと胸をくっつけるようにしがみついてくるばかりで離れる気配が無い。それどころか早くもアーデンの腹に昂りを擦り付けるように腰を揺すり始める始末。 
「そろそろ待ても覚えてもらわないとなぁ……さすがに此処じゃ足が痛くなっちゃうよ」 
 そう言葉にしつつもアーデンは唇が緩んでしまうのを止められない。発情による体温上昇でようやく熱を帯び始めた身体をしっかりと抱き抱えると、よ、と勢いをつけて立ち上がる。甘やかし過ぎている自覚はあるがこんなにも無条件にアーデンを求める「彼」の姿にあまり厳しい躾をするのも可哀想だとつい思ってしまうのだ。「彼」が相手ならば腹の底の淀みを投げつけるようにぶつけていた欲も、猫ならばふわふわの柔らかな物で包み込んでドロドロに甘やかして溶かしてしまいたくなる。  片手で服を脱ぎ落としながら壊れ物のようにそっと大事にベッドの上へと猫を下ろす。筋力は無い方だが「力」があれば成人男性程度の重さは苦でも無い。 
「さあて、今日はどんな風に可愛がられたいのかな?」 
 中でイく事は覚えたし、他の場所だって触れれば可愛い鳴き声をあげられるくらい随分と快感を得られるようになってきた。
 そろそろしゃぶってもらおうかなあと計画を立てながら、真っ白な猫の手に引き寄せられて唇を重ねた。 







・宰相の力と帝国の技術力を掛け合わせたら消滅する寸前のシガイを回収して再構築くらい出来るんじゃないかな、と。
・人の部分は回収出来なかったから中身は全てシガイ、でも義手とか生前取っていた生体サンプル等を核にしてもにゃもにゃごにゃごにゃしたら見た目そっくり、知性はシガイ並な物が出来上がるんじゃないかなって妄想

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