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空箱

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アーサーは犬を一匹、飼っている。
つい先日、手に入れたばかりの頃はアーサーに懐かずそれは苦労した物だった。言う事を聞かない、目を離すと逃げ出そうとする、果てには暴れてアーサーに牙 すら剥く。あまりに酷いモノだから一晩、ぎりぎり身体が入る程度の大きさの箱に詰めて放置してやったら漸く、いう事を聞くようになった。それでもまだアー サーに反抗する意志を緑の瞳に宿らせて懐こうとしないからまだ暫くは躾に重きを置く時間が必要なのだろう。
けれども、欲しいから飼う事にした犬だし、手が掛かるからこそ情が湧くというものだ。
今日も夜遅く、疲れた身体を引き摺り家に帰ると着替える間を惜しむようにして部屋へと赴く。放し飼いにしていればすぐにでも逃げ出しそうな犬はアーサーが居ない時はずっと部屋に閉じ込めたままにしているから退屈しているだろう。
「ただいま、帰ったぞ」
シンプルな家の中で其処だけ頑丈な物に付け替えた扉の鍵をあけて部屋の中を覗き込むが灯りのついていない真っ暗な部屋の中はしんと静まり返っていた。恐ら く寝ているのだろう、ベッドへと近付けば安らかな寝息が耳に届く。眠りを妨げぬようにスタンドの仄かな暖色の明かりをつけると手足を丸め込んで幼子のよう に眠る犬が其処に居た。ベッドヘッドへと鎖で繋がれた首輪へと指先を伸ばして具合を確かめる。鍵がないと開かない仕組みのそれは今日も変わりなく強固に鎖 を繋いでいる。アーサーは満足したように笑みを浮かべると犬の額へと唇を落とした。
「……ん……ぅ」
ついでとばかりに癖のある褐色の毛を撫でればぴくりと瞼が震えてゆっくりと露になる緑の瞳。幾度か瞬きを繰り返して漸くアーサーの姿を認識すれば眉間の皺が益々増えた。
「……おかえり、くらい言えねぇのかよ、馬鹿犬」
「帰って来て欲しくも無い相手に言えるか阿呆」
軽く首輪を引いてみても、帰って来るのはいつもと代わらぬ憎まれ口。言うなりさっさと背を向けるように寝返りを打つ姿に思わずアーサーから溜息が零れ落ちる。
「いい加減、学習しろよな、お前。」
ポケットの中に手を入れると徐に中に在る機械のスイッチを入れる。途端にびくりと跳ね上がる犬の肩。ひぅ、と空気を飲み込む音を立てて強張った身体がシーツに複雑な波模様を作る。肌にどっと浮かび上がる汗に、腹を守るようにさらに丸められる身体にアーサーは鼻を鳴らした。
「ほら、お帰りなさいませ、だ。言えたら出させてやるから」
「――…ッ、……ッ」
犬の、食い縛った歯の合間から漏れる息が荒い。それもそうだろう、丸一日、排泄を許されずに膨らんだ腹をアナルに差し込まれたプラグがモーター音を響かせ て揺さぶっているのだから。我慢の限界を迎えようとしているのに物理的に排出を留められながら玩具の振動に揺すられる苦痛はいかほどの物だろうか、気丈な 犬の目にも涙が浮かんでいる。プライドと排泄欲に揺れる瞳が忙しなく虚空を彷徨い必死に抗う術を見出そうとして、それから諦めたように伏せられた。
「ぉ…ッ帰り、なさいま…せ…ッ」
震える息の合間に投げ捨てるように吐き出される言葉。言い方にまだ不満は残るが大分進歩した方だろう、アーサーが漸くスイッチを切ってやると肩で大きく息 をしながらゆっくりと犬の身体が弛緩した。宥めるようにじっとりと汗を張り付かせる下腹を緩く擦ってやると固く勃ち上がった物に気付く。
「…は、なんだよ、気持ち良くなってんじゃねぇか。」
根元をリングで戒められて色を変えた性器が恥じ入るように震えている。爪先でぴんと弾いてやればびくりと震えてくぐもった声を上げた。唇を噛み締めて耐える様は最早限界なのか、肩で呼吸を繰り返すばかりで悪態をつく気配も無かった。
「仕方無ぇな、ほら、来いよ。」
ベッドヘッドに繋がれた鎖を外して軽く引くと、一刻も早く苦しみから解放されたいのかゆっくりと起こされる犬の身体。だが何処か腹を庇うようなその動きは 酷く緩慢で鈍い。立ち上がることすら思考に無いのか這うようにしてベッドの下へと降り、鎖を引かれるままに四つん這いの姿勢で進む姿は犬に相応しい。
「いっつもそれくらい素直なら可愛がってやるのに。」
は、は、と浅い呼吸を零す犬の姿に愛しさを覚えながら、アーサーは犬を連れて部屋に備え付けられたバスルームへと向かった。

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