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空箱

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首に巻かれたのは支配の証。
それを繋ぐのは歪んだ恋慕。
幾度にも渡る海賊の襲撃、国庫にとって大事な海路を潰されて疲弊したアントーニョがついに捕らえられたのは数日前の事だった。
急ぎ船を走らせアントーニョの乗る船に合流する。連れて来たのは数人の部下と船を操るのに必要な人員だけの非公式な出船。逸る気持ちを抑え、隣接された海賊船へと渡る。取り囲む海賊達はアーサーよりも縦にも横にも大きく下卑た笑顔を浮かべて出迎えた。その中の船長と思しき髭面の大男が一歩前へと出て似合わぬ挨拶なぞしようとして見せたのを遮るようにアーサーは手を上げた。
「慣れ無い事はしないでいい。案内を。」
船の最下層、薄暗く湿った潮の香りに満ちた牢屋の一つ。錆付いた太く大まかな格子の向こうに男は眠って居た。部屋に一つきり置かれた炎の灯りを受けて揺らめく肌には明らかな暴行の痕。肌に複雑な模様を生み出す白と赤の多さが受けた陵辱の激しさを物語っていた。
「こいつぁ随分慣れてやがりましてね、三人掛かりで可愛がってやっても悲鳴の一つ上げやしねぇ。その癖きっちり気持ち良くなってるんだから相当な淫乱でさぁ」
アルコールに焼けた喉から吐き出される臭気と同じ言葉の羅列を聞き流しながらアーサーは格子越しにその姿を一瞥すると案内をしていた男へと顎をしゃくる。
「まだ体力の有り余ってるのが居るだろ。そいつら連れてもう一度こいつを可愛がってやれ」
一瞬、驚いた顔をした男は其の後露骨に顔を下品に歪ませて笑った。趣味がいいねぇ、揶揄するような言葉を残して上へと戻って行くのを了承と受取りアーサーは再び視線をアントーニョへと戻す。
こちらに背を向けて寝ている為に前面がどうなっているのかは分からないが汚れてパサついた髪の毛にまで飛び散る白濁、背に走る裂傷は鞭でも打たれたのだろうか。少し肉が削げて腰骨の浮いた尻の狭間からは赤と白が混ざり合ってこびり付き腿の合間へと流れて居る。
そして首元には皮の、首輪。部屋の壁に鎖で繋がれたそれは眠る男の力でもってすれば外れないという事は無いだろう、だがしかし外さない、否、外せない。ほの暗い快感にアーサーの口元が歪んだ。
「三人程見繕ってきやしたぜ」
不意に掛かる声に我に帰ると先ほどの男が部下らしき男を連れて階段を降りて来るところだった。皆一様にこれからの期待に髭に塗れた唇を歪ませ黄ばんだ瞳をぎらつかせた者ばかりだ。その男達を全て牢の中へと居れてしまうとアーサーは中に入らず手近な空樽を引き寄せて其の上へと腰を下ろした。
「始めろ。」
端的な命令を待っていたかのようにアントーニョへと伸びる六本の腕、深い眠りから唐突に呼び戻されて力無く抵抗するのを手際良く抑え込んで乾いた孔へと強引に太い指を捻じ込まれびくりと大きく身体が跳ねた。
「…ッッ…っぐ、…」
炎の灯りに揺れて緋色を宿す瞳が痛みに見開かれて濡れる。だが唇を噛み締めて声を上げることは無かった。もう幾度も穿たれ擦り切れそうな其処を遠慮無しに割り開いて行く指先に、肌を裂いた傷口を抉るように撫でまわす掌に、擦られすぎて赤く腫れ上がった胸の頂きを捻り潰す痛みに、何度も耐え難い反射で肩を震わせながら時折力無く首を振る。その度に高らかに存在を鳴り響かせる鎖が耳に心地良い。
乾いた唇に赤を滲ませる程に歯を噛み締めて声を零さない代わりに耐え難さに揺れる首に合わせて鳴り響く鎖はアーサーの腹の底を熱くさせた。決して堕ちぬと拒みながらも受け入れるしか術の無い身体が上げる悲鳴を、野蛮な海賊にいいようにされながらも足の間で揺れる性器が堅く息衝く淫乱さを、血と精に塗れて美しく踊る肌をアーサーは愛した。そう、これは愛なのだ、愛故の情欲。
「アントーニョ…」
知らず漏れた声は乾ききっていた。耳聡く聞きつけた男の一人が猥雑な笑みを浮かべると丁度腰を掲げるようにしてうつ伏せにされたアントーニョの髪を引き掴んで顔をこちらへと向けさせる。痛みと快感で虚ろな双眸がぼんやりと宙を彷徨いながらやがて、アーサーへと焦点を合わせた。
「…ッッアー…サ…ッぁあああ!!!!」
驚きに見開かれた双眸がタイミング良く後ろから貫く男によって悲痛に歪む。上げられた声は身体の痛みにだろうか、それとも心の痛みにだろうか。今までは然程たいした抵抗も無く甚振られていた身体が必死に暴れ出しては男達に力ずくで抑えつけられる。
「あ…ッうぁあ…ぁ…あああああああああああっっっ」
背後の男に揺さぶられる度に上がる声は決して、痛みだけでは無いのだろう。甘く耳に残る悲鳴がそれを物語っている。上げることが無かったという声はアーサー一人その場に居るだけで簡単に、それも望む通りの声が上がるという事実に口元が歪むのを止められなかった。慈しむような眼差しで今もなお淫らに踊らされる姿を見詰める。
物言いたげな瞳からぼろぼろと大粒の涙を溢れさせて唇から叫ぶような声を上げる姿をいつまでも、宴が終わるまで。
やがて、三人の男達が代わる代わるに蹂躙を続け気絶するように意識を無くすまで続けられた宴が終わるとアーサーは全員を下がらせて牢の中へと初めて足を踏み入れる。部屋に篭った淫猥な空気の中で真新しい液体に塗れた褐色の肌へとそっと掌を滑らせる。滲んだ汗と溢れた涙に濡れた頬は前に見た時よりもずっと削げた気がする。そっと散ばる前髪を指先で押し退けるとその額へと唇を触れさせた。じわりと広がる苦い塩味。
「愛している…」
囁きは眠るアントーニョには伝わらない。だがそれでも良かった、アーサーがアントーニョを愛している限り。

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