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空箱

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逆転伊ハプス

北と南とに国が分断されてから早幾年。かつて同国であった事を忘れたかのように各々で力をつけ大国の座を得んばかりに育った二つの国は、強大になったがばかりに統一を望みながら同一に混じる事を嫌悪した。
つまり、互いを平たく同等にして一つに纏まるよりも相手を己が傘下に下したいと。
話 し合いは平行線に終わり、だからとて攻め入る程には両国間の仲は悪く無い。永い時を経て漸く辿り付いた結論は同盟という名の結婚だった。国としての意地を 捨てられず、だが同一に戻る夢も忘れられずに居た二国の結末。同じ文化、同じ人種、同じ言語を話す兄弟でありながら同盟国という他国で有り続ける摩擦を感 じずには居られ無いが今は他に手立ても無い。そうして結ばれたロヴィーノのとフェリシアーノは更なる大国へと互いの力を高めることとなった。



そうして。
強国となった二人の下に新たな属国が増えた。
一人は白い肌に黒子のある、育ちの良さそうな子供。
もう一人は日に焼けた肌に変わった訛りで喋る暢気そうな子供。
ぽ こぽこと未だ悔しさに湯気を立たせて二人を睨む白い肌の子供を褐色の肌の子供がのんびりと宥めている。白い肌の子供とは違い、褐色の肌の子供は全面降伏を したというわけでは無いようだが新たな環境を受け入れようとしているのか扱い易そうに見えた。ただ、それだけの理由だった。
「俺、こっち。そっちのガキは小うるさそうで嫌だ。」
「ヴェー、それじゃあ兄ちゃんがアンちゃんで俺がロディちゃんだねー」
そんな極々簡単な会話の遣り取りでロヴィーノの元にアントーニョが、フェリシアーノの元にローデリヒが共に暮らす事が決まり、各々の家へと引き上げて行ったのだった。



「で、お前、名前は?」
「アントーニョやで。…なん、子分になる奴の名前も知らんかったん?」
ロヴィーノの家のリビング。だるだると裾を引き摺るような袖の長い服からとりあえずメイド服のような物を着せてみた相手に初めて名前を問えば帰って来るのは呆れたような声。引き攣りそうになった短気なこめかみを宥めてロヴィーノは言葉を重ねる。
「興味ねーんだよ。…で、お前、何が出来るんだ?」
「興味無いて酷いわぁ、それならとっととほっぽりだしてぇや。俺かてこないなトコ居りたくないし。」
のんびりと紡がれる言葉の中に潜んだ密やかな敵愾心。ふわりとスカートを空気で膨らませながらその場に座り込んだアントーニョが拗ねたように頬を膨らませる。その幼子らしい姿の愛らしさに少しだけ、ロヴィーノの心が揺れた。
「うるせーよ、負けたからには大人しく従いやがれ。何出来るのか言わねぇと変態趣味の奴に売りつけるぞコノヤロー」
「わ、そんなん嫌や!ええと、何が出来るんやろ…?斧は使えるで?あとシエスタとかフラメンコとか…」
「あー…いい、もういい、わかった」
慌てて見当違いな「出来る事」を数え上げ始めたアントーニョの頭をぐりぐりと強引に撫で付けると片腕に抱え上げる。小さな体温は想像よりもずっと軽く、ロヴィーノの腕にすっぽりと収まった。
「お前の部屋はとりあえず此処、キッチンは其処にあるから食事はお前が作れ。それから屋敷の掃除をする事。とりあえずはそれだけだ。わかったか」
最 初は驚いて暴れそうになったものの、意図を察すればすぐに柔らかなもみじの掌をロヴィーノの首へと絡ませたアントーニョを連れて屋敷をぐるっと一週回って 案内をする。メイドの格好までさせて召使として働かせようとしている属国に対する扱いじゃないという事はロヴィーノの心にも僅か過ぎったが、それよりも腕 の中の小さな温もりが思いのほか馴染んだ。
「…掃除と、食事の支度だけでええの?なんや、案外優しいんやなぁ自分。言い方がちょぉっとつっけんどんやけど。」
間近の翡翠がまじまじとロヴィーノを凝視して、そうして笑みに崩れる。これからよろしゅうなぁ、なんて暢気としか言いようのない挨拶までされてロヴィーノの心が浮わついた。


最初はただもらえるからもらっておくくらいの軽い気持ちだったが、案外、良い物をもらったのかもしれない。

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