「ちょ…ッギル待って、ちょっと待って」
体育の時間の前、女子更衣室内。不意に悲鳴のようにかけられた声にシャツをベストごと脱ぐという荒業をこなしていたギルベル子はびくりと大仰に肩を震わせて背後を振り返った。
「な、なんだよいきなり…」
其処には信じられない物でも見たかのように目を見開いて固まるフランソワと二人の様子に大きな目をぱちくりと瞬かせているアンヘラの姿。
「ね、ねぇ、まさかとは思うけれど、その…」
そう言って恐る恐る伸ばされたフランソワの掌がぺたりとギルベル子の辛うじて膨らんでいるのが分かる程度の乳房に触れる。
「っな、何すんだよいきなり!?」
「やっぱりブラジャーつけてない!!何で!?何でつけてないの!?」
突然のことに思わず乳房を隠すように両腕で自分を抱き締めて驚くギルベル子よりもフランソワの勢いの方が強すぎて思わずギルベル子の腰が引けて一歩、後退る。
「いや、だってつける程もねーし…つけなくても困んねーし…」
「何言ってんの、駄目でしょ女の子なんだから!!」
「あ…でも、持ってねーし…」
「持って無い!?この歳で!?…ちょっと今度おねーさんと一緒に下着屋さん行こうか、ううん行くからね」
ごごごと不思議な効果音さえ聞こえてきそうな笑顔で迫るフランソワに圧されて何時しか壁際へと追いやられたギルベル子は訳の判らない威圧感に無言でかくかくとただ頷く事しか出来無い。生まれてこの方必要と思った事の無いブラジャーに対して何故こんなにもフランソワが熱くなるのかが分からない。あれは揺れる程に肉がある人がつける物じゃないのか。つーかフランソワ怖い。
「ちゅうか、なんでそんなおっぱいぺたんこなん?」
其処へのんびりとした声が割り込む声。蛇に睨まれた蛙のように怯えて固まるギルベル子の平べったい乳房にぺたりと触れる掌。
「っぎゃ…ちょ、なんだよお前等さわんな!!」
「えー、やって不思議やん、ギルベル子だけまっ平らで」
「うるせぇお前らがでかすぎるんだよ!!」
うっかり緩んでいた腕で胸をガードしなおしながら喚く。二人も着替えの途中だった為か腹の辺りまで寛げられたシャツの隙間からはくっきりと深い谷間が覗いている。華奢な身体つきをしている癖に其処ばかりは形良く肉が盛り上がったフランソワはまだいいとしても、ブラジャーからはみ出そうな程に溢れた肉が少し身動くだけでもたぷたぷと波打つアンヘラの胸はなんなんだ。海か。脂肪の海なのか。
「そんなん言われたかて…勝手に大きくなっただけやし…」
「うん、特別なことした訳でも無いしねぇ…?」
そう言って顔を見合わせている二人が憎い。胸が大きいからってちくしょう。
「あ、でも揉まれたら大きくなるて言うやん、自分彼氏居るんやから揉んでもらえばええやん」
名案を思いついたとばかりに瞳を輝かせるアンヘラに思わずギルベル子の視線が泳ぐ。確かに居る、むきむきのごつい年下の恋人が。居るのだが。
「…ま、まだそういうの…ねーし…」
もごもごと口篭もりながら、それでも虚勢を張り切れずに正直に零せばええええええ!?と盛大に驚愕の声が上がる。頼むからもう少しトーンを落としてくれ、忘れそうになるが此処は更衣室、三人以外にも勿論人は居て、先ほどから騒いでいるのが気になるのかちらちらとこちらを見ながら聞き耳を立てている。
「まだ、って…付き合い始めてからもう半年くらい経つよね!?」
「え、ほなちゅーは!?つーか一緒に暮らしてんねやろ!?何も手ぇ出してけぇへんの!?」
「や、だから、…まだ、…その、二人共初めて、だし・・・」
「初めてなん!?彼氏の方、めっちゃモテそうやん!初めて!?」
「そうだよむしろ慣れてそうじゃない、ドSっぽいじゃない!」
こういう時にテンションが上がってしまった二人は正直、ギルベル子の手に負えない。きゃいきゃいと楽しげに勝手なことを言っては盛り上がるのを尻目に思わずギルベル子は遠い目になってしまう。何でこんな話に。確かに弟に片想いをしてしまった時から相談に乗ってもらっていた。世間では認められない血の繋がりを否定せずに応援してくれた二人にはめでたく恋人になれるまでに随分とお世話になった。だけど頼むから公衆の面前でそんな話題で盛り上がらないで欲しい。弟を何だと思ってるんだコイツら。
「よし、分かった!ほなあたしが彼氏の代わりにギルのおっぱいおっきくしたるわ!」
思わず現実逃避しかけたギルベル子の耳に突然飛び込んだ衝撃発言に思わずぽかんと口が開いた。
だめだこいつらはやくなんとかしないと
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