熱を帯びた指先がそっと汗で張り付いた前髪を救って横へと流して行く。火照った身体にもじんと染みるようなその熱い指先はそのまま額から頬のラインを辿り 顎の下へと辿り付く。そうして掬い上げた唇に重なる少し干からびた唇。それはアントーニョも変わらない事で、合わさった唇が引っ掛かってもどかしい。息継 ぎのように僅かに離れた瞬間に唇を舐めると僅かに鉄の味が滲んだ。
「…っは、……ふ…」
再び重なる唇から漏れるのはもはやどちらのものかも区別がつかない。脳髄まで侵食するような熱に侵されて求めるままに重ねた唇は決して技巧的には巧いとい えたものでは無いが、勢いがそれを上回った。全てを貪ろうとする唇が、余す事無く荒らす舌先が抗いようの無い熱を身体の奥底に植え付けて行く。時折、急い て歯がかち合う振動にすら鼓動が跳ねた。
「アン、…は…ッアン…ッ」
滅多に呼ばれぬ略称、切羽詰ったように呼ばれるたびに揺すられる下肢から互いの体液が混ざり合ってぐちゃりと粘着質な音を立てる。幾度果てたかも分からない程に濡れた下肢は未だ繋がったまま、それでも尚、新たな火種に簡単に燃え上がろうとする。
「ギル…も、あかんて…擦り切れる…ッ」
引き摺られそうになるのを堪えるように身を捩っても確りとギルベルトに掴まれた腰は揺さぶられる度に立てる水音と共に次第に抵抗を失って行く。何度目にな るのか判らない絶頂を目指して快感を求め始める。ぐずぐずに蕩けきった体の内側を無茶苦茶に突き上げて掻き混ぜて犯して欲しい衝動に支配されてしまう。普 段あまり見る事の叶わない真っ直ぐに向けられた瞳に宿る淫靡な煌めきに抗う事が出来無くなる。
「…ッギル、…――ッひぁあっっっ」
なおも咎める声を厭うように不意な突き上げ。最初はまさか快感を覚えるようになるとは到底思えなかったギルベルトが回数をこなすうちにすっかりと知り尽く した場所を正確に、幾度も抉るように突き上げる。そうなると最早アントーニョに抵抗の手立ては無いに等しかった。快感に眩む瞳をぎゅっと堅く閉じて与えら れる刺激をただ喜んで受け入れるだけだ。
「っゃ、ああっ、あっ、そこ…ッ気持ちえぇ…ッんっ」
肉がぶつかり合う乾いた音を立てながら幾度も幾度も腰を打ち付けられる度に上がる声は僅かに掠れていた。覆い被さるギルベルトの首裏へと腕を回してしがみ 付きながら強請るように腰をくねらせ突き抜ける快感に身悶えるアントーニョに対してギルベルトはただ、無言だった。荒い呼吸を吐き出しながらも真っ直ぐに アントーニョを見据えたまま緩く、激しく穿ってゆく。昂ぶった肌から染み出した汗が一滴、顎を伝ってアントーニョの頬へと落ちた。
「ギルっ…ッもっ…と…ッもっと激しくしたって…ッぁ」
仮初にも見せていた拒絶を一切取り払い欲望のままに声を上げるアントーニョの望むままに次第に早くなる律動。舌を縺れさせもはや言葉にならぬ嬌声を上げるだけのアントーニョがギルベルトと時を同じくして果てるのはそう遠く無かった。
「で、行き成りこないなとこで盛って押し倒して来たからにはちゃんとした理由があるんやろなぁ…?」
指一本、動かす事すら面倒なくらいに疲労感に満ちた身体を投げ出してぼんやりとアントーニョが問う。大の字になって見上げた空はそろそろ日差しの翳りを見 せ初めている。通り過ぎる風が少し冷たい。ずっと地面に擦られていた背が痛みを訴えているが動く気力が沸かない。そもそも、動いたら散々中に放たれた物が 溢れ出て来そうで余計に疲れそうだ。しかしギルベルトはただ同じように大の字に寝転がったままぼんやりと空を眺めているばかりで言葉を発する気配が無い。
「おい、聞いてんのか、ボケ」
10kgの鉄アレイを持ち上げるような労力を使って漸く振り上げた拳で肩を殴れば漸く二人の視線がかち合う。だが其処には普段の傲慢な態度も卑屈な色も見えなかった。眉根をきゅっと寄せて真っ直ぐに見詰めるギルベルトの視線に不覚にもアントーニョの鼓動が跳ねる。
「………よく、わかんねぇ…」
「さよか…てそれで済むと思っとるんかあほう」
漸く出た言葉は困りましたと言わんばかりの弱った声で思わずアントーニョの突っ込みも甘くなる。はぁ、とまだ何処か甘さの残る溜息が零れ落ちた。
「でもお前、混ざるか?って、聞いたじゃねぇか。」
ぽつりと。風に紛れそうな声の呟き。それは、もしかしなくともついこの間にギルベルトが寝てる横でフランシスと二人でうっかり事に及んでしまった時のこと だろうか。消去される一歩手前の記憶を無理矢理引き摺り戻して記憶を辿る。確か、あの時はそのままなんやかんやと反応の面白いギルベルトをフランシスと二 人でからかい倒してそのまま解散になった気がする。無論、其の後には艶めいた事なぞ一切無く、簡単に身支度を整えてしまえばいつもの三人だった。混ざるか と聞いたのだって、ただからかうだけのような物であったし、まさかそんなに引き摺られるとは思って無かったのだ、アントーニョもフランシスも。
「せやからって……突然強姦紛いに襲いかからんでもええやん…」
「お前だって途中からノリノリだったじゃねぇか。」
「そりゃぁ、なぁ、気持ち良ぅなってもーたし」
つまりは、どっちもどっちなのだろうか。思い付きなのか突発的に他人を襲うギルベルトも、気持ち良ければそれを許すアントーニョも。ぼんやりと再び空を眺めるギルベルトの横顔は静かで思考が読めない。
「あー……もう、とりあえずそれはええわ。とにかく、この後どうやって帰ればええねん俺…」
あまりぐだぐだと考えるのは性に合わない。すっぱりと思考する事を放棄すると改めてあまり見たく無い現実へと目を向ける。膝下まで摺り下ろされたズボンは まだいいとしても脱ぐことの無かったシャツやネクタイには明らかにそれと判る白濁が飛び散り、ぐしゃぐしゃに皺になっている。背中は自分で見え無いがきっ と床に擦られて真っ黒になっているのだろう。
「…後でジャージ持って来てやるよ。それで帰るしかねーだろ…あ。」
ギルベルトの方が少しマシとはいえ、そのまま帰るにはいかない格好なのには違いない。一応の責任は感じているのかそう告げる途中で不意に思いついたように身を起こしたギルベルトにアントーニョは首を傾げた。
「なん・・・?」
近付くギルベルトの何処かにやけた口元に不信感を抱かずには居られ無い。だがすっかり疲弊しきった身体は咄嗟に動けずに伸ばされた腕にされるがままにうつ伏せにされてしまった。
「っちょ、ギル、なんなん…?!」
逃げようと両肘をついて身を持ち上げようとするのと同時に抱えられる腰。所謂四つん這いの姿勢にされた途端に散々酷使した其処からどろりと溢れ出す何か。
「っひ、…ッ」
重みのある液体が孔の縁から皮膚の薄い部分を伝って太腿へとじっとりと流れ落ちて行く感触にぞわりと肌が粟立ち先ほどまでの快感を呼び起こしそうになる。その一瞬、強張った隙に指が二本、蕾へと差し込まれた。
「あっ、あ、ゃめぇ、や…ッ」
「すげぇ、どろっどろ…」
すっかり綻んで口を閉じきれない其処に差し込まれた指がまだ熱の引かない肉壁を探るようになぞり、きゅうと絡みつく粘膜を引っ掻いて引いて行く。漸く鎮火 しつつあった熱を煽るようにゆっくりと、だが確実に知ったばかりの弱い場所ばかりを擽る指先に思わずアントーニョ身体から力が抜け落ちる。掻き出される白 濁が膝まで伝い落ちる感触すらもどこかもどかしくて無意識に腰が揺らめいた。もうこれ以上は無理だと思っていた身体が先を欲し始めるのに床に額を擦りつけ るようにして喉を鳴らした。
「ギル、……」
熱っぽさを取り戻した声がギルベルトを呼ぶ。振り返る翡翠の瞳が揺らめいて誘う。困惑したように、だが明らかな先を期待した仕草に唾液を嚥下する音を響かせるとギルベルトは再び彼の背中の上へと覆い被さった。
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