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火日が従弟 4

IHの敗退、膝の故障、木吉鉄平と言う男の復帰。
それから二回も行われた合宿。
思えば夏休み前から今まで、なんだかんだと色んな事があった、と思う。
中でも木吉の復帰は大きい。
すっとボケた言動に、復帰した当日だと言うのに火神にスタメンを賭けた1on1を持ち掛けるような唐突さには驚いたが、それよりも驚いたのはそんな木吉の全てを二年生は全員受け入れている所だ。
普段ならばそんな勝手な事を言い出せるような雰囲気でも無いカントクが、日向が、溜息一つで木吉の言動の行く先を見守り、許容した。
それは火神の中に違和感にも満たないような小さな不快感を胸の奥に生みだした。



「つまり、木吉先輩が嫌いって事ですか?」
お馴染みのマジバで取り留めも無い話の中でぽろぽろと零れた火神の言葉の真意が分からずに黒子は首を傾げる。
今までただ思い付くままに言葉を並べていただけなのだろう、火神は一度黙って考えた後、黒子と同じ方向に首を傾けた。
「嫌いって訳じゃねーけど…」
ねーけど、なんだ。
唇を尖らせて言い淀む火神を眺めながらバニラシェイクを啜ってのんびりと続きを待つ。
火神はまだ何を訴えたいのか、何を求めているのか自分でもわかって居ない状況だ。
こんな時は変に急かさず、火神なりの言葉になるまで待った方が良い。
「すげぇ先輩、って思うけど…嫌いとかじゃなくて…好きになれない?」
言いながらまだ首を捻って唸る様子からしてうまい言い回しが思い着かないのだろう。
それにしても好きになれないとは。
「木吉先輩が帰ってきた日、勝手に1on1やったりしたらいつもだったらカントクとか主将に怒られたりとか、後で罰としてメニュー増えるとかあんのにあの時だけは何も無かったなって」
「言われてみれば確かにそうですね」
「その後の練習試合だって、木吉先輩が言ったから一年だけで試合することになっただろ?」
つまり、火神にとっては後からやって来た癖にカントクや主将と同じくらいの発言権があることが気に食わないとでも言うのだろうか。
日本の縦社会すら疎ましいと思っているような火神がそんなことで好きになれないなんて余り思えないのだが。
未だ先の見えない話の流れに、黒子は曖昧に頷いた。
「けど、それは主将もカントクも納得の行く理由があったからじゃないですか?木吉先輩だからと言う訳ではなく」
「つっても、なんか甘く無ぇ?主将もカントクも、木吉先輩の言う事はなんでも聞いてる気がする」
「甘い…と言うよりは単純に二人が反対しない事しか言って無いんだと思いますが…」
端から見ていても二年生の、もとい日向と監督の信頼が厚い木吉だ。
その信頼があるからこその発言と許容だと思うのだが火神にそこまで察しろと言うのは難しい話なのだろうか。
しかし察しが良いとは言えずとも何かと勘が良く、どちらかといえばはっきりと物を言う火神が木吉を嫌うのではなく、好きになれないなどと歯に物の挟まったような事を言う違和感。
これは木吉と火神の間で何かあったのだろうかと少し不穏な予測がちらつき始める。
「…とりあえず、木吉先輩にだけ甘くね?って話は置いとくにしてもよ…、あの人、やたらとべたべたくっつくっつーか…」
先程より言い淀み視線をさ迷わせる火神と、その言葉の内容。
うっかりと導き出してしまった一つの予測を口にするかどうか迷い、躊躇い、火神を見上げると先を促すような視線とかち合ったのでおずおずと口を開く。
「…木吉先輩に迫られでもしましたか…?」
「はっ!?いや、どこをどうしたらそんな話になるんだよ!?」
良かった。
心の底から良かった。
何処か底が見えなくて、まだ少しだけ警戒心を抱いてしまうような先輩に、更に肉食系ホモなんて属性がついてしまったらちょっと明日から目を合わせ難い。
「違うならいいんです。…確かに木吉先輩はスキンシップが多い方だとは思いますが…どちらかと言えば火神君よりも主将が被害に遭っているような」
「どちらかも何も一番べたべたされてるだろ。しかも俺がやると怒るのに木吉先輩だと好きにさせてるし」
「はあ……」
「合宿の時だって気付いたら二人で話込んでるし。部屋も一緒だし。俺が合宿中に練習中以外に主将と喋ったのなんて風呂の時くらいなのに」
だんだんと愚痴のようになってきた言葉を聞きながら黒子は首を傾げる。
合宿中は一年生と二年生で部屋を分けたから当然木吉と日向以外にも二年生が居たのだがそこはどうでも良いのか、とか。
そもそもいくら学年わけ隔て無く仲が良いと言っても、練習から離れれば同学年同士で固まるのは仕方が無いだろう、とか。
諭してやりたい所は多々あるのだが、そのどれもが本題からずれているような気がする。
むしろ火神が一番引っ掛かっているというのは、
「主将と仲が良いのが嫌なんですか…?」
「え、……――そうなのか?」
言われた本人が初めて知ったと言わんばかりの顔でまじまじと黒子を見て、それから眉を寄せて考えた後、うん、と一つ頷いた。
「…なんか、そんな気がしてきた…」
「……どれだけ主将が好きなんですか…」
思わずテーブルに突っ伏しそうになった額を手で押さえてなんとか留める。
ホモは木吉先輩の方では無く火神だったのか、と訳も無く遠くを見たくなった。
「いや、だって、学校では散々木吉は苦手だとか嫌だとか言ってる癖に俺にはあいつの手がすげぇとか、あいつが居るだけで安心感が違うだとか、本人に言えよって事ばっか俺に言って来るんだぜ?」
「……はぁ、…」
「それに家では順くんからハグしたり俺の事を座椅子代わりにしてる癖に学校で触ろうとすると怒るんだぞ、木吉先輩も同じ事してんのに!」
貴重な主将のデレだとか、知られざるスキンシップ好きな一面だとか、だんだんとヒートアップしてきた火神の暴露は少なからず黒子に衝撃を与えたがもう今更一々突っ込んでなぞ居られない。
今すべきは問題の解決だ。
そしてこの子供のような愚痴から早く逃れたい。
「とりあえず一つだけ確認したいのですが…火神くんと主将は恋人同士とかじゃないんですよね?」
「違ぇーよ。ただの従兄弟だって」
「それじゃあ、木吉先輩と主将が恋人同士という可能性は…?」
「――……え……?」
「もしも、木吉先輩と主将がお付き合いしているのなら、火神くんがどれだけ嫉妬していようと口を挟める事では無いんじゃないかと思いまして」
火神は分かりやすく固まったまま。
このまま火神が思考を停止させている間に畳みかけてしまおうと黒子は身を乗り出した。
「ですから、確認してみたらいかがでしょう。主将に直接聞いてみるのは」
「木吉先輩と付き合ってるか、…って…?」
「それで付き合っているというのなら火神くんは諦める他ありませんし、そうじゃないというのなら改めて火神くんがどうすれば木吉先輩と仲良くなれるか考えてみてはどうでしょう?」
要は、全て日向に押し付けたいだけなのだが。
木吉と日向が付き合っているとは到底思えないのだが、「付き合っているのか」などと聞かれれば必ずなぜそんな事を聞くに至ったのかを問い質してくれるだろう、日向ならば。
そうすれば後は全て、日向との話し合いでもお説教でも何でもいいから火神の日向離れを促してくれればいい。
善は急げです、等と少しばかり間違った言葉を使いながら火神を促して立ち上がる。
まだ余り頭が回っていない様子の火神は考えるようなそぶりを見せながらもなんだかんだ、黒子の言うがままに帰宅する気になったようだ。
会計を済ませ、火神と別れてから黒子は一人溜息を吐きだす。
人間観察が趣味の人間として、こういった人同士の感情の縺れというのは非常に興味がある所だが、そこに自分を巻き込まないで欲しい。
黒子が欲しいのは結果や経過だけであって、お悩み相談までしてやれる程の経験なぞない。
今日は巧く日向にパスしてしまったが、これが巧く行けば日向にきっと「変な事を言い出すな」と怒られ、巧くいかなければまた火神からの相談を受ける羽目になるのだろう。
さて、どうなることやらと、幾らか重い気持ちを引き摺って黒子は家へと向かう道のりを歩きだした。

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