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空箱

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喧嘩

レイに頼まれたものを届けに家を訪ねた時、塀の外から我らが女王様…セナの姿が見えた時から嫌な予感はしていた。あちらもリリィに気付いたようでじっとこちらを見つめながらも何を言うでもなく、普段からあまり仕事をしない表情筋をきゅっと緊張させて玄関前で仁王立ちしている姿は不穏でしかない。
「お嬢、レイは居るか?」
退いてもらわねば家にも入れないとまずは気付かぬ振りでいつも通りに声を掛けてみたが見事に地雷を踏み抜いたらしい。むうと唇が尖ったかと思うと延びてきた小さな両手がリリィの角を掴み、ぐいぐいと下に引っ張る。
「いたたたたた…え、何だ、痛いんだが」
力尽くで止めさせる事は簡単だ。だがそれでは目の前の女王様が余計にご機嫌を損ねるのは身に染みている。大人しく引かれるがままに身を屈め、ついには草の上に腰を下ろしてようやく手が離れる。何がしたかったのかもわからずセナを見ればいそいそとリリィの足の間に膝を抱えて収まった所だった。ぽすんと頭が胸元に預けられてやっと、ああこれは拗ねていたのかと察する。レイやセスならばもっと早くに気付けていたのだろうが、いまいち人の機微はよくわからない。
「…またレイと喧嘩したのか」
返事は無い。それはつまり肯定だろう。これはまた面倒臭いと思わず深い溜め息が零れた。今日は届け物を渡したらさっさと帰ってのんびり風呂にでも浸かるつもりだったのに。
「………ぃもん」
「うん?」
「…にーにが悪いもん」
「…そうか」
ぐりぐりと押し付けられる頭を撫でる。
喧嘩の原因がなんだとか、実際どちらが悪いのかはわからない。だがそこを問い仲直りさせるのはセスの役目であって、リリィはただ肯定して慰める役、と分担が出来たのはいつからだろうか。今ごろはセスの元にレイが駆け込んでるのかもしれない。そんな事を思った側からリンクパールが着信を告げる。
『セスだ。そっちにお嬢居るか』
「玄関前で取っ捕まった。レイはそっちか?」
『ああ』
「わかった」
必要な情報だけわかれば後は用は無いとばかりにリンクパールは音を失った。だがレイがセスの所に居るのであれば、そのうちセスに説得されて帰って来るだろう。想定よりは早く解決しそうな予感に胸を撫で下ろし、セスが来るなら多少セナの機嫌が悪化しても構わないだろうと立ち上がる。一人でこの女王様のご機嫌取りをしなかくてはいけないのならば細心の注意を払って挑まなければいけないが、セスならば何とかしてくれる筈だ。彼はリリィよりもずっもこの兄弟の扱いに長けている。
「……お嬢」
しかし素直に共に立ち上がってくれるとは思わなかったが、ここから梃子でも動かないという意思表示なのか足にひっしとしがみつくセナに思わず苦笑が漏れる。
「もう日も暮れて寒くなる。せめて家の中に入ろう」
ぎう、と余計にしがみつく力が強くなる。此処でこのままセナの気が済むまで居てやっても良いが、出来れば暖かい家の中に入りたい。試しにしがみつかれた足を持ち上げてみると、確りしがみついているせいか案外楽にセナごと持ち上がってしまった。
「とりあえず、中に入るぞ」
それでも離れ無いのを良いことにずるずるとセナをまとわりつかせたまま足を引きずって玄関へと向かう。地面に引きずられないようにちゃっかりリリィの足の甲の上に尻を乗せてしがみつく姿に思わず笑いを誘われながら、漸く家の中に入る。
思いの外、冷えていたらしい。暖かな部屋の温度に肩の緊張が解ける。そのままずるずると壁際まで行くと、壁を背にして腰を下ろし、両手を開いてやる。
「ん」
正しくその意味を理解したセナが再び胸元にべったりとしがみついてくるのを抱き留めて、髪を撫でてやる。
あとは、少しでも早く二人が帰って来てくれることを祈るしかなかった。

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