「あ……先輩ごめんなさい……っ」
振り返るジャミルの瞳孔が開き切っているのを認識すると同時に後ろへと飛び退ると、たった今レオナが立っていた場所で空気を切り裂くかまいたちが一気に破裂する。落ち着く間も無く距離を詰めるジャミルを交わしながら先ほどまで二人で対峙していた敵の姿を探せばどこかへと逃げ去った後だった。せっかくここまで追い詰めたというのに悔しいが、此処でうっかり敵の罠にハマり洗脳されているジャミルと共に襲い掛かられてはレオナとて対処しきれない。
「っっぶねぇ!!!」
よそ見した事を咎めるようにレオナの目前すれすれをジャミルの拳が横凪ぎに払われる。ただの拳だけであれば、ジャミルの動きは素早い物の軽いので受け止めれば良い。だが恐らく、長めの袖口には毒入りの刃が仕込まれている筈だ。掠るだけで容易くレオナの自由を奪うだろう。
自分のパワー不足を熟知したジャミルは素早い動きで敵を翻弄しながら幾度も浅い傷から毒を塗り込み行動不能にするスタイルを取る。力で傷つける事を目的としない為に踏み込みも浅く、力を溜める動作も殆ど見られず、まるで踊るようにレオナを追い詰めて行く。逆にレオナが何か行動をしようと踏み込めば容易く懐に潜り込んで来るだろうと思えば強引に動きを止めにかかるにもそれなりの隙を伺わなければならない。
「っんと敵に回すと面倒臭ぇなあテメェは!」
踊りの振りの一つのようにレオナの首へと伸ばされた腕をなんとか掴むも、それを待っていたかのように捕まれた腕を視点にぐんとレオナの懐に潜り込んだジャミルに、思わず反射的に風の魔法をぶつけて押し退ける。いとも簡単に宙を舞った身体はしかし、器用に空中で風を操り体勢を立て直すとふわりと地面に着地した。ひたりとレオナを射る眼が虚ろに見開かれているおぞましさに思わず顔を顰めつつ舌打ちを一つ。
「テメェ正気に返ったら覚えてろよ……!」
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