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空箱

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つづかない

これのつづかない続き

部活を終え疲れ果てた身体で何よりも安全が約束された筈の自室の扉を開けた瞬間に香る、思考を乱す不快な甘い匂い。過去に一度しか嗅いだ事の無い匂いではあるが、その強烈な匂いは違えようも無い。
「はっ、二度と同じ過ちは犯さないとかなんとか言ってた癖に結局オネダリに来たのか?」
匂いの元のジャミルは大した面識も無い他寮の寮長部屋に不法侵入を果たしたくせに、扉脇の冷えた石造りの床の上で蹲っていた。汚物に触れるように爪先で脇腹を小突いても小さく呻き声をあげるだけで荒い呼吸に丸めた背中を泳がせている。前回のように何の抑制もされていない状態よりは大分マシだが、到底日常生活が常と変わらずに送れる状態には見えない。今回もまた薬を飲むのが遅れたか、それとも効きが悪くなったか。どちらにせよ、レオナには迷惑以外のなにものでもない。
「それとも本気でガキでも作りに来たか?たかだか商人の従者殿のお眼鏡に適って光栄だが生憎と俺は、」
「違い、ます……!」
地の底から絞り出したような掠れた低音が足元でとぐろを巻いていた。ぬらりともたげた頭がレオナを見上げ、発情しきった相貌に擦りきれそうな理性を残した瞳。
「不躾なお願いとは、重々承知しています……レオナ先輩の、服を、ください……」
そう言って食い縛られた歯は、荒れ狂う欲を抑える為か、それとも。
可愛げの無さを鼻で笑いながらレオナはジャミルを置いてベッドへと近付き汗の染み込んだ運動着を脱ぎ捨てて行く。別に言われるがままに服をやるつもりはない。単純に着替えたかっただけだ。
「番でもねぇのに巣作りごっこか?アルファならテメェの傍にちょうど良いのがいるだろうが」
「カリムでは、効果が無くて……」
「だからって俺以外にもアルファなんざ、」
「レオナ先輩のが良いんです!!!」
真っ直ぐにレオナを見上げ吠えるジャミルはなけなしの理性の皮を被っただけの餓えた野生の獣のようだった。以前のように暇を持て余しただ惰眠を貪るだけであったなら構ってやっても良いが、此処はレオナの褥だ。安全が約束された場所で無ければならないこの部屋に理性を乱す異物が存在するだけで苛立ちを覚えるには十分だ。前回が特例だっただけで。
「一回抱いてやっただけでもう番ヅラか?気持ち悪ぃ」
「俺だってアンタみたいな人に頼むなんて嫌だった!でも俺はアンタしか知らないから!」
「はっ、あれがハジメテだったとでも言うのかよ」
「そうですよそうじゃなきゃ誰がアンタなんかの……!」
つづかない

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