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空箱

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アオハル

今日一日の授業が終わり、つかの間の空き時間。選択科目によってはまだこの後一コマ授業がある為、部活の開始時間はその後になる。近くに宴の予定は無いし、カリムが問題を起こした気配も無い。人の目を気にして気の合わない人間と無理に友人関係を築く必要も無ければ、単独行動により目立つ心配をして動きを制限する必要も無くなった。完全なるジャミルの自由な時間。
エースに押し付けられたコミックをいい加減読んでみるのもいいし、トレイに借りたお菓子作りの本で気になっていたレシピを試しても良いかもしれない。そういえばフロイドから勧められたブランドの新作もまだチェックしていないし、次にイデアに手土産に持って行く駄菓子を選ぶのも良いかもしれない。
そんな、少し浮かれた足取りで歩く廊下の先に、ポケットに手を突っ込みだらだらと歩く見慣れた背中。
「レオナ先輩!」
声をかけたのは無意識だった。とはいっても、レオナとは恋人同士なのだから見かけたら声をかけるのは普通の事だろう。耳をぴるると動かしながら振り返ったレオナはジャミルを見て一度片眉を上げた後、にたり、と笑った。
あ、まずい。
まずいというのは駄目だというわけでは無い。やってしまった、の意味に近いが後悔しているわけでは無い。
「ジャミル」
まずい、やばい、やらかした、と思っているのに足は会えた喜びのままに足を止めたレオナの前までたどり着く。見上げたレオナは笑っているだけだ。いつも、ジャミルをベッドに誘う時のような顔で。
「時間、あるな?」
「いえ、俺は忙しいので。見かけたから挨拶しただけです。それじゃさようなら先輩」
「何今更ぶってんだよ。テメェが誘ったんだろうが」
「はあ?そんな顔して人のせいにしないでくれます?先輩が頭下げるなら聞いてやらなくもないですけど」
「お手をどうぞお姫様って手ぇ繋いでエスコートしてやらなきゃ嫌だって言いてえのか?」
「白馬の王子様気取りたいなら俺をときめかせて攫うくらいの甲斐性見せろって言ってるんですよ」
「はっ!言ったな」
肉食動物が牙を剝き出しにして笑う。
その一瞬後にはジャミルは横抱きにされ、レオナが呼び出した箒に乗って廊下を疾走していた。
「うっそだろ!!!」
「テメェが望んだんだろうが」
突然猛スピードで室内を飛ぶ箒に、授業の為に移動をしている生徒が次々と驚き退いて行くのがわけも無くおかしくて二人でけらけら笑った。後で大変な事になりそうだがそんな事は後の自分に任せれば良い。


てっきりレオナの部屋に連れ込まれるのかと思えば、辿り着いたのは2-Cの教室。これ以降の時間に使う予定が無いとはいえ、誰がいつ来るかもわからない部屋でどうする気かと身構えるジャミルを下ろしたレオナがマジペンを一振りして扉に鍵をかけていた。そのまま扉に押し付けられ、ぶわりと淡い花のようなレオナの香りに包まれながら唇が重なる。
「んんっ……ん、……っちょっと、」
早速貪ろうとするレオナの後ろ髪を引っ張ってなんとか引き剥がせば、んだよと不服に眉を寄せたレオナの顔。辛うじて顔は離れてくれたものの、両手はジャミルの服の下に潜り込み肌をまさぐっていた。
「ここで、ですか」
「嫌か?」
「普通嫌でしょう」
「何故」
「何故って、そういうことをする場所じゃないじゃないですか」
「そんな説明は受けてねえよ」
「教室で抱き合おうとする人がいるだなんて教師だって想定していませんよ」
「じゃあまず実際に抱き合うヤツがいたらどうするのか試してみねぇとな」
「嫌ですよ俺見られるの、あ、ちょっと……ッん」
「俺だって見せる気はねぇよ安心しろ」
「ぁ、でも、……ッ廊下、人歩いてるのに……」
「鍵掛かってんだから覗き込んでもバレやしねぇよ。テメェがよっぽどヤらしい声をあげなきゃな?」
「っ俺だけ大変じゃない、ですか……あっ」
「想像しろよ。周りはまだ真面目に勉学に励んでる中、知識を得る為の教室という場所で、明るいうちからヤらしい事をする。……興奮しねぇか?」
「へんたい……!」
罵りはしたもののレオナの言葉に心惹かれてしまったのも確かだった。八つ当たりのようにレオナの唇に噛み付いてやれば正しく意図を汲み取った唇がジャミルを食らい、服の下の手が大胆にジャミルを攻め始める。
「は、……ねえ先輩、俺思わず声が出ちゃうと思うんです」
「ほぉ?」
「だから、先輩が塞いでてください、俺の口」
「どっちが変態だよ」
笑いながらレオナの大きな掌がジャミルの下顎を掴むようにして唇を塞ぐ。まるで力づくで抑えつける時のような。決して被虐趣味があるつもりは無いが、レオナにされていると思うと不思議なことに体中の血液の温度が上がる気がした。


ベッド以外の場所で、こんな性急に、それも荒々しく、立ったまま獣のように繋がる。
そのどれもが初めてのことで、妙な高揚感のままに最初はお互い驚く程早く達してしまい、そのくせ一度では収まりきらずに時間を忘れて貪る最中に鳴るベルの音。本日最後の授業が終了したことを告げるそれを、何度も山を乗り越え温い快感に浸る中で聞いた。
「……っは、……バスケ部は、欠席の時にペナルティあんのか?」
「ん、……無い、ですよ……っふ、バスケ部は、緩いですから……ッあ」
「じゃあ、構わねえな」
「っ先輩、部長でしょ……ッ何、サボってるんですか」
「俺は、腹下してんだよ」
「あんだけ派手なパフォーマンスしといて……ッはふ、通じますか……ッ」
「トイレに急いでたんだよ。テメェはその介護をしてたでいいだろ」
「俺、カリムのトイレすら付き添った事無いんですけど……ッあ、ああっ」
「じゃあ俺が初めてだな、嬉しいぜ」
「嬉しいんですか、あ、ちょっと笑わせないでください駄目これイく……ッ」

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