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空箱

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傭兵砦の夜

いくら香油のぬめりをまとっても粘膜をひっかけてしまう、荒れた指先が怯えた小動物のようにそっと中を探る。がさつな風来坊の名を欲しいままにする男が見せるそんな小心ぶりにふと、笑いが漏れる。それに気付かぬビクトールは真剣な顔で熱心にフリックの内側を確かめていた。今日が初めてというわけでも無いのにこの一時だけはいつまで経っても変わらない。もう一本、太く乾いた指先が入り口へと押し当てられ、伺うようにフリックを見たところで初めて笑われていることに気づいたビクトールの眉が顰められる。
「……なんだよ」
「いや。……毎度毎度、よく飽きないなと思っただけだ」
馬鹿にされたのはわかったらしい。ふん、と鼻を鳴らしたビクトールがフリックの腰骨に柔く噛み付き、それと同時にぐぅ、と指が押し込められる。増す圧迫感、自然と押し出された吐息が湿っていた。
「野生の獣みてぇに不調を隠すどこかの誰かさんが居るもんでな。慎重にもなるってもんだ」
「は、横にでっかい熊を飼っていればそう易々と……っぁ」
ぐり、と腹側を強く指で抉られて思わず息が途切れると、目の前で小心者の熊がにんまりと笑っていた。してやったりという顔が腹立たしいが、最初の慎重さを忘れた指先にごりごりと同じ場所を引っ搔かれるとどうにも弱い。
「っは、……ぁ、しつ、こいっ……!」
「おうおう、今日は元気一杯みてぇだな」
顔面を蹴り飛ばしてやろうとした足は簡単に捕らえられたばかりか踝をべろりと分厚い舌で舐られる。まるで捕食前にも似た味見のような熊の所業。安心を得ればいとも簡単に豪胆ぶるこの男を可愛いと称してやるには抵抗があるが、だがそんな所に人は惹かれるのだろう。フリック自身、絆されているという自覚はある。
「そんだけ元気なら気遣いは無用だな」
ぐにぐにと内側を確認した指がようやく抜かれ、のしりと覆いかぶさる巨躯。フリックよりも縦にも横にも大きな体に無防備に身体を預けても、恐怖よりも先に期待を抱くようになってしまったことを複雑に思えど、今更逃げる気もない。あの頃から随分と成長したもんだと己の成長を褒め称えてやりたいくらいだった。

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