朝の眩い光に起こされて重い目蓋を持ち上げる。視界に映るのはすっかり見慣れた寝室の木造の天井、幾度か瞬いてうすぼけた視界を矯正しながら左腕にぴたりと寄り添う温もりへと顔を向ければ穏やかな顔で眠る伴侶の姿。
この家でようやく二人きりでの生活を始めた頃はまだ従者であった頃の習慣が抜けず、朝はレオナよりも早く起き、夜はレオナよりも遅くに寝ていたジャミルが最近やっとこうして惰眠を貪る事を覚えたのだからついレオナの頬も緩む。起こさぬようにそっとその背を抱いて引き寄せてつむじに鼻を近付け、何度嗅いでも飽きない心を落ち着かせるジャミルの香りを肺一杯に吸い込めば、心の底から幸福感が溢れて爪の先まで満たしてくれる。それとついでに、朝の生理現象もむくりと存在を主張していた。
別に我慢出来ないわけではない。だが今日は休日。昨夜、腕の中で華やかに乱れた男を再び心行くまで貪りたいという欲求を覚えるのは悪いことでは無い筈だ。
抱いた滑らかな肌の感触を確かめるように背を撫でる。穏やかな呼吸に合わせて動く筋の間にある窪みには薄い皮膚越しに骨の硬さ。その一つ一つをそっと辿って下へと滑らせれば最後の一つの先に昨夜も散々触れた場所。柔らかな肉に挟まれたその場所はしっとりと汗に湿っていて触れれば未だ僅かに緩んだままの入り口が指先に吸い付く。浅く爪先を押し込めばいとも簡単に埋まるが、奥深くまで潜り込むには滑りが足りない。無理に押し込むことは諦めて代わりにレオナの掌に収まってしまう小さな尻を味わう。弛緩した肉はレオナがほんの少し揉むだけでふにふにと柔らかく形を変え、その儚い感触が心地好い。肉に指が埋まる柔らかさを存分に楽しんでいると、不意にぴくりと手の中の肉が強ばり、それからむずがるようにレオナの胸元の頭が懐くように擦り付けられる。宥めるようにやわやわと尚も尻を揉んでいればもぞりと顔を上げたジャミルが半分程しか開いてない眼でレオナを見ていた。
「……なに……してるん、ですか……」
「ナニしようとしてる。わかるだろ」
朝の挨拶とばかりに額に唇を押し付けても逃げない代わりに、とろとろと瞬いた眼がすぅ、と細められた。眠たげな様子は変わらなかったが。
「きのう、さんざんしたばっかじゃないですか」
「てめぇは昨晩、飯を食べたからって朝は我慢出来るのか?」
「そういうはなしじゃないでしょう」
まだ覚醒しきらない、舌っ足らずな声でくふりと笑う吐息がレオナの鎖骨を擽っていた。
「どうせ今日は休みなんだ。良いだろ?」
むに、と柔らかな肉を割り開き、合間で誘うように口を開く場所を指先でそっと撫ぜれば肩を震わせたジャミルが素っ気なく腕の中で向きを変えレオナに背を向ける。随分と可愛らしい拒絶。
「まだ、眠いからいやです」
「構わねえよ。こっちで勝手にやってる」
「さいてー」
言葉の割に、声は笑みを滲ませていた。腕を差し出してやれば遠慮なく枕代わりに頭を乗せられ、寝心地の良い場所を探して身じろいだ背中がぴたりとレオナの体にくっつく。まるで抱きかかえてくれと言わんばかりの体勢、これ幸いと腹に腕を回して自ら身体を摺り寄せる。ちょうど、先ほどまで指先で触れていた柔らかな肉の合間に昂った物を埋めるような。
「ふ、ふ……ほんとにガチガチじゃないですか」
「可哀想だろ。てめぇのせいでこうなってるんだ」
「ただの生理現象です」
可愛くないことばかり言うくせに、レオナのもの包む尻が形を確かめるように押し付けられていた。まるでねだるようなその仕草に期待が増すが、慌ててがっつくのはまだ勿体ない。ジャミルが本気で嫌がる時はもっとはっきりと拒絶される。こんな曖昧な態度で焦らしているのは、つまり、ジャミルもこのやり取りを楽しんでいるのだろう。
煽られて益々熱を帯びる場所をゆるゆると押し付けながら枕にされた腕で確りと小さな形の良い頭を抱え込み、耳朶へと唇を寄せる。
「なあ、いいだろ」
そうして右手は抱いた腹から下へと滑らせて最近ようやく生え揃いつつある叢へと。長年、剃ることを習慣としていたそこは柔らかな毛が疎らに在るだけだった。その更に下には仄かに熱を帯びたジャミルのもの。あえてそこには触れずに際どい付け根の辺りをそっと撫で回せば腕の中でぴくぴくとジャミルの肩が震えていた。
「おれ、今日は洗濯したいんです」
「終わったら俺がやってやるよ」
「シーツとカバーもですよ」
「なんなら洗濯してる間に朝飯も作ってやるよ。何が食いたい?」
耳元でとびきり甘やかす声を囁いて、ついでとばかりに耳朶を舐めしゃぶれば、じわじわと抱いた身体に色が宿るのを肌で感じる。はあ、と濡れた溜め息がレオナの腕を擽っていた。
「……前に作ってくれた、オムレツが良いです。……挽き肉が入ってるやつ」
「わかった。他には?」
「……せっかく良いお天気だから、外にお出掛けしたいです」
「洗濯物を干したらお出掛けだな、わかった」
「そう言ってこの前も結局一日中えっちなことして終わったじゃないですか」
そう言いながらようやく再びレオナを振り返ったジャミルの顔は、欲情も露に蕩けている癖に眉を寄せ唇を尖らせていた。誘われるまま差し出された唇を啄み、体勢を変えてのしかかる。
「嫌か?えっちなこと」
「嫌じゃないですけど……」
ぐずぐず言いながらも慣れた動きでレオナの首にジャミルの腕が絡み付くものだから思わず笑いが漏れる。とっくにその気になっているくせに、まだ快く身を委ねるには至らないらしい。確かに以前の休みの日は何度か止めようとしていたジャミルをなんだかんだと丸め込んで家の至る所で盛ってしまった。止めなかったレオナが悪いのはわかっているが、普段仕事のある日ならこれ以上は駄目だという線引きをはっきりとするくせに、ぽやぽやと物足りなげな顔と無防備にレオナを誘うような格好で、手を伸ばせばいとも簡単に身体を預けたジャミルも共犯者である筈だ。
だからこそ、自分自身が止まれる自信が無い為にこうしてぐずっているのかもしれないが。
「……一回だけ、ですからね」
まるで聞き分けの悪い子供に仕方無く、という顔でわざとらしく溜め息を吐いていても、レオナの身体を挟んだ足が急かすように絡み付き引き寄せていては説得力が無い。
「ああ、わかってる」
次の休みこそはジャミルの望みを叶えてやろうと心に決めながら、レオナは感謝と謝罪を込めて唇を重ねた。
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