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空箱

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美味しいお肉の食べ方

かぷりと、肩に立てられた歯に目を覚ます。食感を確かめるような、ただ肌の上に歯を滑らせるような、意図の掴めぬ動きでやわやわと肉に浅く食い込ませてから離れて行く。濡れた肌がひやりとした。
大方、昨夜共に眠りについた筈の可愛い年下の恋人がまた何か思い立ったのだろうと振り返ろうとするが、押し留めるようにぐっと背を押される。
「まだ寝ててください」
「テメェに起こされたんだが」
「また寝てください」
「無茶言うな」
くふりと込み上げた笑いを吐きだして大人しく寝返りを諦めれば再び肩に触れる柔らかな感触。今度は唇だろうか、ちぅ、と可愛らしい音を立てて啄まれる。
「何がしてぇんだ」
「俺にもよくわかんないです」
説明を放棄しているくせに、ただ身体を差し出せと言わんばかりな横柄な声にレオナの笑いは深まるばかり。よくわからないが、止める理由も特にない。あふ、と欠伸を零しながら大人しく身を委ねる。
ちゅ、ちゅ、と幾度か肩回りを啄んだ後、一時の呼吸を置いてからぺろ、と舌先が肌を掠める。未知の食べ物をおっかなびっくり確かめるような拙い舌先。もう一度、味を確認するように肌の上をなぞり、それからかぷりとまた甘く食まれる。正直、擽ったい。
耐えるように震えるレオナをジャミルがどう捉えたのかはわからない。はぐはぐと絶妙に擽ったい加減でレオナの肩を齧る様は獣がじゃれているようだった。噛んだ後は、その場所を宥めるように舌の腹を押し付けるようにして撫でるのも。
そうして、一度離れたと思えば今度は肩甲骨に触れる唇。ちゅ、と少しばかり強く吸い付かれてちくりとした痛みが走る。きっと、痕が残った。
「どうせ付けるならそんな場所じゃなくて見える所にしろよ」
「嫌ですよそんな恥ずかしい」
「なんでだよ」
「だってそんな……なんか……」
「俺がテメェのモンだってマーキングしてくれねぇのかよ」
「……その言い方はズルいです」
再度、ジャミルの方を向こうとしてももう止められることは無かった。見上げた相貌は僅かに赤らみ、困惑の色。頬へと掌を滑らせれば大人しくすり寄り、そのままぺたんとレオナの上に倒れ伏す身体を抱き止める。
「……別に、そういうのがしたかったわけじゃなくて」
「うん」
「……美味しいのかな、って思って」
「うん?」
「先輩、いつも美味しそうに、食べる、から……」
もごもごと語尾に行くにつれて口ごもり不明瞭になる声、しまいには肩に顔を埋めてぎゅうとしがみつかれる。ジャミルが照れだか恥じらいだかを覚えた時の仕草。これを、喜ぶなと言うのが無理な話だ。
「……教えてやろうか、美味しい肉の食べ方」
耳元へと唇を寄せて囁けば、こくんと縦に首が振られる素直さ。その癖ぐりぐりとレオナの肩に顔を押し付けて未だに羞恥心か何かと戦っているらしい。
まずは下拵えは触れる前から始まっているのだと教えるべく、レオナはジャミルの耳元で囁いた。

「――――」

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