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空箱

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復習

「復習代わりに動物言語で会話しません?」
ぽかぽかと暖かな日差しが射し込む昼下がり。昼食後から勝手にレオナの部屋の机を占拠し試験勉強をしていたジャミルが伸びをしながらレオナを振り返る。
「いいぜ」
我関せずとばかりにベッドの上で本を読んでいたレオナは一度瞬いてからぱたりと本を閉じた。それからゆったりと枕に肘をついて頭を支える。
「わんわん!わわうわん!」
椅子に座ったまま身を捻りベッドに向き直ったジャミルの台詞にふは、と思わずレオナは笑った。
「教科書かよ……ばうわう!ばう!ばうばう!」
「みゃあう。にゃうにゃうにゃあ」
応えるジャミルも笑っていた。今更こんな会話が復習になるはずもない。復習とは名ばかりの、ただの休憩なのだろう。
「まぁーお、にゃぁあ、ごろごろにゃあ」
「ははっ……ふしゃぁ、っっしゃーくるるるる、しゃっしゃぁしゃー」
「っっきしゃぁ!しゃーっふしゃ、ふしゃあー!」
「……どういう意味です?」
「っこっこっこっこっ、っこけこっこっこ」
片眉を上げたジャミルが不信げに首を傾げるが、暗に動物言語以外の言葉には応えないと告げてやれば唇をへの字にしながらもきゅぅうんと小さく謝罪の言葉を溢した。
「……ぴるるるる!ぴぃひょろろ?」
「ぴぃぴぃ、ぴるる、ぴぃぃぴぃぴぴぴ」
ますますもって眉根を寄せたジャミルについ、レオナの頬が緩む。きっとこの男は、実はレオナがジャミルにさほど興味がなかっただとか、本当は飽きているから別れたいとか、マイナス方面の事を言われるのでは無いかと訝しんでいるのだろう。警戒心が強いのは良いことだが、未だにその程度の信用しか得られていないのかと思うとあまり笑ってもいられない。
「ききぃ!きっきっ!きききっききっ」
「あっ、待ってくださいやっぱり結構ですごめんなさい言わなくていいです」
わざわざ勿体振ってやれば早くもジャミルは察したらしい。まだ前振りでしかないのにじんわりと顔の血色が良くなっているのがレオナの笑いを誘う。
「がぅぅ、ぐるるるるる、がうがう、がうぅぐるるる」
「レオナせんぱい!」
「ぐるるるるるる、がぅぅがう、がおぉ?」
止めようとしたのか、それとも逃げようとしたのか。中途半端に立ち上がったジャミルの動きが止まった。信じられないような物でも見たかのように見開かれた眼はまっすぐにレオナを見詰め、それからきゅっと唇を噛むと真っ赤な顔を隠すようにフードを被り、再び椅子に崩れ落ちるように座ると机に突っ伏した。判り難くはあるが、恐らく、この分なら拒絶されることは無いだろう。
「がうがう?」
そのままピクリとも動かなくなったジャミルに少しの追い撃ちをかける。これで逃げられるようであれば今日の所は逃してやっても良いだろう。此処まで来るのに大分待たされているのだ、今更多少時間が掛かった所で誤差に過ぎない。
「…………………俺が卒業する時に、人間の言葉で同じことを言ってくれるなら考えます……」
だが結果は想定よりもずっと良いものだった。これでにやけるなと言う方が無理だろう。レオナはベッドから跳ねるように身を起こすと、ようやく手に入れた大事なものを腕に抱き締めるべく机に近付いた。





※おまけ


「こんにちは。良いお天気ですね」
「教科書かよ……そうですね。ご機嫌はいかがですか?」
「とても良いです。貴方はいかがですか?」
「せっかく恋人が部屋を訪ねてくれたと思ったのに放っておかれて寂しいな」
「ははっ……随分と素直ですね、可愛い。これからは二人でいる時はずっと動物言語で会話してもらおうかな」
「テメェにその覚悟があるなら俺は構わねえが?」
「……どういう意味です?」
「動物言語で会話するって言ったのはテメェだろ」
「……覚悟が要るって、どういうことですか?」
「俺の素直な心のうちを全て聞き届ける覚悟があるのかって話だ」
「テメェは未だに俺との関係を学生の間だけのお遊びだと思ってるみてえだが」
「あっ、待ってくださいやっぱり結構ですごめんなさい言わなくていいです」
「俺はテメェの事を生涯ただ一人のつがいだと思ってるし、此処を出た後も手放す気は無ぇ」
「レオナせんぱい!」
「ジャミル、愛している。お前は俺をどう思ってる?」


「返事は?」
「……俺が卒業する時に、人間の言葉で同じことを言ってくれるなら考えます……」

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