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空箱

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いちゃいちゃ

まだ人の多いサバナクロー寮の中を、スカラビア寮の寮服を着たままレオナに手を引かれて歩く。当然集まる視線に晒されるジャミルとしてはたまったものでは無いが、長いコンパスを最大限に動かし走る一歩手前のような勢いで歩くレオナは止まらない。突き刺さる好奇心の中、半ば引き摺られるような形で廊下を歩み、談話室を突っ切り、そうしてようやくたどり着いた寮長部屋。中に入ったら一言くらい文句を言ってやろうと思っていたジャミルの目論見は、扉が閉じられると同時に振り返ったレオナにそのまま扉へと背を押し付けられ、言葉を紡ぐべく開いた唇をまんまと唇で塞がれてくぐもった音しか出す事しか出来なかった。
忙しなく服の下に潜り込み肌をまさぐるかさついた掌。我が物顔でジャミルの口内を荒し呼吸を奪う分厚い舌。
圧迫感に喘ぎ逃げようとしても後頭部がごつんと扉にぶつかるばかり。それ以上の拒絶はしなかった。出来なかった。


持ち出し禁止の本ばかりが置かれた図書室の一角で二人きりの放課後の自習。普段からあまり人気の無い場所ではあったが、今日はレオナの耳でも気配を捉えられないくらいに誰も居なくて、思ったよりも今日為すべき課題が早く片付いてしまって。自然と肌を寄せ合い、唇を重ね、そのまま本格的に雪崩れ込んでしまう前になんとか理性を取り戻してレオナの部屋へと向かったのだ。レオナだけじゃなく、ジャミルだってそのつもりでこの部屋に来たのだからする事には反対しないが、こんな、背中の薄い板一枚向こうは数多の寮生が行き交う廊下なんて状況は初めての事でどきどきと鼓動が跳ねて落ち着かない。
「――……ッんぁ、せんぱ、んんんぅ」
一瞬唇が離れた隙にその事を訴えたくても、息吐く暇無く再び重なる唇がジャミルに言葉を紡がせない。温い舌に掻き混ぜられて言葉ごと思考が溶かされてしまう。まだベッドに辿り着いていないのに、お互い服を着たまま二本の足でしっかりと立っているのに、身体の輪郭を確かめるように這う熱い掌とやわこい場所を掻き混ぜて同化させるような舌に何もかもがどろどろにされてすっかりその気になってしまった身体が熱い。
いつもならベッドの上に優しく押し倒され、甘やかなキスを交わし、酷く穏やかに、時としてしつこいくらいに全身を隅々まで触れて、舐って、唇を這わせて漸く触れる場所にレオナの指先が忍び寄る。服の中に潜り込んだ手が背骨の先の柔らかな場所をまさぐっているのだと思うとなんだか酷く卑猥な事をしているようで思わず逃れるように足踏みをしてしまうが、それを許さないようにぐ、と一本指が中へと潜り込んだ。
「んん、……ッッは、」
いともたやすくレオナの指を根本まで飲み込んで行くのは、レオナに手を引かれる前の、図書室で自習する更に前、自分の部屋を出る時にはそもそもするつもりがあって、用意してきたから。ようやく唇が解放され、足りない酸素を取り戻す呼吸に肩を揺らしながら霞むレオナを見れば満足気に牙を見せて笑っていた。
「……此処で、するんですか?」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ないですけど……っ」
なら良いだろうとばかりにそれ以上の答えを聞く気が無い唇が再びジャミルの唇を啄み言葉を奪った。そうして二本、三本と腹の中をまさぐる指が増える。
「っは……ぁ……」
熱を高めるというよりは、本当にただその場所のサイズを測るだけのような。数度、中で指が閉じたり開いたりを繰り返してあっさりと引き抜かれる。それから半ば強引に下衣を引きずり降ろされるも装飾が絡まって太腿の半ばまでしか下ろせず、すぐ耳元で舌打ちが一つ。きっと丁寧に脱がせるという選択肢は端から無いだろうから、それなら後ろからの方が楽だろうか。知らぬ間にレオナの胸元にしがみついていた指を解き、そっと向きを変える為のスペースを作る為に押し退けようとするもその手を取られてレオナの肩へと捕まらせられる。
「掴まってろ」
「え、」
ぼんやりする思考で問い返す間も無くレオナが腰を落として軽くしゃがむ。そうして両腿の裏に腕の感触を感じると同時にふわりと身体が浮き、慌ててレオナの首にしがみついた。両足がレオナの腕に抱えられ、扉に押し付けられることによって辛うじて支えられる宙に浮いた身体。
「ば、……っかじゃないのか……」
「たまにはいいだろ」
にぃ、と吊り上がる口角。美しい大人の顔に滲む何処か子供染みた好奇心を見つけてしまってはジャミルに否を唱える術はない。少しでもレオナの腰に負担を掛けないように協力するだけだ。
「腰、おかしくしても知りませんからね」
「ンなヤワじゃねえよ」
抱え上げられたせいで、少し見下ろすレオナの顔。かちゃかちゃと金属音がするのはベルトを緩めている音だろうか。餌を待つ雛鳥のようにぱかりと唇を開けて無言の訴えを向けるエメラルドに誘われて唇を重ねる。ちゅ、と一度音を立てて啄めばすぐに食らい付こうとする唇からは逃げる。不服そうに片眉が吊り上がり、眇めた目で睨まれた。噛み付く真似事のように首を伸ばしてジャミルの唇を奪おうとするのを顎を上げて避け、それから揶揄うように唇の端に触れるだけのキスを押し付けて、また逃げる。追いかけるレオナが狙いを外してジャミルの顎先を食み、ふふ、と笑い声が漏れた。
「焦らしてんじゃねぇよ」
「必死なのが、可愛くて、つい」
がぶ、と仕返しのように首に甘く歯を立てられ、それから一度抱え直され扉に押し付けられると、ひたりと剥き出しの場所に触れた熱。先走りを塗り付けるように幾度か足の間を往復するその熱に否応にも気分が高まる。そうしてぴっとりと入口に狙いを定めた熱が、ず、とゆっくりとめり込んで行く。
「あ、……っ待っ……」
身体のコントロールを全て他人に明け渡している緊張感が今までにない感覚を連れて来て思わず怯むがレオナは止まってくれなかった。ずぶずぶと為すがままに身体の奥深くまで突き刺さる熱に全身を支配されて背が撓る。
「い、っっっっったぁ………」
ごんっ、と派手な音を立てて後頭部を扉にぶつけた。ぎゅうと収縮した場所が熱を食み気持ち良いのだかぶつけた頭が痛いのだかわからない。ぐぅ、と一度は唸る声がすぐ傍で聞こえたような気がしたが、ジャミルの肩に顔を埋めたレオナは小刻みに震えていた。
「………ちょっと」
「っふ、いや、……テメェは可愛いな」
「馬鹿にしてるんですか」
「愛でてやってんだろうが」
ジャミルは痛みだか快感だかわからないもので涙目になっているというのに顔を上げたレオナは心底楽しそうに笑っていた。よしよし、と言いながらもジャミルの尻をもにゅもにゅ揉んでいるばかりで誠意の欠片も感じられない。じっとりと細めた目で見下してやれば宥めるように唇を啄まれる。
「おら、また頭ぶつけたくなかったらちゃんとしがみついてろ」
大変不服ながら、仰け反らないようにするためには言う通りにレオナの首にしがみついた方が賢明だろう。レオナの腰に掛かる負担など知った事かとぎゅうぎゅうにしがみついてやった。


結果として、普段はなかなかしないような体勢での行為は大変盛り上がったしジャミルは満足したが、レオナは何も言わなかったものの恐らく筋肉痛になっていたので暫くはまたいつも通り、ベッドの上で睦み合う事になるだろう。

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