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空箱

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ピザ

大きな波のような快感から解き放たれた身体から、ずるりと中を満たしていたものが引き抜かれる感覚を息を止めて堪え、そうしてゆっくりと息を吐き出すと共に力の抜けた身体がシーツに沈む。顔に、腹に、足に触れる布地がひんやりと湿っていて不快だが動く気にはなれなかった。
沈んだジャミルの身体を追いかけるようにべたりと背中に張り付き体重を預ける熱い身体。ジャミルの右肩の上に顔を埋めて弛緩する一回り大きな身体はそれなりの圧迫感を持ってジャミルを押し潰したが、それは不快だとは思わなかった。
荒い呼吸が二つ、静かに冷えた部屋の空気を湿らせていた。余韻を纏わせたぼんやりと揺蕩うような意識をさ迷わせながら、ふと、お腹が空いたな、と思う。性欲を満たしたばかりの身体はまだ気付いていないが、そう遠くない内に消費したカロリーを取り戻そうと腹を鳴かせるようになるのだろうという予感。
「……何か食べます?」
ぽつりと溢せば、ジャミルの右肩を暖めていた頭がのっそりと持ち上がる。
「……ぴざ」
まだ熱の収まりきらない吐息が耳に吹き掛けられ、そうしてちゅうと音を立てて啄まれた。
「んっ……また手間のかかるものを……」
「デリバリーでいいだろ、ンなもん」
そう言って薄い耳朶を食まれ、唇で弄びながら尻の合間に埋められるのは、先程までジャミルの中を我が物顔で荒していたまだ硬さを残す熱い塊。生乾きの体液をなすりつけるように揺すられて、んふ、と笑い交じりの吐息が零れる。デリバリーを提案したのは決してジャミルの手間への気遣いでは無い。まだ足りないと素直に年上の男に強請られるのは悪い気分では無かった。
「お店は何処がいいんです?」
確かヘッドボードにスマホを置いていた筈と腕を伸ばして探るもそれらしい感触が指先に触れない。べしべしと闇雲にベッドボードを叩いていると横から逞しく長い腕が伸びて来て、あっさりとスマホを掴み取りジャミルの手に握らせた。
「生地が分厚くて……肉が辛くないやつ」
そして言いたい事だけ言うと再び耳朶を食み、長い髪をそっと避けて項へと唇が移動して行き肌を柔く啄んで行く。
「ああ……前々回くらいに食べた店ですね」
ちゅ、ちゅ、と随分と可愛らしい音が肌の上で踊り、柔らかな唇がそこかしこに押し付けられるのを心地よく受け止めながら両肘をついて身を起こし、スマホを操作して辿り着いた目的の店のホームページでオーダーを打ち込んで行く。布団の中にまで潜り込んだレオナは背筋の溝を舌先でなぞったり肌を啄んだりともはや我関せずの姿勢で好き勝手にジャミルを味わっていた。冷める事を許さないような、だが決して燃え上がらせる事もしない温い温度の中にジャミルを引き留めるような穏やかな愛撫。ただ、ゆっくりと汗に濡れた脇腹をなぞる指先はどちらかと言えばくすぐったさの方が強くて落ち着かないと伝えるべきか否か悩みながら、あ、と声を上げる。
「サイズどうします?」
振り返って問うが、レオナはすっぽりと布団の中に埋もれていた。舌で濡らされたばかりの肌の上を吐息が撫でたので何か答えたのかもしれないが、分厚い布団越しの声はジャミルまでは届かない。ねえ、と膝を折り曲げ踵でレオナの太腿を軽く蹴って呼びかければ抗議のようにがぶがぶと腰骨の上を甘噛みされて思わず声を上げて笑う。
「ふはっ、ちょっと、サイズ決まらないと注文出来ないでしょ、……ッん」
今まではただ子猫がじゃれつくような可愛らしいものだったのに、不意にぬとりと温度を持った舌が今噛まれたばかりの肌を舐り、ぞくりと肌が震える。ただでさえ弱い場所を、分厚い舌が這い、塗り付けられた唾液を啜るように肌を吸われては意識の外に追いやっていた物が再び灯りそうになってしまい慌てて息を詰めて耐える。まだ、そちらに流されるわけにはいかない。せめて、このオーダーを終えてしまうまでは。
じゅる、ちぅ、と音を肌で感じる度に跳ね上がる腰を大きな掌で押さえ付けられ、スマホを操作する手も覚束なくなる程に身を強張らせて耐えるジャミルを面白がるように存分に肌を舐め溶かされて行くのをきつく眉を寄せて耐えることしばし。強く、痕が残る程に強く吸われた後に漸くレオナが離れるのを感じて潜めていた息を吐きだす。
「暑ぃ」
もぞりと背後で布団から顔を出したレオナがぼやく。
「当たり前でしょう」
ぬるついた掌がジャミルの肩を掴み、俯せだった身体をひっくり返されながら見上げたレオナの額からは汗が流れ顎から滴り落ちていた。そんな状態になってまで布団の中で夢中になっていたのかと思うとつい笑ってしまう。
ぺろりと唇を舐めたレオナが再びジャミルの上にのしかかり湿らせたばかりの唇が重なる。数度、じゃれるように啄まれてからするりと潜り込んだ舌がそっと口内を撫ぜ、その穏やかな心地良さに瞼を伏せる。右手にはスマホを握り締めたまま、レオナの後ろ髪に指を潜り込ませて引き寄せればそこはしっとりと濡れていた。
「ん……ん、ふ……」
とろとろと温い温度を混ぜ合わせ、飲み込む。夢と現を彷徨う時のような浮遊感。甘やかな水音を残して離れる感触に目を開ければ目の前では満足気にジャミルを見下ろす笑顔。随分とご機嫌のようだ。
「………いや、だからサイズ」
「一番でけぇの」
「一人で?」
「ああ」
それならば一番大きい物を一枚、ジャミルは違う味の一回り小さい物を頼むかと目の前に掲げたスマホでメニューを確認していると、突然身を起こしたレオナがばさりと掛け布団を跳ね除けた。
「うわっ、寒っ」
「俺は暑ぃんだよ」
「俺はさみぃんです」
そのまま圧し掛かろうとするレオナの腹に遠慮なく足の裏を押し付けて退かし、遠くなった掛け布団を手繰り寄せて引き上げる。だらだら汗をかいているレオナはともかく、収まりかけた薄い汗を纏うだけのジャミルにこの部屋の温度は寒すぎる。エアコンをつければ話は早いのだろうが、お互い自分がつけに行くのが嫌だからと口にしていないのはわかっていた。
「おい」
無造作にレオナを足で押しのけ一人でぬくぬく布団に包まれば不服そうな声。ぐい、と布団を引っぺがそうとする腕に引っ張られるがジャミルも確り布団を掴んで離さない。
「嫌です」
確りと目を見て拒絶すれば不服そうな顔をするものの、それ以上強引に引き剥がそうとはしなかった。代わりに溜息一つ落とした後、そっと伺うように布団の端を捲られ、もぞもぞと布団の中へと潜り込んで行くのだから思わず笑いが漏れる。
「わっ、……ッはは、馬鹿ッ止め、……ッッぁはははは」
再び布団の中に潜り込んだレオナが何をするのかと思えば脇腹を擽られてジャミルはそのまま声を上げて笑い続けるはめに陥った。逃れたくても足の間に陣取ったレオナが邪魔で思うように動けず、じたばたと足を暴れさせた所でレオナには何のダメージも入らない。
「ちょっと、っっはは、っまだオーダー終わってなははははっ」
耐えかねて、布団の上からレオナの頭部と思わしき場所を思い切りぼふりと叩いてやればやっと擽る指先は止まってくれたが、代わりに不意に胸の先をぬろりと舌の腹で捏ねられ、ぁあん、とまるでポルノ女優のような声がジャミルの唇から漏れた。セックスの最中に快感のまま声を出す事に躊躇いは無いタイプだが、意図せぬ声はなんとなく恥ずかしい。もう一度強く、ありったけの力を込めて小刻みに震えている布団を叩いた。
は、と浅く息を吐きだしてスマホに視線を戻す。レオナが肉系ならばジャミルはシーフードのピザが良いだろうか。乗っているトッピングにレオナの嫌いな物が無いのを確認していると、布団の中で震えていた当人は再びジャミルの胸に舌を這わせて始めた。今度は予期出来たので素っ頓狂な声を上げる事は無かったが、身体を重ねる度にレオナが丁寧に舐めて吸って育てられた場所を弄られるのにはどうにも弱い。赤子のようにジャミルの胸を吸いながらもレオナの指先はしっかりとジャミルの尻を抱え、思わせぶりに柔らかな肉を揉んでいた。そろそろ、レオナが腹を空かせ始めている。
「……サイドメニューはチキンとポテトとサラダだけでいいですか?」
布団を捲り中を覗き込むと一度ジャミルを見たレオナの瞳が暗い中で濡れ光っていた。ああ、と短い返答のあと、これ見よがしに舌先が胸の先を突いて転がす光景を見せつけられ、じわじわと込み上げる熱にジャミルは息を呑む。
「ん、……っは、それじゃあ後は……、っっ」
慌てて目を逸らしてスマホの画面へと逃げる。だが一度火が灯ってしまったら駄目だった。充血した場所がレオナの舌先でちろちろと転がされるだけで腹の奥底がずくりと疼く。ふやけてしまいそうな程に舐めて、しゃぶって、噛み付いてとされているうちに目ではスマホを見ている筈なのに気付けばただぼんやりとレオナから与えられる快感に浸ってしまっている。恐らく、後は注文ボタンを押すだけで終わる筈なのだ。漏れが無いか確認してボタンを一つ押すだけだというのに、意識がレオナの触れる場所へと吸い寄せられてしまい上手く頭が回らない。
「あ、ぁ……ッ」
強く、胸の先を吸われるとそれだけで目が眩むような感覚に襲われて身が竦む。じんじんと生まれた熱が胸の先から全身へと小波のように広がっていた。それから漸くレオナが久方ぶりに布団から顔を出して身を起こす。ひんやりとした部屋の空気が二人の間を通り抜けるが、もう寒くは無かった。むしろ、知らぬ間に滲んだ汗がジャミルのこめかみを一筋伝い落ちている。それを舐め取るようにレオナが数度、ジャミルの額に、頬にと唇を押し付けてから両足が抱えられ、ぴたりと押し当てられた熱い塊。先程までこの中にあった物が、再び入口を押し広げて浅い所をぬくぬくと具合を確かめるように擦る。そんな事をせずとも早くもっと奥まで欲しくて、レオナの身体を抱き寄せようとして手の中に握り締めたままのスマホの存在を思い出すような有様。
「っあ、……あ、ぴざぁ……ッ」
腹を満たしてもらう事ばかりに意識が行ってしまい、むしろ早くレオナに夢中になりたくてスマホを押し付ける。不審げに片眉を上げたレオナが受け取り、画面を確認するのを見てジャミルが安心した瞬間。
「――~~~ッッ」
油断した所で一気に一番奥まで突き入れられ、びりびりと頭のてっぺんまで快感が走り抜けて思わず歯を食い縛る。ぐぅ、とレオナも顔を顰めて呻いていたが、片手でジャミルの腰を捕まえ直すとゆるゆると腰を前後に揺すり始めた。
「ゃ、……ッあ、まだ、……っっ」
「っは、まだ注文してねぇのかよ。あと一回画面触るだけじゃねぇか」
邪魔をする誰かの所為で、違う場所を間違えて押してしまいそうで怖くて押せなかったのだと言い訳をする余裕も無かった。最初の衝撃が収まらないうちから熟れた場所を熱い塊に撫ぜられて気持ち良いのが終わらない。
手早くスマホを操作したレオナがぽいと人のスマホを無造作に枕元に放り捨てるのを見届けてから両腕を伸ばせば、心得たようにレオナが身を寄せ、ジャミルが首に抱き着くと同時に抱え上げられた。
「んんぅ……ッ」
抜けかけた物が自重で奥まで再び押し込まれ、深い場所まで満たされて漸く一心地ついた気持ちで息を吐く。見下ろすレオナが顔を傾ける、それだけで意図を理解し引き寄せられるままに唇を近付ける。
「あと30分で着くそうだ」
重なる間際。ぽつりと告げられた配達予想時間に一瞬焦るが、今更止められるわけもない。だが30分で事が済むかもわからない。もしもの時はレオナに任せれば良いだろう、と思考を放棄して身を委ねる。
30分後、いかにも真っ最中ですという濡れた肌にスウェットだけを履いたレオナが酷く不機嫌な顔で前屈みに玄関へと向かう姿は、哀れと思えど面白かった。

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