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コイバナ

「ジャミルさん、ご相談があります」
「友達にはならないぞ」
そうではなくて、と珍しく言い淀みもじもじし始めたアズールに気味の悪いモノを感じながらも座ったらどうだと声を掛ける。
昼休みも終わり間近の教室。次の授業までの僅かな時間に、読み飽きた教科書を読むよりはまだマシな暇潰しになるだろうと承諾した、ただそれだけだ。アズールの胡散臭さは折り紙付きだが、いつもの見るからに怪しい笑顔ではなく、心の底から困っているが、だからこそ普段から邪険にされているジャミルには相談しづらいもののジャミル以外に頼れる人がいないのだと言わんばかりのしおらしい姿に純粋に興味が沸いたのもある。この男と友達になってやる気はないが、クラスメイトの相談も聞かずに切り捨てるほど、ジャミルも鬼ではない。
「その、イデア先輩とのことなんですが……」
あ、これ面倒臭い類いの話だ、と気付いた時にはもう遅い。隣に腰を下ろしたアズールはちゃっかりと教科書やノートを並べ始め、このまま隣の席で授業を受ける気になっている。授業中は余計な私語を口にするような男ではないだろうが、今日は移動が無いので最後の授業までこの教室だ。つまり、休み時間は全てアズールに奪われてしまう。
「ジャミルさん、貴方……レオナ先輩と手を繋いだのはお付き合いしてどれくらい経ってからです?」
「は?」
思わず大きな声を出してしまい、教室中の視線が二人に集まった。それを犬でも払うように手を振りながら考える。
イデアとアズールがつい最近、いわゆるお付き合いを始めたのは知っている。というよりもほぼジャミルのお陰でくっついたと言っても過言ではない。詳しいことは割愛するが、アズールがイデアに片想いをしていると知ったジャミルが嫌がらせをしてやったつもりが、まんまと恋の成就のお手伝いになってしまっただけだ。別にイデアが誰と恋愛しようと勝手だが、よりによってこの男に兄のように慕っていたイデアを取られたのかと思うと癪に触る。
対して、レオナとジャミルの関係は一応、お付き合いをしている筈ではあるが、いまいち二人がお付き合いというものをよくわかって居ないために曖昧な所がある。そもそもイデアとアズールの二人とは違い、こちらははっきりと終わりが見えている、いわばレオナが卒業するまでの期間限定で、その期間内だけはお互い好みの相手を好きに楽しみましょうという関係だ。きっかけは事故でセックスしてしまった所から始まっているし、その後は時間が合えば気紛れにセックスをするだけの関係が暫く続き、お互い身体だけで無く心も通じていたと知ったのだってつい最近の事だ。お付き合いを始めた時期で言えばアズール達と大差無い。
だがそれを素直に告げるのは躊躇われた。恐らく、世間では恋人になりましょうという契約を交わしてからでないと肉体での交流はしない、はずだ。たぶん。アズールが付き合ってから手を繋ぐまでの期間を聞いたのもそういう慣習を踏まえた上で、どれくらいが一般的なのかを知りたいのか聞いたのだろうと納得する。が。
「……まだセックスもしてないのか?」
「当たり前でしょう何を言ってるんですか!!!」
ばん、っと顔を真っ赤にして机を叩き立ち上がるアズールに再び教室中の視線が集まるが、丁度そこで次の授業の教師がやってきた為に一度そこで話は途切れた。



『それで結局、どれくらい経ってからなんですか』
授業も半ば、丁度今日の授業内容と結論までを大体理解し、あとはわかりきった話を無駄に聞くだけだと飽き始めていた頃。素知らぬ顔で前を向き、あたかも真面目に授業を受けている振りをしたアズールの細い文字がプリントの裏に書かれて差し出された。どれだけ気になっているのだと少し面白くなってきてしまい、アズールの文字の下に素直にそのまま事実を書き連ねてやる。今なら無駄に騒がれる事も無いだろう。
『付き合うより先に手も繋いでるしキスもしたしセックスもしてる』
机の上にプリントを滑らせて差し出せば、息を呑み明らかに狼狽えた気配。かちゃかちゃと忙しなく眼鏡を直す音が聞こえて思わずジャミルはほくそ笑む。
『ふしだらです』
返って来たプリントには少しばかり皺がより、アズールの動揺そのままに震えた文字が書かれていた。あまりにも馴染の無い言葉に吹き出しそうになるのをなんとか堪える。契約を重んじるアズールには確かに刺激が強すぎたかもしれないが、そこまで生真面目な反応を返されるとは、面白い。この男を一度アジームのハーレムに連れて行ってやりたい。カリムは12歳で童貞を卒業していると聞いたらどんな反応をするのだろうか。
『お前だってどうせいずれはするつもりなんだろ』
『それは、そうですけど、こういうのは二人で積み重ねて辿り着くものですから』
『とりあえず押し倒してみたらいいんじゃないか?』
『僕は先輩を傷つけるようなことはしたくないです』
『イデア先輩だって男なんだから触ればその気になるだろ』
『貴方の所のケダモノと一緒にしないでください!』
机の影になる所でアズールが思い切りジャミルの横腹を殴った。痛い。だがそれ以上にあのアズールが、口から先に生まれたのでは無いかと思うくらいに饒舌な男が暴力に頼らざるを得なくなっているこの状況がおかしくてふるふると必死に笑いを抑えて震えることしか出来ない。
「それでは、本日は此処まで」
すっかり意識の外にあった教師の声が授業の終わりを告げ、騒がしくなる教室内。ぶは、と漸く解放出来た呼吸を盛大に吐きだしていると、横ではアズールが慌ただしく立ち上がる所だった。
「少し、頭を冷やしてきます……!」
そういって足早に教室から逃げていく後ろ姿でもわかるくらい、耳朶が真っ赤に染まっていた。勉強道具は隣に置かれたまま、つまりは次の授業までには再びジャミルの隣に戻り先程の続きをするつもりなのだろう。それを面倒だと思いつつも少しだけ楽しみになっているジャミルがいた。
アズールを打ち負かしてやるのは、気持ちが良い。

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