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空箱

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寝ているレオナの上に跨り、投げ出されていた太い両手首を手に取る。安らかな寝息が途切れ、眠たげな眼がぼんやりとジャミルを捕えたのを自覚しながら、為すがままに持ち上がった掌をそっと首筋へと宛がう。意図を察したように眠る直前の燃えるような温度がかさついた感触と共に首筋を包み込み、思わず陶然とした息が漏れた。
首を包み込む大きな掌の上からそっと押し付けるように両手を宛がえばほんの僅かに締め付けられて息苦しさが増す。酸素を求めて開いた唇で、もっと、と音にならない願いを向ける。
「………あんま変な遊び覚えんじゃねぇよ」
きゅう、と一瞬視界が飛びそうになるほどに強く締め付けられ、それから解放されると勢いよく流れ込む空気に咽る。少しだけ頭が痛かった。
「遊びじゃあ、無いですよ」
「もっとタチ悪いだろうが」
「だって、首が寒かったんです」
「首輪でも欲しいって?」
「形ある物には興味無いです」
「ほぉ」
今までただ眠たげに瞬いていただけだったエメラルドがすうっと笑みの形に細められた。手首を分厚い掌が掴んだ、と思った頃には引っ張られ、ころりと簡単にレオナの下に組み敷かれる。のしりと腰の上に座られ、高みから見下ろされながら大きな掌が片手でジャミルの首をそっとシーツに押し付ける。
「お前が望むなら、ありったけの形の無い物で此処を締め付けてやるが?」
「望んでませんそんな物。……ただ少し、暖まりたかっただけです」
「じゃあ今、十分暖かいな?」
「………足りません」
いくら大きな掌でも、片手ではジャミルの首を握り潰す事は出来ても全てを包み込む事は出来ていない。寒い。暇そうにしている手首を捉えて引き寄せる。溜息のように苦笑したレオナがジャミルの首を両手で包み直した。じんわりと硬くなった皮膚から伝わる熱が心地良い。
「……もしも俺が死ぬ時には、こうやって先輩が首だけ暖めてくれたら良いのに」
「死にそうな時に俺の手が届く場所に居たら暖めてやるよ」
「ふふ、ロマンチックですね」
レオナがジャミルの命の灯火を消す幻想は酷く煌いて見えた。きっと、そんな未来は来る筈が無いけれど。

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