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空箱

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砂糖

「先輩に砂糖をかけて良いですか?」
「は?」
約束の時間通りにレオナの部屋に訪れたジャミルが、暗黙の了解とばかりにベッドの上でうとうとしていたレオナの上に跨がり発した第一声に、普段なら暫く振り払えない眠気が一気に覚めた。
「舐める時に、先輩のに砂糖かけたいです」
これ、と得意気にズボンのポケットから取り出されたのは掌に収まるような小さな透明の袋に詰められた白い粉の塊。色気も何も無い。
また何かわけのわからないことを言い出したこの男とレオナが思わず半目になってしまうのは仕方の無いことだろう。
「今度はどんな理由でそうなったんだ……」
「その、味が苦手なので、美味しくなる方法は無いかなと思いまして」
「苦手なら舐めなきゃ良いだろうが」
レオナがジャミルに口での奉仕を頼んだ事は一度も無い。むしろジャミルが率先してやり始めたから好きにさせているだけだ。散々楽しんで来たので、嫌々だったとは流石に言えないが。
「でも、レオナ先輩は舐められるの好きでしょう?」
「男なら大概好きだと思うが」
「俺は別に先輩に舐められたく無いです」
「味わった事ねぇからだろ。やってやろうか?」
「結構です」
他人のモノを口に入れた経験は無いので腕に自信があるわけでも無いが、そこまではっきり拒絶されると逆に何がなんでもやってやりたくなる。だが身を起こそうとする前に察したジャミルが肩をシーツに押し付けるように両手をついて体重をかけてきた。
「俺の事は良いんです。砂糖かけて良いですか?」
「お前に舐めてもらうのは嫌いじゃねぇが、苦手なのを無理してまでやらせたいわけじゃねぇよ」
「でも俺は舐めたいんですよ。味が苦手なだけで。先輩のを舐めること自体は好きなんです」
「何故」
「気持ち良さそうにしてくれるから」
「俺はお前の口以外も十分楽しんでるつもりだが?」
「でも口も好きでしょう?」
「好きだが、砂糖をかけられるくらいなら断る」
「えぇー……」
何故そこで断られる意味がわからないと言う顔が出来るのか理解しかねるが、普段よりも随分と幼い顔でむすくれる姿はそれなりに可愛いと思えたので良しとする。もう良いだろうとジャミルの腕を掴めば今度はあっさりと体勢が入れ替えられた。
「……そもそも、砂糖かけて美味くなるのか?」
それは素朴な疑問だった。大人しくレオナの下に組み敷かれたジャミルは、パーカーの裾から手を滑り込ませれば服を脱がせるのを手伝うように両腕を頭上にあげていた。
「多分、えげつないくらい不味くなると思います」
「おい、じゃあ何でンなこと言い出したんだ」
「気になったので……」
「人の身体を玩具にしようとすんじゃねえよ」
「被害食らうのは俺だから良いでしょう」
「盛り上がってる所にせっせと砂糖まぶされたら俺だって萎えるぞ」
「本当ですか?」
だからそこで目を輝かせるな。
ジャミルが幼い頃からずっと禁じられていた「好奇心のままに行動する楽しみ」を最近やっと味わうことが出来るようになったのだと察してしまい、妙な同情心から下手に抵抗出来なくなっているのだからそれ以上レオナの辛うじて残っていた優しさに漬け込むような真似をしないで欲しい。何処に行った熟慮の精神。
まだまだ夜は長くなりそうだった。

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