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空箱

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火日が従弟 1

誠凛に入学して早数ヶ月。
漸く部にも慣れて、黒子と言う相棒と共にインターハイへと向け練習に励むある日の事だった。
全体練習を終えた後の自主練習に夢中になってしまい、気付けば体育館に残っているのは主将の日向と火神だけになっていた。
もう今日は終わりにするのか、それともただの休憩中なのか、タオル片手に汗を拭きながらじっと火神を見つめる日向に気付いて動きを止める。
「…なんだですか?」
「…お前ってアメリカに行く前、一階に花屋とコンビニがあるマンションの608号室に住んでた?」
酷く突然な日向の問いに驚きながらも火神は素直に頷く。
「え、つかなんで主将がそれ知って…」
聞き返しても一人で納得した様子の日向はまじまじと火神を見上げてはこれみよがしな溜息を盛大に吐き出すだけだ。
「俺もずっと確信が持てなかったから人の事はあんま言えねぇけど…それにしても育ちすぎだろ…違いすぎてわかるわけねぇよ…」
そのままぶつくさとぼやきながら睨まれて火神は戸惑う事した出来ない。
手持ち無沙汰に手の中でボールを転がしながらかくりと首を傾げる。
「俺、なんかしたっすか?」
自主練をしながらの雑談、と言う空気でも無かったので真面目に話を聞くために日向へと近付いて見下ろすと、先程よりも深くて長い溜息が日向の口から吐き出された。
「昔はあんなにちっこくていっつも順くん順くん言って可愛かったのに…」
「うぇ……あ、えええっ?」
一瞬、意味がわからなかったものの、すぐに懐かしい記憶が呼び覚まされて思わず変な声が出た。
「え、まさか、順くん…?」
「そのまさかだよ。俺の可愛かった大我を返せ」
拗ねたようにタオルを投げ付けられて慌てて受け取る。
「いやだって順くんは俺よりでかかったし!!」
「てめぇが育ち過ぎなんだよバカヤロー、最後に会ったの何年前だと思ってやがんだ!!!」



順くん、と言うのは火神にとって従兄弟でもあり、大切な幼なじみでもあり、初恋?の相手だ。
火神の母親は物心ついた時には病気で亡くなっていた。
仕事の忙しい父親は出張も多く、その度に火神は日向家に預けられるのが通例だった。
それでなくても日向の幼稚園が長期休暇に入る時は殆ど日向家で過ごしていたように思う。
土日は父親まで日向家に泊まり込んでもはや第二の自宅と言えるくらいに日向家には世話になっていたのだ。
その中でも歳が一つだけ上の順くんとはいつも一緒で、ご飯を食べるのも、遊ぶのも、お風呂に入るのも、全部一緒だった。
この頃の一歳の差とは大きい物で、順くんは火神の知らない事を何でも知っていて、優しくて、大きくて、頼りになる大好きな人だった。
火神の父親の転勤に伴ってアメリカに行くまでは間違いなく火神の心は順くんで一杯だったハズなのだがいかんせん、二桁にも満たない年齢の頃の話だ。
淡い思い出として胸の底には残っていても、余り思い出す事も無くなっていた。
「…主将が…順くん…」
「おう…つか順くんは止めろ、なんかこっぱずかしい」
もう火神よりも大きくは無いが、照れた時に口をヘの字にして余所を向いてしまうのは確かに順くんと同じ癖だ。
なんだか無償に嬉しくなってしまって頬が緩むのを抑えきれない。
「おじさんとおばさん、元気すか」
「おー、変わんねぇよ。…大我のおじさんは?一緒に帰って来てんのか?」
「いや、本当は帰って来るはずだったのに、直前で残らなきゃいけなくなっちまって。」
「え、じゃあお前、今一人暮らし?」
主将が大我と呼ぶのがくすぐったくて素直に応えていたらダァホといきなり頭を叩かれた。
余り力は入って無いから痛くは無いが、順くんに叩かれたと思うと急に悲しくなる。
「だったらなんでさっさとうちに連絡して来ねぇんだよ、お前、今日うちに泊まりに来い」
「へ…?」
「どうせ寂しがり屋なのは治ってねぇんだろ?」
そう言ってにやりと口角を上げた顔は頼りになる順くんそのもので。
なんでもっと早く気付けなかったのだろうと思いながらゥス、とやっぱり頬が嬉しさで緩んでしまったのは仕方が無い事だと思う。

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