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空箱

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甘える

「先輩、何でこんな所に居るんですかちょっと来てください!」
昼休みの鐘が鳴った校舎内、ラギーから逃げきれずに渋々授業を受け、漸く解放されたレオナが廊下に出た瞬間に立ちはだかったのは鬼気迫る様子のジャミル。
「あぁ?」
「早く!」
何事かと問う余裕すらなく、ジャミルに腕を掴まれ引き摺られる。怒っている、ように見えるがレオナに心当たりはない。そもそもハロウィンだなんだとここ暫く会ってすら居なかった。これが他の者であればうるせぇ先に用件を言えと振り払うだろうに、ジャミルに引き摺られるままだらだらと歩いて付いて行ってしまう自分に丸くなったなあなどと、妙にしみじみしてしまう。
「何で今日に限って無駄に真面目に授業出てるんですか二度手間になったでしょう」
「普段真面目に授業に出ろ同学年になるのだけはごめんだと言ってるお前が何言ってるんだ」
「今日は別です!」
「今日なんかあったか?」
「何もありません!!!」
レオナの腕を引き先を行くジャミルの顔は見えない。だが声は明らかに尖っていた。校舎を出てもまだ用件を言う様子の無いジャミルを力尽くで引き止める事は簡単だが、多分、その後の方が面倒な事になると思うと結局ジャミルの気の済むようにさせてやるのが正解なのだろう。天気は良く、風も穏やか。絶好のピクニック日和に外で弁当を広げる生徒も少なくない。漂う良い香りに空腹を思い出しながらも連れて来られたのは植物園。普段、高頻度でレオナがサボり場所にしている場所だ。こんな所に何の用事があるのだろうかと益々わからなくなって首を捻るレオナを他所に、植物園の奥、日当たりの良い芝生のエリア……つまりはレオナが普段陣取っている昼寝スポットまでやってきたジャミルは漸くそこで足を止め、レオナを振り返った。
「はい、そこに座る!」
そこ、と指差されたいつもレオナが寝ている場所。素直に従い腰を下ろせばすぐにジャミルがレオナの背後に回り、座ったかと思えば腹に腕が周り思い切りしがみつかれる。なんだこれ。
「………おい」
「寝てもいいですから暫く黙って置物になっててください」
「腹減ってるんだが」
「昼休み終わった後にでも食べてください今更一時間くらいサボった所で同じでしょう」
「お前な……」
ぎゅう、と腹を締める力は強い。びったりと背中に張り付いたジャミルの様子はわからず、ただ怒っているわけでは無いようだということだけは理解した。ぽかぽかと暖かな日差しを浴びてじっとしていれば言われずとも眠気はやってくるが、胡坐をかいて座った姿勢ではどうにも眠り辛い。
「……せめて、背中じゃなくて前に来いよ」
「嫌です」
「寝辛い」
「耐えろ」
「顔は見ねぇでやるから」
「…………」
もしやと予想したのは当たっていたらしい。少しだけ考えるような間の後、もぞりと背中の体温が離れる。それからトレードマークのようになっているフードを目深に被り俯いたジャミルがのそのそと這って回り込み、遠慮なしにレオナの足の上にのしかかり改めて抱き着き直すのに思わず吐息が笑いに揺れた。
「……悪かったな、今日に限って此処でサボってなくて」
揶揄うように言ってやってももう返事は無かった。ただ肩に埋められた頭が小さく左右に振られるだけ。
随分と不器用なやり方ではあるが、素直にレオナを頼れるようになった点については褒めてやりたい。それとも此処までジャミルを躾けられた自分を褒めてやるべきだろうか。
しっかりとジャミルの身体を腕で抱えてごろりと仰向けに横になる。それなりに重いが暖かな抱き枕を抱えて横になれば眠気はすぐにやってくる。
数分後、身体の上から退いた重みにぼんやりと瞼を開けると、いつも通りの冷ややかな笑みを浮かべたジャミルが「それじゃあ先輩、サボり過ぎて留年しないでくださいね」としゃあしゃあと言ってのけて去る所だった。

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