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空箱

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ごっこ遊び2

「レオナ、お腹空いた」
「それならラギーを呼びましょう」
「えー……レオナの手料理が食べたい」
「わたくしは料理を不得手としておりますゆえ、専任の者を呼ぶ方が賢明かと」
「茹でただけの卵とかでいいからレオナが作った物が食べたい」
「………左様ですか、それでは少々お待ちくださいませ」
言葉ばかりは丁寧な物の、ハァと溜息を吐き面倒臭い様子を隠しもせず、のっそりとベッドから立ち上がったレオナがガリガリと頭を掻きながら冷蔵庫へと向かう。枕にしていたレオナの身体が無くなってしまい居心地が悪い。もぞもぞとシーツの上を泳いで先程までレオナが頭を乗せていた枕を奪い取り、ついでに近くにあったふかふかのクッションを腕の中に抱き込んで一息。読んでいた本はとうにしおりを挟んで枕元に投げ出した。今は本の続きよりもレオナが何をするのかの方が楽しみだった。
冷蔵庫を開けたレオナは腰に手を当てたまましばらく考え込んでいた。この部屋の冷蔵庫に調理できるような物があるとはジャミルとて思っていない。きっと中に入っているのは大量の飲料水と少しの酒、運が良ければ購買で買えるおやつや、ラギーが夜食を作った残りの食材を多少保管している事もあるが、そもそも食材を蓄えておくという概念が無いのだ、この王子様は。それでも冷蔵庫が備え付けられているのは「いつでも冷たい水が飲みたい」という王族の我儘に過ぎない。
結局何も思いつかなかったらしい冷蔵庫はばたんと無造作に閉められ、次に向かったのはクローゼット。何故そんな所にと思いながらも様子を伺っていれば、開けた扉の向こうでがさごそと漁る音がし、そして取り出されるのは未開封のビーフジャーキーの袋。
「……それ、何年ものですか」
思わずぽつりと零れた声を、レオナは正確に拾い上げたようだった。
「前回のホリデーに持ち帰った物ですから、数か月と言った所ですね。保存食なのですから問題ないでしょう。あと敬語が出てますよご主人様」
言われて咄嗟に片手で口元を押さえればレオナは肩を揺らしてひっそりと笑っていた。ごほん、とわざとらしく咳払いして誤魔化す。
「……で?俺はレオナが調理したものが食べたいって言ったんだが?」
袋から出して齧るだけのビーフジャーキーでは不服だとわざとらしく目を細めてレオナを睨んでやるが、当の本人は白く平たい皿の上にビーフジャーキーをそっと一枚乗せている所だった。ジャミルの掌程もありそうな大きさのビーフジャーキーが一枚乗っただけの皿を片手にベッドの傍まで戻って来たレオナが薄っすらと口角を上げて笑う。
「こちらに御座いますのはわたくしめが数カ月もの時間をかけてじっくり熟成させた手作りのビーフジャーキーです」
「物は言い様だな」
「ご主人様の為に真心こめて熟成させました」
余りにも堂々とした物言いに思わず吹き出す。従者、というには威圧感があるが、流石に言葉遊びには長けているらしい。嫌われ者の第二王子と言えど、それなりの教育は受けているのだと窺い知れる。
「そして最後にもう一手間。美味しくなる魔法でございます」
そう言ってサイドボードに投げ出されていたマジカルペンを手に取ったレオナが、片手に乗せたままの皿の上でペンを一振りするとふわりと巻き上がる炎。白い皿の上から瞬間的に燃え上がった炎はじりりとジャーキーの表面を焦がし、良い肉の香りをさせた所で音も無く消えた。
「ビーフジャーキーのローストでございます」
恭しく腰を折り曲げながら焦げ目のついたビーフジャーキーが差し出されて、ジャミルは耐え切れずに声を上げて笑った。

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