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空箱

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休日(ラブホ編)

ついこの間まで半袖一枚でも暑さに溶けそうになっていたというのに、もうコートを着て居ても寒さが染みて来るような11月。
明日は久々に二人の休日が被るからと、何か希望はあるかと木吉に聞いてみれば
「たまには日向と一緒に風呂入りたい」
という、なんとも下らなくて些細な希望が帰ってきた。
それに一々恥じらったり突っ撥ねたりするような時代は随分と前に通り過ぎてしまった。
相変わらず休みが被る事が少ない二人は一緒に暮らして居ても余り同じ時間をゆっくり過ごす機会が無い。
確かに辛うじて身体を繋げたりはしているが、日向にだってそれだけでは物足りない部分もある。
「なら、久々にラブホでも行くか」



一番忙しい時期よりはマシとは言え、残業を終えてどうにか仕事場を後にしながら携帯を確認すれば時間は既に21時前。木吉は既に一度家に戻り、泊る為の荷物を持って日向の仕事が終わるのを何処かで待っている筈だ。
外の寒さに肩を竦めながら木吉へと連絡をしようと携帯へ視線を落とした日向の頭上に落ちる影。
「順平、お疲れ」
それなりに高身長に部類される日向に影を作れる相手なぞ限られている訳で。
予想通りの木吉のへらりと気の抜けた笑みとは逆に日向の眉間に皺が刻まれる。
「お前、ずっと外で待ってたのかよ」
「いや、楽しみ過ぎて待ってられなくてだな」
はは、と笑う木吉の頬を無造作に摘んでやれば予想通りにひやりと冷たい。
益々皺を深くした日向はガキか、と軽く木吉の脛に蹴りを入れながら歩き出す。
わざわざ寒い場所で待っていた木吉を心配する言葉なんて今更必要とするような間柄でも無い。
「あれ、順平、飯まだなんじゃないのか?」
「そんなもん、ホテルででも食えるだろ」
とっとと行くぞ、と足早にホテルへと向かう日向の後をついてくる木吉の顔はきっと嬉しそうに緩んでるに決まってる。
見なくてもそれくらい分かるくらいに日向と木吉の関係は長く続いている。


此処暫く来ていなかったとはいえすっかり馴染みとなったホテルに入る。
大学生になってからは日向が一人暮らしをしていたので場所に困らない二人がそれでもホテルに来るようになったきっかけはやはり「二人で風呂に入りたい」という木吉の一言があったからだった。
風呂とトイレが別だったとはいえ、安アパートの風呂に平均身長をはるかに上回る二人が一緒に入れるような広さ等無い。そもそも、そんな広い風呂等、よっぽど家賃の高いマンションや、元の風呂をリフォームする以外に無いだろうと諦めかけていたのだが。
たまたま、友人が休日に朝から彼女と二人でラブホテルに赴き、夕方くらいまでのんびりといちゃついて過ごす事があるという話を聞いた。
風呂も大きいし、映画やゲームも出来るし、食事や飲み物だってホテルの中で注文出来ると言う。
ラブホテルと言うと、その名前からしてそういった事だけを目的にしているようでなんとなく遠ざけて居たのだが、友人の話を聞く限りではそうでもないらしい、と判断した日向は試しに一度、木吉と二人でラブホテルに行ってみた。
行ってみたら、思いのほか二人ともハマってしまったのだ。男同士でも入れる場所はネットで簡単に調べられるし、ホテルもその辺のビジネスホテルと余り変わらないような小ざっぱりとした部屋で、変に卑猥な訳でも無い。
それどころか風呂は広いしベッドも広い、平日のフリータイムならば値段も安いし、何より色んな趣向を凝らした部屋があって、非日常感がある。
以来、ただ二人でまったりしたい時には度々ラブホテルを利用するようになった。
大学を卒業し、社会人となった後も、二人が同居を始めた後もそれは続いて居たのだが此処の所は休みが被らない事が多かったのでホテルに来る事自体が久々だ。
変に新しいホテルを探すのでは無く、行き慣れたいつものホテルは帰ってきたかのような妙な安心感がある。部屋に入るなり荷物を置いてさっさと風呂に湯を溜めに行く木吉を見送り日向は広いベッドの上に身を投げ出した。
程良いクッションが心地よく疲れ切った身体を受け止めてくれる。
「順ー、すぐお湯溜まるけどその間に何か食っとくか?」
「いやいい。どうせ鉄平も何も食ってねーんだろ、風呂出てから食べようぜ」
お湯が落ちる音が響き始めた中、仄かに薫る甘い香りは入浴剤か何かを入れたのだろうか。
バスルームを見れば透明なガラスの向こうで木吉は早くも服を脱いでは外へと放り出している所で、視線に気付いた木吉が順も早く、と手招くのに思わず喉奥で笑った。
楽しみにするにも程があるだろう。
遠足が待ちきれないガキか。
そう言ってやりたいが、そんな木吉を愛しいと思ってしまうのも事実で。少しだけ軽くなった身体を起こすと日向もバスルームへと向かった。



細かな泡が絶え間なく湧きだす湯の中に大の男二人が重なるようにして浸かれる此処の風呂はやはり良い。
流石に足を延ばす事は出来ないが、膝が少し水面から出てしまうくらいで寒い思いもしない。
「あー……癒される……」
冷えた身体に染み込むお湯の熱さがたまらない。
離れて座ってみようかとも思ったのだが湯に入るなり木吉に手を囚われてしまったので日向は木吉に後ろから抱き付かれながら足の間に座っているような状況だ。
眼鏡が一気に曇って視界が真っ白に染まるが暫くもすれば治るだろうと日向は瞼を閉じて心地よさに浸った。
背凭れになった木吉の身体も暖かくてうっかりするとこのまま寝てしまいそうだ。
「眠かったら寝てもいいぞ」
「んー…」
こめかみに触れる唇が、頬を撫でる指先が気持ち良い。
だがこのまま寝てしまうのは何だか勿体ない、と、木吉に言ってやる気は無いが。
「今寝たら多分、朝まで起きないぞ、俺」
「それは流石に困るかなあ」
すぐ耳元で笑う木吉の吐息がくすぐったくて顎を上げると穏やかな眼差しとぶつかった。
すっかり木吉の肩に頭を預けた状態のまま、知らず、近づいた唇が重なる。
一度、二度、柔らかく啄むだけの口付の後にぬるりと滑り込んだがゆったりと咥内を撫でる穏やかな快感。
心の内側まで温めるような触れ合いに、不意に抱き締めてやりたくなって木吉の腕の中で向きを変えると腿の上へと乗り上がるようにして向かい合う。先程よりも低い位置に何処か期待したような眼差しが日向を見上げて居て思わず口の端が緩んだ。
「だらしねー顔」
「今、すごく幸せだからな」
へら、と笑ったその顔を罵りながらも愛しさは隠しきれずに額に、鼻先にと口付を落として行くと、強引な手に後頭部を捕らえて再び唇を重ねる事となった。
「ん、…っふ、…」
先程よりも何かを求めるような舌先が日向のそれと絡まる。
すっかり曇りが消えて透明に戻った眼鏡の向こうには弧を描いた木吉の眼がじっと日向を見つめて居て体温が少し上がった気がした。
負けじと木吉の頭を両腕でがっちりと抱き締めて舌を差し出すと木吉の笑みが一層深くなる。
味覚を感じる為の感覚器な筈なのにこうして擦り合わせるとなぜこんなにも気持ち良いのだろう。唾液の滑りを帯びた粘膜の摩擦は確かに、性的なアレを思い出すのも事実なのだが。
唇を離す頃にはうっすらと思考にもやが掛かったような、温度の低い快感が身を包む。
それと同時に少しばかり不穏な手付きで日向の背筋を辿る掌にぞわりと熱が形になってしまいそうで慌てて木吉から身を離す。
「おい、シねぇぞ。こちとら腹減ってんだ」
「俺だって減ってるよ。…けど、なあ?」
「なぁ?じゃねーよ、ローションだって無ェだろ」
「どうにかなるだろ」
「どうにか、って、…ッおい、」
背から滑り下りた木吉の大きな掌がすっかりと筋肉が落ちてしまった尻の肉を掴んでやわやわと揉みこむとそれだけで日向の食欲が遠のいてしまう気がする。
不埒な指先が肉を揉みながらもまだ固い孔の縁を擽るように撫でて行けば尚更。今なら強引に湯からあがってしまう事も出来るのに、そうする所まで辿りつけないのは日向にも食欲では無い飢えが徐々に思い出されてしまったからで。
むに、と割り開かれた尻の肉の合間に当たるジャグジーの泡が何とも言えないもどかしさすら覚える。
「それにほら、俺もう勃ってきちまったし」
そう言って泡の合間に袋の裏から孔までの間に擦りつけられた物は確かに柔らかさを残している物の熱を蓄え始めて居てじわりと目尻に熱が上る。
なあ、と。
それ以上言葉にせず、強請るように首筋に、鎖骨に、胸元にと触れる唇は熱い。
肌の上を彷徨う唇が戯れに乳首を啄んで思わず日向の肩が揺れた。
「――……は、また前みたいに茹だってその後潰れんのはゴメンだからな」
「善処するよ」
溜息一つ、妥協してやったのだと言わんばかりに吐き出しても帰って来るのは勢いよく振られる尻尾が見えそうなくらいの笑顔で、日向は心の中でもう一つため息を吐きだした。
結局、日向とて木吉に惚れているのだ。
簡単に木吉に欲情してしまうし、こんな状況で強請られたら否と言えない。
まだ腹の底に残る純粋な空腹感に蓋をして日向は自ら木吉に唇を寄せた。



幾ら慣れているとは言え、碌な潤滑剤無しに木吉の人並み外れたペニスを飲み込むのには相当な時間と忍耐が必要だった。
少しでも楽になるように、と足元は湯に漬かったまま壁へと手を尽き、膝立ちで背後から受け入れても木吉の大きさが変わる訳では無い。
なんとか全てを日向の中へと納めた頃にはすっかり二人とも真夏の炎天下で運動したかのような汗塗れだった。
「入った、か……?」
「ん、全部入った…けど、ちょっと休憩しような」
荒い呼吸を吐き出す日向を労うように耳朶や項に触れる唇は優しい。
けれど足の間を貫く熱は確かな存在感で日向の中で脈打っていて、思わず確かめるように下腹部を撫でると薄くなった腹筋の下に木吉の形がうっすらと分かるような気がした。
「は、…こんなトコで盛んなきゃもっと楽に気持ち良くなれたっつーのに…」
「でも、好きだろ?こういうのも」
肩にやんわりと歯を立てられて日向の身が竦む。
下腹部を擦る手のうえに木吉の大きな掌が重ねられてぐ、と強く撫でられるとより一層その存在感が増したような気がする。
ぴったりと背に張り付いた木吉の身体が離れて、改めて腰を掴まれると期待に日向の身体が震える。
「動くよ」
宣言通りにゆっくりと引き抜かれると引き攣れた粘膜が一緒に引き摺られるようで内臓ごと持って行かれそうな錯覚に陥るが、そんな不快感は最初のうちだけだ。
抜けそうな程引き抜いてから、再び奥まで埋める動作を幾度か繰り返して行くと次第に木吉の形に馴染んだ其処は不快感よりも快感を呼ぶ為の性器へと変わる。
圧迫感よりも無遠慮な熱が容赦なく内側から性感帯を抉り、生みだすモノは電流のような刺激だ。
びりびりと背筋を駆け抜けるそれが生まれる頃にはすっかりと滑らかになった動きで木吉が奥深くまでを幾度も強く突き上げて日向はただ壁に爪を立てる事しか出来なくなってしまう。
「っは、…っぁ、…っ、…」
湿気の所為か、熱の所為か苦しくて閉じられない唇からは荒い呼気と飲み込む事が出来ない唾液が落ちるのを分かっていても日向にはどうする事も出来ない。木吉が動くたびに背に降ってくる汗が少しだけ冷たくて、けれどそれだけ背後の木吉も興奮しているのだと思うと冷静になどなっていられない。
汗で滑る肌を離すまいとがっちりと掴まれた腰は痛いくらいの強さで、見えない木吉の感情が籠っているようで煽られる。
「て、っぺぇ、…ッ…」
少しでもその興奮を伝えたくて腰を掴んだ掌の上に手を重ねる。
バスケに励んでいた頃よりも骨っぽくなった木吉の掌を抑えつけるようにして強く掴めばごくりと、背後で唾液を飲む音がした。
「順平…ッ、」
益々早くなる動きに次第に余計な事が考えられなくなって、日向の中を思う様突き上げる熱に縋る事だけで頭が一杯になってゆく。
殆ど触れられていないのに日向のペニスもとろりと先走りを湯の中に垂れさせながら揺さぶられるがままに揺れるばかりで溜めこんだ熱を吐き出すのを待ち構えているだけだ。
「――ッッッ、…」
ずん、と一層強く突き上げられた時、中に溢れる熱を感じながら日向も声にならない嬌声を上げながら湯の中に白濁を吐きだした。



茹だる程では無いが、一戦交えた疲労感と身体に残る熱はいかんともしがたい。
あの後頭や身体を洗ったりとなんだかんだしているうちにすっかりと戻ってきた食欲を満たすべく、ビールを片手に夕飯代りのデリバリーを二人で突く。
「やっぱ、風呂でヤるのは止めようぜ…なんかすげー眠いっつーか疲れる」
「えー?俺は風呂でするのも結構好きなんだけどな」
「熱いし滑るし碌なモンじゃねぇ気がすんだけど」
「風呂の中だといつもより順平の肌が赤くなってて凄く卑猥なんだよ」
ぶふぉ、と思わず咳込む日向を前に木吉はただにこにこと爽やかな笑顔を浮かべているが、その内容は余り褒められたモノでは無い。
「それに、湯当りするとくたぁってなるのが、またなんというか」
「うん、これから風呂でするの禁止な」
へらぁ、と幸せそうな顔の木吉だが、湯当りを起こしているという事は日向が気持ち悪くなっているのを分かった上で言っているのだろうか。
毎度そんな状態になるまで盛られてはたまらないととりあえず釘を差す。
「じゃあ、次する時はお湯の温度を下げよう」
そうか、そうすればいいのか、と一瞬納得しかけて、けれど言った傍から言葉を翻すのもなんとなく癪なので聞き流す事にする。
何本目かのビールの缶を一気に煽って空にすれば程良い酔いが事後の倦怠感と相まってこのままベッドに倒れたら本当に寝れそうだ。
けれどせっかくの休日、せっかくのホテル。どうせならもう少し木吉と接触したいという思いもある。
決して口には出さないが。
「なあ順平、そろそろこっち来いよ」
言わずとも獣の勘なのか、それとも長年の付き合いで学んだタイミングなのか。
同じく空になったビールの缶をテーブルへと置いた木吉がベッドに移動して両手を広げて待ち構えるのに日向の頬が満足げに緩んだ。
ん、と曖昧な返事を返しながら腕の中へと倒れ込んでそのまま木吉ごとベッドに沈み込む。
お互い、備え付けのローブを着ただけの格好は程良く火照った熱をすぐに染み込ませる。
「暖まって、腹一杯んなって、酒も入ったら眠くなってきた…」
「風呂の中でも言ってたな。一時間くらい仮眠したらどうだ?」
緩やかに木吉の腕に抱きしめられながら頭を撫でられると、益々眠気が強くなってきて思わず大きな欠伸が零れ落ちる。まだ日付が変わる前で、少しくらい仮眠しても時間はまだまだある。
どうせチェックアウトは昼前なのだ、焦る事は無いだろう。
「それじゃあ、少しだけ寝る。30分経ったら起こしてくれ」
「わかった」
そっと木吉が身体の位置を入れ替えると日向が木吉を見上げる形になる。
既に重くなり始めた瞼を瞬かせながら日向は一度、木吉の頭を引き寄せると触れるだけのキスを残してすぐに眠りの中へと落ちて行った。
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再び眼を覚ました時、木吉は日向の横に身体を横たえたまま大きなモニターに映し出されたAVを眺めている所だった。
起こせ、と言った筈なのだが、時計を確認して見れば一時間以上経っていて日向は眉を潜める。
「30分経ったら起こせっつったよな…」
「ん?…ああ、起きたのか。おはよう順平」
少しばかりの怒りを滲ませたくらいでは木吉は揺るがない。
それどころか抱き締められて口の端にキスまでされて怒っている方が馬鹿らしくなってくる。
まあいいかと日向は溜息一つで諦める事にした。
「つーか…何見てんだ」
「そういえば余りAVって見た事無かったなあ、と思って」
モニターの中で高い声を上げて喘いでいる女優は柔らかそうな乳房を揺らして男優に思うがまま揺さぶられていて、高校生くらいの時ならば間違い無くオカズとして有り難く利用させて頂くような美人なのだが。確かに日向も木吉と付き合ってからAVのような明確なオカズを使用した事は余り無い。
「そういえば鉄って一人でヌく時どうしてるんだ?」
「え?…基本的には日向を思い浮かべたりしてるけど」
少し予測はしていたが、実際に言われるとなんとなく居た堪れない。
だが少し嬉しいと思う気持ちもある。
勿論顔には微塵たりとも出したりしないが。
「順も似たような物だろ…あ、そうだ、アレ持って来たんだ」
不意に閃いたような木吉がベッドから起き上がって鞄の元へと向かう。
ぼんやりとそれを眺めていた日向は、だが帰ってきた木吉が手にしていた物にがばりと跳ね起きた。
「おま、おまっ何でソレ…!!」
「いやあ、この前部屋の片づけしてたらうっかり見つけちまって」
へら、と笑う木吉が差し出すそれは形状はただの男性器を模したディルドなのだが底に吸盤が付いていて床や壁に貼りつける事が出来るタイプの物だ。
時折、木吉が居ない時にこっそりお世話になっていたりするのだが木吉にその事実を伝えた事は無い。
むしろ墓まで隠し持って行きたい事実だったというのに。
「最初はローションの減りが早いなあ、って思ってたんだ。前に使った後よりも随分減ってる事が多いな、と。俺は一人でする時使わないし、そうしたら日向が使ってるのかな、と思ってちょっと家探ししてみたら」
「お前それうっかり見つけたんじゃなくて確信犯じゃねぇか!!」
思わず全力で木吉の頭を叩いてしまったが、日々部活に励んでいた時よりも随分と威力は衰えて居た。むしろ叩いた掌が痛い。
「だって、見たいじゃないか。日向がコレ使って一人でシてるトコ」
殴られてもなんのその、きらきらと輝かんばかりの笑顔に見えるのは惚れているからなのか、いやこれに惚れていると余り思いたくない。
なあ、と。
ベッドに乗り上げた木吉がそっと日向の手にディルドを握らせる。
その強請るような声は日向にとって余りに分が悪い。
「これ、使ってるトコ見せてくれよ」
耳元を擽る低音にぞわりと背筋が粟立ってしまうのを日向は舌打ち一つで受け入れた。



一人だけ見せ物にされるのは嫌だと言えば、あっさりと木吉は日向をオカズにして一人でして見せるから、と返されてしまってはもう文句のつけようも無い。ベッドの上に木吉が、眼の前の床に日向が腰を下ろして向かい合う姿は中々に間が抜けていると思うが黙ってフローリングの上に吸盤を押しつける。
正直、木吉が日向に興奮している姿を見るのは好きだ。
いつもへらへらと笑っているだけの瞳が熱に潤み、真っ直ぐに日向を射る瞬間がたまらない。
思い出すだけでもちりちりと下腹部に生まれそうになった熱を吐息で逃してディルドの上へとローションを垂らして濡らして行く。
少したっぷり目に使うくらいがちょうどいい。
確認するように掌を使って温度の無い玩具にローションを塗しながらちらりと木吉を見やると食い入るように見つめる眼差しが日向を見ていた。
「お前、見過ぎ」
「だから、見たいんだって。気にせず続けてくれ」
「いや気になるだろうがよ。…っつーかお前もぼさっとしてんなとっとと俺のオカズになりやがれ」
言われて初めて意識したのだろうか、木吉の眼に熱が宿るのを確認してからそっと足の合間へとローションを纏った指を運ぶ。
ひと眠りしたとはいえ、つい先程まで木吉を受け入れていた其処は滑りを借りてあっさりと日向の指を飲み込む。
一応、中にもローションを塗り広げるように一度指でぐるりと掻き混ぜた後、膝立ちになってディルドの上へと腰を落として行くと纏わりついた粘液がくぷぷと小さな音を立てた。
眼の前では漸くやる気を出したのか、あぐらを掻いてローブの裾を乱した木吉がまだ柔らかな性器を掌でゆっくりと撫でている所だった。
「なんだかいつも想像でしかなかったのに、眼の前に居るって不思議な感覚だな」
言葉はいつものような雑談じみているが、その奥にちらつく木吉の情が押し殺したような低音となって心地よい。
ゆっくりと床に尻が付くまで腰を落として日向は細く息を吐きだした。
まだ身を焦がすような熱は遠い。
けれど既に下腹部には小さな種火が生まれつつある。
床に手をついてゆっくりと腰を前後に動かせば木吉程の強さは無くてもじんわりとした気持ちよさが身体の芯を伝わって行く。
風が吹けば消えてしまいそうな種火を温めるように瞼を伏せてまだ冷たさを感じる玩具が生み出す感覚を追いかけると動く度にぐぷぬぷと音を立てるローションが鼓膜を震わせた。
「順平、見えないから裾、避けてくれ」
言われるがままに床に落ちて全てを隠していたローブの裾をまくり上げて背へと退ければ熱を持ち勃ちあがりかけた其処が丸見えだ。
強く、見つめる木吉の視線を感じてざわざわと肌がざわめく。
滲むように身体の奥から熱が溢れて指先にまで滲むのを感じた。
「は、何、お前もうそんなんなってんの?」
うっすらと眼を開けば眼の前には既に固く反り返った木吉が眼に入り思わず鼻で笑う。
けれど自分の姿でそうなっているのかと思うと玩具を咥え込んだ其処がきゅ、と意識の外で収縮する。
仕方ないだろ、と口元だけで笑って見せる木吉が視線を落とす、その恥じらいとも言えない仕草がまたなんとも言えずに日向を煽る。じんわりと汗が滲む体温に浅く息を吐き出してから、日向は膝立ちだった姿勢から体育座りのようにして足を開くという見せつけるような姿勢へと変えた。
えろ、と木吉が唾を飲み込んで呟くのが心地よい。
腰を突き出すようにゆるゆると前後に身体を動かせば玩具を咥え込んで広がった孔が木吉にも丸見えになっている筈で、羞恥心が無いわけでは無いのだがそれもまたスパイスとなる。
「順平、いつもそんな格好でしてんの…」
「まあ、な。こうすると、此処、すげー擦られて気持ちいい」
此処、と下腹部の上を掌で撫でて見せる。
木吉程の大きさが無いそれは存在が分かる程では無いが木吉にはそれだけでも十分な刺激になったようだ。
押し殺したような呼吸が荒い。無意識なのだろうか、木吉の少し早くなった手が竿を擦りあげながら時折親指で薄い先端の皮膚を撫でているのを見ていると、まるで自分がそうされた時の事を思い出してふるりと腹の上で性器が震えた。
互いに向かい合っているだけで一度も触れていないというのに、ただ眼の前に居るというだけで身体の奥が疼く。
燃えるような飢えを宿した眼が貫くように真っ直ぐ日向を射るだけで焦げてしまいそうだ。
眼の前で先走りを溢れさせた木吉の性器がとてつもなく美味しそうな物に見えて、けれど触れる事は躊躇われるこの距離感。
もしかしたら日向も木吉と同じような眼で木吉を見つめているのかもしれない。
「順、俺、もうそろそろヤバい…ッ」
「…ッん、…俺も…っ」
ぬちぐちとお互いの生み出す水音すら熱を煽る材料となって、その合間に零れる吐息が熱い。
食い入るように互いを見つめるまま快感を追いかけて自然と腰を引いては突き出す速度が速くなる。
自分の思うまま、良い場所だけを選んで押し付け続ければやがて小波だった快感が大きな波となって全身が戦慄く。
眼の前では木吉も奥歯を噛み締めるようにして快感を追いかけて居て、日向は耐える事無く大きな荒波に促されるままに込み上げた物を吐きだした。

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