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空箱

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その、かたち

ホリデーで帰省した日の夜には必ず兄が部屋にやってくる。久方ぶりに会う兄弟の絆を深める為という名目で酒とつまみと共に兄はやってくるが、それを夜のうちに消費したことは一度も無い。
過去にはこの夜が煩わしくて逃げたこともあったが、真夜中に城の衛兵総出で捜索された挙げ句、捕まった後はホリデーが終わるまで自室に軟禁され散々好き放題されたので、この夜だけは大人しく兄に身を明け渡すことにしている。
ただシーツに身を沈めていれば、この国を統べる王自らがレオナに傅き、あらぬ場所を舐め、勝手に熱を灯して発散させてくれるのだと割り切ってしまえば学校の退屈な授業とさほど変わらなかった。
拒絶さえしなければ、兄の手は優しい。そのしつこさには辟易させられるが、夜を耐えれば朝が来る。
過剰な程に柔らかく緩められた場所にようやく熱い塊が押し込まれ、レオナは細く息を吐いた。精を吐き出すこと無く何度か達した身体はぼんやりと熱い。焦れったいほどゆっくりと腹の内側を侵食する熱とは違い、覆い被さる兄からぽたぽたと垂れ落ちる汗が冷たかった。
違和感に気付いたのは、二人の身体が完全に重なった時だった。今までならばまるで対であったかのようにぴったりと腹の内に収まっていた筈の熱が、うまく嵌まらない。空いた穴の形に寄り添わず、こんなにも奥深くまで満たされているのにすきま風が吹いているような心許なさ。
レオナはさほど気にはしなかった。違和感なんて、きっと兄が動き始めれば消えてしまうか、気にする余裕も無くなるだろうから。
だが兄は、普段ならば血の繋がった弟相手に不要な睦言を囁く唇を笑みの形にしながらもひたりとレオナを見下ろしていた。
「レオナ。……誰に此処を許したんだい?」
「……は?」
息を飲みそうになり、辛うじて不機嫌な声に変えて吐き出す。そんなことを言われるとは思ってもみなかった。それは兄が勘違いしているからではない。まさかそんなことでバレると思っていなかったからだ。
「……私はお前に男漁りさせる為に入学を許したわけではないのだがね」
「誰がンなことするかよ!」
「だが、許したのだろう?此処を」
冤罪だと叫ぶには余りにも兄は確信的だった。押し退けようとするレオナの両手を捕らえてシーツに縫い付け、身動ぎすら許さぬように一回りも二回りも大きな身体にのし掛かられてはレオナになす術はない。
「もう一度、ちゃんと躾なくてはね」
にこりと。夜にそぐわぬ顔で兄が笑う。長年、兄に調教された身体が教わった通りにすくんでしまっても、腹の中にはすきま風が吹いていた。

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