初めて見たのは、叔父がまだ学生であった頃、長期休暇で王宮に帰って来た時の事。
食後の昼寝から目覚めた時、まだ外は明るく心地良い風が吹いていた。その日は叔父と遊ぶ約束をしていなかったけれど、チェカが叔父を見つけられれば二回に一回くらいは遊んでくれるから、探しに行こうと思ったのだ。
真っ先に尋ねた叔父の部屋は、誰も居ない空っぽだった。
その次に良く叔父が昼寝をしている庭園の東屋にもいなかった。
中庭にも居ない、食堂にもいない、図書室にもいない、チェカの部屋にも、母の部屋にも当然いない。
こうなったら最終手段、父に聞いてみようと思った。父はチェカの味方だから、いつだって可能な限りはチェカに叔父の居場所を教えてくれた。
父の執務室の前に立つ警備の人に扉を開けてもらい、中へと足を踏み入れる。背後でぱたりと扉が閉まる音を聞きながらぐるりと見渡したが父の姿は無かった。それならば、休憩の為に奥の部屋にいるのだろうと部屋の中にある扉に近付いて少し高い場所にある取っ手を掴み、体重をかけて押し開ける。音もなく開く重厚な扉は、少々チェカの手では開けるのが大変だった。
「――ッっぁあ、」
薄く開いた隙間から悲鳴が聞こえて思わず手を止める。緊急事態、にしては間延びした、でも耳に媚びりつくようなか細い声。純粋に、何が起きているのだろうと疑問に思ってそっと隙間を覗き込んで様子を伺う。
「あ、っあぅ、んん、……ッ」
大きなソファの上に、父が四つん這いのような姿勢で伏せていた。チェカと同じ色の豊かな髪の下から垣間見える黒い、髪。父の髪に隠れてしまって、その顔はわからない。けれど、この王宮に黒く波打つ髪を持つ人は、一人しかいない。
「んん……ッん、んぅ……」
ぬち、くちゅ、と濡れた音。息苦しそうな声。緩やかに前後に動く父は、裸の足を抱えていた。チェカよりも濃い色をした肌の足が、父が動くのに合わせてぶらぶらと力なく揺れていた。
何故だかはわからないけれど、虐められていると思った。もしかしたら何か「おいた」をして父に怒られているのかもしれない。止めて上げて欲しいと父にお願いしに行きたいのに、足が竦んでしまって動かない。
「んぁ、……っあ、兄貴、……ッ」
はあはあと荒い呼吸が聞こえる。父の髪の合間から伸びた裸の腕が、夕焼け色の頭をそっと抱き抱えていた。そうしてまた濡れた音が響く。チェカはただ立っているだけなのに、なんだか身体がとても熱かった。苦しそうな吐息を聞いてるだけでチェカまで息が詰まって来る。
「――ッっぁあああ」
父が組み敷いた身体を抱えるようにして身を起こすと、露わになった背中が撓る。上がる悲鳴は辛そうなのに、ドキドキと心臓が暴れていた。父の首に縋りついく背中が嫌がっているようには見えなかったからかもしれない。そのまま、視線を下へと滑らせれば汗に濡れた褐色の尻に、何かが刺さっていた。太くて、赤くて、てらてらとぬめりを帯びた物。それが二人が身体を揺さぶる度に姿を見せてはまた尻の奥に埋まってゆく。
「あ、あぁ、あ、あ」
奥深くまでそれが埋まる度に子猫が鳴くようなか細い声が上がる。その時、二人の行為の意味はわからないものの、これはチェカが見てはいけない物だと初めて気付いた。父と、叔父の、秘め事。二人だけでずるいとか、そんな感情は一切浮かんで来なかった。二人に見つからないうちに逃げなきゃ、と思うのに眼が離せなくて、なんだか身体が熱くて、なんだか泣きそうだった。
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