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空箱

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休日(夜明け前)

不意に、目が覚めた。
妙にすっきりと覚醒した意識は再び眠りの中に戻るような気配も無い。
窓の外は日の出を目前に明るくなって来た頃合いで、せっかくの休日にこんな早起きしなくてもと思いもするが睡魔から追い出されてしまえば仕方ない、日向は静かに身を起こした。


九月に入ったとは言え、涼しくなる気配はまだ無い。
すっかりぬるまった室温に、流れる程の汗が肌を包んでいて気持ちが悪い。
さてまずはシャワーでも浴びるか、それとも何か家事の一つでも片付けるかと思案しながら隣を見下ろせば大の字になって眠る木吉の姿があった。
昨夜、日向がベッドに入った時に木吉はまだ家に帰ってすら居なかったが、ベッドサイドに点々と脱ぎ捨てられたシャツやスーツを見るに、必死の思いでなんとか仕事を終わらせて帰って来たものの、力尽きてベッドに倒れ込むのがやっとだったといった所だろうか。
日向も木吉も、社会人になってもう何年も経った。
ただ自分の仕事をこなせばよかった新人時代とは違い、部下を抱え仕事を与える立場になりつつある。
働き盛りと呼ばれるような歳ももうすぐそこだ。
お互い、休みをのんびり過ごせる日が少なくなってきているのは確かで、久しぶりに日向が全く予定の無い休みになった今日、木吉も休みを満喫すべく深夜遅くまで仕事を片付けたのだろう事が簡単に想像出来て心がほんのりと暖かくなる。
深い睡眠の中に居るのか、ぴくりとも動く事無く眠る木吉の無精髭が生え始めた頬を撫でてそっと口の端に唇を落とす。
こんなにも穏やかに木吉を愛しいと思えるくらいには、日向も歳をとった。


どうせまだ太陽すら姿を見せて居ない時間だから木吉はそのまま寝かせておくことにして、とベッドから降りようとした日向の視界にふと映った木吉の股間。
男であるなら誰しも経験した事のあるハーフパンツを中から持ち上げる存在に少し、興味が惹かれた。
溜まっているのも事実だし、ほんの少しの悪戯心が過ぎったというのもある。
特に明確な理由は思いつかないまま今まで以上に静かに音を潜めて木吉の足の合間へと移動すると、そっとハーフパンツに手を掛け、下着ごとゆっくりと引きずりおろす。
徐々に姿を現す性器は見慣れているとは言え、でかい。
むあ、と汗臭さというか、何とも言えない雄の香りがして日向は思わず唾を飲み込む。
まだ周りに柔らかさを残す竿の部分に手を添えて先端に口づけを落とせばぴくりと震えて反応するのが嬉しくて、傘の張ったカリの下に、裏筋に、根元にとキスの雨を降らせて行く。じんわりと掌に伝わる熱が、日向の奥深くを強く突き上げて掻き乱す時の事を思い出して下肢が甘く疼いて震えた。


今でこそ、日向に馴染んだ木吉のそれだが、最初の頃はこのでかさが本気で憎かった。嫉妬とは別の意味で。
お付き合いを初めた頃はキスだけでドキドキして、けれど健全な男子高校生にはそれだけではすぐに足りなくなって触り合い、抜き合うようになるのはすぐだった。
そこまで行けば、次は挿れたい、となるのは自然の流れではあったがそこからが問題だった。
まず、木吉も日向も男だった。
端的に言えば、お互いがお互いを抱きたがった。
日向がもう少し体格が良ければ、なし崩しに木吉を押し倒していたかもしれない。
木吉がもう少し自分本位になれれば、体格に物を言わせて日向を押し倒していたかもしれない。
けれどそのどちらでも無い二人は先に進む決定打に欠いていた。
それに何より、木吉が中々に頑固だった。
日向としては、最初を木吉に譲ったとしても、その後で木吉を抱く機会がもらえるならば別にそれでもいいかな、と思い始めていたのに、木吉は頑なに「自分が抱かれるのはありえない」と、妥協案をすっぱりと切り捨てたのだ。
その有りえないという理由も、日向にしてみれば良く分からない理由で、其処で起きた大喧嘩は一番最初の別れの危機だった。
結局、木吉が泣きつき、土下座をしてまで謝り、頼み込み、とりあえずは日向が受け入れる側になると決めたのだが。
次の問題はサイズだった。
日本の平均サイズなんて物をはるかに超える木吉のそれは、一朝一夕で受け入れられるような物では無かった。
慣らそうとしても掌の大きい木吉は指も太い。
一本ならすんなり受け入れられるのだが、二本目になると途端に入らない。
時間を掛けて慣らすにしても、まだ若い二人は「待て」が出来なかった。
つまり、最後まで辿りつくよりも先に今までもやっていたような手軽な手段ですっきりして終わってしまう事が多々あったという事で、中々挿入という段階まで行けなかったのだ。
募る苛々やら焦燥やら、それでも木吉が「抱かれたくない」という主張を変えない事など重なって起きた喧嘩は二度目の別れの危機と言っていい。
その喧嘩の最中に日向が思わず「ならお前のサイズが入るようになるまで他のヤツとヤって来てやらぁ!!」という、後になって思えば売り言葉に買い言葉が過ぎる台詞を言い放ってしまい、仲直りをしたというよりは木吉の凄まじい執着心を見せつけられてなんとなく元の鞘に収まってしまったという経緯を持つ。
周りからしてみれば馬鹿らしくとも本人たちにとっては重大な「最後までする」という目標は、結局、頑なな木吉に折れた日向が密かに自分で自分の孔を弄り、いざという時にすぐに解れるようにするという涙ぐましい努力をした末に、漸く二人は一つに繋がる事が出来た。
あの時の感動はバスケの試合に勝った時のような妙な達成感と、まだ取り除ききれなかった痛みと、それから身体から溢れて止まらない愛おしさが綯い交ぜになっていて今でも忘れられないでいる。


それからもう二桁くらいの月日が流れただろうか。
慣れとは恐ろしい物で、先端を唇に含んで舌を這わせてやればびくびくと跳ねるデカブツが可愛いなんて思えてしまうのだから凄い。
湿気を含んだ陰毛を指先でかき混ぜながら薄い皮膚に包まれた先っぽを丹念に舌の平で舐り、時折音を立てて吸いつけば低い溜息が聞こえて思わず木吉を見上げる、が、寝言のような物でまだ覚醒には至っていないらしい。
眼鏡が無くてぼやける視界で確証は無いがそっぽを向いた鼻先を見れば間違ってはいないだろう。
ちゅ、と音を立てて唇を離すと日向は一度静かにベッドから降りた。
サイドボードに置いた眼鏡を掛ければ随分と視界がクリアになると見下ろした視界の中で自分のハーフパンツも低い山を形成しているのに少しだけ笑う。
昔の事を思い出したからか、眼の前に美味しそうな木吉の性器があるからか、日向の身体も甘い熱を帯び始めている。
下の引き出しからローションを取り出してから何処か浮かれたような気分でベッドの上へと戻る。
半分脱がされたハーフパンツからひょこりと巨大な性器を勃起させて爆睡している木吉の姿は本来なら笑える姿の筈なのだが、今の日向にとっては興奮させる一因にしかならない。
再びむき出しの性器へとかぶりつきながら、ローションを指先に纏わりつかせて自分のハーフパンツの中へと潜り込ませると半勃ちの性器がぬるりと擦れて思わず息が漏れたが其処は無視して奥の窄まった場所へと。
確かめるように縁を撫でてから指を一本、何の抵抗も無く入るのを確認してから更に一本、中へと沈めて行く。
温い温度の粘膜が指の太さに押し広げられている抵抗感。特に二本分の関節が重なった所が奥に、手前にと動くたびに身体に熱が滲んで汗が一筋、背筋を伝い落ちぞわりと肌が粟立つ。
眼の前には眠る木吉、その寝ている人の下肢に顔を埋めて一人熱を高めている行為はなんとも変態臭くて、それがまた日向の身体に火をつける。
「ん、…っ…ふ、…んん…」
自然と含んだ先端から喉の、可能な限り奥深くまで木吉の性器を飲み込み唇で扱きたてる。徐々に唾液のお陰で滑りやすくなる性器の浮き出た血管の筋一つも漏らさず愛するように丁寧に、けれど熱に煽られるように。
どれだけ頑張っても飲み込みきれない根元の方は掌で包んで余す所なく撫でて、そうしながら少しずつ綻んだ後孔へと指を増やす。
三本、ぎっちりと咥え込んだ其処がローションを含んで立てる水音に紛れて時折木吉が唸る低い声が鼓膜から日向を揺さぶる。はやく、はやく。
焦る指先が思わず慣れ親しんだ場所を強く引っ掻いてしまいびくりと日向の肩が跳ねた。
全身を甘い衝撃が走り抜けて一気に股間に血が集まり膨張するような。
荒い息を吐きながら、咥え込んで居るのは自分の指なのに何かを強請るように腰を揺らしてしまうのは習慣というやつだろうか。
より深くまで飲み込めるようにと尻を持ち上げかけて、また小さく唸り声を上げながら頭の向きを変えた木吉に留められる。
少しずつ動き始めた木吉はもう少しもすれば起きる頃合いなのだろう、ぼりぼりと無造作に腹を掻く指先を眺めながらずるりと根元から強く吸いあげながら唇で性器を扱いて顔を上げた。すっかりと固く反り返る程に勃起した木吉のペニスが唾液に濡れててらてらと艶を魅せる様は率直に股間を刺激する光景だ。
は、と一度落ち着くように短く息を吐きだすと下肢に埋めていた指を引き抜いてから、思いきって下着ごとハーフパンツを脱ぎ去るとローションに濡れた場所がひんやりと風に冷えてひくつく。
唇を舐めて飢えに急かされるまま、けれど木吉を起こさないようにと這うようにして身体の上に覆いかぶさり、じっと顔を見つめてみるが、まだ木吉は夢の中なのか寝言にむにゃむにゃと唇を動かすばかりだ。思わず日向も口元を緩ませながらそっと唇を重ねると手探りで木吉のペニスを手にして場所を合わせる。小さく口を開けた後孔にぴとりと宛がえば期待に胸の鼓動が強くなるのを感じた。
「ん、……ッ…は、…」
一番太さのある部分が入口を無遠慮に広げる皮膚の緊張感に自然と眉が震える。
手を木吉の腹について体重を支えながら少しずつ奥へ奥へと飲み込む熱源に知らずに上がった息が短い間隔で唇を干からびさせて行く。
無理に押し広げられる感覚が身体の奥で悲鳴を上げているが、自分で腰を下ろす姿勢では力を緩めるのも巧く行かない。
いっそ一気に腰を落としてしまえばそれなりの痛みが襲うが一瞬で済むんじゃ無いか、などと不穏な考えが過ぎる。
慣らすように飲み込めた部分を浅く上下させてはみるものの、中途半端な場所に腰を浮かせてなんとか片手で体重を支えている姿勢というのは地味に体力を削り取って行く物だ。もう少ししっかりと慣らせば良かったと後悔しても今更戻るなんてもっと出来ない。早く奥深くまで咥え込んで丹念に舐りたいと身体が欲求しているのに。
よし、一瞬の痛みを堪えよう。
心の中でそう決めると、呼吸を整える為に何度か、深呼吸を繰り返す。
どく、どく、と普段よりも早い脈の音を聞きながら不意に息を吸い込み一気に腰を下ろそうとして、
「何…してんの……」
がし、と大きな両掌に腰を掴まれて上にも下にも動けなくなって日向は木吉を見た。
まだ眠いのか瞼を重たげに瞬いているがうっすらと目尻が赤い。
戸惑ったような擦れた低音の後にごくりと乾いた唾液を呑み込む音が、木吉の欲を露わしているようで日向も思わず喉を鳴らす。
「じゅんぺ、やらしー…」
確認するように腰を浅く持ち上げられ、せっかく今まで苦労して飲みこんだ部分があっさりと抜けて行ってしまって思わず不満げな声が喉を鳴らした。
けれど、木吉が見ている。
早く、すぐ傍にある熱を飲み込みたくてひくひくと震える縁を、寝起きの少しだけ剣呑さを含んだ木吉の目が真っ直ぐに見詰めている。
それだけで日向の熱がまた一層高まり、すっかり勃起した性器の先から先走りが滲みだした。
「早く、…鉄、焦らすな…」
いかんせん、腰を固定されてしまっていてはままならない。
顔を木吉へと寄せても顔には届かず、仕方なく胸元に頭を擦り付けるように懐いてみる。ふわ、と濃い汗の匂いが鼻をくすぐって、つい衝動的にTシャツ越しの胸元に噛みつく。
「こら、齧んな…」
漸く腰が木吉の腹の上へと下ろされ、宥めるように抱き締められながら髪を掻き混ぜられるが欲しいのはそんな子供騙しでは無い。
日向の尻の合間に挟まるようにして固くそそり立つ木吉の熱だ。
がじがじと、Tシャツに唾液を滲ませて噛みつきながら腰を揺らめかせば木吉の喉が鳴る音を間近で聞いた。
「何で、こうなってるのかわかんないが…いいんだな?」
寝起きにこの状況は確かにわけわからんな、と頭の隅で日向は同意するがそれは表に出さずにただ幾度も頷く。
ぐ、と背を抱きしめられる手に力が入ったかと思うと気付けば天地が逆さまになって日向が木吉を見上げていた。
間を置かずに持ちあげられる足が、ひたりと触れた熱が自然と日向の口角を上げさせる。
顔を寄せて唇を重ねる木吉を喜んで抱き締めてやりながら、舌を絡ませる事に夢中になって必死に流し込まれる唾液を飲み下す。
すっかりと木吉に身を任せてしまえば、ぐいぐいと奥へ突き進む熱に痛みは然程感じず、案外すんなりと全て入ってしまって一息吐く。
糸を伝わせながら離れた唇を舐め取りながら視線を重ねれば其処には愛しいという感情が溢れて抑えきれないと、こちらが恥ずかしくなるような優しい色をした木吉の目とかち合って。
きっと、自分も同じような顔をしているのだろうなと思いながら日向はうぜえと一言吐いて木吉に再び唇を重ねた。

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