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空箱

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ごっこ遊び

夜のレオナの自室。約束の時間通りに現れたジャミルは既にシャワーを済ませた後らしく、仄かな香料の香りを纏わせていた。化粧もせず、しっとりと湿ったまま緩く結われただけの髪。普段よりも幼く、無防備にも見える姿でサバナクローの寮内をうろつくなと言ってやりたい所を辛うじて堪える。レオナとジャミルはそんな関係では無い。
「今日は五時間でしたよね」
「ああ」
勝手にレオナが寝そべるベッドの上に乗りあがり、横に並んで寝転がったジャミルがスマホを取り出し、金銭管理アプリを立ち上げる。
「それじゃあ基本料金が五万マドルで……オプションは?」
「フェラ、イラマ、中出し、騎乗位……ああ、あと拘束」
「何処を?場所と方法によって値段変えますよ」
「じゃあ、両手を背中で縛る」
「それだと……合計で十二万五千マドルって所ですね。ついでに目隠しとかも付け足しません?」
「営業してくるなんざ珍しいな」
「目隠し付け足してくれたら今日で二百五十万マドルになるんですよ」
「ああ……目標金額って言ってたな。じゃあ付け足してやる」
「ありがとうございます。それじゃあ本日のお会計は十四万マドルです」
ジャミルが金額一覧と合計金額をまとめた画面を見せてくるのをちらと見て一つ頷く。これにて本日のメニューは決まった。
レオナは、ジャミルにマドルを払ってジャミルを抱いている。正確にはまだ支払いはしていないが、毎回きっちりとこうして明細を出され、ツケは着実に溜まっている。基本は一時間一万マドル。これはジャミルの時間を買うだけの金額であって、他にもジャミルにさせたい事があれば更にオプション料金が掛かる。チェスの相手ならば一時間三千マドル、料理を作らせるなら一時間五千マドル、ただ抱き枕にして眠るだけならば、ジャミルの機嫌が良い時なら無料だが、悪い時は一時間千マドル、等。セックスだって細かな一つ一つに値段がつけられていて、つい最中に気分が高揚するまま最初に頼んだメニュー以外の事をしてしまえばきっちり後に金額が付け足されている。
最初に提案したのはジャミルだった。情のある関係としてレオナと会うのでは無く、金を介在させることで仕事としてレオナと会うと。聞いた時こそ何を言っているのだと理解出来なかったレオナだが、今ではそれなりに楽しんでいるし、恐らくはジャミルにとって最良の関係なのだと思っている。専属として月に十万マドル、更には一月に最低百万はジャミルを買う契約もしているので他の人間に同じ商売をする心配もない。
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ピピピ、とジャミルのスマホのアラームが鳴る。
ぐったりとレオナの上で荒い呼吸に肩を上下させているジャミルを抱えたまま片手を伸ばして枕元のスマホを取り、勝手にアラームを止めた。きっかり五時間。ずっと励んでいたわけでは無いとは言え、それなりの充実感と疲労感に満ちていた。
せんぱい、と蕩けた声に呼ばれ、一瞬ねだられているのかと勘違いしかけて思い出す。自分で抜け出せないわけでも無いだろうに、律義にレオナが解くのを待つ腕を解いてやり、目元を隠すネクタイを取り払ってやると余韻に蕩けた瞳がレオナを見上げてゆるりと笑う。
「……ねえ、先輩、俺、二百五十万溜めたんですよ」
「抱かせねえぞ」
「俺がこんなに頑張ったのに?」
「俺はウケNGだって言ってんだろ」
「処女でもない癖に」
減らず口のジャミルの頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜてやるが楽しそうに笑うばかりで、ぺったりとレオナの肩に頬を預けて熱の名残を楽しんでいるようだった。
「で、そんだけ溜め込んで何させようってんだ」
「今度の休み、二人で外に出掛けましょうよ。二十時間拘束くらいなので、まず基本料金が百万。……朝六時くらいに寮を出たいんですけど早朝料金要ります?」
「お前が泊りで起こしてくれるなら要らねえ」
「じゃあ無しで。歓喜の港の朝市に行ってみたいんですけど、それ以外は特に何も考えてないんです。ただ一日一緒に居たいなってだけで……なので成り行き任せでも、プランを考えて頂くのでもどちらでも構わないのですが、先輩にエスコートしてもらいたいので二十万。たくさんキスがしたいので一時間に一回はキスをする条件で更に二十万。あ、あと俺の我儘全部聞いて甘やかしてください。それで五十万。どうです?」
「いいんじゃねえの?」
値段について、レオナから言える事は何もない。何せ金額を決めているのはジャミルだ。自分は一時間一万マドルの癖に、レオナなら一時間五万マドルと五倍もの差がついていることに言いたいことが無い訳でも無いが、そんな些細な事で喧嘩しても意味が無いと思って黙っている。それよりも大事な事は、ジャミルが自らレオナを求めているという事だ。
せっせとレオナの呼び出しに応じてレオナから金を稼いでは、溜め込んだ金を使ってジャミルがレオナを買う。客として買うのならば遠慮なく望みのまま欲しい物を買いたい、と言っていたジャミルはわかっているのだろうか。存在しないマドルを使ったごっこ遊びとはいえ、ジャミルが買ったオプションはつまり、ジャミルが本当に欲しい物だと正直に告白しているような物だという事を。
「まだ余ってんだろ。ついでに夜はお姫様みたいに優しく抱いてやるオプションはどうだ」
「んんん……つけます。あ!でも、もしかしたらその日に気分変わるかもしれない」
「その時はその時で違うオプション付け足せよ。その為に余らせてんだろ」
「まあ、そうですけど」
すっかり呼吸の落ち着いたジャミルがレオナの腹に手をついて身を起こし、そうしてベッドから下りようとする二の腕をつい掴み、顔を寄せる。
「……もう時間外です、そういうのは止めてください」
セクハラですよ、と重ねようとした唇を押しのけるようにレオナの口元にジャミルの掌が当てられていた。あくまで金を払わないと触れさせてすらもらえない関係を貫こうとするジャミルに思わず笑ってしまう。
「そうだな。じゃあ、次は休みの日だな」
「ええ、前日から泊りでしたよね?多分、日付が変わる頃には伺えると思います」
「わかった」
先程までの蕩けた顔は何処へやら、すっかり小生意気な後輩の顔へと戻ってしまったジャミルが帰り支度をしているのを眺めながらレオナは笑いが収まらない。
さて次の休みの日、この言い訳が無ければ甘える事すら出来ない不器用な後輩にどうやってご満足いただこうか。

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