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空箱

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骸を抱く

王の私室の、その奥。王のみが入る事を許された特別な部屋。
魔法によって隠された唯一の入口は王の証たる指輪を持つ者にしか開かれない。
窓一つ無い、薄暗く四角い部屋の中。
ぼんやりとした薄明りに照らされた室内には、肌触りの良いラグが一枚敷いてあるだけだった。その上で猫のように丸まって眠る褐色の肌。両手足首に拘束と生命維持の両方の機能を兼ね備えた金色の装飾具を巻き付けただけの姿でレオナは眠っていた。
近付き、横へと腰を下ろして穏やかな寝顔を撫でればゆっくりと瞼が持ち上がる。眠気を纏わせた眼がゆっくりと数度瞬き、そうして訪問者に気付くととろりと蕩けた笑顔を見せる。
「兄さん」
恋人でも呼ぶかのような甘い声で囁き、伸ばされる両腕。今は、その辺りの年頃か、と一人納得しながら腕の中に身体を収め、そうして背中を抱いて膝の上に乗せる。
「兄さん、待ってた」
「……うん」
「兄さん、好き」
「うん」
「兄さん、しよ」
「うん」
ただ無機質な相槌を打つだけで幸せそうに微笑み、自ら首に縋りついて唇を食むレオナにかつての面影は無い。ちゅうちゅうと幼子のように唇に吸っては差し出される舌を気紛れに食み、啄んでやるだけで気持ちよさそうな息を漏らしてもっとと強請るように身体が擦り付けられる。
「おにいちゃん、れおな、ちゃんと良い子にしてたよ」
「うん」
「ごほうび、ちょうだい」
「うん」
甘く濡れた低音には不釣り合いな幼い言葉が強請り、腿に擦り付けられるレオナの股間が早くも硬く熱を持っていた。痩せて枯れ枝のようになったレオナとは対照的に、太くしなやかな筋肉を纏う腿にゆるゆると擦り付けては一人で快感を拾い集めて喉を鳴らす。はやく、と訴えるように髪を引かれ、引き摺り倒そうとする力に抗わず、レオナを押し倒して覆い被さる。
「っは、んん……」
顔を傾け、深く舌で口内を探ってやればそれだけでさも気持ちが良さそうにエメラルドが蕩けていた。なるべく、余計な感情を持たないようにしながらそっと肌を撫でる。すべらかな肌はかつての美しいラインを失い、ごつごつとした骨を浮き上がらせていた。仰向けになるだけでべこりと凹む腹を撫でて下腹部へと手を伸ばし、硬く立ち上がって震える物をそっと指先で撫でる。
「っっぁあ、あ……もっとぉ……」
語尾にハートマークでもついているのではないかと思うくらいに媚びた甘い声。お望み通りに掌で包み、ゆるゆると扱いてやるだけでびくびくと身体が跳ねていた。
「あっあ、あ、ぁ、あ」
恥じらいなく上がる濡れた声が悲しい。手の中で大きくなるものは優しく擦り上げるだけでとろとろと先走りを溢れさせて掌を濡らして行く。そっと塗り広げるように掌で撫ぜられるだけでは足りないとばかりにレオナの腰がかくかくと前後に揺すられ、自ら擦り付けては甘い声を上げて鳴く。あともうすぐで達するだろう、という頃。
ざくりと、頬に走った熱。レオナに引っかかれたのだと気付いたのは、そこから温かい液体が垂れ落ちたからだった。
「っい、嫌だ、兄貴、やだ……ッやだああ!!」
先程まであれだけ甘えて懐いていた身体が突如がむしゃらに暴れ出す。組み敷かれた場所から逃げようとむやみやたらと暴れる手足を、放って置く事だって出来た。むしろ、そうしてレオナが望むまま、レオナから離れた場所で落ち着くまで待ってやるのが、本当は正しいのだろう。
だが、拒絶する事だけは許せなかった。処刑される筈だったレオナを此処に匿い、生き永らえさせているのは自分だ。王以外が入れないこの部屋でも生きられるように高名な魔法士を呼び、自死や自傷を禁ずる魔法や生命維持に必要な水分や栄養を体内に転送する魔法、更には髪や爪の手入れも不要になるように幾重にも魔法をかけさせた。
そうまでしてレオナは生き永らえたいとは思っていなかっただろう。けれど、そうまでしてレオナを手に入れたかった。
やっと、こうしてこの部屋に閉じ込める事が出来たのだ。今更逃がすつもりは無いし、拒む事は、許さない。
必死で遠ざけようと暴れる細くなった手首を掴み、ラグに押し付ける。ついでに骨の浮いた骨盤の上へと腰を下ろせばいともたやすく動きを封じる事が出来た。
「いや、だ……!離せぇ……っっ」
藻掻く力は、弱い。レオナの頭上で両腕をまとめて片手で押さえつけたって軽々と抑え込める程に儚かった。最後まで抗うように暴れる頭を押さえ付ける為に片手の中に簡単に収まってしまう細い顎を掴み、すぐ間近から見下ろす。
「レオナ」
今日初めて名前を呼べば、嫌悪を剥き出しにして睨みつけていたエメラルドからふつりと色が消え、信じられないものを見たかのように眼を見開いた後に、ぼろりと、涙が溢れる。
「あ、ひ、……ごめ、……なさ……」
「……うん」
「ごめん、なさぃ……兄貴、ごめんなさい……ッ」
「うん」
ぼろぼろと涙を流しながら幼子のように泣きじゃくるレオナの頬に、頬を伝い顎から垂れた赤がぽたりと落ちては涙に紛れて滲んで消えた。かつての凛々しく美しかった顔をぼろぼろと溢れる涙で濡らし、恥も外聞も無くぐしゃぐしゃに歪ませて泣く姿は酷く、愛らしいと思う。気付けば股間が熱を持ち、服の中が窮屈でずきずきと痛かった。手と、顔を解放してやり、骨盤の上から下りると無防備に投げ出された足を抱え上げ、下肢を寛げて取り出した熱を、尻の狭間へと押し付ける。
「ごめんなさ……ッひぅ、ごめん、なさ……ッ置いてかないで……ッ」
「うん」
乾いた場所を、力ずくでこじ開ける。反射的に逃れようとのたうつ腰を押さえ付けて、無理矢理中へと昂りを押し込めて行く。
「ぃっっ、ああああああああああ!!!!あにき、っぁ、あ、置いてかないで……ッやだあ、っあう、あ、あ、っごめんなさい……ッあ、ああ、あ……ッ置いてかないで!!!!!!」
「うん」
痛みにか、溢れる感情にか、がくがくと跳ねる身体の奥深くまで貫く。仰け反る背中が痛々しいまでに肋骨の骨を浮き上がらせていた。狭い胎内がぎちぎちに締め付けて、痛い。
「っああ、あ、あああ、ああああああ!」
強引に浅く何度か揺すっていれば、そのうちレオナの中は濡れて来る。少しずつ湧き出るようなその滑りを広げるように幾度も腰を押し付けては引き、徐々に動きを大きくして行けばぐちゃぬちゃと泡立つ水音が響き始め、ただ悪戯に締め上げるだけだった粘膜が絡みつくようないやらしさへと変わって気持ち良い。それから、辺りに広がる血の香り。正直、興奮する。か弱い身体は自分を犯す者の肩に縋りつく事しか出来ず、断続的に体を跳ねさせながら獣のような慟哭に身を震わせていた。
何よりも大切で、愛しいレオナの額に、頬に口付けを落とす。酷く、穏やかで、優しい気持ちだった。誘われるままに幾度も強く腰を打ち付けながら、そっと耳元へと唇を寄せて、囁く。
「でも、父さんを殺したのは貴方だよ、叔父さん」

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