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空箱

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ただいまのちゅー

不意に浮上する意識。
眠気を引き摺る事無くすっきりと瞼を持ち上げて枕元の時計を見れば六時になる三秒前。
慌てて手を伸ばしてスイッチごとアラームを切って一息。後少しでも遅かったらけたたましいベルの音が鳴り響く所だった。
空調が切られた室内はじっとりと早くも熱気を籠らせているが、それよりも高い温度のの日向を抱き締め直す。
汗を滲ませた肌同士が擦れてぬるりと、何処か卑猥な感触を齎して下腹部が疼きそうになるがそれは我慢。
「ひゅーが、」
「ん、…」
耳朶にそっと名を注ぎこめば僅かに寄せられる眉。
覚醒には至らず、抗うようにむずがって身を竦めるのを追いかけるようにこめかみに、頬に、顎にと口づけを落として行く。
「じゅんぺ、起きろって」
「んー……」
返事とも唸り声とも付かない曖昧な声を零しながら薄く開かれた双眸はお世辞にも目つきが良いとは言えない。
数度、浅い所で瞼を上下させてから木吉の顔を見つけると何を言うでも無く肩へと懐くように擦りよる仕草はまるで猫のようだ。
「…いま…なんじ…?」
「ちょうど六時になったトコ」
目覚めの良い木吉と違い、日向は朝に弱い。
バスケ部なんてやっていたから起きれないわけでは無いのだが、エンジンが掛かるまでに少々時間が掛かる。
今だって時間を聞いてきた癖にそのままううだとかああだとか、唸りながら木吉の腕の中で身じろいで寝易い場所を探しているようだ。
やがてすぐに寝息を立て始めた日向を本当ならそのまま寝かせてやりたいのだが、そんな事をして後で怒られるのは木吉だ。
「起きろって、ロード行くんだろ」
頭を抱え込むように抱きしめて輪郭の露わな耳朶を唇に挟んで吸いつけばまた小さな唸り声。
それから、腹部に軽くめり込んだ拳。
「ぐっ…」
「…てめぇ…まためざましどけえ…とめやがっただろぉ…」
寝起きの擦れた低音で凄んで見せた所で舌が回りきっていなければ木吉にとってはじゃれつかれてるようなものだ。
まだ開ききらない瞼で睨む目元にも唇を落として頬を擦り付けたら互いの生えかけの髭が擦れた。髭の生えたお父さんがつるつるお肌の子供にするのがじょりじょりなら、髭の生えた大人と髭の生えた大人同士のそれはなんて呼べばいいのだろうとかどうでも良い事が過ぎる。
「でも、こうやってちゃんと起こしてるじゃないか」
「てめぇにおこされなくてもひとりでおきれる…っつーかいてぇ…」
じょりじょりじょりじょり、顔面から来る刺激は地味に覚醒を促したらしい。はっきりと瞼が開いて来たと同時に強引に顔を押しのけられた。
「暑い。鬱陶しい。何でこんなひっついてんだ。」
ぶつくさと酷い事を言いながら起き上る日向の名残惜しさなど欠片も無い背中に不満が無いと言えば嘘になる。だからって、お互いが休日の日ならともかく、こんな平日の朝っぱらからいちゃいちゃする日向なんて余り想像つかないが。
「朝飯は?」
「戻ってから食う。…お前は学校午後からなんだろ、まだ寝てろよ」
鈍い動きながらも立ち上がった日向が去り際にぽんと頭を撫でて行くのにわけもなく嬉くなる。想いが通じあって、お付き合いして、一緒に暮らしてと大分日向に慣れた筈なのに未だにこんな小さな事で幸せになれるのは本当に幸せな事だと思う。
「いいよ、もう目ぇ覚めてるし。朝飯何がいい?」
「何でもいい。任す。」
着々と走りに行く準備を進める日向を眺めてから、玄関までお見送り。
その頃には大分目覚めたらしい日向に、行ってきますのチューを要求したらアホか、と呆れ切った目で見られた。勿論チューもなかった。
少しだけ切なくなりつつもこれくらいでへこたれていたらそもそも日向に惚れてなぞ居ない。
冷蔵庫の中身を思い出しながらキッチンへと向かう。


焼き鮭と、油揚げを火で炙った物と、納豆。
ネギとわかめの味噌汁に今炊きあがったばかりの白いご飯。
簡単と言えば簡単だが典型的な日本の朝ご飯を作り終えて一人自己満足してみる。
そろそろ日向の帰って来る頃か、それとももう少し時間が掛かるようなら先にシャワーでも浴びて汗を流そうか。
そんな事を考えていたら不意に鳴るインターホン。
日向だったら自宅なんだし鍵を開けて勝手に入って来るだろうし、こんな早朝と呼んで差し支えない時間に誰が。
ちゃんと人前に出ても恥ずかしく無い格好をしている事を確認してからインターホンを取る。少しばかり警戒してしまったのは、仕方の無い事だと思う。
「俺。開けて。」
けれどいざ聞いてみれば先ほど出て行ったばかりの日向で。
鍵を持って行くのを忘れたのか、と一人納得して玄関へ向かい、扉を開ける。
「ただいま」
「おう、おかえ、…」
お帰り、とその短い言葉を言う前にぐいと胸元を引っ張られて日向の顔が近くなったと思った途端に下唇に食い込んだ歯。
痛い、という声を上げる間も与えずにすぐに柔らかな唇が重なって濡れた舌が傷口の上を這って行った。
唖然として日向を見下ろす事しか出来ない木吉の前で、日向は微かな血の赤に濡れた唇を舌で舐めとりながら「ざまぁ」と満足げに笑っていた。

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